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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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二人の事情。

 魔王シャアルラを始めとして、魔法師団、凶鳥軍団、妖樹軍団、海魔軍団、知虫軍団、飛竜軍団、そしてヒポリやカネらなど、あらゆる作戦参加者に特別休養が認められた。


 全参加者が生存。そして完勝。ここまで完璧な戦果で、なお神々に油断をできる者は存在しなかった。


 これまでの全てがダイナソアのお膳立ぜんだて。上層部にそれを知らぬ者は居ない。そしてそんな空気が配下にも伝わっている。



「・・・」


「・・・」


 テンクウとミキメは合戦から3週間後の今日、困惑していた。


 何か。空気がおかしい。


「言った通りだ」


「ああ」


 軍師サルタと魔王シャアルラの会話。いつもなら、阿吽あうんの呼吸。


 しかし今は。


「サルタ。テア様がお呼びだ。行け」


「ああ」


 2人の視線が交錯することはなかった。サルタもシャアルラも、お互いを見ていなかった。


 神位第1位との戦いの前の会議としては、あってはならないほどの不和だった。


 2人が去った後の議会室で、仲間らは居残っていた。疑問のために。


「な、何があったんだ。なんでケンカしてんだ。そんな場合かよ」


「・・。色恋沙汰いろこいざた?」


 ミキメは常識的な発言をし、テンクウは魔法師団の前で不遜ふそんな発言をしてしまった。が、その魔法師団も不思議には思っていた。


「良くない傾向けいこうですが。テア様がなんとかしてくれるでしょう。ダイナソア戦の前の不穏分子を、あの方がお見逃しになるとは思えない。我らは余計な心配をするでなく、ただ準備をしましょう」


 ユーリクロイドはそう言い切った。主人である魔王の悪口、と言えなくもない発言を見過ごして。


 テンクウを殺した方が忠誠心がありそうだが、そんなのものは単なるポーズ。


 魔王が許している配下を勝手に殺すのは魔法師団の役割ではない。


 それに王に忠言を果たすのも忠臣の役目。ミキメは間違っていない。


 ・・・そして王に軽口を叩いた自分を忘れたわけでもない。軽いものなら見逃す。


 サルタの護衛として動いているマリーはサルタのサポートをするだろう。そして自分は魔王シャアルラの腹心ではない。


 だから魔王が心置きなく動けるように、些事さじを完璧にこなしておく。今ここで出来るだけの全てを。


「次の戦いでは私達の役目は存在しません。そういう次元の戦いではない。けれど我々は魔王様と共に行きます」


「はい。魔王陛下が戦闘に集中されるために。荷運びを頑張ります」


 ユーリクロイドの問いかけに、ルフが優等生のコメントを返した。


 実際にダイナソアの前に立つのなら、ヒポリですら役不足だろう。とても相手にならない、はず。


 それでも行くのは戦うためではない。


 どう死ぬにせよ、この世界の命運を見届けられる最前線にること。それがルフやガルタ、マリーがサンゾウから仰せつかった裏の使命。


 人族のために魔族の最先端を見つめること。


 それは魔王シャアルラのサポートに徹することと相反しない。


 誰が死んでも、誰かが魔王の食料と水を運ぶ。人界最高の戦士ルフが、それに納得していた。


「できれば死ぬ前に、一太刀ひとたち。斬ってみたい。な」


 同意を求められても。底なしのガルタに、ルフはいよいよ本物の尊敬の念を持ち始めた。


 そして主役2人の亀裂きれつは数日前にさかのぼる。



 無茶をさせた反動でめちゃくちゃになっていた体内魔法感覚。テアに教わりながら過敏な反応を抑え、通常感覚に戻していった。


 たったそれだけのリハビリに1週間もかかった。空竜を倒した代償にしては軽すぎるが。


 そして敵最大戦力を迎えるための作戦会議を数日ごとに詰め、磨いていった。


 そしてシャアルラはサルタにも褒美を取らせた。



 魔城地下。倉庫群とは別に魔王のみが入れる秘密の部屋がある。他にはガンズしか入室を許されていない。


 今回、シャアルラはサルタとの連携を高めるために、秘密の共有を図った。


「喜べ。お前以外にはガンズしか知らん部屋だ」


「お、おう」


 1人だけ連れてこられた時には、何か責任を取らされるのかと不安だったが。シャアルラの機嫌があまりにも良いので、どうやら杞憂きゆう。むしろ良いことらしい。


 それなら、とサルタも部屋を興味深く見物した。


 怖かった。


「お化け屋敷か、ここは」


「失礼にもほどがある。見覚えはあるだろう」


 無数の鎧騎士の群れ。一定の間隔で列をなすその姿。あまりにも広大な地下空間を埋め尽くす人形たち。


「剣闘軍団?剣闘軍団の・・・置き場なのか?」


 生きているようには見えない。微動びどうだにしない。つまり、呼吸さえしていない。


 やはり巨石軍団と同じく、魔王の操り人形か。


 シャアルラはこの秘密を教えてくれたのか。


 サルタはなんとなく、シャアルラの歩み寄りに、温かい気持ちになっていた。


「ふふん。もちろん鎧兜は魔都の工房で作らせているがな。これらを動かしているのは、魔王の力だ。次の戦いでは使えないのが残念だ」


「へええ。魔法師団で各個操れば楽そうだけど。なんか理由があるのか?」


「企業秘密だ。が、特別に教えてやろう」


 シャアルラは手近な一体を招き寄せ、兜を取らせた。


 中からは油を塗ったようなつややかな髪と、宝石のような瞳、それに化粧したような白い顔色が見えた。


 サルタは直感的に、怖気おぞけに震えた。理由は分からない。


「す、すごいな。これが魔王のオーラなのか」


「まあな。メンテナンスだって大変なんだぞ」


 シャアルラの言葉はサルタに安心感を与えてくれた。これは人工物。


 間違っても生身の人族ではない。



 そうであれば良かった。



「これが父上の最後の作だ。ガンズもまだ見ていないと言っていた」


 シャアルラは室内最奥に飾られていた、とっても立派な鎧兜をした。実戦などまるで考えていない、ピカピカの黄金の鎧。魔力照明にまぶしいほどに輝いていた。


「これは確かにすごい。博物館の目玉じゃないか」


「フフ」


 シャアルラは父シャアルネルラの残した最後の作品を、よく磨いていた。遺品だからだ。


 そしてだから、サルタにも見てほしかった。分かち合いたかった。


「これには物語がある。ヒポリが捕えたんだぞ」


「えっ。ヒポリ様が自ら?そこまでの・・・」


 そこまでの・・・なんだ?


 おれは何を言おうとした?


「ああ。良い戦士だったらしい」


 シャアルラはサルタの中の困惑を感じ取っていたが、それをヒポリの名のゆえだと思った。確かに今のヒポリが人族を相手にするとは考えにくい。


 だがそれだけの価値のある相手だった。


「見ろ」


 黄金の兜を脱いだおもては、男らしい男の表情があった。髪色は緑の宝石を散りばめたように輝き、瞳はあやしい紫に光る。表情は油を塗ったようなブラウン。いかにも戦士の中の戦士といった面構つらがまえだった。


 そしてサルタはその顔に、見覚えがあった。


「・・・・・名前は。知っているか」


「ああ。一体一体にちゃんと名前があるんだ。これは・・・」


「当ててやろうか。トステン・ミニッツ」


「・・・・」


 シャアルラはサルタの心意が読めなくなったことに気付いた。


 そしてサルタが名前を当てた理由も察せていた。


 知人だったのだ。サルタが人界に居た時の。


「父上、魔王シャアルネルラに可愛がられていたのだ。これを名誉に思わぬ魔族は存在せん。お前の知り合いも」


「親だ。・・・・・・・・・・おれの。父親だ」


 サルタは涙を流さなかった。怒りもしていない。


 ただ父親の遺骸いがいを目の前にして。ただ1人ぼっちだった。


「そうか」


 シャアルラでさえ。言葉を続けられなかった。


 可愛い部下の親を玩具としていたのは、少々バツが悪い。


 いくらそれが人族でも。敵でも。


 シャアルラにとって大事なサルタの親とあっては、シャアルラも少しは寛容かんような気持ちになっていた。


「墓を作ってやろうか?」


 シャアルラは過保護なほど、非常識なほどの優しさを示した。自分の父親が敵対した者の墓などと。常時のシャアルラであれば考えられない。しかもその対象は、我が親の遺品なのだ。


「・・・・ああ。ありがとう」


「気にするな。私とお前の間で」


「ああ」


 サルタは礼節を失わなかった。シャアルラは慈愛じあいを贈った。



 そえれからシャアルラとサルタの目は、今日まで合わなかった。


 2人が出会ってから初めての事態であった。



「重症だね」


「・・・」


 魔城内部に客将としての部屋を提供されたテアの自室。その内部で、サルタは深く椅子に沈み込んでいた。テアの眼前でも。


 そしてテアの言葉に反応もできなかった。


 完全にその通りだったから。


「君とシャアルラの仲は内外に知れ渡っている。特に猿族の若手が抜擢ばってきされたとあって、猿族はにわかに元気になっている。グラスくんの所にも受講者が増えたとか。君は戦力的にはともかく、不和となられては困る。見せかけで良いから、対外的には良い顔をしていろ」


 グラス博士。博士の講義がはるか昔のことのようだ。


 そして優しい声色で、ぞくな事を。その意外さがサルタの口を開かせた。


「ずいぶん。詳しいですね」


「一応、魔都の知的構造にはぼくも深く関わった。可愛い子供達の世界を、できれば大きくしてやりたい」


 そういえば、この人こそが魔法研究の第一人者だいいちにんしゃ


 一応どころではなく、魔族の恩人なのだろう。


「はい。そうします」


「表向き仲良しになる?」


「・・・いえ。おれは。シャアルラの友達です。・・・それは嘘じゃない」


 サルタは自分が子供のような振る舞いをしているのだと気付いていた。


 知っていたが、対処策など知らなかった。


 シャアルラは本当に父親の墓を用意してくれた。綺麗な棺桶かんおけの中に、これも美しい花と一緒に父を埋葬してくれた。


 魔王シャアルネルラの手によるモノを、おれの一存に従ってくれた。


 それが望外ぼうがい配慮はいりょであることは、流石に分かる。魔王シャアルラとしては例外的すぎるほどの。


 それでもサルタは身の置きどころに困っていた。


 心の処理に困っていた。


 毎日、シャアルラの支配下で安全な眠りに付きながら。


 贅沢ぜいたくな悩みだと知っていながら、何もできなかった。


「神獣マリオン戦で君が必要だとはとても言えない。どこかに家と使用人を用意してあげても良い。そこでマリーと暮らすのも」


「ありがとうございます。そうします」


「うん」


 断っても断らなくても。どちらでも構わない程度にサルタの価値は低く、テアの度量は大きかった。


 そしてテアの判断でサルタが引退となれば、シャアルラも無碍むげにはできない。


 一応、テアなりに気を使った形ではある。



 正式にサルタはシャアルラの元を離れ、静養することとなった。公式には触れず。


 そして一切の事情によらず、時は過ぎる。


 ダイナソアの襲撃が来る。

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