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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
88/103

シャアルラとグランアルム。レックスとエレイン。

 魔都上空、高度1000メートル。


ヒュウウウ


 風は穏やかに舞っていた。空竜と魔王が睥睨へいげいし合う空域でありながら、雷光も煙火も何も見えない。


 ただ風が吹いていた。


「空竜グランアルムとお見受けする!どうか!?」


 シャアルラの眼前には細身の竜。空に溶ける青い翼。だが大きくはない。身のたけ20メートルはあるまい。骨格も小さく、グランダなどに比べれば棒きれのような飛竜。


「いかにも。そちらは魔王シャアルラ殿。どうか?」


 だがその内実は神位第5位の空竜。声も若いし見た目から強さは感じないが。


「いかにも!!」


 魔王の魔力が活性化した。空竜の翼がはためいた。


「降伏すれば、攻撃しないぞ!」


 空竜は話を続けた。降伏勧告をしてきた。


 魔都の上空にあっては、それは脅迫ではない。事実として魔都は灰になる。空竜が本気を出したなら。


オ オ


 だから。本気を出される前に、シャアルラはグランアルムを殺しにかかった。


 竜には魔法が効かない。さらに有効なだけの火力を叩き出せる膨大カクルタスは魔都の上空では絶対に使えない。守るべきものを自分で破壊してしまう。


 だからシャアルラはテアに教わった新たな技を試した。魔力を弾体化し、さらに魔力で包み込む。つまりカプセルに入れた粉薬をぶつける。


 ただし魔力は竜の皮膚に触れ次第消える。ゆえに魔力は魔力のままではいけない。


 内包させる魔力を取器チョコによって変換し、物質化させる。これで魔力砲としての速度を維持したまま、着弾時破壊力を実現させる。


 そして実体弾の形状は手槍。長さ30センチの槍を魔力コーティングして撃ち出す。説明するまでもなく、ロイドナイトのディナライト砲を参考にして作った。


 その魔力槍弾を一瞬で10発、空中に合成し、発射。予測回避進路までを狙いに入れて、命中率を高めて撃った。


 だが。


バオン!


「・・・」


 先制攻撃かつ全弾発射成功。


 そしてノーダメージ。


 ずば抜けた空竜の速さ、だけではない。被弾直前にグランアルムは羽ばたき、周囲の空間をゆがめた。無数の魔法攻撃を察知し、しかもそれが痛打になり得ると判断したからだ。


 シャアルラの精魂込めた魔力弾は、全て方向をズラされ、一発たりとも当たらなかった。


 確かにグランアルムは消極的で、グランダロンほどの威圧感はない。


 しかし現時点でのシャアルラが完勝できるほど、神位第5位は甘くない。


 避けられた弾頭は再度魔力変換し、回復はできた。とはいえ、新技は完璧に防がれ、わずかにでもあった自信も打ち砕かれ・・・。


「良いぞ!!!その強さ!超えさせてもらう!!!!!」


 そうでもなかった。


 笑みを深めたシャアルラは魔法師団を参加させず、独力で己より強い者に挑んだ。



 テアは王冠を模したコマと竜のコマを地図上の魔都に置いた。ガンズもそれを見ていた。


「やれやれ。グランアルムに正面からは、得策とは言えない」


 魔神テアは会議室に居ながらにして、魔王と空竜のぶつかり合う波動を感じ取っていた。


 ガンズは静かに配下に命じて監視の目を増やした。


 テアはまだ動かない。神獣エレインを確認するまでは。


 今回の首謀者がマリオンやダイナソアである以上、エレインもその命をたがえる事は出来ない。魔神テアの実力によらず、エレインは決して油断をしない。普段ならエレインは他の神位に連携を持ちかけたはずだ。しかしそれが出来ない現状、エレインは何を狙う。


 魔都のクリティカルポイントは、どこだ。



「働き者は大好き」


 地竜グランドキアが倒れ、妖樹軍団と魔獣カネが後始末に奔走ほんそうしているシャダンの森。


 しかしあまりにも地竜が巨大すぎて見失う心配がないため、周囲の森林に斥候せっこうは入っていない。周囲を蝶やバッタが跳ねているが、それだけだ。


 妖樹。魔獣。飛竜。忙しく動いているからこそ、地竜を包囲しながら、神獣エレインの姿を目撃できる妖樹は一体たりともなかった。


 体長2メートル、体重250キロ。牛とヤギの中間のような草食獣。牙はないが、長い鼻を器用に動かしている。


「しかし。どうしたものかな」


 エレインは考えていた。


 この状況、ちょっと予想外。グランドキアがまさかこんなに早く落ちるとは。しかもテアが動く前に。


 ジャラルが機能している今、打てる手はまだあるのだが・・・。


「もしかして今、お暇っすか?」


 誰もこちらを注視していないはずの状況で、話しかけられた。


 それはエレインの生命体としての格に触った。


 ゆえにエレインは何も言わず、発声源周囲を消滅させた。


ゴオン


 直撃。


「大当たり。って事っすねえ」


 エレインの「鼻息」は間違いなく直撃した。だが人族の剣士とおぼしき生き物の剣が、それを防いだ。


「レシュタル国家連合盟主、レックス・ラギアルスか」


「その通り。未熟な腕前で恐縮ではありますが、お相手願えますでしょうか。神獣エレイン殿」


 奇襲を仕掛け合った上で、お互いがお互いを承知している。


 エレインは神位スカウト役として、その候補であるレックスの顔名前を知っている。レックスはそれをテアから直接聞いている。7日間の会議の間に、地上の実力者は全員が顔を合わせている。


 二人はお互いの顔色をうかがい合っていた。


 どちらの精神により余裕があるのか。どちらの動きが予定通りなのか。


 にこやかに微笑み合いながら、頭脳は目まぐるしく働いていた。


 特にエレインは、自分が発見された事をどう考えるべきかを考えていた。


 上位者であるダイナソア自らが、魔王シャアルラに宣戦布告をした。そして魔神テアはシャアルラ側に付いた。であるなら「エレイン」の存在を警戒するのはおかしな話ではない。


 しかし「現時点での自分」がどこに居て何をしているのかを察知されるのは、話が違う。


 なぜ見つかったのか。


 敵のトリックが判断できない。


 エレインはこの時点ですでに、退しりぞくべきか否かを思考の片隅に置いていた。たかが人族相手に。



 しかし。対するレックスも、余裕は表だけ。


 実力で上回る相手にどう対抗するのか。こちらが挑戦者である事に変わりはない。


 魔神テアから聞くところ、海竜ほどタフでもなければ、海竜ほどの強さもないらしいが。


 レックスは海竜に及ばない。時間稼ぎをするので精一杯だった。


 自分が海竜と五分に戦えたなどという思い上がりは、レックスの中にはなかった。武器を失った上、増援シャアルラを恐れて逃げ出した。それがレックスの心の真実。


 自分は親父や先祖のようには、戦って死ねなかった。レックス王国始まって以来の恥晒はじさらしだ。


 だが・・・。


フッ


 抜き放った剣をエレインは避けた。当たる距離ではなかったのに。


「もらいもんの剣なんすけど。良いでしょ、これ」


魔界最硬金属ディナライト・・・。あなたには人族としての誇りがないの?」


 エレインは揺さぶりをかけた。誇りなどという愚かしいロマンチシズムに欠片ほどの興味もないエレインだが、人の心理として言われた側は反応してしまう。そして強張こわばった肉体は常時の実力を発揮できずに死ぬ。


 タダで相手を弱らせられる。言葉ほど重要なサブウェポンはない。


「・・・クク」


 レックスは失笑した。


「いや失礼。あまりにも情報通りの方で、つい」


「そう。どうして?」


 エレインはレックスのわらいにも動揺はしなかった。しかしなぜ笑ったのかは、少し気になった。


 だから、ちょっと身を入れて聞いてしまった。


「兵法をかじっただけで実戦経験の無い素人・・・」


「・・・」


 エレインはキレた。


 神位第6位のエレインに、あなどられるメリットは存在しない。ましてや人族ごときに。


「良いわ。あなたもいつか知るでしょう。個人の戦技の通じない世界というものを」


 それは無論、神々の世界。


 テアの知覚能力を侮らないエレインは今まで実力を押し隠していた。感情がキレていても、頭は完全にめている。ゆえに魔神テアであろうと、エレインは捉えきれない。


 この場で。神位第10位の海竜グランエルスに決して勝てないレックスが、なんとかするしかない。



 エレインの足が地面をこする。そこにレックスは強さを感じ取れない。軽い、小型の愛玩動物のような柔らかささえ感じる。これは一体。


ドンッ!!


 軽いなどと、とんでもない。エレインの踏み込みは正しく重量級の魔獣の突進そのものであった。


ゴン!!


「流石は神獣。十分に重い」


 しかし。その突撃は真正面からレックスに受け止められていた。彼我の接触の瞬間に剣を地面に突き立て、突進の勢いを地中に押し流した。レックスの腕力でも、ここまでしなければ受け止めきれない。


ブオン!


 しかしエレインの動きは止まらない。突進から間を置かず、長い鼻を振り回しレックスの脇から背後を狙う。剣は真正面のままだ。


ヒョウ!


 エレインの鼻は空振り。そして。


ミキッ


 エレインの脊椎せきついに到達するダメージ。剣を支点にして跳んだレックスのひざが首元に突っ込んだ。しかも飛翔の勢い任せでなく、狙い定めて膝を落とした。相手が並みの魔獣なら、問答無用で死んでいる。


ザンッ


 だがエレインは神獣。叩かれた痛みぐらいはあろうが、平気で動き、背のレックスを振り落とした。


「流石に。簡単に勝たせてはもらえませんね」


「・・・思い上がりもいい加減にしないと・・・」


 エレインは何かを言いかけた。だがその先は誰にも分からなくなってしまった。


コ オ


 エレインを中心とした半径3メートルの円がくり抜かれた。文字通り、大地にまで空っぽの円柱型の穴が開けられた。無論、中心地にあったエレインは即死だろう。


 テアの取器チョコは回復や防御のみならず、攻撃手段にまで高められていた。神獣の耐久能力を一瞬で削り取った。これが伝説の魔法使いの魔法。


「よくやった、レックス・ラギアルス。褒賞ほうしょうは楽しみにしていて良い」


「ありがたき幸せ。テア様も見事なお手前てまえです」


 森の上空からゆっくりと魔神テアが降下してきた。飛行ではなく、上空に滞空している飛竜からロープで降りてきた。


 しかもその格好かっこう。いわゆる魔族の着用するゆったりしたローブではない。魔神テアはかの魔力防御の鎧をまとっていた。


「ごっついですね。おれらが着てたら動きづらそうっすけど、実際どうなんすか」


「一応、内側には魔法陣も張り付けてあるから、意識すれば軽い。まあ、君達が着込むと、頑丈な鉄板だけどね」


「はは。やっぱり」


 遠隔不可視攻撃である魔法を防げる鎧。レックスだって欲しい。けれどしっかりした作りで一分の隙もない鎧は、運動性能を捨てる前提でなければ成り立たない。


 内部に張り当てた皮にびっしりと刻み込まれた魔法陣は、魔力に連動して鎧を動かす構造になっている。だから鎧の内側から鎧を動かすまでは出来るのだが。外には出せない。


 開発者であるテアですら、自力飛行できず魔法結界も張れず、魔法使いが着込むには最悪の相性。無用の長物どころか、完全なマイナスである。


 だが、それゆえに。


 マイナスゆえ、この鎧はテアの魔力量を誤魔化せた。魔神テアの魔都より巨大な魔力を完全に打ち消し、エレインの知覚能力に悟らせなかった。


 そしてエレインの直上に到達してから、鎧の小手こてを外し、取器チョコを発動。


 これがサルタの腹案。成功率は未知だったが。


 テアはサルタへの信を深めた。ガンズと同等に扱って良い。そういう玩具だ。


「じゃ、ぼくはジャラルとグランアルムを倒しに行く。君はどうする?」


「おれは下働きの手伝いをしてきます。あっちに部下も居ますし、先輩も居ますし」


 先輩とは戦士の先達であるヒポリの事だ。そして下働きとは、今まさに地竜の寄生虫を駆除している妖樹ら。


 レックスはちゃんと、人類の大敵である魔族を仲間として見ていた。意識の切り替えに成功していた。


「良い心がけだ。死んだらぼくにつかえなよ」


「あはは・・・。その時はよろしくお願いします」


 死後の世界はレックスには分からない。死んだ父祖は全員が土に還っている。誰も帰ってこない。ゆえに死後など有りはしない。だから生きている間に、やるべき事とやりたい事をやっておくべきだ。


 それに、死んだ後まで戦い続けなければならないなど、地獄そのものではないか。まあ・・・それを言えば生きる事自体が戦いそのものだが。


 言うだけ言って、テアはロープを「巻き戻して」飛竜に戻った。このロープもまた魔力伝導率が高い代物しろもので、魔力を伝わらせれば術者の思い通りに動く。これもテアの開発した物で、現代でも魔法師団用の標準装備として活用されている。


 その様子を見届けて、レックスは仲間に合流した。昼寝ばかりしている部下も、今回ばかりは必死で動いていた。


「えんやこーら、よほほい、ほい!」


 素人剣法の見本みたいなバカが、それでも巨大な寄生虫を一撃の下に殺しまくっていた。腕力のみで振り回しているくせに、ひどく強い。


「タンカイ。怪我はないか」


「王様。いえ、半死半生の重傷ですが、おれはレックスのために、世界のために戦いますよ!」


 かすり傷もない部下の寝言を聞き流しながら、周囲の妖樹軍団の様子を伺った。多分嫌われてないしうとまれてもない。なら良い。百点満点だ。


「良し。何日かかるか分からないが、地竜の掃除をしてから帰る」


「こいつらは食えるんすか?」


 喋りながら、お互いに背をかばい合って敵を倒し続けている。伊達でレックス王国で生き残ったわけではない。実戦経験だけなら現代の魔族よりはるかに多い。


「多分美味いはずだ。先に食ってくれ」


「おれは王様に一番美味しいとこを食って欲しいっすよ。先はゆずります」


 お互いに毒見役を押し付け合いながら、作業は順調に続いた。


 10日後、地竜の背で生き残っていたのは妖樹と魔獣と二人の人族。それだけだった。


「君。もし魔界に遊びに来るのなら、妖樹軍団のヤルドを訪ねなさい。私が案内してあげよう」


 と、周囲で働いていた妖樹の一体がレックスに話しかけてきた。美しい造形、それに両手両足がある人型。よく見れば同じような顔の同族?がいくらでも周囲に居た。その様子からして普通の妖樹なのだろう。


 だが。得体が知れない。なんだか怖い。


「その時はよろしく!」


 だからレックスは明るく流した。深入りしようとは欠片も思わなかった。


 ヤルドの深みが、レックスの危機感を刺激した。


 先の神獣と怪しさだけなら互角に思える。


 そんなヤルドはさておき、レックスもタンカイも一度は魔界におもむくだろう。魔王から直々におめの言葉があるはず。


 我々は完勝したのだから。

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