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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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神々のお茶会。

 妨害ぼうがいはなかった。パールの後について移動した誰も死ななかった。


 飛んだのは言葉だけだった。


「こんにちわ」


 打ち合わせをしていなかった。わけではない。神界に入り次第、狙われる。であれば、向こうの射程距離を割る代わりに、こちらの攻撃も届くよう、普段の距離に現れてほしい。そう注文した。


 するとパールに続いて神界に踏み入れた一行の目の前に、小さな竜と小さな獣。それに人間の姿があった。東屋あずまやから出てきて、こちらに向かってくる。


「こんにちわ」


 声を発した体長2メートルほどの獣に向かって、シャアルラが代表して答えた。


 向かい合うは魔王と神獣。戦力差は、誇張抜きに天と地。


 だが二人は目を合わせていた。どちらもらさなかった。


 魔神テアと知歯喜神ちしきしんパールが存在する状況で、魔王シャアルラを注視する。


 神獣マリオンは完全にこちらの情報を収集している。なんならこの襲撃すら、予定通りだったか。そうサルタは察した。


「どうじゃな。茶でも」


「ありがたく。頂戴ちょうだいします」


 マリオンとシャアルラの会話に殺気立ったものはない。緊張感はこちらだけが感じているのか。


 そして茶が用意された。神位第3位、カルナの手によって。


 場所は庭園。周囲を花にかこまれた地面にそのまま座り、一人一人にカルナが手ずから渡してくれた。


「美味しい」


 テアの素直な一言が、皆の意見を代表していた。


 甘い、苦い。そう感じるより早く、鼻を抜ける芳香ほうこう。さらには甘さも苦味も両方あった、ような気がする。今までに味わった覚えはない。


 神獣も神竜も、器用に湯のみ茶碗ぢゃわんを口に運んでいる。丁寧にもグランダサイズのカップ(風呂桶ふろおけ?)まで。


「この茶をめてくれるのは師匠ばかりで、今日はちょっと嬉しい。感謝するぞテア」


 微笑むカルナは少し年上のお姉さんのようで、頼もしく綺麗だった。


「どういたしまして。カルナ様」


 年齢的にはそうなるのか。最古の勇者カルナが年上で、魔法王テアが年下。一同の誰にも実感などないが。


「まるで私が気の利かない年寄りのようだな・・・?」


 と、体長3メートルほどの神竜ダイナソアからツッコミが入った。


「お心当たりが?」


 カルナは笑って返した。


 どっとマリオンから笑いがこぼれた。テンクウ、ミキメはとりあえず一緒に笑っておいた。現実感はまだない。


 鳥が歌い花が踊る、天国のような場所だったが。その鳥や花は誰も知らないものだった。


「美味しいお茶も頂いたので、そろそろ本題に入りたい」


「うむ。素直に申してみよ」


 シャアルラの言葉に、マリオンは優しく答えた。


「我が父のかたきとお見受けする。ついては、死んで頂きたい」


「なんと正直な。良い子じゃのう」


 マリオンは純粋に感動していた。親の肩を叩いてあげようとする子供を見かけたような気持ちだった。


「ばっ、バカ!失礼だぞ!」


 パールから注意が走った。


 これは主であるマリオンを案じての意見、ではない。


 シャアルラを死なせないための、とっさの防衛であった。


 しかしパールは自身の心理の動きに気付いていない。


「しかし死ぬのは・・・のう、ダイナソア?」


「ああ。怖い」


 これは挑発だ。完全に人を食ったようなこの発言に、挑発以外の解釈はあり得ない。


 それが証拠にシャアルラの魔力が・・・沸騰ふっとうして、いない。


 ただシャアルラはサルタと目を合わせ、頷き合った。


 そして挑発に乗らなかった二人を見て、カルナが言った。


「失礼ですよ、二人とも。彼女らには戦意も資質もある。清く正しく、殺し合いましょう」


「うむ・・・すまぬ。茶目っ気じゃ。許せ」


 マリオンが借りてきた子犬のように、尻尾を巻いて小さくなった。


 そんなマリオンを真顔で見ているダイナソアを見て、ルフは一瞬のすきも見つけられなかった。


 ルフだけではない。ガルタもユーリクロイドも、なんならサルタの護衛のマリーも、全員が襲う機会を狙って、全員が動けなかった。


 茶を飲んでいる時も冗談を言っている時もこちらから目を離した時も、いついかなる状況でも、敵に隙は無かった。


 天と地どころではない。魔王と小猿以上の戦力差を、人間界最強のルフが感じていた。魔法師団ナンバー10のユーリクロイドが感じていた。


 作戦?防具?


 そんなものは土俵に立ってからの話だ。


 神。神族。神位。言葉でしか知らなかったその意味を、強いがゆえに、ルフやユーリクロイドは敏感に感じてしまっていた。


「そちらの」


「は、はい」


 そんなルフがカルナから指名を受けた。心臓が軽く跳ねた。


「君も剣士。私も剣士。やってみるかい?」


「・・・・・・・い、いいえ」


 初めて。生まれて初めて、ルフ・ヴァニッシュは戦いを拒否した。純粋な人族としては最高クラスの才能が、試合を拒否させた。


 ここまで何をしに来た、という話ではあるが。


 シャアルラは怒らなかったし、カルナは落胆しなかった。


 「ここ」はすでにカルナの射程距離。それが分からぬような未熟者では困る。


 分かりやすく言うなら、神域に出現した瞬間に全員が斬り殺されていた。カルナにその気があったなら。


 ルフはそれを全身の戦闘感覚から、本能的に知覚していた。理解させられていた。


 つまりは、会話以前にすでに敗北していたのだ。抜刀以前の問題として。


「冗談だ。気を悪くするな」


「い、いえ。ありがとうございます」


 散々にからかわれながら、ルフは頭を下げて礼まで言ってしまった。


 想像もつかぬほどの実力差が、全ての理屈をねじ伏せている。


 人族も魔族も、この場では地をう虫けらと何も変わらなかった。


 なぜ神域に易易やすやすと来れないのか。戦闘行為を踏まえるまでもなく、一同は理解されられていた。


 だが、それでも魔王は魔王だった。


「それで?私は一言たりとも冗談を言った覚えは無い。自分で死ぬか、私に殺されるか。茶の礼に選ばせてやる」


 命を投げ捨てる。そう形容してよいシャアルラの発言内容に、ガルタはいたく感動していた。


 ガルタとても、準エリート級の実力者。「ここ」がすでに神族の腹の中である事、気付いていないわけではない。


 だから黙って従うか、というとガルタは従わない。


 もちろんシャアルラも。


「あのー・・・ダイナソア様」


「うん?」


 と。一切の流れをぶった切って、パールがダイナソアに話しかけた。


「私、ここまで来ちゃったんですけど、だ、ダメ、大丈夫、でしたか?」


「私の思いを率直に述べると。お前の顔を見れて嬉しい。よく来た。いつか会えると信じていたぞ」


「・・・だ、ダイナソア様っ!」


 親子はひしと抱き合った。調子の良すぎる娘であるパールは、神位第2位をまるで恐れず、強く抱きしめた。ダイナソアもまた、我が娘を優しく抱きとめた。


 ド素人のサルタなどは、今チャンスかな、などと考えもしたが。シャアルラが本気の砕界カンターテアを撃ったとして、今のままでは背を向けているパールにすら届かない。逆に、カルナもマリオンも、座したままでその手が届く。


 ルフが気が付く事は、シャアルラも気付いている。


「シャアルラ。焦るな。まずは私の用事を聞いてくれ」


 パールを優しくほどいたダイナソアが、やはり言葉を荒げることなく相手方の親玉に話しかけた。


「承知だろうが、このパールは人族への贈り物。お前達の中には魔族も含まれているが、それは問題ではない。パールを利用してここまで来た以上、お前達は正式な客人だ。願いを言ってみても良いし、何かをしても良い」


 叶うとは限らない。が、それはそれとして、ゆえにダイナソアにはやる気が無かった。そもそもここで戦う気なのはシャアルラ一行だけだった。


 ダイナソアやマリオンにとって、魔王シャアルラとは、近所の子供がパーティーに遊びに来たようなもので、敵でもなんでもなかった。


 ありていに言って。シャアルラの実力では、敵とみなされなかった。


「ならば、強さをくれ。お前達をすぐさま殺せるだけの力を」


「分かった」


 シャアルラが驚くほどに、ダイナソアの返答は迷いがなかった。


「そう言うだろうと思って、用意しておいた」


 ダイナソアの声色に変化はない。


 そのはずなのに、この展開に違和感、否、焦燥感しょうそうかんを味わっていたのは、サルタだけではなかった。


「今から7日後、地上に試練を現す。乗り越えてみせろ」


「試練」


「そうだ。強くなるために手っ取り早いのは、ハイレベルな相手から教えをう事。実戦に近ければ近いほど、その効率は上がる」


「私がマリオン師に教えをつけて頂いているのと同じだ」


 カルナからも教えさとされる。やはり全く問題がないかのように。


「実はの。お主のやりよう、少しばかり面白い。それで揺さぶってみる事にしたのじゃ」


「・・・どういう意味だ」


 今度こそ、シャアルラにもさっぱり理解できなかった。父王から受け継いだ治世そのままの、何が面白い。


「魔族と人族の間柄は、わざと離れさせておいた。そこは分かっておるじゃろうな。しかしシャアルラ。お主と皇帝トリキアの約定により、魔族人族間には協調路線が「発見」された。これはお主の功績よ」


「・・・」


 どこまで真実と捉えて良いのか。サルタは脳みそをフル回転させたが、分からなかった。


 そもそも天雷を撃ち込んだお前らの狙い通りなのではないのか。そういう疑念は解消されなかった。どれだけこちらを見下しているのか知らんが、天雷が降り注いでいる中、戦争継続なんて出来るわけがない。


 全てがダイナソア、あるいはマリオンの意図通り。そういう見方は、サルタの中にあった。というより、どこまでを見通しているのか、本当に分からない。


 明らかに「地上の試練」とは、テアの魔城内部での会話を念頭に置いたものだろう。


 神位第9位の秘密の城の中の会話が、筒抜つつぬけ。


 静かに、サルタは知力限界に到達していた。


 ルフ、あるいはシャアルラが武力限界に触ってしまったように、サルタもまた、己の知恵が一切通じない可能性を知った。


 海竜どころの騒ぎではない。


 格が違うとは、この事か。


 そんな事を考えていると、マリオンと目が合った。そしてにっこり笑われた。


 サルタは微動びどうだに出来なかった。ポーカーフェイスではない。表情筋の一つも動かせなかった。追従ついしょうすら。


 対するマリオンは何事もなかったかのように平然と続ける。


「ゆえにわしらは考えた。そろそろ次の世代へ移行する時期なのか、とな」


「シャアルラ。お前達の強さを引き上げてやる。どこまで伸びるのかは、お前達次第だ」


 マリオン、ダイナソア。二人からの宣戦布告は以上だった。


「次は、この剣を抜かせてほしい。楽しみにしている」


 カルナからも、少し物騒な応援の言葉が。


「・・・・分かった」


 今。確実に戦う機会がある今、襲う。


 その選択を捨てたシャアルラは、了解した。


「お前達の時代は終わる。首を洗って待っていろ」


「・・・そう願いたいものじゃ」


 シャアルラの捨て台詞に応じたマリオンの言葉。その声色には不思議な響きがあった。サルタのみならず気付いたが、非戦闘員のサルタだけが深く考える余裕があった。



 とりあえず持ってきておいた手土産(毒すら入れていない、本物の魔都のお土産コレクション)を渡して(マリオンは大喜びしてくれた)、一行はパールともお別れの挨拶あいさつを交わした。


「パール様、お世話になりました」


「構わんぞ。それこそが私の存在意義だ」


 知歯喜神パールが居なければ、ここには来れなかった。・・・より関係性の深い魔神テアの事はしばらく忘れろ・・・。


 サルタからの厚い礼に、パールは笑顔で応じてくれた。


「して、ダイナソア様。私はまた元の場所に戻れば良いのでしょうか」


「そうだな。だが、無事役目を果たしたお前に、褒美ほうびを取らせたい。何か、やりたい事でもあるか?」


 親子の会話は微笑ましかった。ここまで来た魔族人族連合軍は初めて、ほっとした。


「では、このサルタと一緒に世界を見て回りたいです」


 おれの名前を出すな。いつわらざるサルタの思いである。


「サルタ殿。お任せしてもよろしいか」


「え、あ、は、はい。お任せください」


 敵なのだが。圧倒的上位者に対し、サルタは頭を下げて返答した。


 そして頭を下げながら、なぜ?と考えていた。


 パールにはこちらが一方的に世話になっていた。何かを差し上げた覚えなど無い。


「良かったなサルタ!私と一緒に居られて!」


 ぎゅっとサルタを抱きしめるパールを見て、シャアルラ以外の味方は、ああ、パールらしい、とちょっと思った。


「? ? ?・・・そ、そうですね。おれも嬉しいです」


 何一つ理解できぬまま、サルタはパールを味方に引き入れるための言葉を発した。


 それを見てシャアルラは、表情を変えぬまま、内在魔力を戦闘状態に移行した。


 マリオン、ダイナソア、カルナ。完全なる敵陣営はその活性化した臨戦態勢のシャアルラを見ながら、うんうんと頷いていた。


 最後に。黙って去ろうとしたテアに、ダイナソアが言葉をかけた。


「許す。お前は我々に多大な貢献こうけんをしてきた。好きに動くが良い」


 ・・・つまりは、シャアルラと同等。好き勝手動いたとして、脅威とは認識されていない。


 ほんのわずか、テアの魔王の部分が激高げっこうしかけたが、研究者としてのテアが抑えさせた。


「ありがたい。ではお言葉に甘えます」


「うむ」


 テアは当初の予定通り、現有戦力の全てを遠慮なく発揮するつもりだったし、ダイナソアはその全てを受け止めるつもりだった。


 神位同士の争いは、そう珍しくはない。言えばマリオンとカルナの稽古けいこ日常茶飯事にちじょうさはんじ


 だがテアのそれは、珍しいに違いない。


 密かに、ダイナソアは楽しんでいた。


 知っているのはマリオンのみ。



 神々の茶会は平和裏へいわりに終わった。


 7日後の始まりを待ちながら。

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