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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
81/103

テアの試し。

 名は知っている。タトゥエアナ高地。魔界西部にある荒涼とした大地の中でも高山地帯を形成している一帯。その中に元魔王テアの住居はある。


 ただし魔族でもそこに近寄る者はない。敬意をって、ではなく。恐怖によって。


 魔王テアは次の魔王に敗れて代替わりをしたのではない。


 実験をするためだけの生活に移行するため、永遠の実験場を確保しながら引退した。それが事実。


 つまり。魔王時代の魔力量は、そのまま継続し成長を続けているはずなのだ。


 しかも魔王テアは魔法開発、研究の第一人者。


 その力量は魔王シャアルネルラに劣るものでは決してない。


 そして厄介な事に、魔王テアの住居周辺は難解なトラップだらけ。


 これはテアが賊を恐れたためではなく、賊を待ち望んだため。


 賊を相手に自慢のトラップを試そうという心づもりであった。


 残念ながら、相手になってくれたのは後輩の魔王だけであったが。



 シャアルラらは、そんなエリアに踏み込む必要がある。


 神々に戦いを挑む。


 ならば準備をしなければ。


 最低でも、テアの試しぐらいは、超えて見せなければ。



 魔王シャアルラの名が泣く。



「ほう・・・」


 シャアルラはその身に覇気を、顔に戦意をまといながら、楽しげにつぶやいた。


 眼下に広がる何の変哲もない荒れ地。


 しかしその全景から立ち上る魔力は、父のそれに劣らない。


 言わば、魔都の総戦力に匹敵する魔力量。


「しゃ、しゃ、シャアルラ様・・・・」


 ユーリクロイドは歯をガチガチ言わせながら、すでに戦意を喪失そうしつしていた。


 魔王級の魔力に触れた魔法師団がこうなるのは、どうしようもない。もしここに居たのがナンバー3のリジェだとしても、やせ我慢が精一杯であろう。そのやせ我慢が出来るかどうかの差が、リジェとユーリクロイドの差ではあるのだが。


「えーと。おれらは待ってましょうか」


 ユーリクロイドの様子からして、これはマジでヤベえなと把握したテンクウが、気の利いた事を言った。


 真面目に、魔王テアの名前ぐらいは軍学校に通ったテンクウとミキメは知っている。生きたまま魔界の歴史に名を刻んだ伝説の魔法使い。


 その居城に侵入する?


 アホか。


「おれらはキャンプの用意しときますね!」


 ミキメも調子を合わせる。


 魔王シャアルラへの忠誠心がないわけではない・・・。


 生きて帰れる気がしないだけだ。


 同じ魔王であるシャアルラ様はともかく、自分達などこの世からチリも残さず消される。例え機嫌を損ねずとも。


 招かれざる客となるには、ひらの魔獣と凶鳥では、キツすぎる。


 居残りたい!是が非でも!そしてとっとと帰ろう!!!


「シャアルラ陛下。荷物持ちとして、私をご利用ください」


 ここまで来ると、バカはバカでも、見上げたバカ。ラアブレイ・ガルタ・ボセッシの発言。


 ユーリクロイドも、その言葉で少し落ち着きを取り戻した。


「申し訳ありません。取り乱しました」


「構わん。お前達はまだ若い」


 10代の魔王に言われても、どうにもあれだが。それでもユーリクロイドは心を引き締め直した。


「実際問題、私達が同行しても失礼に当たるのではないでしょうか?」


 ルフからの質問。ここは魔界で、相手は以前の魔王。人族が軽々(けいけい)にお近づきになって良い相手とは思えない。


「お前達を同行させるために同道させている。付いて来い」


 表情が固まってしまったテンクウとミキメを載せたまま、魔王とお付きの一行は、そのままテアの領域に足を踏み入れた。


「グランダ。お前の魔法耐性であろうと、ここから先は一手で死に至る罠しかない。決して油断するな」


「はっ!」


 グランダは闘志を伴いつつ、冷静そのもの。しかし主従の会話を聞いていた周りの者の方こそ、何度目か分からない恐怖に襲われていた。


 特に魔族側。ユーリクロイド、テンクウ、ミキメ。飛竜には魔法が効かない、という常識をくつがえす相手。どれだけ警戒しても、足りるという事はない。


「サルタ。お前を連れてきたのは荷運びのためだけではないぞ」


「ああ」


 ・・・荷運びはもっと力のある奴にやらせろ。そう思いつつ、サルタは頷いていた。


 シャアルラからもらった2年の歳月。その間、グラス博士を始めとした魔界の知恵袋から知をさずかり、ひたすらたくわえ続けた。


 14才だか15才だかになった自分。母の仇を討つために生きていた自分。マリーからの人界への帰還提案に返答しかねた自分。


 そして今、魔王の指示通りに命を懸けている。


「任せろ。皆で生きて帰る」


 可笑おかしな事に、それが。


 面白い。



 タトゥエアナ高地。見た目にはどこが住居なのかさっぱり分からない。


 外観の偽装。テア本体の位置が分からぬよう均等に配備された魔力。そして迂闊うかつにつつけば発動するトラップ。


 難攻不落とはこの事だが。


「全てのトラップを発動させる」


 サルタは持久戦に持ち込む。


 ここは相手の本拠地。本来の攻城戦では、シャアルラ一人ではかなわないかもしれない。けれど、テアの試しをくぐり抜けるだけなら、こちらは9人の頭数がある。グランダ、ユーリクロイド以外が役に立つのかどうかはともかく。


「初見のトラップを回避する事は絶対不可能。全て使い切らせてから、安全に進むぞ」


 そうしてサルタが指揮をり、一行は進む。


ア ア


 まずは砕界カンターテア。シャアルラの魔力量を遺憾いかんなく発揮した半径数キロに渡る薄い魔力モデルが、タトゥエアナ高地を塗り潰す。火力は求めない、範囲重視の攻撃。


ドン!!!


 無言の返答は雄弁だった。砕界カンターテアの攻撃範囲全てから、魔王級の砕戯カンタが針の山のように突き出てきた。


「これを一人の魔族が仕掛けたのか」


 シャアルラは純粋に感心した。


 高度4千メートル。そこからでもはっきりと視認できた。


 テアの仕込んだ砕戯カンタは、シャアルラの砕界カンターテアより、濃い。魔力密度が違う。


「シャアルラ。あの仕込みがなくなるまで続けてくれ」


「ああ。そのつもりだ」


 ユーリクロイド以下、サルタとグランダ以外の面々は神話のワンシーンを見ているような気分だった。


 都合5度の砕界カンターテア。並みの魔族数万人分の魔力を消費して、やっと砕戯カンタの反撃は来なくなった。


「まず第一段階突破だ。休憩しよう」


 休憩?第一段階?終わりじゃないの?


「サルタ様。あれでトラップは使い切らせたのでは?」


 マリーがちゃんと空気を読んで発言。皆の疑問を皆と同じ口調で。


「まさか。ここが魔城だとしたら、まだ結界を破ったに過ぎない。次は守備兵が来るぞ」


 サルタの言葉が終わるか否かというタイミングで、地形が動き出した。


 地面が盛り上がり、人形のような何かをし、立ち上がる。


「ダイゴン(投擲とうてき巨人)か?」


 シャアルラのつぶやきに答える者は居なかった。実はルフら人族も、軍団の構成員についてかなり詳細な情報を得ている。もちろん、シャアルラ自らが心を読んだ上で、叛意はんいの無い事を確認してからだが。


 使い捨ての手駒てごまであろうと、情報の共有がなされていなければ結局は使い物にならない。


 しかしそれでも、眼下の数千の巨人の正体は掴めなかった。


バッ


 巨人の両肩から背中にかけて、たこのような翼が生えた。


「まさか。飛ぶのか!?」


 これはユーリクロイドの驚き。確かに高位魔族であれば城塞巨兵ジョウゴを自在に動かせる。しかし空を飛ばすのは・・・。しかもそれが数千体。


 魔王シャアルネルラが領土決戦場で動かしているジョウゴは、どんなに多くとも数十体。


「数百トンの質量体が突っ込んでくる。これが魔王のわざ


 ガルタら人類は、ひたすら驚いていた。がそれと同時に、その技を全て学習もしていた。習い覚え自分のものにする事は出来なくとも、対策を立てる事は出来る。理論上は。


 そしてシャアルラは対策を考えていた。魔法で撃ち落とすには数が多すぎる。


 時間を稼ぐ必要がある。


「グランダ。先程のキャンプ地まで戻っていろ」


「はっ!」


 グランダは疑問をさしはさまない。こと戦場いくさばの話となれば、自分の考えなどは置いておく。


 グランダもそういう切り替えが板についてきた。実戦はただ一度。だが模擬戦は毎日。修練の中に身を置いてきた。


 武者震いに身がおどる。


 しかし。躍るのはグランダだけではない。


ゴ オ


 敵陣に突入したシャアルラが一瞬で数十体を崩壊させた頃、高空に浮かび上がっていた数百体ほどはシャアルラではなく、降下したグランダに向かっていた。


「マリー、サルタ様をお守りしろ」


「はい!」


 ルフの指示が飛ぶ。シャアルラ不在のこの場の最上位者はユーリクロイドであるが、ユーリクロイドはすでに立ち向かっていた。


「フッ!!」


 右拳一発で敵飛行兵を打ち砕く。パワーファイターではないユーリクロイドだが、魔法師団であればこの程度の事は出来る。


 しかしホッと安堵もしていた。


 敵はやはりジョウゴと同じく、単なる岩くれ。一体一体に結界が張られていたりはしない。


 20メートル級の土の塊の群れを相手にしながら、ユーリクロイドは徐々にリラックスしていた。


 この程度なら。まるで問題ない。


 上空を見上げながら、ルフとガルタは防御陣をいていた。どうやら上はユーリクロイドが単独でどうにかする。魔王の影に隠れていても、流石に半端な怪物ではない。堂々と戦い、勝利し続けている。


 自分達はこちらに向かってくる数十体だけを相手にすれば良い。


「ガルタ殿」


「ルフっ!行くぞっ!!」


 待て。


 ルフのツッコミも間に合わず、ガルタは長剣一本で飛び出した。


「・・・」


「・・・」


 多分、作戦が崩れた。サルタとグランダは察した。察したが、ルフの心情を思って、何も言わなかった。


「・・・・グランダ様、一直線に炎をお願いします」


「はい!」


 次善策を即座に講じたルフは、ガルタの進行方向の右手にグランダの吐炎を要請。


 敵は魔力で構成された土人形。堅い事は堅いのだろうが。


ゴオオ


 土なら、燃やせば崩れる。


 ルフの推測は当たった。グランダの数百メートルに渡る炎で、土人形はボロボロに崩れ去り、こちらに到着するまでに崩壊しかけていた。


 そして強度を失いかけた土人形の群れは、ガルタとルフの剣閃けんせんに狩られ続け、グランダには近寄れなかった。


「サルタ。次はどうする?」


「シャアルラが掃除し終わったら、全員でのどをうるおし休憩。それから、テア様にお会いしよう。身繕みづくろいもしなくちゃな」


 グランダとサルタは、砕けた会話を出来るようになっていた。指揮系統に敬語表現ごときで遅延ちえんがあってはならない、という実務的な理由からだが、二人の距離はまあまあ近く、プライベートでも共に散策するように。


 そして1時間はかからなかった。シャアルラが数千体の飛行巨人を叩き潰すのに。


「お疲れ様」


「ふう。疲れたぞ」


 敵戦力はさほどの事はない。怖かったのは、あの群れに紛れた、と仮定していたテアの手の者。もしくはテア、その人。シャアルラはそれを警戒しながら殲滅せんめつしていたので、精神的な疲労が濃かった。


 どうやらあちらに殺意はない。遊ぶ気はあるのだろうが。


 砕界カンターテアで消耗した魔力は直後に取器チョコで回復している。時間をかけて回復するべきは、すり減らした集中力。


 シャアルラの帰還待ちをしていたわけではない(いつでも撤退できるように荷物は積んだままだった)ので、改めてキャンプの用意をし、軽く昼食をとり、この場で可能な限りに衣服を清めた。


「飛行兵の出てきた土面は、修復されていません」


 再度の偵察に出たユーリクロイドが帰還。次弾は装填そうてんされていない、という意味であり。つまりは、いよいよテアに会う。


 あちらは待ってくれている。

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