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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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ミキメの里帰り。

 凶鳥の巣であるスキア・ラインには一般人はあまり居ない。魔王支配下の街にしては珍しく、もしくは例外的に、日常的な戦闘行為が許可されている。


 魔王シャアルネルラは弱肉強食を信仰している。ゆえにこそ、己以外の弱者が自由気ままに振る舞う事を絶対に許さない。魔都の律は魔王その人。その環境下において気ままに腕力わんりょくを振るうは、魔王への反乱。だから魔都は魔界で最も平和な世界であった。


 しかし代々の凶鳥軍団長は魔王への服従と同時に自由を欲した。羽ばたく自由を。獲物を狩る自由を。戦う自由を。己の強さを表現する自由を。


 そしてシャアルネルラに連なる魔王の全てがそれを許可した。


 現スキア・ライン。凶鳥の群れは、魔王支配下の魔界にあって、ある程度の自由行動を許されている。


「くっそ・・・。やっぱ帰ってくるんじゃなかった」


「口が悪いな。おれの弟は」


 実家までの帰路を歩いていたはずのミキメは、片手で首をつかまれ、ブランブランしながら自動移動していた。


 掴んでいるのは敵ではない。いや敵かも知れない。


 実兄である。


「久しぶりに見たが、前より弱くなってないか?海魔はどんな訓練してんだ」


「・・・うるせえよ。前よりは速くなったんだ」


 それは知っている。掴んだ右手が首しか押さえられていない。肩が広がり、背が大きくなっている。翼が強くなっている。


 ミキメの兄、シオドは久しぶりの弟に対して対応を迷い、幼き頃と同じ振る舞いをしてしまっていた。


「どんな風の吹き回しだ。正月にも帰ってこなかったやつが」


「・・あー。えーと。ちょっと」


 ちょっと、言いにくかった。


 次の遠征で死ぬ確率が高いから最後に家族に会っておけと言われ素直に来てしまったなどと。


 別におれが死んだってどうでもいいだろうし。


「てめえ。戦争に行くのか」


「な、なんで分かった・・・!?」


「現役の軍団員舐めてんのか。見りゃ分かるわ」


 ハッタリである。見て分かるわけねー。


 しかしミキメには分からない。実兄の嘘を見抜くには年が離れていたし、虚実きょじつ見極めようと真剣に向き合ってもいなかった。


 凶鳥軍団でエリートをやっている兄は、それなりに怖かった。平のミキメには。


 そう。ミキメの兄はメガッカ族随一の天才。元来、戦闘種族ではないメガッカの中にあって、突然変異的に生まれた異才。


「分かったんなら、まあ良いや。親父にも言っといてくれ。おれ、ちょっと旅に出る。偉いさんのお付きだから旅費とかは要らねえんだ。給料も増える。・・・だからまあ適当に言っといてくれ」


「・・・自分で言え。おふくろは家に居るんだ」


 シオドはミキメの事情を一切知らない。一応、海魔に属したぐらいは聞いているが、今のポジションまで正確に把握しているわけではない。シオドに海魔のツテはない。


 だが実家に寄り付かない弟が、こうしてスキア・ラインに姿を現した。


 便りのないのは良い便りらしいが。


 顔を見せたのなら、会っていけば良い。


 2人(1人と荷物)は気ままに羽ばたき、家に戻った。


「シオド!ミキメも!」


 母は相変わらずだった。標準的なメガッカとして身長140センチ、体重25キロ。これでも太った方だ。


 そんな母だが、2人を愛情深く育ててくれた。


「親父は?」


「何言ってんのよ。お父さんはもう死んだでしょ」


「・・・えっ・・・!!!???」


 あのクソ親父が!?あいつが死ぬわけねえだろ!?


 う、嘘だろ・・・。おれが家に帰らない内に・・・・。


「冗談よ」


 母は笑顔で言い切った。


「かっ・・・勘弁しろお!!?」


 親に向かっての言葉遣いではない。言い放ってから気付いたミキメだが、冗談の内容をかんがみれば、これぐらいは言って良いと思い返した。


「お父さんが死ぬわけないじゃない。あなた達より長生きするわよ」


 あまりにもマイペースな母は動きを止めず作りかけだった夕食を並べ始めた。もちろんミキメの皿も。


「おふくろは相変わらずだろ」


「相変わらず過ぎる・・・」


 元気の良い「おばさん」を尻目に、兄弟はなんとなく距離を近くしていた。


「・・・親父も相変わらずなのか?」


「ああ。相変わらず帰ってこないぞ」


 シオドはエリートでありガチガチの管理を受けている軍団員である。通常なら黒の塔(凶鳥軍団長の住まう凶鳥軍団の本拠地)に席を置くべきなのだが、いまだに実家住み。それが許されているのは凶鳥軍団長がアレ・・・自由闊達じゆうかったつだからだ。


 だがシオド、ミキメの父親は軍団幹部クラスのシオドより忙しい。


 地方スカウトに出ているからだ。


「これ、ミキメにって。お父さんが買ってきてくれたのよ」


「あ、ああ・・・」


 ダルス族を模した木彫りの像・・・。観光地の定番のお土産だが・・・魔都でも買える・・・。というか、魔都で最も生産されているはず・・・。


 現在は落ち着いているが、久しぶりの「スター」誕生に、魔獣中心の獣王ヒポリブームが発生。ヒポリグッズはここ何年かの人気商品となった。


「親父にありがとうって言っといてくれ」


 それはともかく、ミキメは礼儀にのっとった。地方回りの親父が時間を見付けて用意してくれたもの。昔からこうだった。


「あとこれ。ドライフルーツと種の詰め合わせはおふくろに。こっちは親父が帰ってきた時にでも」


 大袋に入っていたそれはミキメからのお土産。軍学校に入ってから初めての里帰り。威張いばれたものでもないが。


「へえ。お前の給料で買ったのか」


「悪いか」


 親父に、と差し出されたのはラヴァ。高級酒である。しかもこれは。


「20年ものなんて買えるわけねーだろ。どこで盗んだんだ?おれも行ってくる」


「やめろ。死んじまうぞ。・・・カネさんにもらったんだよ」


「カネ殿か。そんなことだろうと・・・え、魔城倉庫から?」


「そこまでは知らねえよ。なんか欲しい物あるか、って聞かれたから、良い酒くれっつったらくれたんだ」


「・・・分からん」


 メガッカは凶鳥の中ではかなり知的に高位な種族だが、それでもシオドには分からなかった。


 まるで弟が戦働きをしたかのように聞こえた。


「なんだ。どんな仕事をしてたんだ」


「使いっぱしりだよ。海魔から魔城へ飛んだ。それだけ」


 その答えはシオドを満足させなかった。しかし納得はした。


 それ以上の何かのために、カネは弟に褒美ほうびをくれた。


 そしてだから、弟は戦場に行く。


 戦闘種族ではないメガッカが。


「後ろに居ろ。常に。前に出たら死ぬぞ」


 兄はおかずをつつきながら、うつむいたままでそう言った。だからミキメは、素直に頷いた。


「行くのはおれだけじゃねえんだ。猿族も2人、おれと同じ雑用係で付いてく。だから大丈夫」


 まるで大丈夫ではない。減っても良いようにその人数に設定されている。戦闘参加者であるシオドは知っていた。


 人族の斥候せっこうを狩った時も、かなり良い動きをしていた。あれが真正面からの戦闘なら、多少なりとも手こずったはず。知虫と軍団長ギリィも出てくれていたから完勝できたが。


 どこと事を構えるのか知らんが。


 カネ。無駄に使い潰してくれるなよ。可愛い弟を。


 シオドとてメガッカ。凶鳥には珍しく、家族を強く想っていた。

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