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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
70/103

再会の二人。出会った8名。

「・・・・」


 運命。偶然。必然。出会いの名付けにこだわるか否かは人それぞれの趣味だが、名前などどうでもよくなるような危機もある。


 サルタは今、それに直面していた。


 相手は怒っていた。最近怒りっぽくなっていたのもあるが、この世の不可思議をぶちのめす気が前面に出ている。


 実力は未熟。けれど才気は鋭い。


「・・・・・マ、マリー殿は」


「サルタ様。修練後、お時間を頂きたいのですが」


「お、おう」


 サルタの呼吸は少し荒れていた。心拍数も上がっていた。ルフはそれを見るでなく、感じていた。ただ自分から魔族側とのいさかいを起こすつもりは全くないので、特に気にしなかった。ガルタは面白そうに見ていた。


 元魔獣軍団敷地。魔族の捕虜が取られたり、帰ってきたりした、馬の飼育場だ。普段は馬の調練をしている場所なのだが、今はちょっと不思議な光景が見られる。


 人族が3名。猿族が1名。海魔から2名、それに飛竜、魔法師団から1名ずつ。バラエティ豊かな面々だ。


「サルタ殿。この人族が何か?」


「いえ。同じ祖先を持つ者同士、腹を割って話すのも面白かろうかと語り合っていたところです。ルフ殿もガルタ殿もどうですかな?」


 魔法師団に話しかけられたサルタ。しかし若干瞳がうるんでいたにせよ、その話しぶりに動揺は見られなかった。小僧にしか見えないが、只者ではない。この胆力は。


 魔族。人族を圧倒する種族。ルフはサルタから、その意味を知り始めていた。完全なる勘違いなのだが、誰も気付かなかったので問題なかった。


「ではまず、空戦から。グランダ殿」


 司会進行は魔法師団、ユーリクロイドが務めてくれる。


「はい」


 飛竜軍団所属ではなく、魔王付きとなったグランダが、人族を鍛えてくれる。サルタと同じく魔王直属となった身だが、今回は魔王に言われてではなく、自己の判断でサルタに付き合い、人族との協調路線を確かなものにするために働いている。


バサアッ


 竜の羽ばたきは予想より遥かに軽い。これは竜翼が空気を叩いて浮力を得るのではなく、空間を切り裂いて得た引力によって飛行しているからだ。


 そしてグランダは人族が斬りかかれる程度の低空(およそ高度20メートル以下)をゆっくりと浮遊。最高速度を出してしまうと、勇者以外の人族では斬りかかった反動で大怪我を負ってしまうため、子竜のような(実際に子竜なのだが)速度で接近した。


 稽古けいこゆえ、人族側も真剣ではなく木剣を構え待っていた。


「行きます!」


 まずはルフが。本来、試し役はマリーで良いのだが、マリーにはサンゾウから言いつかった特命がある。


 そしてあおの部隊長であったルフ・ヴァニッシュは、この程度の速度なら十分に余裕を持って対応できた。


キン


 竜の顔面に一撃を与えると同時、鼻面はなづらを蹴って跳躍、竜の飛び去る間隙かんげきに着地。初めての飛竜戦とは思えぬ滑らかさだ。


「行きます!」


 次はマリーの出番だ。ガルタは最後。


キン


 旋回して同じ飛行ルートをたどってくれた飛竜を、同じく斬って跳躍。しかしその身のこなしは派手で、姿勢制御も甘かった。


「行きます!」


 これで最後。ガルタもルフやマリーと同じように動いた。


 が、実は少し力を入れていた。鋼鉄を斬る時のように。


バキイ


 竜の薄皮を切り裂く。その程度のイタズラのつもりだったが、木剣は粉々に砕け散り、グランダの皮膚には物を押し当てた痕跡こんせきすら残っていなかった。


 しかし、ルフは遠目で見ていただけで、ガルタの筋肉の張りから込められた力のほどまで把握した。後で注意しておかなければならない。


 蒼のルフは皇帝直属であり、皇族ですらその命令権は持っていない。


 皇帝トリキアの身を危うくするかも知れないものは、排除する。いかなる手段をってしても。


パチパチパチ


「お上手です。基本的に飛竜は剣の間合いには来ないので、あくまでもサブの戦術として考えておくと良いでしょう。ですが飛竜を相手取ってひるまないその胆力は、あらゆる戦場で役立つものです。これからも大切にしてください」


 にこやかに。優しく教えてくれるこの女性は魔法師団ナンバー10、ユーリクロイド。そして人族3名はすでに気付いていた。


 自分達の練習相手であった巨大な飛竜。あれと勝るとも劣らぬ実力が、その美しい造形の中に秘められている。


 特にルフは、敏感に感じていた。


 目の前の女性は魔法師団の中で十指に入る存在。強くて当然。ではあるが。


 おそらく、自分が本気で斬っても、切れない。打撲ぐらいならいけるか?


 ルフは魔力を持たない、普通の人間でしかない。魔法師団という名を知っていても、その実力の詳細までは全く分からない。


 けれど分かる事もある。


 あおあかみどり。そして親衛隊。人類選り抜きのエリートである彼らと多くの時間を過ごしたルフは、強者の振る舞いが本能的に察知できるようになっていた。


 そしてその本能が言う。


 目の前の女は、何かヤバい。何が、とは言えない。魔法は分からん。


 分からないなりに。


 ユーリクロイドの立ち居振る舞いは、明らかに剣術や格闘術以外の何か、つまり魔法を使い慣れた者のそれだった。


 ユーリクロイドがルフやガルタに対して取っていた距離はおよそ2メートル。ルフはおろか、親衛隊でも十分に攻撃可能な範囲。


 しかしユーリクロイドはそのエリアに無防備に踏み込んだ。気構え、覚悟、勇気。そうした感情の動きを一切見せず。


 無防備なのではない。無警戒なのだ。


 このルフの剣を、脅威きょういと感じていない。


 本能が訴える。


 この女は、こちらの力を理解していないのではない。


 知っていて、その上で踏み込める。


 それは余裕。


 ルフはこの感覚を覚えている。


 レイン殿と同じものだ。


 無論、勇者レインと同レベルなわけはないが。


 自分との超えがたい実力差という意味なら、同じなのだろう。目の前の女は。


 斬ってみたい。ルフは強く思った。


 初めて、魔法師団という現存する地上最強の部隊と出会ったルフは思った。


 立ち会いたい、戦いたい。


 そうして初めて、自分が派遣された意味が出てくる。


 魔界に来たのは観光のためではない。レベルアップのため。


 相手が魔法師団であれば文句はない。ぜひにもお願いしたい。


 しかし相手が魔界最エリート集団、魔法師団であるがゆえに、下手な事は言えない。


 確かに自分は人族最エリート集団、蒼色狼あおいろおおかみのトップだが。ここでは雑兵でしかない。身分が違いすぎる。


「ユーリクロイド殿。グランダ殿の次は、あなたにお手合わせ願ってもよろしいか」


 だがバカは考えない。ガルタは平然と無茶を言った。


 ルフは呆然としながらその会話を見ていた。


「構いませんよ。グランダさん、お昼までよろしくお願いします。それからは私が交代しますから」


「はい!」


 元気いっぱいのグランダと、にこにこしているユーリクロイド。


 意気込むガルタ、戸惑うルフ。


 怒気をはらんだマリー、必死なサルタ。


 なんか分からんが頑張れ、と思っている、思っているだけのテンクウとミキメ。・・・居たのかお前ら。


 あるいは運命に導かれた8名の初めての顔合わせは、こうして始まった。

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