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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
サルタ、魔界に立つ。
7/103

ミキメとテンクウは酔っ払う。

「うーわー・・・・」


「きっつ・・・・」


 その頃。


 テンクウ、ミキメのコンビは共にカネの勧めに従い、海魔軍団に来ていた。こちらも面接は無事終了。それぞれ新しい職場に馴染もうと、この1週間頑張って来た。


 しかし新たな戦場は、新たな苦労の始まりであった。


 テーブルに顔をくっつけたまま、テンクウは自分のグラスへ安物のガランを注いだ。ついでに、ミキメにも。


「・・・お。わりぃな」


「あー・・・」


 やり取りにも元気がない。


 海魔軍団は、文字通り、水中戦闘をメインとする軍団。空を飛べるミキメはともかく、テンクウは陸上での働きをメインとしなければならなかった。


 テンクウは最初の3日でおおまかに仕事を覚え、海魔軍団幹部クラスの食べる食事(意外な事にそれは養殖された魚介類)をせっせと作り、養殖所の雑用を覚える努力をしていた。


 海辺のシア・ライン。観光客が大勢集まる港町の横に位置する海魔軍団本部。現在の戦場ではほぼ活躍の場を失くしている海魔族だが、万が一のアクシデントに備え、常備軍の維持に努めている。


 海は広い。魔都ラインを含む陸地全てより10倍は広い。それ全てを警戒するなど到底不可能。ゆえに魔海に進出可能な港湾機能だけは絶対死守するための警戒網が張られた。


 それがこの海魔軍団本部からつながる大網おおあみ、ネビキュア。


 ネビキュアの整備、維持、守護。それが海魔軍団の大義。


 ゆえに、現在の魔界において最もハードな訓練を課されているのが、海魔軍団と言える。日常的に敵を想定した模擬戦を行い、伝令の正確な伝達も重要視、実戦に出ない事が祈られる、精鋭部隊だ。



 そんな場所に配属された2人は当然、魔獣軍団との違いに驚いた。


 基本的に、魔獣軍団では指令以外は個人の自由裁量に任されている。テンクウの仕事は確かにカネの命令で動いているのだが、その内容はテンクウ次第。テンクウが使いやすい道具、テンクウが選んだバランスの良い飼料。それらはカネの許可を得たテンクウの指示によって妖樹軍団から供給されていた。


 ミキメも同じだ。ミキメの提案はことごとくカネに採用され、宣伝活動しやすいよう改造された盾車、ミキメのデザインしたチラシ、そして自分で考えた宣伝文句。全てミキメの仕事で、カネはそれを許可しただけ。魔獣軍団の金庫を開けて、部下の動きをサポートしただけだ。


 だから海魔軍団での働きには、まだ慣れていない。


「明日は?」


 ガランで体を温めたミキメの口は、少し滑らかに。


「・・・朝は網のつくろい。昼前に避難訓練。昼からは後方支援訓練」


 酒を飲みながらでも、その光景が目に浮かぶ。テンクウは苦笑いをすれば良いのか仏頂面ぶっちょうづらのままで良いのか、少し考えた。


「・・・似たようなもんだな。おれは朝は伝令訓練。昼からは他軍団との連携訓練だ」


「・・・・ずううううっっっっっと訓練ばっかだぞここ!!おかしいだろ!!?」


「バカ!大声出すな!!」


 ここは海魔軍団からほど近い飯屋である。普通に軍団員も居る。新入りが目を付けられるのは、控えめに言って、不味い。


 2人はボソボソ声のお喋りに戻った。


「・・・バカじゃねえのかこいつら。敵なんて、何百年も来ねえのに」


 このテンクウの愚痴は確かに核心をついていた。が。


「・・・お前、命令出してる魔王様もバカって言ってる事になるぞそれ」


 聞いていたミキメは、自らの危機感のままに冷や汗を流しながら注意した。


「無し無し。今の無しだから」


 テンクウの否定は早かった。


 しかしお喋りは止まらない。止まるようなら酒など飲んでいない。


「あー・・・・・でも。ここに来てから、人の言う事しか聞いてねえよ」


 今度はミキメからの愚痴。そしてこれにはテンクウも全面的に同意する。


「おれも。・・・訓練は確かに必要なんだろうけどよお・・・。もうちょっと、仕事みたいな仕事したいよなあ」


「それだ」


 2人とも、まるで新兵のような扱いに不満を持っていた。と言うと言い過ぎだが、それは間違いなく理由の大半であった。


 元魔獣「軍団」所属の彼らだが、その職務の大半は、魔獣の育成。間違っても自分達が最前線で切った張ったするわけではない。そんなマネをしていたら、とうに死んでいる。


「完全に養殖に回してもらおうかな」


 テンクウはあくまで弱気に言った。


 養殖所の仕事は、実は軍団員以外でも出来る。実際、現在の魔獣軍団本部イブー獣舎は、一般人の手によって経営されているはずだ。戦闘部隊としてではなく、完全な家畜として。なお、この判断により、イブーが戦場に出る事はもうないだろう。


 ちなみに、こちらの施設が軍団員の手によって運営されているのは、あくまでここが戦場になる可能性を見込まれての事だ。


 テンクウは最初養殖所で働いていたが、手先の器用さを見込まれて、大網などの修繕作業を任されるようになった。チンツー種の見せ場、ではあるのだが。


「なんだか、おれのがマシに思えて来たぜ。一応、伝令役としては働かせてもらってるからな」


 ミキメの翼にも、今は元気がない。連日の訓練がたたって、筋肉痛がひどい。ついて行けないとは恥ずかしくて言えなかった。


 ミキメの現在の役割は他軍団との連携役。今までは飛竜軍団がまかなっていた役割で、海魔軍団にもちゃんと飛竜軍団出張所がある。そして現在もその役割に変更は無い。ただミキメが増えただけだ。


 そしてミキメは、正規の人員である飛竜軍団とは違うルートを任される。カネや魔獣軍団支部への。


 現在は何度も飛行訓練を積んでそのルートに慣れる事。第一にはルートを覚える事。そしてなにより、飛竜軍団の邪魔をしない事。


 魔界の空の優先順位は魔法師団、飛竜軍団、そしてそれ以外と続く。海魔軍団に属するミキメは飛竜軍団の飛行を邪魔してはいけないのだ。


「・・・凶鳥軍団行きゃ良かったか・・・?」


「・・・あそこはバリバリの武闘派じゃねえか。おめえに出来るわけねーだろ」


 ミキメの迷いをテンクウはバッサリ切り落とす。


 凶鳥軍団。飛竜軍団と並んで飛行能力を保持する軍団ではあるが、魔王からの日常的な飛行許可は下りていない。


 なぜならば、テンクウの言葉通り、凶鳥軍団はガチガチの戦争好き。伝令を飛竜軍団に任せて自身は敵に突っ込むほどの戦争狂。


 かつては何度も魔界の空で突発的なケンカが起き、その度に激怒する飛竜軍団をなだめ凶鳥軍団を叱るのが魔王の仕事になっていたほどだ。


 ミキメがそんな連中に混じって戦えるか?・・・ちょっと難しい。


 メガッカ種は戦闘を得手とする種族ではない。口が立ち、ある程度は飛べて、コミュニケーション能力が高い。事実、魔獣軍団では広報担当として活躍していた。


 カネもそんな特性を見込んで、海魔軍団でも同様の働きが出来ると考えたのだが。


 海魔軍団は精鋭。妖樹軍団の次に優先的に物資、人員が回され、海魔軍団自体の広報活動はほぼ不要。


 ミキメは宝の持ち腐れ、と言ってしまうと言い過ぎだが、まあそんな状態だった。



 2人はこの後も酔い潰れる寸前まで飲み続け。


 下手な歌など歌いながら宿舎へ帰って行った。

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