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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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魔王就任と平和会議。シャアルラとヒポリ。

 ヒポリをす声がある。そんな風評がガンズの下に届いたのは、あの戦いから一ヶ月後。


 魔都、魔法師団を始めとする魔界要人の10割の支持を得るシャアルラが気に留める必要は全くない。


 しかしそのシャアルラと魔法師団、魔都議員全ての一致団結の姿勢を見せた上でなお、ヒポリ支持の声が存在する。


 それはガンズには決して無視出来ない事象であった。


 より重点的にそれら地域の声を集めてみれば、それはシャアルネルラの敗北をきっかけにした不信。


 魔族であるがゆえに、弱い王にはついて行けない。


 現時点では明確にシャアルネルラに劣るシャアルラより、全盛期であろう実力と権勢を誇るヒポリに飛ぶ鳥落とす勢いを見るのもやむなしか。


 今はまだ地方の魔獣、魔族のみのこの意見。しかしこのまま放置しておけば、災いの種にもなりうる。


 だがヒポリは切れない。切ればそれは純粋な戦力の低下のみならず、魔王の器量のほどを測られる。


 シャアルラは、シャアルネルラに比肩ひけんする王では絶対にないと、見限られる。ヒポリは切れない。


 知虫軍団は、ガンズは、答えにきゅうした。ひとまずパアルカラッソの耳に入れておくべきか。それぐらいしか判断出来なかった。


 だからガンズは魔族として忠実な姿勢を示した。



「多いな」


「新生にして神聖なる魔王の誕生のお祝いでございます。多ければ多いほど良いものですじゃ」


 魔王降誕式典。およそ1万年以上の久方ぶりの大イベント。魔都はもちろん、魔界全土から魔族を招いて魔王シャアルラの就任を祝う。


 ガンズはそこに、予定以上の人数を招く事に決めた。


 ヒポリ待望論をくじくためである。


 今はまだ種火ですらないそれを、完全に消火する。そのために、より大々的に華々しく、豪勢に。


 魔族の王は一人で良い。それを示す。



バアン


 雲一つない晴天が、黒に染まる。暗黒色の花火が打ち上げられ、人工の闇が神の作りし天を侵食する。この日のために作られた、魔都の花火職人の傑作だ。暗黒は全てを受け入れる闇を表し、その広がりゆく様は魔王の築く御世みよの大きさを表現している。


 招かれた人族側ゲストの代表、ラアブレイ・トリキア・ギウは魔都を行進するパレードにも出席し、魔王シャアルラの後をついて回っていた。


 完全に意図的なその配置に、トリキアは一切の異存を訴えなかった。唯々諾々(いいだくだく)と従った。


 それ以外は魔族側からの配慮も行き届き、無作法な真似もなく、トリキアも護衛の蒼もホッとしていた。


 ただ。見える世界は、想像を遥かに超えていた。


 上空を舞う無数の凶鳥軍団、飛竜軍団。規則正しい行進を行う巨石軍団に剣闘軍団。美しい花を咲かせる妖樹軍団。そして常に魔王の側に控える精鋭、魔法師団。


 見ただけで分かる。すぐさま人類を絶滅させられそうな戦力。


 トリキア、そしてお付きのサンゾウは、情報の重要さを改めて思い知った。


 この戦力差では、勝てん。勝てるはずがない。


 せめて、勇者レインが健在だったなら、勝機もあろうが・・・。


 人類自ら、排除してしまった。



 トリキアは直感した。


 人類が魔族に勝つためには、あと1万年は科学力を研鑽けんさんする必要がある。より強い大砲。より速い兜車。より堅い防具。


 勇者一人きりに頼り切らないという思想が間違っているわけではない。実現するためには気の遠くなるような時間が必要だというだけで。


 その時間を、人類は魔族とともに過ごす。


 天雷を防ぐ手段を見付け、開発し、降らせた奴らを倒せるようになるまで。


 平和は維持されるべきだ。



 全軍を出しての壮行なパレードが終わった後は、お待ちかねの昼食。本日の魔都での食事代は、全て魔王が持つ。


 今回、活躍の場を運河での進行に限定された海魔軍団だが、彼らにももちろん盛大なごちそうが用意されている。が、まあ・・・ミリアステリオだけは本部にてお留守番。その威容いようは人前には出せなかった。


「所詮、私は日陰者だからな・・・」


 うっかりするとシリアスなセリフだが、別段そこまでは困っていなかった。「イカツボ」は快適だし、魔王様からのお褒めの言葉はもらったし。後は全魔族の前で褒め称えられれば最高だが。その栄誉はあの戦いに加わった全員が受け取るべき。


 やはり私は日陰者だ。


 すねた事を考えるミリアステリオは、純粋にかっこ悪かったが。


 それでも少し、男を上げていた。



 民間人が気兼ねなく楽しんでいる間、魔城でもお楽しみの最中だった。


「魔王陛下」


「シャアルラで構わん。トリキア」


 人族側皇帝、トリキアはシャアルラに対して最大限の敬意を払った。その意はシャアルラにも伝わり、隔意かくいを抱かれずに済んでいた。


 魔城5階、議会室。かつて人族との戦争時にも用いられた部屋。その空間が、今は人族との友好会議のために使用されていた。


 美酒、美食。ぜいを尽くした料理の数々は、人族の誰にもそうと分かるほど、手が込んでいた。


「では、シャアルラ様。今回の魔王就任の儀、このめでたき日に、私もお祝いの行事をひらめきました」


「ほう」


 悪意なく、怒りなく。純粋な疑念をトリキアにぶつけるシャアルラ。


「魔族。人族。2つの種族は、相争うのではなく、お互いに補い合い、高め合う。それが出来るはずだと、ヒポリ殿とお会いして確信致しました」


 トリキアは端正な顔立ちを引き締め、食事会に似つかわしくないほどの真剣さで言ってのけた。


 半分嘘だな。シャアルラはそう知覚しながらも、表に出さず返答した。


「うむ。私もヒポリから聞いている。人族の予想以上の繁栄ぶり。貴様の手腕しゅわんをしかと見届けたとな」


「お恥ずかしい。我らが帝都も、ヒポリ将軍にとってはマッチ箱のようなものでしょう。この魔都と比べられては」


 これは真実。シャアルラにはトリキアの心の声が手に取るように分かる。


 本音の追従ついしょうに気を良くしたシャアルラは、トリキアの言を受け入れた。


 この場にはもちろんヒポリも同席しているのだが、二人の会話には口を挟まない。


「では、人族は魔族にくだる、という事か」


 受け入れた、ように思えたのは気のせいだった。波乱必至の言葉をつむぎ出し、笑っていた。


 子供でも分かる。トリキアは頷けないし否定も出来ない。ただ困らせるだけの児戯じぎであると。


 ただ、そこまでの「遊び」を含ませた発言をしている事自体、シャアルラが心を許している証拠でもある。


「おたわむれを」


 割と命をけながら、トリキアは微笑の内に否定を返した。


 機嫌を損ねれば死ぬ。蒼の護衛でも、魔王の前ではどうにもなるまい。


 だがトリキアの表情に、強張こわばりはなかった。あくまで穏やか。


 返答にはイラついたシャアルラだが、その根性は気に入った。伊達だてで一種族の長をやっているわけではない。度胸だけなら魔獣に匹敵するか。


「・・・ふん」


 シャアルラは身近に置いた部下を思い浮かべた。やつもまた戦力は持たぬが、胆力だけはある。


 トリキアは武力では蒼に及ばず、知性もサンゾウに比べれば負けるだろう。


 だが皇帝である事に間違いはなかった。


「・・・トリキア。貴様の提案、受けても良い」


「おお・・・」


「その代わり、願いがある」


「なんなりと」


 トリキアは本気で言葉を発している。人間に換算して、10万人以下の犠牲で済むのなら、その程度の人身御供ひとみごくうは差し出す。


 トリキアは本気で人類を存続させるつもりでいる。


「貴様らの知識の全てを、渡せ」


「は・・・」


 話し合いは、続いた。



 記念式典は成功に終わった。人族からも皇帝や諸国王を招き、ゲストとして魔王への敬意を示させた。魔王シャアルラの威光は間違いなく極限まで高まった。


 はずなのだが。


「ヒポリ。お前の力量が知りたい」


「はい」


 式典が終わって数週間。魔王はよく分からない事を言い出した。だが魔獣に異はない。全ての命を実行する。それがゆえ、魔獣。


「本気で来い」


「いえ」


 だが魔獣は否定を返した。


「なんだと?」


 魔王は少しの怒りを覚えた。


「本気を出せば、我が主を殺してしまいます。手加減をお許し下さい」


 魔獣は平静に言った。


 そして魔王は、激怒した。



「死にたくなければ、本気を出せ」


 あまりの怒気で言葉は震えていた。小さな体に不似合いな魔力量が活性化していた。



「いえ」


 水底のような静かな声だった。魔の王を目の前にして、闘志すら見せなかった。



 魔獣は魔王に仕える。ゆえに本気を出せない。




 ヒポリは、魔王シャアルラより、強い。



 本気は出せない。


 弱い魔王を、殺してしまう。

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