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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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ガンズの秘策。若造とギリィ。

 勇者暗殺計画。それは魔軍の中でも、ごく限られた人員のみが知る秘密計画。具体的には知虫軍団長ガンズとその配下。そして妖樹軍団上層部のみが承知していた。


 魔王は腹心の部下である魔法師団にさえ伝えていなかった。


 理由は2つ。直接攻撃部隊である魔法師団の不興を買うおそれがあったため。そして魔王の不安感を悟らせないため。


 だが勇者よりも強い敵の出現により、ガンズは口を開いた。計画の全貌ぜんぼうをシャアルラに伝えた。


「・・・それがどうした」


 シャアルラの返答は、平坦だった。


 勇者暗殺。驚くべき作戦だが、今更どうでもいい。勇者など。


「我々は魔王様の御威光の下、妖樹軍団と協力し、実働部隊としては知虫軍団のみで勇者を追い詰めました。直接戦えば勇者に傷一つ付けられない我らですが、やりようはありますのじゃ」


ギリ


 シャアルラの歯ぎしりの音に、ガンズは8割ほど死を覚悟したが、微動だにしなかった。


「今は、精神論など、どうでもいい。勇者などというザコ相手の戦略も、父上の考えも!」


 シャアルラは混乱していた。


 父の死から1ヶ月近い時間が経過。怒りは薄れかけ。


 しかし純粋な殺意と闘志が形成されていたはずのその精神に、若干のゆがみが生じた。


 本来、殺意とはシャアルラの中に豊かに育っていた基本感情の一つに過ぎない。殺戮さつりく欲、支配欲、破壊欲。魔王の適性とでもいうべきそれら感情要素は魔王シャアルネルラの監視の中、計画的に育成されていた。


 だが今、そのバランスは崩れている。


 身辺に置いていたパアルカラッソは多忙を極め、絶対的な存在であったシャアルネルラは消え失せた。精神安定剤を失ったシャアルラの心は、変容しつつあった。


「精神論ではございませんですじゃ。神殺しに必要なものを説いております。そしてそは、毒」


「効くと思っているのか」


 魔法師団であれば、ナンバーを持たない下位の者でさえ、現存する全ての有害物質を除去出来る。


 神々がそれに劣るとは、とても思えない。


「毒とは物質の名前ではないのですじゃ。効能による結果から毒と名付けた、つまり逆算の答え。効きさえすれば、それが猛毒。そして神にとっての猛毒とは何か?ですじゃ」


「なんだ」


 考えもせずシャアルラはガンズの言葉を促した。


「神ですじゃ」


「・・・・?」


 いささか冷静さを欠いていたシャアルラだが、知性を失ったわけではない。


 ガンズの発言内容を察するに、同レベル同士をぶつければ良い、と言っているように聞こえる。


「仲間に引き込むつもりか」


「仲間と申しましては、あちらも気を悪くしますじゃ。利害関係者とでも」


「それでどうやって神を調略する。奴らが金銭で動くとはとても思えんぞ」


 もっと言えば、領地や名誉なども意味をなさない。サルタと同じ考えだ。


「もしも神々が感情のない機械カラクリであれば、この策は成功しませぬ。ですが、彼奴きゃつらはなにがしかの目的のために動き、身を隠しておりますじゃ。それすなわち、目的意識と優先順位の現れ。神獣であろうと神竜であろうと、無秩序でも無目的でもありませぬ。成し遂げたい何か、をはっきりと認識しておる。そう推察しましたじゃ」


 これもサルタと同じ想像。シャアルラは無意識にサルタとガンズ、両者の評価を引き上げた。


「では成し遂げるべき何かとは?」


 謎かけのように、ガンズは主に問うた。前代の王に劣らぬ王を育てるために。魔王お抱えとしての役割を果たすために。


 そしてシャアルラは敵を理解していた。


「・・・神への」


「神化、でございますじゃ」


 シャアルラ。ガンズ。主従の答えは一致した。


 神無き世界で神に至ろうという野心家ども。それが魔族を上回る種族の正体。どれだけ強かろうと、欲を持つ普通の生物。


 ならば倒せる。


「それで?神になりたかろうが、我々もそんなものは知らんぞ。そしてハッタリが通じる相手ではない」


「無論。ですが、可能性を信じる可愛げはあるのでは・・・?」


「可能性?」


 突如、シャアルラにはさっぱり分からなくなった。可能性?現魔族の誰が神族をだませるというのだ。


「魔王テア様にお願い致しましょう」


「・・・・・・・・・・・・・」


 シャアルラが。即答出来なかった。




 凶鳥軍団の在するラインは、魔都で最も高地に位置する、スキア・ライン。いつもなら祭りかと思うような喧騒けんそうに包まれる、乱暴で狂騒的なライン。


 しかしながら、今は中心部から徐々に静けさに支配されつつあった。


「良いから。ガキは頭下げて謝れ。それで許してやるから。その後は、泣いて帰って甘やかしてもらえ」


 まとうは自身を模したコウモリの刺繍ししゅうを入れたマント。眼光鋭き、黒の大翼が言う。武装こそしていないが、翼は開かれ、臨戦態勢。


「何を言っているのか分からんな。鳴きわめくしか能のないニワトリの声などは」


 マント、衣服、全てに強化魔法陣が描かれた、二本角の貴公子が言う。こちらも刃物の類は持ち合わせていないが、魔法はいつでも撃てる。


 凶鳥軍団長ギリィ。魔法師団ナンバー1、パアルカラッソ。この両者の対立する声は、スキア・ラインに静かに響いていた。片や魔界の狂犬。片や魔王の懐刀ふところがたな


 どちらにも共通するのは、どちらも怒らせてはいけない人物だということ。


 その2人が、怒りの感情をあらわにしていた。特にパアルカラッソの怒気が外部で見られたのは、今回が初めて。周囲の凶悪なる凶鳥ですら、後退しない者は居なかった。


 話は一時間前にさかのぼる。



「ウチにそんな弱虫は居ねえ」


「弱い弱くないの問題ではないのです。ご理解下さい。明らかに現在の凶鳥軍団はオーバーワークです。新たな魔王様の支配体制を確立させるためにも、凶鳥軍団に揺らがれては困るのです」


 スキア・ライン中央部。黒の塔。凶鳥軍団長の住まいであり、凶鳥軍団が誇るエリートらの住まいでもある。


 パアルカラッソはここに単独で訪ねていた。用件は、警戒任務についている凶鳥軍団の勤務状況。その激務は飛竜や海魔に劣らず、さらには軍団のみならず、凶鳥軍団の名において賊発見の懸賞金まで出され、スキア・ラインそのものが、魔王殺害の実行犯探しに躍起やっきになっていた。


 しかしその現状で、凶鳥軍団は休養をとっていない。魔城からの命令以上に働き続けている。


 それでは軍団としての気力がおとろえる。体力も無限には続かない。


 ゆえにパアルカラッソ自らがおもむいた。


 決して凶鳥を軽んじての命令ではない事を伝えるために。


 しかし。


「グズが。魔法師団の風上にも置けねえガキが」


「グズでもガキでも、命令には従って頂きたい。あなたは魔王様に選ばれた者。そうでしょう?」


「・・・救いようのねえバカだな。その魔王をぶっ殺されて、のうのうとしている魔族が居るか」


 面白そうに、軽く笑いながら、ギリィは言った。言葉選びは乱暴だが、言うほど語気は強くない。ただ、その瞳には狂気しかなかった。


「ギリィ殿。あなたはどこまで思い上がっておられるのか。現時点で敵を発見出来ていないあなたが、どれだけ気勢を上げて、何かをしているつもりになって。それはシャアルネルラ様への追悼ついとうではない。あなたの、単なる自己満足に過ぎない」


 パアルカラッソは言った。


 周囲の凶鳥エリートは、寒気がした。


「表に出ろ」


「身の程をわきまえよ」


 両者、一歩も引かなかった。


 そして凶鳥の長は本当に表に出て、魔法師団トップもそれに続いた。



 黒の塔は住みやすく居心地の良い場所だが、なぜか真っ黒だ。


 それは血に汚れても目立ちにくく、掃除しやすいから、という理由なのだが。


 それを知ってか知らずか、強者2人はどちらもゆずらず、いかにも魔族らしく当然のように決闘が始まった。


「死ね」


ギイイ


 一瞬で30音速に到達するギリィの周囲からは、空気が無理やり破られる音が発生していた。それはあたかも金属同士が擦れ合う音。


 凶鳥軍団長ギリィは当たり前のように、自分の上位者を殺しにかかった。


 凶鳥にハッタリはない。殺すと言えば、必ず殺す。


 そしてこの速度域は、ギリィとシャアルネルラの2人の世界。


 パアルカラッソが侵入出来る領域ではない。


パアン


 だが。


「やはり口先だけか」


 魔法師団トップには通じなかった。


 ギリィの最大の特徴は最高速度からの奇襲。防御態勢を整える前に、気付く前に殺される。それこそがギリィの長所なのだが、それはパアルカラッソの熟知するところ。


 不意打ちは効かない。あらかじめ循環させ、充実させておいたパアルカラッソの魔力障壁は、完全にギリィの先制攻撃を防いだ。


 が、それもそのはず。ギリィの先制攻撃として選択された攻撃手段は、超音波。ギリィ自身の移動時に発生する超音速の空気振動音に紛らわせる事で、対象に気付かれず周辺空間に音波攻撃をばらまける。移動そのものが防御も回避も不可能な、絶対先制攻撃。


 しかし知っていて、受ける気があれば、話は別だ。


 パアルカラッソの自動防御膜は大砲の直撃を4発まで耐える。いかにギリィのそれが不可視の一撃であろうと、魔力障壁は破れない。


「・・・だから、ガキだっつうんだ」


ズコン


 パアルカラッソは、全く想定外の一撃を食らい、姿勢制御を失い、落下した。


 身体にダメージらしいダメージをもらったのは、魔王シャアルネルラとの模擬戦以来。


 パアルカラッソは一瞬、パニックになっていた。


 何を食らった?いや、何が起こった?


 五体を切り刻まれ、パアルカラッソは体、心、両方が震えていた。


 強い。戦闘面でも、ここまで使えるのか。



 全身血まみれで、驚いた顔で落ちていく未熟者。けれど。


 本気で撃った音刀ネイル・ヴェイルが表皮で止まっている。見た目の出血こそ派手だが、その血もすでに止まっている。その事実を一瞬で見極めたギリィは、若造を再評価した。


 言うだけの事はある、どころではない。音刀ネイル・ヴェイル岩石巨人ジョウゴを容易く切り刻む。


 つまり、あのガキの身体構造は、あの岩石巨人よりタフで、見かけ通りの優男ではない。


 シャアルネルラが選んだだけの事はある。


 バケモンだ。


 一合。たったそれだけで、ギリィはパアルカラッソの戦力を大方把握した。


 魔法師団ナンバー1。それは最も魔王に近いという意味。


 シャアルネルラは死んだが。こいつを残した。


 ・・・・まるで釣り合いが取れない。こんなクソガキ一人じゃあ・・・・。


 だが。言っても始まらない。



 仕方ないから、お前で我慢してやるぜ。



 戦いはそれから一時間あまりを経過。


「じゃあ凶鳥軍団は元のローテーションに戻す。今日は楽しかったぜ。またな」


「・・・・・・・・」


 けろっとした顔でギリィは黒の塔に戻り、塔付近の上空で見守っていたエリートらも帰還。


 場には極度に消耗した若造一人が残された。


「・・・・・・・ばっ、バカ鳥が・・・」


 本当に殺すわけにもいかず、パアルカラッソは延々的になり続け、ひたすら攻撃を受け続け、限界まで魔力を削られ、へたばっていた。


 外部で魔法師団の者が恥ずかしい振る舞いをする事は出来ない。パアルカラッソは今、全力でやせ我慢をし、まるで平気・・・なフリを続けていた。


 あのギリィは本気で平気そうで、本当に意味が分からなかった。


 流石にシャアルネルラ様の下で軍団長を張っていただけの事はある。


 化け物だ。



 とりあえず凶鳥軍団のオーバーワークは解決。パアルカラッソは無駄に消耗した気もするが、何も減っていないので結果オーライ。


 そしてヒポリが帰ってきた。

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