サルタとシャアルラの考え。
敵を知る。言葉にすれば簡単な話だが。
魔王を倒すような敵の心理と言われても。
「分かるかよ・・・」
神々とか。そもそも存在自体、知らなかったぞ・・・。
・・・もしも。おれが魔王を倒そうというのなら。人類のためだろうか。今生きている、マリーやおじいちゃんやダンの皆のために。魔族を滅ぼす、というのは理に適わない行為ではない。
ただそれは、おれが人間だからだ。魔王を本当に倒すようなバケモンの理屈ではない。
椅子から離れ、ベッドに横たわる。朝食をとってから、ずっと敵の行動様式を考察していた。
敵は突然現れた。そして、魔族や人族に警告やお告げをする事なく去った。
奴らは「こちらの世界」の誰にも用事がなかった。あくまで自分達の都合のみで動き、魔王を片付け、消えた。
人間からの信仰など、最初から気にも留めていない。魔族へも同じ。
奴らは奴らの道理で動いている。
それは何か。
「魔王を倒して得られるもの」
名誉?確かにすごい。すごいが、倒してすぐに消えたのでは、どうにもなるまい。
金銭?これも同じ。居座る気がなければ、意味はない。
命?魔王が神々に敵対するから先に殺った?ありそう。ありそうだけど。
「それなら、なぜ魔族を根絶やしにしない・・・」
復讐心に燃える娘が居るんだぞ。おれなら殺す。
神々がバカだから・・・じゃない。意図的に魔王と空竜グランダロン以外には手を出さなかった。しかし、シャアルラの能力でも見逃される・・・。どういう事だ。
何か、意図がある。というより、こんな化け物が遊びでウロウロしているなんて、考えたくない。
・・・ウロウロ?
「そういえば」
先ほども思ったが、おれは神々を知らなかった。魔王を倒せるような奴を。
その意味するところは、勇者と同質の存在であるはずなのに。なぜ人族に伝承されていない。救世主ではないのか。
天雷なんかも落としたしな。
「・・・」
少し見えた、か?
今回の魔族側の被害状況はまちまち。妖樹軍団の被害が最も大きいのは、敵の戦略的思考を感じなくもない。が、飛竜と海魔、魔法師団に手を出していない時点で、そんなものは欠片もない。
要するに、奴らは人間だろうと魔族だろうと、一切関知しない。ただ無作為に天雷を降らしただけ。
その結果、人族と魔族の戦争は終わった。
これが奴らの目的?
そうだ。魔王を倒して得たものはなんだ。
戦争の終結だ。
なぜ?
平和を願うお人好しなら、魔族か人族か、どちらかに付く。もしくはどちらも攻撃しない。
ところがこいつらは両方を攻撃し、人口を減らした。それも膨大な数を。
「・・・人口調節が目的?」
口減らしか。サルタも学校で習った。昔、食糧が今ほど安定して得られなかった時代は、わざと味方を殺し、そうして全滅を防いだ。必要悪の化身のような風習。
なるほど。
「奴らは神。だから、人族と魔族の正面衝突に出張ってきて、調停者を気取っているのか」
随分と思い上がられたものだ。
おれ達を。いや。魔王のような超越者までを、肉や野菜のように。調節しやがった。
サルタは意外な事に怒りを感じていた。魔王など、会った事もない赤の他人なのに。
魔界に来てから一番関わりの深いシャアルラの親だからだろうか。それとも復讐を旨としているおれの利害関係者だからだろうか。
それとも。神などという得体の知れぬ者に、この地上に同じく住まうものを殺されたからだろうか。
魔軍が全力で捜索して見付からない、偵察の飛竜らの目撃情報でも、突如として消え失せたという。以上、奴らはこの世のものではない。
「この世のものではない」
ならば。空を飛べる竜で発見出来ないのであれば。奴らは。
「・・・・・分からん」
「まあ、な」
「!?」
サルタは死ぬほどビビった。今まで寝転がってブツブツ独り言をつぶやいていたお気楽空間が、一瞬で一人増えていた。
いつの間にか、シャアルラが椅子に座っていた。
「私もお前と似た結論に落ち着いた」
「・・・・そうか」
色々。言うべきか悩んだ言の葉はあったが。サルタはシャアルラの言葉の内容にのみ反応した。
「おれの部屋に来ていて良いのか?」
シャアルラは現在の魔界で最も忙しい人材。行事の練習だけで忙殺されているはず。
「巡視だ。私の配下がちゃんとやっているかどうか。これも仕事だ」
・・・という事にして息抜きしてんだな。サルタでもそれぐらいは分かった。なにせ自分は独り言をぶつぶつ言っていただけ。それで働いていると思ってくれるのは・・・父母だけだ。
シャアルラは足をぶらぶらさせながら、話を続けた。
「敵の居場所も強さも分からんのでは、何も出来ん。現状、私はただの小娘だ。お前と同じくな」
パアルカラッソらの手によって着々と被害回復の手段が実行に移されようとしている。これはパアルカラッソの父も属する魔界議会も完全に支援。魔界全都市、全地方の首長がバックアップしている現状こそが、シャアルラの存在価値そのもの。
小娘などと、とんでもない。シャアルラが居るからこそ、魔界はまだ一つにまとまっているのだ。
シャアルネルラと同レベルの魔力量を誇り、覇気と知性を同居させる王器。ゆえに誰も違和感を覚えず異議も唱えない。
次代の王として生まれ育った、この世でただ一人の魔王種。
だから。大勢の有能で忠実な配下を抱えながら、シャアルラは今、孤独だった。




