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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
61/103

調査。

「調べる」


「そうだ」


 久しぶりにシャアルラに呼び出されたサルタは、魔王城最上階、魔王の居室でシャアルラと会話をしていた。場には他にガンズ、魔法師団ナンバー2のオゥルネイアも。


「あの天雷を起こしたのが何者か。どういう技か。私にもそれが出来るのか。対抗策は。そして起こした奴の本拠地。なんでもいい。ありとあらゆる全てを調べろ」


 魔王の椅子に座ったシャアルラの瞳には、相変わらず、憤怒が宿っていた。


「遠方よりシャアルネルラ様の戦を見ていたエウギル、テオドラの両名の報告書が、こちらの情報源の全て。敵はおそらく神竜、神獣、それに神族の何者か。シャアルネルラ様、ダロン様が一瞬で殺された以上、そう推測するのが妥当です」


 オゥルネイアが今までに戦議会と魔法師団で協議した結論を改めて説明。


「ガンズ。調査は知虫軍団に可能か?」


「単独では不可能ですじゃ。知虫軍団の本領は偵察と諜報。調べ物など、頭脳労働はこちらの本分ではないのですじゃ」


 ガンズははっきりと断った。出来る事と出来ない事を混同されては、知虫軍団が何の役にも立たない集団だと勘違いされてしまう。


 敵が地上に居るのならともかく。敵は飛竜、知虫、凶鳥が毎日探し回っても見付けられていない。少なくとも、今は魔界には居ない。


 知虫軍団が必ずや新たな魔王の助けになれると自負するガンズは、ゆえに明確に物を言った。


「魔法師団は・・・・動かせませんよね」


「恥ずかしい限りだが」


 サルタの質問に、これまたオゥルネイアがはっきりと答えた。


 無傷の魔法師団だが、だからこそ動かせない。魔王亡き今、魔法師団を失えば、今度こそ魔界の支配体制は崩れる。魔族が自壊する。


「ゆえにお前達の知恵を出せ。どうやって調べる」


 最後にシャアルラが命じた。サルタ。ガンズ。オゥルネイア。全て魔王シャアルラの持ち物であるがゆえ、知恵を貸せとは言わない。


「長生きしている種族なら、何か知っているのでは」


 サルタがなんとなしに言ってみた。被害が大きすぎる飛竜軍団の傷口をえぐる行為かも知れないが、全滅したわけではない。聞き取り調査をすれば、誰か知っている者も居るのではないか。


「いや・・・。ガルナディンからの報告では、今回の事態に対して役立てる事はない、との事です」


 オゥルネイアが答えた。ガンズもそうだが、彼女や魔法師団の高位メンバーは全員が今回の戦争の報告書全てに目を通している。


 飛竜ガルナディンはエア・ラインのまとめ役。既に飛竜軍団を引退した身ゆえ戦力には数えられないが、エア・ラインで最も情報収集をしやすい飛竜。その彼が言うのなら、確かだろう。


「他には?妖樹にも海魔にも長老は居るだろう」


 シャアルラもサルタの提案に乗ってみる。そしてオゥルネイアも思案する。


「確かに妖樹の里には可能性があります。海魔は・・・どうでしょう」


 海魔軍団に属する海魔は、ほとんどが若い、100才未満の者で占められている。その他、魔王配下にない海魔であっても、もちろん魔軍と敵対的でない種族も居る。主に深海を生息地とする種族がそれにあたり、彼らは魔軍との積極的な接触を取らず、彼らの支配領域を出る事も少ない。歴代の魔王としても活用法が見つからなかったので、特に何もしなかった。


 確かに彼らの中に長生きの種が居ないとは限らないが。


「そちらは海魔軍団に一任しますか」


 海魔軍団は比較的被害が少ない。ミリアステリオはともかく、部隊長クラスを遠征させても問題はなかろう。オゥルネイアはそう考えた。


「いえ。海魔は飛竜と同じく、戦争の最初から働き通しですじゃ。しばらくは、休養を取らせるべきかと」


 内外の情報に精通しているガンズは、海魔の雰囲気についてもそれなりに知っていた。疲労が溜まっている事も。


「海魔については半年後。それで良いか」


「十分でしょう」


「ちょうど良いかと」


 シャアルラの提案はオゥルネイアとガンズの同意を得た。サルタはさっぱり分からないので黙って頷いていた。


「妖樹については、彼女らの里に向かう計画があります。その時、ついでに調べましょう」


「では、そちらに魔法師団から幾人か回してもらえますかの」


「では、リジェを」


 魔法師団ナンバー3、リジェ。かつて魔王に復活させられた、最も忠誠心に厚い魔族。頭が悪いわけではないが、恐ろしいほど直線的なので、よく言って聞かせる必要はある。ただ、命令をたがえるような真似はしないので、任せられる。


 妖樹種子移送計画はこれで、ヤルド、ヒワダの妖樹組にリジェをはじめとする魔法師団から10名。ちなみにこの10名は万が一の護衛も兼ねている。そして彼女らを運ぶ飛竜タクシーを10便。足りなくなれば、都度補充しながら。


「・・・図書館にある可能性は、ありますか?」


 サルタがガンズやオゥルネイアに聞いた。灯台下暗し。もしかして。


「おとぎ話レベルなら、私も読んだ事はある。だが正規の文献としてのそれは、確かなかった」


 オゥルネイアは過去にパアルカラッソら魔法師団の仲間と図書館を探検した事がある。いずれ戦うであろう勇者や海竜、地竜など、魔法師団より強いと目される者らの情報を集めに。その時、かなり念を入れて調べたはずだが、始祖竜などの情報は見当たらなかった。それこそサルタがグランダに教えてもらったような、子供に読み聞かせる程度の話だけ。司書にもたずねたが、神族に関しての資料は見当たらなかった。


「だが念の為、もう一度司書に頼んでみよう」


「うむ」


 オゥルネイアの提案はシャアルラの了承を得た。


「シャアルラ様。人族側からの情報を求めてはいかがでしょう」


 と、ガンズが提案。


「奴らが何か知っていると本気で思うか」


 シャアルラは人族の能力を全く信じていなかった。


「可能性はゼロではない、という程度には期待しておりますじゃ」


 率直な感想であった。


 だがシャアルラは受けた。


「飛竜を飛ばして、ヒポリに伝えろ。皇帝に命じ、天雷についての全てを調査させよ、と」


「承知しました」


 オゥルネイアが答える。無論、より穏当おんとうな表現に変更して命令書を送る。


「サルタ。お前は戦略を練れ」


「戦略」


 出来るわけないだろ。と答えたかったが。


「父上を殺した奴らは、何を考えていた。魔王になりたかったわけではあるまい」


 つまり。


「エウギルらの報告書には目を通したな?」


「ああ」


「敵の思慮を知れ。相手は何を考えている。お前はそれを推察しろ」


「分かった」


 雲を掴むような話だが。理解した。一切、何のコネもないサルタでは、自分が動いても何も出来ない。


 だが、これならおれでも出来る。


 真顔で命令を下されたが、シャアルラは優しかった。


「一応言っておく」


 そしてシャアルラは最後の言葉を放った。


「相手が神族だから事を構えたくない、という者が居れば追放しろ。殺すな」


「それは?」


「そいつに監視をつけて、神族の下まで案内させる。殺すのはその後だ」


「なるほど。合理的ですじゃ」


 サルタ、ガンズ、オゥルネイア、全員が感心した。


 猪武者とばかり思われていたシャアルラに、このような深慮が。


 誰も彼も成長せずにはいられない。小さな頃から見ていたオゥルネイアはちょっと感動していた。




 魔界と人界。魔族と人族は協調路線を取り、世界は平和に包まれた。


 神族の思惑通りに。


 だがシャアルラは許さない。そのまま誰かの思い通りなど、己を流れる魔王の血が許さない。



 次回、魔界猿雄伝。


 神章開始。

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