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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
59/103

現れた者共。

 ロイドナイトのディナライト砲を再充填。そのまま上空に待機させ、シャアルネルラはグランダロンに騎乗したまま降下。目的地は聖竜レインの死骸。


「周囲を警戒していろ。ただし、手は出すな」


「?」


 その不可解な命令にグランダロンは首をかしげながらも了解を返した。



 シャアルネルラはグランダロンから降り、レインの死体に触れた。


 レインは確かに死んでいた。二度に渡って魔族と戦った女に、シャアルネルラも畏敬の念を持たざるを得ない。


 そしてもう一体の脅威、海竜。これも先ほど波動が途絶えた。シャアルラは上手くやったようだ。


 始祖竜に勇者。これで生贄いけにえは十分なはずだが。


 さて。


 シャアルネルラの思惑は、的中した。


シュウウ


 いきなり気温が下がった。時は昼過ぎ。最も暖かい時間帯のはずなのに。


「なるほど・・・」


 この現象は初体験。だがことわりを考えれば、道理か。勉強になる。


「・・・・待っていたのかい?」


 声は男。それも若い。人間で言えば20代。


「お待ちしておりましたとも」


 グランダロンは目をいた。魔王シャアルネルラが、敬語を使う!!??


 気温の低下と共に現れたのは、声から想像出来るような若い人間の男であった。


 ただ、姿形は、というだけの話だが。


「お名前をお聞きしてもよろしいか」


「もちろん。ぼくは神族のゴメス」


「ゴメス」


 偽名か?いや、偽名を名乗る意味もないか。


 しかしゴメス。聞き覚えがない。


 男は空気から溶け出すようにして、いきなり出現した。にも関わらず、シャアルネルラは男の名前だけを気にしていた。


「次の神族であったレインを倒した。君も神族になりたくて?」


「その通り。そろそろ、私も神族の末席に連なる資格があるかと思ってな」


 シャアルネルラは静かに答えた。敵意や威圧感など一切感じさせずに。


「正直者だ」


 ゴメスも静かに笑う。


 グランダロンは周囲の気配を伺いながらも、その笑みに怖気おぞけを震った。


 何か分からないが、ヤバい。


 だがシャアルネルラは動じない。何も気にせず、穏やかに質問した。


「それで?何か儀式が必要なのかな?」


「うん・・・」


 それに、少し困ったような笑みを浮かべて。


ザン


 ゴメスの腕がブレた。


「が・・・」


 それで魔王シャアルネルラは倒れた。腹を切られたのだ。


「あっけない・・・」


「貴様っ!!」


 食い殺そうとしたグランダロンだが、シャアルネルラの言葉を思い出した。「手を出すな」


 グランダロンは踏み止まり、再び周囲とゴメスの観察に戻った。


 いつの間にやらゴメスは剣を握っていた。あれは・・・。


「気になる?」


 そしてゴメスは聖剣を振った。


 しかしグランダロンには当たらない。基本速度が全く違う上に、グランダロンはゴメスの腕前を既に見ている。


 こんな雑魚に、シャアルネルラが・・・!


 ・・・?


 いや。そうだ。


 あいつが、こんな聖剣を持っているだけの男に負けるわけが。


 グランダロンは納得しながら、次の展開を待った。


「あれ?ひょっとして、君も神族になりたいの?」


「・・・」


 グランダロンは答えない。それはシャアルネルラの命令の中にない。


 だが次の展開を待っていたのは、ゴメスも同じ。


 こんなに早くシャアルネルラが倒れるとは思っていなかった。せっかく準備を整えてきたのに。


「・・・もう、良いのかな」


 ゴメスは独り言をつぶやきながら、現れた時と同じように、異界の門を開く。門とは言っても、明確なゲートがあるわけではなく、空間に溶けるようにして居なくなるようだ。


「グランダロン。殺せ」


ゴ!!


 と、消えかけたゴメスは、一瞬でグランダロンの前歯に挟み込まれ、全身を引き裂かれて死んだ。聖剣が振るわれる暇もなかった。


 そしていつの間にか立っていたシャアルネルラの前に座った。


「・・・分からん。こんなものか?神族というものは」


 シャアルネルラは悩んでいた。


 聖剣に斬った感触を与えるため、斬られるのと全く同じタイミングでごく小規模な膨大カクルタスを己に食らわせ、出血まで偽装。


 そこまでして死んだフリをしたのには理由がある。


「どういう事だ、シャアルネルラ」


 完全にゴメスを咀嚼そしゃくし終わったグランダロンは、積もった疑問を主にぶつけていた。


「いや・・・!」


 それに答えようとしたシャアルネルラは、今度こそ、本物の衝撃に襲われた。先の死に真似とは違う。



 シャアルネルラも、周囲への警戒を怠っていないグランダロンも、全く気付かなかった。


 周囲に3体の生物。


 しかも。



「魔王シャアルネルラ。まずは褒めよう。君の配下が一撃で殺したゴメスは、あれでも神位の昇格試験を受けている最中だった。グランダロン。これほどの実力者を隠し通せるとは、全く考えていなかった。正直に言おう。一本取られた」


 女が語る。凛とした声、はきはきとした口調。耳にも心地良い声が、身長160センチほどの体躯から聞こえてくる。均整の取れた体だが、人間であった頃のレインよりは小柄か。


 その腰元に差してあるのは、ついさっき見た聖剣。今グランダロンが吐き出して唾液まみれになって転がっている物も同じ聖剣。


「私も驚き入った・・・。まさか3人とは、な」


 シャアルネルラは自分より小さな女一人にさえ、圧倒的なプレッシャーを感じていた。


 只者ではない。


 ・・・おそらく、全盛期の勇者レインより、強い。


「我々も君を高く評価している。現時点でこのカルナと同格であろう。だから3人で来た」


 体長3メートルほどの小さな竜が女を指しながら語る。翼はなく、飛行するのであれば魔力によらぬ方法を取るのか、それともレインの竜体のように生やすのか。牙も爪も今は見えない。攻撃時にのみ開放するのか。竜にそのような身体的特徴があるとは。


 ただ、その風格は尋常ではない。力を開放した今のグランダロンと比較して、引けを取らない。


「なるほど。勇者カルナ。得心した」


 シャアルネルラは女の正体を理解した。


 最古の勇者、カルナ。あの者か。


「カルナと同じ第3位は用意出来ぬが、お主の娘が殺したグランエルスの第10位が空席になった。要るかの?」


 最後に、これも体長2メートルほどの小さな魔獣が語る。イブーを一回り小さくしたような体格で、筋肉量もそれに準じるものだろう。


 そのはずなのに、やはりプレッシャーは他の2人に劣らない。


 この3名が、ゴメス殺害と同時に突如として現れ、シャアルネルラですら焦りを隠せない。


 「敵」は、油断しなかった。


「お前達の名は?」


 だがそれでも、シャアルネルラは名を問うた。魔王ゆえに。


「神位第2位。神竜ダイナソア」


 竜が答えた。


「神位第1位。神獣マリオン」


 魔獣が答えた。


「神位第3位。カルナ。シャアルネルラ、返答は如何いかに?」


 勇者カルナが答え、問うた。



 そしてシャアルネルラはこの後の展開を完全に悟りながらも、シャアルネルラとしての答えしか持ち合わせていなかった。



「我が名は魔王シャアルネルラ。世界を覇するは、神ではない」


 魔力を完全に開放する。


「私だ!!!」


オオ!!!!!


 全周囲、膨大カクルタス。自身も大ダメージを負う覚悟で放つ、この3体にも回避不能な攻撃。ただグランダロンだけは避けられる。そしてグランダロンが3体を殺して終わりだ!


「随分と、舐められたものだな」


 爆発が起こっている最中に、その声はシャアルネルラの真横から聞こえた。マリオンの声だ。


オ!!


 とっさに振るったシャアルネルラの手刀はマリオンの薄皮一枚切り裂く事も敵わず、逆にマリオンの爪がひらめくと同時、シャアルネルラの首が転がり落ちた。


ゴ!!


 膨大カクルタスの発動と同時に動いていたグランダロンは、まずカルナを狙った。神竜の身体強度が全く不明である以上、奴を狙うのは最後。


 勇者なら殺れる。聖剣を持っていようと、当たらなければ意味はない!



 音より速く。グランダロンの首と胴体、四肢は泣き別れた。グランダロンは死の間際、その剣閃を感じる事さえ出来なかった。死を知らぬままあの世に旅立った。


「うん。この空竜も私と同レベル。ゴメスと私を同一視したのは頂けないが・・・。一度に2人失うのは、もったいなかったのではないかな」


謙遜けんそんのし過ぎだ・・・。精々、グランドキア級だ」


チン


 ダイナソアの言葉を聞きながら、グランダロンの突進速度を超えて放たれた聖剣が、さやに戻った。


 3人以外に生存者の居なくなったシャダンの森で、神竜ダイナソアが語る。


「さて。シャアルネルラ、グランダロン、そしてレイン。3人の候補者と、第10位のグランエルスを失ったわけだが、君達の意見は?」


「シャアルラ、レックス・ラギアルス、ミリアステリオ、ヒポリ。いずれも見劣りはするものの、候補者の候補者程度の実力はある。引き続き、様子見で良いのでは」


 答えたのは勇者カルナ。その声にグランダロンを斬り終えた興奮など欠片もなく、完全な平常心を保っていた。


「いかんな。いかん。カルナ、甘やかしてはいかん。強き者は、逆境の中から生まれ来る。お主がそうであったように」


「マリオン師」


「しかしマリオン。情勢は完全に魔族に有利だ。人族に肩入れする気か?」


 納得したカルナだが、ダイナソアはその問題点を承知していた。


 逆境とはすなわち、魔族側への被害を作り出す事。それは一方的な処置となる。


「ふむ・・・。それでは、えこひいき。わはは、わしも間抜けよ」


 和やかな雰囲気で会話は進む。雲の上の会話だが。


「では平等に「減らす」か」


「うむ。やはりお主が最も賢い」


 にこやかに笑みを交わした後、3名の神族は、平等を開始した。




 結果、人族の人口の10分の1、魔族人口の9分の1が消滅。


 それに伴い、両陣営ともに戦力を収め、平和が戻った。


 数え切れぬほどの、もう戻れぬ人々と共に。



 だが。


 魔王と勇者。双方を失ってなお、世界は終わらない。誰を失くしても時は止まらない。


 魔族も人族も、とぼけたままではいられなかった。

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