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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
58/103

魔王対勇者。

ア ア


 その鳴き声は確かに威圧感を感じずにはいられない。しかし同時に、高貴さ、気高さをも感じた。後にルフら、親衛隊は語る。


 謎の竜こと、勇者レインの竜体が、鳴いていた。


 敵は遥かな上空。人間の頃のレインでは、全力跳躍でも1キロメートルが限界。魔王が居るのは高度4キロ地点。届かない。


 だが、今なら。


バサアッ


 翼が生えた。確かに地上をうトカゲの姿だったレインの体に、翼が生え、そして羽ばたいた。


「なんでもありか。呆れた化け物だな」


 魔王シャアルネルラは、年若いライバルをそう評した。


 基本的に飛竜だろうが地竜だろうが、生まれた種族から大きく変異する事はありえない。普通の生物がそうであるように。


 だが勇者レインの死骸を基に、大量の人間の死を糧に生まれた地竜。聖竜とでも名付けるか。


 聖竜レインには、決まった形がない。死を超越した勇者レインの魂そのものが現界した形。ゆえにその容姿はレインの心の形と言っても良い。


 なぜ人間の姿を選ばなかったのか。理由を聞いてみたいところだが。


「息子に嫌われたくなかったか?」


 当たりは付いていた。


 生まれて数時間で生やした翼で、既に音速を超えてこちらに向かっている。そんな勇者の姿を見て、シャアルネルラは心の底から同情した。


「お前も魔族に生まれていれば、何も悩む事はなかった」


 人間間での勢力争いなどという遊びに浪費させられた勇者の武力。


 魔族に生まれていたならば、この魔王シャアルネルラをも追い落とし、新たな魔王にもなれた器が。


 もったいない。


ド オ


 石槍の第2射。接近した聖竜に先ほどと全く同じ速度で撃ち込んだ。が。


キイイ


 先ほどと同じく、石槍は竜の体表面をこすりながら、消滅する。


 ダメージは入っている。・・・体を強く叩かれたくらいには。


 切り札のロイドナイトで、これか。


「全身を聖剣で包んでいるな。硬度はそちらに分がある、か」


 シャアルネルラは冷静に推測したが、その内容はとんでもないものだった。人間の握れる長剣サイズで既に全魔族をほふれる存在だったものが、数キロメートルにまで巨大化している。しかも自由自在に動き、飛行能力を得て。


 魔族にとって純粋な悪夢でしかない光景だったが、シャアルネルラには想定内。


「解き放て。グランダロン」


 一言。魔法を唱えるだけで、3対1だ。



 シャアルネルラの詠唱に応じ、飛竜軍団長ダロンは、その真の姿を現す。


ゴ オ オ オ オ ン


 2対の翼は8対に。黄金の皮膚は闘気をまといつつ巨大化。全長120メートル、重量6千トン。古の姿に戻った。


 数キロ単位の聖竜レインに比べれば、まだ小さいが。


「シャアルネルラ!奴を殺すのか?」


「そうだ。本気を出して構わん」


オ オ オ オ !!


 喜びにグランダロンは鳴いた。



 空竜グランダロンは、生まれて初めてその力を発揮する。



ゴオ!!


 本気を出したグランダロンの飛行速度は、およそ60音速に到達する。その領域になると、シャアルネルラすら置き去りにする、空竜だけの世界。


「ちいっ!堅い!」


 しかし、聖竜は強かった。60音速、最高速度を出した状態で放った翼撃ランスレイは魔城程度なら跡形もなく消滅させられる。つまり魔王の魔力障壁を打ち破れるという意味だが、聖竜の皮膚にはかすり傷しか付いていなかった。


「フル加速の翼撃ランスレイなら、通る。なるほど」


 空にありて、シャアルネルラはまだ観察していた。グランダロンの飛行速度はレインを圧倒し、全く反撃を許していない。レインは反応をしようとした瞬間、その逆から攻撃されている。


 逆に言えば、そこまでの速度差があって、初めて勝負になる。聖竜レインは、生前と変わらず、如何いかんともしがたい化け物だった。


 しかし。生前とたった一つ、異なる点がある。


ア ア ア


 威を振りかざし、炎を吐き。全く竜らしい。その上、全身を聖剣並みの装甲で固めている。


 だが。


 レインは己を攻撃するグランダロンに振り回され続けている。一度距離を取る、敵の全貌ぜんぼうを捉える、敵指揮官を狙う。そうした行動を全く取らない。空中に浮いているだけのシャアルネルラには、見向きもしない。


「・・・」


 シャアルネルラは、その変化の意味さえ理解していた。勇者レインであった頃と、今の違い。



 ディナライト砲の第3射。相変わらず、レインは直撃しても気にしない。ダメージも入っていない。


 シャアルネルラは、聖竜レインの実力を見極めた。



 レインは、弱くなった。



「そろそろ殺すか」


 シャアルネルラは、水を飲むか、とでも言ったように、勇者の殺害を命じた。


 まずグランダロンが、レインの体を頭上のロイドナイトの直下に入るよう、誘導。そしてロイドナイトが今まで1射ずつしか見せてこなかったディナライト砲を、100門全発射。


ゴ オ オ


 グランダロンは発射と同時に攻撃範囲から逃げられるが、レインはそうはいかない。それに食らってもダメージにはならない。


 と思っているから、避けない。シャアルネルラの計算通りに。


バゴン!!


 100発同時に発射されたそれは、ディナライトのカバーに隠されたワイヤーネット。石槍と全く同じ外見の拘束具だ。


アアア


 初めてレインが戸惑ったような声を上げた。


 それはそうだろう。聖剣と同レベルの皮膚強度。触れただけでそこいらの金属など崩壊する。留め置くなど論外。


 だが、ディナライトは魔界最硬金属。10秒間なら、止められる。


ブチ


 実際には8秒。9秒目で。



 切れた。


 が。動けるようになった聖竜レインは、自分が自由を奪われていた9秒間に、周囲から気配が消えている事に気が付いた。さっきまで戦っていた飛竜も大砲も、何も。


 そうしてレインは、膨大カクルタスおりの中に居た。


「さらば」


 その声と魔法の発動は、グランダロンに騎乗した直線距離にして10キロほど離れた位置にあったシャアルネルラによってなされた。


オ オ ン


 爆発の音量は小さかった。聖竜の周囲、半径500メートルを全て膨大カクルタスの範囲に収め発生した爆発。なんなら、領土決定戦場からニア・ラインまで(人間側で言えばダンの街まで)丸ごと吹き飛んでいておかしくないのだが。最大半径に設置された魔法が内部魔法を押し潰すように時間差で発動、爆発の影響を最小限に抑えた。ただそれは、内部への圧力をより増す事になり。


ザン


 爆発から数十秒後、聖竜レインは二度目の屍を地上に晒した。


「・・・さらば我が宿敵。次は、私の下に生まれよ」


 勇者レインは人間であった頃の何百倍も強い肉体を手に入れ、人間であった頃の頭脳を失った。結果、動きが単調になり過ぎ、相手の思考も読めないザコが生まれた。


 強い肉体だった。聖剣はシャアルネルラでも破壊出来ない。爆発の圧力で内蔵を潰すしか勝機はなかった。


 だが勇者レインなら、膨大カクルタスも当たらなかっただろう。直撃はおろか、効果範囲に収める事すら至難の業だったはず。


 だが当たった。グランダロンの陽動という見え見えの手に引っかかり。


 人間である事を捨て、人間の思考を捨てた。それが敗因。


 人より強くても、人に裏切られるのはこたえたか。


 それでもレインは人に手を出さず、魔王に歯向かった。


 シャアルネルラは哀しんだ。勇者として生まれながら、誰にもかえりみられないその最後を。


「シャアルネルラ?」


「なんでもない。奴の死骸に近づけ」


「おう」


 グランダロンと共に、シャアルネルラは聖竜の死骸に接近する。



 シャアルネルラの宿願は、これより始まる。

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