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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
47/103

シャアルラとグランダ。それにサルタ。

 またか!!


 サルタは妖樹軍団から魔城に連れられた際と同じ風圧を受けていた。体に覚えのありすぎる圧力だ。


「おっ、おい!!」


 闇夜を切り裂く流星となりながらも、サルタはなんとか声を出した。


「なんだ!」


 対してシャアルラはニコニコ笑顔。初めての実戦!!腕が鳴る!!!


「おれを持ってたら邪魔だろ!降ろせ!」


 文字通り。シャアルラはサルタの手をとっているので、片手がふさがった状態だ。


 なんなら人族ごとき、このままでも倒せる。そう思っていたシャアルラだが、サルタに舐められたくない一心で、その油断を捨てた。


「確かに。竜を借りるぞ!」


「・・・・」


 サルタは、心中がどうであろうと、しっかりと頷いてみせた。


 竜便か。そこまで言われては、降ろして、とは言えない。自分の立場上、魔王の娘に逆らうわけにはいかない。いかにバレバレであろうと、今のおれはサルタなのだ。


 最後まで付き合うしかない。



 すでに海魔軍団のあるシア・ラインに到着していたシャアルラだが、進路変更。飛竜軍団の配置されているエア・ラインを目指す。


 放射線状にある各ライン。その中でも高地にあるといえば凶鳥軍団の在するスキア・ラインだが、エア・ラインはそれに次ぐ高台にある。


 あなぼこだらけの岩山。はっきり言って生命の住みやすい土地ではなさそう。そんな一見、巨石軍団のラインとも思えるような地こそ、エア・ライン。その身に飛竜を抱く、父なるラインである。


 シャアルラに引っ張られながら、サルタは見た。


 火事かと思った。それほどの篝火かがりびが、山を形作っている。それは一つ一つの竜穴を彩る街灯。岩くれに抱かれる強い炎。これが飛竜軍団の地。


 そしてそのエア・ラインからは無数の飛竜が飛び上がってきた。


「シャアルラ様!?」


「いかが致しました?」


 そりゃそうだ。サルタは当たり前すぎる飛竜らのリアクションに、頭が痛くなってきた。もしお側仕そばづかえなるものがあるなら、それは今はおれか。おれの責任が問われるのか。


 だがシャアルラは本物だった。


「暇な飛竜を借りたい!私について来れる者をな!」


「おお・・・!」


 周囲の飛竜からはざわめきが上がった。


 え。納得した?


 困惑するサルタには何が起こっているのか分からない。


 サルタは飛竜の歴史を知らない。


「で、では。グランダ!」


「は、はっ!グランダと申します!」


 その場をまとめる飛竜ガルナディンが指したのは、場で最も若く、最も大きな竜。飛竜グランダである。


「グランダ?初陣は?」


「はっ!先の領土決定戦に出させて頂きました!」


 大きい。傍観ぼうかんしていたサルタは、まだこんなにも大きな飛竜が居るのかと少し驚いていた。街角でよく見かける飛竜は大きくとも10メートル。だが目の前のは30メートルぐらいある。ざっとヒポリの3倍強の大きさ。言えばジョウゴに匹敵する。こんな無茶苦茶な生き物が存在するのか。


「ならば飛べるな?」


「もちろんです!」


 シャアルラを前にして、多少の緊張は見られる。が、緊張しすぎてはいない。領土決定戦に出たというのは伊達ではなさそうだ。


 飛竜軍団の決定戦場での役割はたった一つ。魔軍の伝令役。そして先の決定戦には父が出ていた。父王である魔王が出ていた以上、シャアルラ程度に緊張しきっていてはいけない。


「ならばグランダ!その身を盾とし尽くし、道を同じくする気はあるか!」


「あります!!シャアルラ様に付いて行きます!!」


「良し!ダロンに挨拶する!来い!」


 シャアルラは返事を待たなかった。グランダと共に飛び、最も高い山である、飛竜軍団長ダロンの住み家を目指した。


 そしてシャアルラを見送った飛竜らは、新たな時代の訪れを実感していた。次の軍団長が内定した。そして飛竜軍団は、また新たな時代を迎えられる。


 が。飛竜軍団長ダロンは、寝ていた。


「ぐう・・・」


 まだダロンの本体まで数キロの距離がある。それでもダロンの住まう洞穴の中からは、重々しくも幸せそうないびきが聞こえていた。


「ダロン!!!」


 龍鱗が射抜かれそうな気合い。その魔力波動を流し込まれても、ダロンの眠りは解かれなかった。


「しゃ、シャアルラ様。ダロン様は一度お眠りになると、魔王様でなければ、起こせません・・・」


 起こせません、ではない。そんな事はグランダも分かっているので、困っていた。魔王の後継者が現れてなお眠っているダロンは、明らかに不敬の徒。ヤバすぎる。


「ちっ・・・。ダロンの起床時間を考えなかったのは、こちらの落ち度。出直すか」


「申し訳ありません・・・・」


 グランダはダロンの洞穴前で、体を小さくして謝罪していた。その様子に、サルタは痛く同情した。身につまされる。


「仮決定だが、それでも構わんか」


「もちろんです。シャアルラ様に付いて行くと決めました」


 どうやら2人の間では平和的に合意形成がなされたようだ。良い事だな。サルタは置いてけぼりな気持ちで、もちろん全くついていけてなかった。自分はどう振る舞えば良いんだろう・・・。


「どうぞ、お乗りください」


「うむ」


 うむ?サルタの疑問が発される前に、サルタとシャアルラはグランダの背に乗っていた。


 温かい。硬そうで、実際に堅いのだが、それでも龍鱗の下には確かに体温が感じられた。その背中は、単純に言えばサルタの寝泊まりしている妖樹軍団宿舎より広かった。


「グランダ。お前には、このサルタという男を乗せてほしい。こやつは私の一番の子分であり相棒。それを、お前に任せたい。頼めるか」


「シャアルラ様のお望みとあらば、全てを叶えます。そのために飛竜軍団はあるのです」


「グランダ。私はお前を知らぬままスカウトしたが。お前で良かったぞ」


「ありがとうございます!!」


 感動的な場面で大変結構な事だが、おれは。おれはどう立ち回れば、生き残れるんだ?


 つるつるすべすべの龍鱗には掴まれず、シャアルラが服を掴んでくれているからグランダに乗れているサルタ。現在の自身の生存確率は信じられないほど低いものだと直感していた。


 そんなサルタの困った様子に気が付いたわけではないのだろうが、グランダに声をかけられた。


「サルタ様。席のお好みがあれば、自由に選んでください。おれの背中にはなんでも乗せられます」


「あ。はい。よろしくお願いします」


 ありがたい。ありがたいが、サルタはグランダへの対応に困った。おれを魔法師団かなんかだと想定してるんだろうな・・・。


 でも。明らかにこいつ、おれより格上だろ。


 どうしよう・・・・。


 ここでグランダの勘違いに乗じる発想はサルタにはない。そんなものは一瞬でバレる。


 それよりなんとか問題を起こさず・・・。


「では飛べ!!目標はネビキュアを狙う海賊ども!我らの手で蹴散らすのだ!!!」


「はい!!!」


 サルタは一時的に思考を止めて、必死で体を伏せて吹き飛ばされないように祈っていた。この高空から落ちたなら、命はない。復讐がどうのこうの以前に、死にたくない!!


 グランダの飛行速度はシャアルラには劣るが、音速は超えていた。サルタが生身であったなら、すでに死んでいただろう。飛行の衝撃波のみで。


 しかしシャアルラがそれをさせない。


 シャアルラの周囲には無意識の内に魔力障壁が張り巡らされる。その中に入り込めていたサルタは、飛行状態の全ての衝撃から守られていた。


 ただ・・・。


「シャアルラ様。作戦は」


「私が突撃する!お前は伏兵と増援に注意していろ!」


「はっ!」


 了解の取れている2人に対し、サルタは自分の出番がない事に納得しつつ、どうやって生き残るか考えていた。


 石を投げて攻撃しろとか言われないだけマシだが。落ちたら不味い。


 とにかくサルタは掴まれるポイントを探した。今探すしかない。今を逃すと。


「サルタ様、大丈夫ですか?」


「あっ、あ、だい、大丈夫じゃない!!」


 今探さないと、乱戦になってしまったら、落ちる!!


 本来、竜便などで働いている飛竜の席は、飛竜軍団で作られているものではない。魔都の工房で一般魔族が製造し、魔界議会の直接承認の下で竜タクシーは運営されている。


 その工程をすっ飛ばしたグランダは、まだ客が乗れる状態ではない。乗っているというか、上に置かれているだけのサルタは、どうやっても自分が生還出来るイメージがわかなかった。


「なんだ?何を困っている。悩みがあるなら、私に言え」


「お・・・」


 口をぱくぱくさせたサルタは、頭をよぎった無数の罵詈雑言ばりぞうごんをつむぐ代わりに、本当に悩みを言ってみた。


「グランダに掴まる道具が欲しい!お前に付いて行くために!」


「分かった!任せろ!!」


 シャアルラは機嫌を損ねる事なく、進路変更。魔海に出る前に、シア・ラインに着陸した。


「竜の座席を用意してもらいたい!出来るか!」


「シャアルラ様!?」


 海魔軍団内飛竜軍団出張所は混乱した。時は深夜である。そんな時間にいきなり、味方総大将の娘がやって来た。奇襲作戦が始まるのか!?


 そんな緊張感に包まれた場に進み出る一匹の子猿。その目は虚空を見据え、その両手は開かれ、この場で最も無力なはずなのに、あたかも主役のようでさえあった。


 が・・・。


 その張本人は、何も考えていなかった。


 場の雰囲気がヤバい事を感じ取ったサルタは、考える前に、強引に行った。


「今回、シャアルラ様は海魔軍団へのお力添えのため、御自おんみずからが血を流すお覚悟です。魔界への防壁としてその身を捧げる、海魔、飛竜。その心に、シャアルラ様は寄り添いたいとおっしゃられました。共に戦い、共に勝利する。自分は魔王の血統なのだから、と。血を流す味方と共に居たい。共にありたい。それが魔族なのだとおっしゃられ、シャアルラ様はこちらに参られました」


 感情を込め、切々と語るサルタは、その実、本当に何も考えていなかった。


 まずシャアルラに連れられ魔城へ。魔城から飛竜の里へ。そしてここ、海魔まで。状況の急変について行けず、自らの生死の綱渡りに適応しきれず、サルタは一時的に理性を失っていた。本能がサルタを生かすために、今の状況を打破するために、べらべらと弁舌を並べていた。


 丸め込む!生き残る!その一心にサルタの頭脳は応えた。今までに拾った情報を分解、再構築。


 世界をその手に掴んだ。


「この飛竜グランダは、シャアルラ様自らが選び取った愛竜。我ら臣下を運び、シャアルラ様と共に歩ませて頂く魔竜グランダ。どうか、最高の席をお与えください」


「魔竜・・・・!!!」


 そのどよめきは、尋常ではなかった。トランス状態で喋っていたサルタが正気に返るほどに。


「ふ・・・!!」


 笑ったシャアルラには、間違いなく殺意にも似た気迫が見えた。


「サルタ!もはや飲み込めんぞ!!」


「飲み込む必要、無し!!」


 反射的にシャアルラに応えたサルタだが、相も変わらず考えてはいなかった。


 だが、シャアルラは己に応えたサルタを見ていた。


 そしてグランダは感涙を流すままにしていた。


「で、では。急いで支度を」


「うむ!」


 飛竜軍団出張所で働いている一般魔族は大慌てでグランダに装飾を施していった。一般的な飛竜に要求される運搬用品、騎竜に必要なシートベルトなどの身体固定器具。全てこの支部にある最高性能の部品である。


 サルタはこれはパアルカラッソに伝える必要がある、と考えていた。シャアルラにはまだ費用という概念はない。それを知らないグランダは当然、何も言わないだろう。まさか自分の主が、金銭のやり取りを強奪でしか知らない、とは思うまい。だから、知っているサルタがなんとかしなければならない。こちらでもらった器具の費用。パアルカラッソに丸投げしよう。というか、なんとかしてくれ。頼む。


 サルタが遠慮のない事を考えている内にも、グランダは一匹の飛竜から、魔族の搭乗する騎竜へと変身していった。


「キツくないか?」


「大丈夫です」


 装備してくれている魔族からのグランダへの問いかけは、グランダの健康を気にしての発言ではない。30メートルからの飛竜を傷付けられるほどの器具は、ここにはない。


 そうではなく、グランダがキツいと感じているなら、その時、器具もまたぴいんと張り詰めている事を指し示している。搭乗用の縄梯子なわばしご、椅子用のロープ。柔軟性を持った素材でまとめていても、グランダをずっと締め続けられるほどではない。ゆえに、通常時の余裕はあるか?と問うたのだ。戦う前に壊れては、意味がない。


 そして用意は整った。海魔、凶鳥、魔獣、飛竜。その場に居た全ての種族が協力してくれたため、驚くようなスピードで、グランダの出撃準備は終わった。


「ご武運を」


 そして彼らはシャアルラを見送る。姿勢を正し、希望と勇気を瞳に灯して。


「全ての魔なる者達よ!!私が居る限り、人族などの好きにはさせん!!勝利の報を待て!」


 グランダはシャアルラとサルタを乗せ、飛び立った。今度こそ、目的地は魔海。



 もうすぐ夜が明ける。空が燃える。海が色付く。


 たった3名の新生軍団の初陣が、今始まろうとしていた。

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