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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
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テンクウとミキメは喋る。シャアルラは飛ぶ。

「あ・・・あ・・・」


「そ、の・・・・」


 2人とも、ヒポリとは何度か顔を合わせている。軍団長クラスと雑談が出来る、とまではいかないが、慣れているはずだった。


 しかし2人は不味い。ヒポリとシャアルラ。この二名を同時に相手取っては。


「テンクウ。ミキメ。カネに用があったようですが、カネは今休憩に入っています。私で良ければ、話をうかがいます」


「あ・・・」


 はい。はいと頷くだけで良い。そう分かっていても、体は緊張から解放されない。


 2人はヒポリを目の前にして、初めてヒポリの存在感を知った。


 今まではカネが意図して、ヒポリとは1対1で会わせなかった。必ず自分を立ち会わせる事でクッションにしていた。こうなると分かっていたからだ。


 目の前で見るヒポリは、魔獣のなんたるかを体現していた。


 2人は身動きが出来ない。動けば、死ぬ。百獣の王の眼前で、テンクウとミキメは、ただじっとしていた。


「お茶です」


「え?あ、おう」


「お、おう。サンキュ」


 が。サルタが茶を差し出すと、なんとか2人は声を取り戻した。


 圧倒的格下の存在によって、やっと自分を取り戻した。


「それでお二人はここに何のご用事で」


 サルタはさっさと用件を済ませにかかった。どう見ても、テンクウとミキメの健康に良い部屋ではない。


 それに自分も、何かの問題を起こす前に撤収したかった。どう考えても、この部屋は、ヤバい。とっとと宿舎に帰るべきだ。正体がバレるとかバレないとか、そんな程度では済まない可能性が絶望的に高い。


 ここは強引に行くべきだ。どんな手段を用いてでも、早く終わらせる。


「あの。ヒポリ様。おれらは、いや私達は、海魔軍団から来たんですけど。あの、海魔に応援をくださる予定はありますか?」


 テンクウはつっかえつっかえでも、聞くべき事を聞いた。ミキメは内心で応援し、よくやった!と褒めていた。


「言葉遣いは普段通りで構いません。その方がこちらも話しやすい。・・・そして質問の答えですが、無論です。そちらの飛竜の要請ようせい次第では、魔法師団をフルメンバーで送り出すつもりです。ミリアステリオ殿の判断を信じます」


「あ、そ、そうっすか!ありがとうございます!!」


「ありがとうございます!!」


 2人は声をそろえて感謝の言葉を述べ、全力で頭を下げた。


 そしてヒポリの言葉はこの場しのぎではない。魔王の言われた通りだ。


 勇者の現れた方に、全力を注ぎ込む。それだけだ。


「今の答えを聞くために、わざわざここまで?」


「はい。なんか、海魔は不安そうでした。ニュウルベオリさんっていう、おれの上司に頼まれたんですけど、自信がないんじゃないけど、不安がってたような気がします」


「おれもそんなふうに思いました。カネさんみたいな感じとは、ちょっと違ってました」


「なるほど」


 2人はなんとかヒポリと会話が出来るようになっていた。


 そしてヒポリは2人の言葉の節々から、海魔の様子をおおよそ察した。


 訓練から実戦への移行。海魔の者で戦争の空気を知る者は少ないか。


「誰と違うと?」


「あっぅ!」


 ミキメは変な声を上げてしまった。いつの間にか部屋の扉が開き、カネが入室していた。


「カネ。まだ休んでいて構いませんよ」


「はい。私も目を閉じ神経を休ませたのですが。よく考えてみれば、あまり動いていませんでした。それにシャワーを浴びてスッキリしたので、良い休憩を取れました」


 カネにとって人族の雑兵の処理は、手間ではあるが、脅威きょういではない。ただ力のコントロールをし続けた、という意味では精神的に疲労したか。


 ヒポリに言われた事は、敵要塞に傷を付けない。そして殺しすぎない。


 こちらの意図を悟らせないのは、そう難しい話ではない。大人数での襲撃でない以上、それは的を絞った作戦。すなわち人族側の警戒心を強め、魔都への攻撃を遅らせるため。そう考えさせれば良い。ちょうどカネの能力はそれに適している。


 だがやり過ぎれば、人間は防衛に回るかも知れない。それでは魔都への侵攻が遅れ過ぎる。それは魔王の意図から外れる展開。


 ゆえに攻撃は軽く削るに留め、エリート戦力を恐れたかのように撤退。これで人族はこちらの意図を逆に取り、侵攻して来る。魔族はこの事態に苦慮くりょしている、と。無論、完全初見の敵エリート戦力が油断ならないのは、純然たる事実ではあるのだが。


 そしてこちらはカネの働きで、敵陣容と敵戦略構想の一端を知るに至る。


 より多くの敵を釣りつつ、無傷で敵の情報を得た。100点満点だ。


 しかし、この結果でヒポリからカネへの信が高まったかというと、そうでもない。カネなら当然、このぐらいはやれる。最初からそう思っていた。


 そうしてヒポリはひと仕事終えたカネに休憩を命じたのだが、やはりカネには物足りない雑用でしかなかったか。


「テンクウさんとミキメさんはどうしてここへ?もしや海魔を追い出されたのですか?」


「違いますよ!」


「ひどいっすよ!」


 カネの冗談とも本気ともつかない発言に、テンクウとミキメは反射的に反発した。ようやっといつもの自分達を取り戻した。


 そしてカネは2人の事情を聞いた。


「ミリアステリオ様は噂通りに、慎重な方ですね」


 かなり手加減した物言いだ。素直に臆病者だとは言わなかった。


「あの方は戦えば一騎当千。ですが軍団長としては配下を思いやる。テンクウ、ミキメ。こちらはいつでも援軍を差し向けると、よく伝えてください」


 ヒポリはカネよりはミリアステリオに詳しい。と言っても、魔王から聞いただけで、実際に「見た」わけではない。が、半端な化け物ではない。不安も、初陣ういじんゆえだろう。しかし不安感をそのままにしてやれるほど、こちらにも過度の余裕はない。


 海は海魔に一任している。いざとなれば、やってもらう。



 シャアルラは目的を果たせず退屈になるかと思いきや、雑兵の会話も面白いものだと思い始めていた。新しい風景が見えてくる。


 兵は不安か。将も不安か。


 ならば、誰が王たる必要がある?



 私だ!



「私が行こう」


「シャアルラ様?」


 ヒポリはシャアルラの発言の意味を完全に理解しながら、自らの思考時間を稼ぎ出すために問い返していた。それは・・・。


「海魔の援軍!今すぐ!この私が行こう!!」


 宣言してしまった。ヒポリはその意味を知っている。もしこの場にパアルカラッソが居ても、同じ事を思っただろう。


 やる気満々のシャアルラはしかし、獣王の顔色など見てはいなかった。


 口を開けたままこちらを見ている、テンクウとミキメを見ていた。


「私が居る!王たる父上は軽々には動けぬが、魔族は私が守る!」


「お、おお!!」


「しゃ、シャアルラ様!!」


 2人は、乗りやすかった。



 そして、この場でヒポリ以外にこの発言の意味を解していた者がもう1人。


 ・・・魔王の娘が言ってしまったら。それは議会だとかをすっ飛ばして、すぐさま実行されるんじゃないのか?


 サルタは目の前の光景を、他人事として冷静に観察していた。


 まあ頑張ってこいよ。適当に蹴散らして、おれの動く隙を作っておいて・・・・。


「行くぞサルタ!」


「・・・!!??」


 シャアルラは覇気をまとい片手に「相棒」を引き連れ、飛竜の止まり木から飛び出した!!

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