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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
43/103

再びのサルタ。テンクウとミキメ。

 ダイア・ライン。妖樹軍団事務室。


 軍団とは似つかわしくない小さな姿が、樹木と会話していた。


「しばらくは出歩かない方が良いらしいよ。宅配便を頼むから、サルタくんも一緒に買う?」


「はい。そうします」


 シャアルラとの会談の翌日。いつもと同じように仕事に出て来ると、ヒワダにそう言われた。なんでも非常事態とかで、ライン全体に遠出を禁じる令が出ているそうな。


「ウチに居れば大丈夫だと思うけど、サルタくんは怖い?大丈夫?」


 元魔獣軍団の者を相手にするには無礼千万なセリフだが、ヒワダの言葉には心配と同情しかなかった。ヒワダ自身も怖かった。


 人族による魔界侵攻。ヒワダだって、生まれて初めての事態だ。


「おれは全然大丈夫です。魔界はきっと魔王様が守ってくれます」


 少し笑ってサルタは言った。冗談のように。


 確かに言葉の上ではフィクションだが、内実は真実。


 攻め入られて、シャアルラが黙っているはずがない。魔王の人格など知らぬが、シャアルラが居れば、なんとかするだろう。あいつは、やる奴だ。


「そっか。ならお仕事もいつもの通りにお願いね。私達はここを動けないから。もしかしたらサルタくんも巻き込んじゃうけど」


「おれは助かってますよ。ここに居れば食うに困らない。それにおれの足じゃ、1人で逃げる事も出来ない。妖樹軍団に拾ってもらって本当にありがたいです」


 ペコリと礼をして、サルタは仕事に出て行った。


 見送ったヒワダは、本当に、早く魔王様が出張ってくれれば・・・と思っていた。


 魔王が居れば、魔王が出れば。なんとか出来ない事なんてない。


 それが魔族の共通認識であった。




 海魔軍団地上施設。ネビキュアのあみをつくろっている者達の間に、彼らは居た。小柄な猿族とそれより背の高いメガッカ。テンクウとミキメである。


「出なくて良いのかよ」


 ハケを持つ手を動かしながら、補修された網に塗料をペタペタ塗り付けつつ、ミキメが話しかける。相手は足元で、幾重いくえにもたばねられた海藻かいそうと微生物の住まう海棲かいせい植物のつなをより合わせている毛むくじゃらの小男。テンクウだ。


「出る・・・って何しに?」


「いや・・・。迎撃?」


「おれが出来るわけねえだろ」


「・・・」


 すまん、とも、そりゃそうだ、とも言いかねたミキメは黙りこくってしまった。


 かくいうミキメ自身、伝令役はまだおおせつかっていない。新人だから。


 カリナに待機を言い渡されたミキメは、同じくイロリウムから待機を命じられていたテンクウと共に、ここでネビキュア補修の作業に参加していた。


 ここの作業場は無数の人員を必要としているが、今は全く稼働させる必要はない。なので少数の待機人員をのぞけば、普段のネビキュア管理者しか見当たらなかった。


「・・・この戦争は、どうなるんだ」


 ふと。今度はテンクウがつぶやいた。


「どう、って?」


「いや。いつもなら、戦いは一日で終わるじゃねえか。でも、もう三日だぜ。どう、なるんだよ。これから。いつ終わるんだ」


「そりゃ・・・・。いつかだろ」


 言いつつ。テンクウもミキメも、自分達が何も知らない事に気付いていた。


 両者とも、軍団員である。魔界において最も実戦経験の豊富な人員に入るはずだ。


 だがそれは領土決定戦に限られる。時間と場所の限定された、安全で平和な戦争である。民間人の犠牲が出ないという意味で。


 今更ながら、2人は気付いた。


 自分達は。あるいは、魔族は、本物の戦争から遠ざかっている。


 限定状況での殺し合い。いわば、私闘のようなものなら慣れているが。こんな大規模でいつ終わるのか分からない、不安で恐ろしい戦争は、初めてだ。


 これが民間の気持ちか。


 テンクウは初めて。ミキメは薄々分かっていたこの心境に、向き合わされていた。


「・・・勝つよな。おれ達」


「あ、当たり前だろ!」


 らしからぬテンクウの静かな言葉に、ミキメは補修場の中にも関わらず大声で応えてしまった。



 勝つ。はずだ。


 だって魔王様が居るんだぜ。


 敵はただの人間だろ。


 ・・・・でも勇者は・・・・。


 いや!関係ない!


 ミキメは網を塗料でベタベタにしながら、不安を押し殺していた。



「君達、暇?」


 そんな2人に声をかけてくる軟体動物が1人。


「ニュウルベオリさん」


 テンクウが対応したのは、現海魔軍団地上支部指揮官。ニュウルベオリである。



「ごめんごめん。超忙しくて」


「いえ。おれ達はマジで暇なんで」


 ニュウルベオリに呼ばれ、海魔地上事務室に呼ばれ、待つ事1時間。茶で腹がいっぱいになった2人は、それでも機嫌を損ねてはいなかった。


 目の前で飛竜が飛び交い、ニュウルベオリ、海魔水中司令室とのやり取りが交わされる。その情報量に圧倒されていた。ミキメはカリナの仕事を眼前で見れて、勉強にもなっていた。あのスピードで連続飛行。流石、飛竜。いやあまり勉強にはならなかった。種族差をはっきりと認識しただけではあった。


 そしてニュウルベオリが一息ついて、部下にその職務を任せた後、3人は改めて事務室の応接間で向き合った。


「ウチは今、突撃部隊が最前線に出て戦っている。それは知っているね」


「はい」


「はい」


 ミキメもテンクウも余計な事は言わず、素直に頷いた。


「魔城からは必要な物資が全て届く。はっきり言って、完璧な連携が取れていて、敵方に理不尽な強者が居ない限りは、必ず勝てる」


「・・・す、すごいっすね」


 どう返答して良いのか分からないので、ミキメは適当に答えた。テンクウも合わせて頷いておいた。


「ただまあ。未知の要素なるものは存在しないとは言い切れない。不安要素だね」


 持って回った言い回し。この事態にのぞんでの言葉遣いではない。ここでテンクウとミキメは、嫌な予感がした。


「どうだろう。ヒポリ様か、もしくは魔法師団は、こちらに応援を送ってくれるのだろうか。聞いて来てもらえないかな」


「・・・おれ達が、ですか」


「うん」


 ニュウルベオリは柔らかな声音を使いながら、しかしその声色は全く笑っていなかった。


「ええと。魔法師団に来て欲しい、って言えば良いんですか?」


 流石にテンクウも、いかなヒポリでも海中では無双の戦力とはいかないと考える。


「うん?違う違う」


 笑いながら、ニュウルベオリは優しく否定した。


「こちらからの要請に応じて出してくれるのかな・・・ってね。それだけなんだ。今すぐ必要って話じゃないんだよ」


 あくまで柔和な会話を、全神経を注いで構築。そんな会話相手の心底に気付いたわけでもないが、ミキメは了承した。うっすらと本能的に察した。


「わ、分かりました。とにかく、いざという時に増援を頼りにして良いのか?を聞けば良いんすよね」


「そう!流石ミキメくんだ!」


「了解しました」


 テンクウもまた理解は出来なくとも承知した。



 2人は早めの夕食をとってから魔軍司令部に向かう事に。これはカネのスケジュールが分からないために、一応の通常業務終了時を狙ったためだ。作戦の真っ最中でなければ、休息中にお邪魔出来るはず。


「なんか。よく分からん命令だったな」


 海魔軍団前飛竜停留所にて2人は竜便に乗り込み、一路魔城を目指した。その最中、テンクウはミキメに話しかける。本当によく分からん話だった。


「な。おれも分からなかった」


 分からなかったでは困る。戦闘要員であるテンクウはともかく、ミキメが分からないのは困る。一応、外交担当のはずなのだから。


 ただ2人に分からないのも無理はない。これは海魔軍団長の不安感による心配に過ぎない。


 ただ、杞憂きゆうか否かは、誰も知らない。


「うーん。やっぱいつもより空が怖いな」


 テンクウのこのセリフは、空を飛び交う飛竜らを指している。民間の竜タクシーではなく、飛竜軍団に属している伝令役だろう。緊張感が空に充満している。気がする。


「この中で、いつかおれも動くのかあ・・・?」


 ミキメもカゴから身を乗り出して、首をキョロキョロ動かし飛竜の動きを眺める。自分もああ動けなければいけない。早すぎるし、タフすぎる。とても真似出来る気はしないが・・・。


ゴ!!


「うわっ!」


 いきなりの突風にミキメはバランスを崩しかけたが、テンクウが引っ張ってくれた。


「わ、わりいな。・・・なんだ?」


「魔法師団だろ。竜じゃなかったし」


 あっという間に見えなくなったが、2人の乗る竜便の数十メートル横を通り過ぎた影は、人型だった。とんでもない速度だったが、交通違反ではないのか。魔法師団はフリーで飛べるとはいえ。



 無論。そんな理屈は、魔法師団ナンバー1。シャアルラの知った事ではなかった。

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