表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
39/103

サンゾウの考え。

 ラアブレイ帝国陸軍。広大な帝国領土全般を守護し、さらなる版図はんとを広げんとするラアブレイの剣。そして領土決定戦や敵国との戦争などで常に最前線を張る盾。


 そんな彼らにあっても初めての任務が言い渡された。


 魔界侵攻作戦。



「お願い致します」


 執務室にて新たな書類に目を通していた皇帝、ラアブレイ・トリキア・ギウは、サンゾウがこんな丁寧な礼を出来るのだと、初めて知った。


「構わない。が。私が出ても」


「変わりますとも」


 サンゾウは、皇帝の言葉を引き継いだ。


 確かに、陛下の言われる通り、士気の向上は見込めても、それでは絶対的な戦力差を覆すほどにはならない。特に敵に皇族の威光が全く通じない以上。


 もしも敵にも新兵器などがあった場合、飛んで火に入る夏の虫。犠牲が1人増えるだけ。


 だが。


「私は、総力をもって、魔界に侵攻したいと考えております」


「うむ」


「親衛隊を全てお貸し下さい」


「なるほど」


 サンゾウの真意を悟ったトリキアは、にこりと笑った。策略など一切知らぬような童顔で、全てを承知した。


 皇帝が動けば当然、親衛隊一堂、それに「あお」も動く。そして陛下の意思次第では、「あか」と「みどり」も動員出来る。


 皇帝に動けとは、言葉の上っ面のみ。本当に欲しいのは、それに従う現在最高の地上戦力。親衛隊を、実戦で用いる。


 ここまで図に乗った発言をした軍師も居なければ、それを鵜呑うのみにする皇帝も居なかった。


「後の事はガルタに任せる。母上とも相談しなければな」


「は」


 サンゾウは、自分の提案した事ながら、それを見事に受け入れ昇華した皇帝に、改めて敬服した。


 器が違う。


 陛下が名を上げたガルタとは、皇帝の従姉妹いとこのラアブレイ・ガルタ・ボセッシ。現在、南方諸国を統治しているラアブレイ・ガルブレイ・ボセッシの一人娘にして、親衛隊級の腕前を持つ才女でもある。


 サンゾウは一度見ただけだが、それなりの器量。皇帝には届かずとも、猛将の資質はあった。統治者としては未知数だが。


 それが陛下の意思ならば、従うまで。


 ラアブレイ・トリキア・ギウ崩御ほうぎょの際には、後継者はガルタ。


 サンゾウは早急に帝国議会の招集を提案。今回の件、皇帝の戦場参加と後継者の承認を得る。



 これでもう、後戻りは出来ない。


 虎の子の親衛隊に、奥の手の「蒼」らまで出した。それに皇帝自身の参戦。


 これで負けたら、取り返しは付かない。



 全てを注ぎ込んだこのギャンブル。


 この状況を、サンゾウは心の底から楽しんでいた。


 人類戦力の総力を上げて、戦える。全ての戦術を使って良い。


 ひたすらに、サンゾウは喜んでいた。子供のような純粋な気持ちで、魔族を効率良く殺傷する方法を毎日毎日考えていた。



 1ヶ月前。


 今回の領土決定戦に参加した全ての兵。そのレポートを読み終えたサンゾウは、1つの違和感を感じていた。


 まっとう過ぎる。こちらの都合の良いように、魔軍が動いている。


 バカな。敵がこちらの思い通りに動くなど。


 これが凡百ぼんびゃくの愚将ならともかく、相手は魔王。数千年からを生きる、歴史の生き証人。


 それが我が計略通りに動く?


 有り得ん。


 サンゾウは、自身の計画が全て順調である事に、逆に違和感を抱かざるを得なかった。


 魔王はただ一度、力を誇示こじ。そして、その結果に満足したかのように退き、後は魔法師団すら動かさず、魔獣や鎧騎士、凶鳥の群れの動くままに任せていた。


 ・・・こちらは新兵器の展開前。出来れば人類戦力をあなどらせ、魔族の警戒心を呼び起こさぬまま、戦争に持ち込みたい。その思惑通り。


 ・・・・・・・・バカな。


 サンゾウに一切の根拠はない。


 ないが、敵の手のひらの上で踊らされている事だけは、絶対の確信を得ていた。


 こちらは新兵器を大量に生産済み。それらに魔族の妨害の手は一切伸びていない。砲弾の不具合、車体の異常な故障。そんな報告は全く聞こえない。


 ・・・これが魔族の計略?こちらの戦力を100パーセントにする事が?そこまで自信があるのか?


 それとも、間者かんじゃが紛れている?


 いや。人間に化けた魔族など、聞いた事もない。そんな真似が可能なら、人間側の勝ち目など絶無。親衛隊に紛れられれば、それで終わる。


 何を考えている。何を目的としている。


 魔王なら、何を得たい。


 領土ではない。それは、魔王のはかりごととしてはスケールが小さすぎる。そんなものは、領土決定戦で何度もやり取りしている。


 人側の戦力?確かに魔王はそういう趣味を持っている。しかし、魔族側に甚大じんだいな被害をもたらしてまで?・・・もし、魔王がボケたのであれば。あまりにも長生きし過ぎて、頭にガタが来たのであれば、納得出来るが・・・。これも、こちらに都合の良い考えだ。


 サンゾウは、間違いなく、人類一の知恵者である。


 だが、考察のパーツとなる知識がなければ、どれだけ頭を振り絞ろうと、正解にはたどり着けない。


 サンゾウは、魔王シャアルネルラに会った事も、話した事もない。それでは、魔王の人格も、思考パターンも、読めるものではない。


 だからサンゾウは次善策を選んだ。


 皇帝を参戦させる。



 ラアブレイ帝国海軍第3艦隊。ラアブレイ帝国陸軍第1大隊。皇帝親衛隊。


 全てを投入したこの作戦に、文字通り、人の命運はかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ