サンゾウの考え。
ラアブレイ帝国陸軍。広大な帝国領土全般を守護し、さらなる版図を広げんとするラアブレイの剣。そして領土決定戦や敵国との戦争などで常に最前線を張る盾。
そんな彼らにあっても初めての任務が言い渡された。
魔界侵攻作戦。
「お願い致します」
執務室にて新たな書類に目を通していた皇帝、ラアブレイ・トリキア・ギウは、サンゾウがこんな丁寧な礼を出来るのだと、初めて知った。
「構わない。が。私が出ても」
「変わりますとも」
サンゾウは、皇帝の言葉を引き継いだ。
確かに、陛下の言われる通り、士気の向上は見込めても、それでは絶対的な戦力差を覆すほどにはならない。特に敵に皇族の威光が全く通じない以上。
もしも敵にも新兵器などがあった場合、飛んで火に入る夏の虫。犠牲が1人増えるだけ。
だが。
「私は、総力をもって、魔界に侵攻したいと考えております」
「うむ」
「親衛隊を全てお貸し下さい」
「なるほど」
サンゾウの真意を悟ったトリキアは、にこりと笑った。策略など一切知らぬような童顔で、全てを承知した。
皇帝が動けば当然、親衛隊一堂、それに「蒼」も動く。そして陛下の意思次第では、「紅」と「碧」も動員出来る。
皇帝に動けとは、言葉の上っ面のみ。本当に欲しいのは、それに従う現在最高の地上戦力。親衛隊を、実戦で用いる。
ここまで図に乗った発言をした軍師も居なければ、それを鵜呑みにする皇帝も居なかった。
「後の事はガルタに任せる。母上とも相談しなければな」
「は」
サンゾウは、自分の提案した事ながら、それを見事に受け入れ昇華した皇帝に、改めて敬服した。
器が違う。
陛下が名を上げたガルタとは、皇帝の従姉妹のラアブレイ・ガルタ・ボセッシ。現在、南方諸国を統治しているラアブレイ・ガルブレイ・ボセッシの一人娘にして、親衛隊級の腕前を持つ才女でもある。
サンゾウは一度見ただけだが、それなりの器量。皇帝には届かずとも、猛将の資質はあった。統治者としては未知数だが。
それが陛下の意思ならば、従うまで。
ラアブレイ・トリキア・ギウ崩御の際には、後継者はガルタ。
サンゾウは早急に帝国議会の招集を提案。今回の件、皇帝の戦場参加と後継者の承認を得る。
これでもう、後戻りは出来ない。
虎の子の親衛隊に、奥の手の「蒼」らまで出した。それに皇帝自身の参戦。
これで負けたら、取り返しは付かない。
全てを注ぎ込んだこのギャンブル。
この状況を、サンゾウは心の底から楽しんでいた。
人類戦力の総力を上げて、戦える。全ての戦術を使って良い。
ひたすらに、サンゾウは喜んでいた。子供のような純粋な気持ちで、魔族を効率良く殺傷する方法を毎日毎日考えていた。
1ヶ月前。
今回の領土決定戦に参加した全ての兵。そのレポートを読み終えたサンゾウは、1つの違和感を感じていた。
全う過ぎる。こちらの都合の良いように、魔軍が動いている。
バカな。敵がこちらの思い通りに動くなど。
これが凡百の愚将ならともかく、相手は魔王。数千年からを生きる、歴史の生き証人。
それが我が計略通りに動く?
有り得ん。
サンゾウは、自身の計画が全て順調である事に、逆に違和感を抱かざるを得なかった。
魔王はただ一度、力を誇示。そして、その結果に満足したかのように退き、後は魔法師団すら動かさず、魔獣や鎧騎士、凶鳥の群れの動くままに任せていた。
・・・こちらは新兵器の展開前。出来れば人類戦力を侮らせ、魔族の警戒心を呼び起こさぬまま、戦争に持ち込みたい。その思惑通り。
・・・・・・・・バカな。
サンゾウに一切の根拠はない。
ないが、敵の手のひらの上で踊らされている事だけは、絶対の確信を得ていた。
こちらは新兵器を大量に生産済み。それらに魔族の妨害の手は一切伸びていない。砲弾の不具合、車体の異常な故障。そんな報告は全く聞こえない。
・・・これが魔族の計略?こちらの戦力を100パーセントにする事が?そこまで自信があるのか?
それとも、間者が紛れている?
いや。人間に化けた魔族など、聞いた事もない。そんな真似が可能なら、人間側の勝ち目など絶無。親衛隊に紛れられれば、それで終わる。
何を考えている。何を目的としている。
魔王なら、何を得たい。
領土ではない。それは、魔王の謀としてはスケールが小さすぎる。そんなものは、領土決定戦で何度もやり取りしている。
人側の戦力?確かに魔王はそういう趣味を持っている。しかし、魔族側に甚大な被害をもたらしてまで?・・・もし、魔王がボケたのであれば。あまりにも長生きし過ぎて、頭にガタが来たのであれば、納得出来るが・・・。これも、こちらに都合の良い考えだ。
サンゾウは、間違いなく、人類一の知恵者である。
だが、考察のパーツとなる知識がなければ、どれだけ頭を振り絞ろうと、正解にはたどり着けない。
サンゾウは、魔王シャアルネルラに会った事も、話した事もない。それでは、魔王の人格も、思考パターンも、読めるものではない。
だからサンゾウは次善策を選んだ。
皇帝を参戦させる。
ラアブレイ帝国海軍第3艦隊。ラアブレイ帝国陸軍第1大隊。皇帝親衛隊。
全てを投入したこの作戦に、文字通り、人の命運はかかっていた。




