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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
群雄割拠。
37/103

敵襲。

 集結の様子は2週間前から報告を受けていた。そして今日来る事も知っていた。


 だが、シャアルネルラは、まるで初めて聞いたかのように、言葉を発した。


「それで?」


「敵は魔獣軍団敷地内に拠点を建設中です。軍馬なども捕獲されたかと」


 伝竜の言葉を聞きながら、フォークで魚を解体し、少し食べる。その間、シャアルネルラと話をしていた飛竜は、完全に沈黙を守る。


 フォークを置き、口元をぬぐい、再び口を開く。


「それだけか」


「はい。ニア・ラインを出る様子は全くありませんでした」


 シャアルネルラが報告を受けている最中、シャアルラは黙々と食事を続けていた。父の邪魔をする発想がそもそもないのと、自分も事態の把握をしたかったからだ。


 伝令の飛竜、エウギルを労い、退出させると、シャアルネルラは使用人らも退出させた。食事は終わりだ。


「シャアルラ。この事態の意味が分かるか」


「人族は協定を破りました。我らと対等の条約を破った以上、彼らは、対等ではない。いまや家畜も同然の生き物です」


「正しい」


 と言いつつ。シャアルネルラの表情は、それだけではなかった。


 その含み、パアルカラッソなら分かったかも知れない。


「で。私がこれからどうするか分かるか」


「敵軍を消滅させるのでは?」


「いいや」


 そう言って笑うと、シャアルネルラは立ち上がり、議会室に向かった。


「付いて来い。少し忙しくなるが、良い勉強になる。学び取れ」


「はい」


 まるで淑女しゅくじょのように素直に返事をしながら、シャアルラの内心は疑念でいっぱいだった。


 あんな軟弱な生き物を相手に、お父様はなぜ時間をかけるのか。


 やはり、勇者を危惧しておられるのか。


 なんとなく納得しながら、シャアルラはシャアルネルラの背を追った。



 魔界通常議会が開かれるのと全く同じ部屋。普段ここでは政策などが話し合われ、戦争の話題が出るのは珍しかった。軍議は普通なら、魔法師団の訓練場で行われる事が多い。そこの方が広いからだ。


 室内には美術品、芸術品の類は一切見当たらなかった。壁にかけられた装飾品は、魔界全土の地図。魔獣や飛竜の入室も考慮に入れた、ここが屋内であるとはとても信じられぬほどだだっ広い会議室である。


「現状の説明を致します。不幸中の幸いか、ヒポリ様以下、魔獣軍団は既に解散。元魔獣軍団敷地は馬とイブーの飼育場、そして修練場兼広場がメインとなっていました。被害人員は、おそらく飼育員のみ」


 ほとんど無視していいレベルの人数だ。軍馬はもったいないし、それを調教出来る腕利きの飼育員ももったいない。が、短期的には全く問題ではない。


 魔法師団ナンバー4、リジェの説明を受けながら、この場の全員がそう感じていた。


「敵陣容について。敵砲台およそ2千。追随する馬車はほろの中が見えませんが、おそらく同じものと想像します。これを合わせて4千。これらは定期的に増えているようです」


 これもまた、問題にならない数字。魔王はおろか、魔法師団が出張れば、一瞬で終わらせられる。


「定期的に?」


 ヒポリから質問が来た。


「はい。敵砲は、途切れなくこちらに流れ込んでいるようです」


 リジェはよどみなく答えた。


 しかし、その答えは、場を騒然とさせた。


「本格的な侵略。つまり人族は本気。ゆえに、その戦略の全てを待っておられるのですか?」


 これはパアルカラッソからシャアルネルラへの問い。命令など何もなくとも、場は静まり、魔王の返答を待った。


「うむ。奥の手を隠し持たれたままでは、不愉快だからな」


 それだけではないな。パアルカラッソやヒポリなどは勘付いていたが、今知る必要はないのだろう、とも考えていた。


リン


 と、透き通るような鈴の音が。


「行きます」


 この場で最下位の魔法師団ナンバー10、ユーリクロイドが鈴の音に答え、会議室の窓を開けた。


 窓の先には先の食堂と同じく、鋼鉄の枝が突き出ていた。「飛竜の止まり木」だ。


「報告!ネビキュアの外側に敵影!人族の船影51隻を確認しました!」


 そしてそこに留まった飛竜からのメッセージ。


 この報告には、一堂からどよめきの声が上がった。


 陸海同時攻撃。


 まさか。


「被害状況は」


「ゼロです。訓練中の海魔軍団には退避命令が出され、シア・ラインの観光客にも避難命令が出されました」


 しかしシャアルネルラと伝令の飛竜カリナの応答には、まるで動揺が見られなかった。場の将は、器の違いを改めて思い知った。


「ミリアステリオの判断は正しい。防衛を主眼において当たれ」


「はっ!」


 魔王の言を胸に、カリナは海魔軍団へ取って返す。


 そして、この場に招集された人員は、全員が理解していた。


 これを待っていたのか。


 だから、ニア・ラインの敵へ全力を投入しなかったのか。


「さてさて。困った事になったなあ」


 そうつぶやく魔王の表情は、歓喜に満ちていた。強者ぞろいのはずの周囲が、しんと静まり返るほどに。


「ヒポリ。こんな時、お前ならどうする?」


 にこやかに、楽しそうに、魔王は腹心の部下に話題を振った。


 返答次第では、その資質を疑われ、地位を追われるような質問を。


「まず、ニア・ラインにフタをします。敵砲撃は陸上部隊に対して効果を発揮する部類。ゆえに、魔法師団をここに投入。海魔軍団は現状でも十分に迎撃可能でしょうが、念のために飛竜を増やし、状況観察を密にします」


「ふむ。パアル。お前はどうだ?」


 やはりにこやかに、シャアルネルラは次の回答者を捕まえた。


「分かりません。ですので、どちらの脅威に対しても飛竜軍団を投入します。彼らが迎撃出来ればそれで良し。出来なければ、本気で当たります。その場合は、ヒポリ様と同じく、陸は魔法師団、海は海魔軍団で対応します。そして勇者の居る方に、全力を投じます」


 勇者。


 皆が避けていたその文字に、パアルカラッソは面と向かった。


 勇者は、どこに居る。


「言っておく。勇者の事は考えるな。考えても、対抗出来ん。その代わり、出現すれば絶対に分かる。その時にこそ、全戦力をつぎ込めば良い」


「はっ」


 シャアルネルラの宣言に、ヒポリが答えた。


 現在のヒポリは、魔軍大将軍。そしてシャアルネルラ不在時における、魔王代行の地位にある。そのため、この会議室内はおろか、魔界全体におけるナンバー2と言い切って過言ではない存在だ。


 そしていよいよシャアルネルラの命令が発された。


「ニア・ラインにはジョウゴ部隊を向かわせ、壁を作る。その間に民間人を避難させよ。ヒポリ。こちらはお前に任せる。先ほど言った通り、全戦力は勇者が現れてからで良い。ニア・ラインで食い止めておけ」


「了解致しました」


「海は海魔軍団に一任する。ただし、飛竜の数を増やし、戦況を逐一ちくいち報告させろ」


「伝えます」


 ユーリクロイドが、魔城付きの飛竜、カーンを呼び寄せ、飛ばす。


「魔法師団は魔城にて待機。戦況に応じて動かす。パアル、お前もそちらに戻り、指揮を取れ」


「はっ」


 これは、一時的にシャアルラの守り役を解くので、魔法師団を統括せよ、との指示だ。


「では、それぞれの任に着け。・・・油断せず、踏み潰せ」


 シャアルネルラの最後の言葉は、ヒポリをして、冷や汗を禁じ得なかった。この場に参集する事を許された超一級品の魔族である魔法師団ですら、半数は震え上がっていた。


 言葉だけで、死ぬかと思った。



 そこには、全く遊び心のない、本気の魔王が居た。



 海魔軍団本部は、例の無い忙しさに半ばパニック状態ですらあった。


 魔城からの伝令のおかげでなんとか普段通りを取り戻しつつも、手の空いている人員は居なかった。


 軍団長室も例外ではない。海魔軍団敷地内の海岸に設置されたそこには飛竜の止まり木に張り付いてそわそわしている伝令、各部との連携に走り回っている伝令で大騒ぎだった。


 地上室はその喧騒のただ中で懸命に働きつつ、そして海中室は比較的静かであった。


「ダンセイとユーリッドは・・・まだ?」


「はい。ダンセイ隊長は家族旅行でフユニ運河に。ユーリッド隊長は、魔都でお見合いの真っ最中です」


 ダンセイは海魔軍団突撃部隊隊長。カラッカ族のエリートで、頼れる存在。海魔の片腕と言って良い。ユーリッドはネビキュア防衛隊長。ネビキュアの修復と防衛を一手に担う部隊の責任者だ。どちらも海魔軍団には欠かせない存在だ、が。


 この両者が同時に居ない。永の平和が、海魔の警戒心を薄れさせていたか。


「・・・不安ですねえ・・・怖いですねえ・・・」


 海魔軍団長、ミリアステリオは体を小刻みに震わせながら、怯えていた。日頃の勇姿はどこへやら、プレッシャーに弱い男であった。


「伝令!賊は海魔軍団に一任するとの事です!」


 と、魔城に飛んでいたカリナが戻って来た。本部建物から突き出している飛竜の止まり木に着地した。


「では、前線に向かいます!」


「お願いします」


 カリナの言を海魔軍団内伝令役がミリアステリオに運んでいる間に、カリナは既に海魔の前線に向かっていた。


 これからカリナは最前線に飛び、そちらに張り付いている飛竜と交代。そしてそれを繰り返し、戦場における全情報を潤滑させる。ここからが、飛竜軍団の真骨頂。スタミナ勝負だ。


 海中司令部では、伝令が運んで来たメッセージにミリアステリオの副官、カンドゥナサスが応じていた。そしてカンドゥナサスからも伝令を発する。


 周囲に、海魔の兵はほぼ見当たらない。伝令役と側仕えのみ。100かける100メートルの広さを誇る、言わば深い水槽すいそうである海中司令部は、そのほとんどのスペースを、1つの巨大な「ツボ」に占拠されていた。


「・・・取れる手は全て打ちました。私も迎撃に向かいます」


 カンドゥナサスが言った。それを聞いた、引きこもったままのミリアステリオは、見捨てないで、とでも言いたげな目をしていた。


「・・・あなたなら大丈夫です。こちらはニュウルベオリに任せておけば、なんとかなるでしょう。ダンセイとユーリッドもすぐに戻ります」


「あ、ああ」


 全く。


 カンドゥナサスは我が上司に呆れつつ、ニュウルベオリに後を託し、飛竜に乗った。



 出来れば、ミリアステリオを「イカツボ」から出さずに勝ちたい。


 どうなるか。

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