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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
過ぎ去りし夢。さらば愛しき人。
33/103

戦場のあちこち。

 イブー部隊隊長テンクウには、戦況がさっぱり分からなかった。


 魔法師団が前線に向かったと思ったら、次はとんでもない化け物みたいな何かが続いて、その後魔法師団が後退した。


 これ、勝ってんの?それともピンチ?


 もちろん、たかが部隊長でしかないテンクウに大層な指揮権はない。何がどうであろうが、命令に従うのみ。


 幸い、剣闘軍団は数を減らしながらも、まだまだ盾として機能してくれている。怖い奴らだが、頼りになる。


 敵砲撃開始を皮切りに、その大砲へ突撃する。さすれば、もはや敵に戦力は無い。


ドカンッ!


「!?」


 大砲の音じゃない。剣闘が人間に、力づくで弾き飛ばされる音。


 敵エリート部隊だ!


「くそっ!上手い事生き残ってやがった・・・」


 どうする。おれらがぶつかっても・・・。


 テンクウは、もしも敵方にカネやヒポリ級の戦力が居た場合、即逃げる。絶対に勝てん。


 だが、後衛は魔法師団。彼らの後退に意味があるのなら・・・。


 ここで働いておかないと、後で殺されるかも・・・!


「ぐっ・・・!」


 テンクウは押し殺したような声を上げて、脳を振り絞った。


 どうする。強いのをカネさんに押し付けて、敵の弱いとこだけに突っ込んでるのが見られてるんじゃないのか、ひょっとして。


ゴオッ!


 考えていると、鎧騎士が空を飛んで行った。いや飛ばされた。


 い、いかん。どっちにせよ、このままじっとしてたら、死んじまう!!


「カネさん!!」


「カネ様は既に突撃しています!テンクウさんは敵右翼で突出している者を蹴散らすようにと!」


「えっ!?」


 指示をあおごうと後方を振り返ったが、上位者はもう居なかった。


 慌てて左前方を見てみると、敵エリート部隊とぶつかってる化け物の姿が。敵はかなりヤバいはずなのに、カネの動きは全く止まらない。


「あんにゃろう・・・」


 ちっとばかし強いからって。


「・・・部隊を分ける!10番隊から20番隊はカネさんのフォローに回れ!カネさんの撤退に応じて援護に入るんだ!・・・残りはおれに続けえっ!!」


オオ!!!!


 ここまで無傷で侵攻して来たイブー部隊の士気は高い。味方幹部が率先して最前線で戦っている姿を見れば、なおの事。


 テンクウを先頭に、鎧騎士軍団の後方から駆け抜けて来るイブー部隊は、その勇猛さと突進力で、敵エリート部隊の足を完全に止める事に成功。今まで無傷で通して来た奴らの中にも、凶鳥の爪を食らいリタイアする者が出て来た。


「止まるなあっ!!!止まったら死ぬぞおっ!!」


 テンクウはイブーを指揮しつつも、敵を倒そうなどとは決して考えなかった。とにかく、敵の前進を止める。そのために敵前衛をかすめるように部隊を動かし、戦場を横切る。足を止めさえすれば、剣闘軍団と凶鳥軍団の天地同時攻撃が、敵を蹴散らしてくれる。


 おれ達はただ、敵を足止めする。


 だから、強い奴の相手は、頼んだぞ!おれ達以外の誰か!



 実に都合の良い考えだが。その「誰か」は、主に頼まれた仕事を嬉々として引き受け、実行していた。


「フッ!」


 素手で大地を掘り起こし、土砂をそのまま敵にぶつける!


ガン!!


 カネを包囲していた幾人かの内、1人は避け損ね、足に穴を穿うがたれた。そして。


ブオン!


 足の止まったその1人を敵の群れに向かって、投げる。


 2人がその人間を救出しようとしてくれたので、3人まとめて殺す。


ズ ゴ


 人間3体をブチ抜いた右手の爪を引き抜き、引っ込める。常時出していては、引っかかって危険だ。


 これで残り10人。彼らを皆殺しにしたら、敵砲撃部隊の間合いに入る。


 魔王様の奇襲に合い、混乱の極地にあるであろう敵陣。白旗を上げやすくしてやるには、どうすれば良いのか?


 落ち着かせ、戦力差を思い知らせてやれば良い。


「シュウウウウウ・・・・」


 奇っ怪な息吹いぶき。人間味を帯びない声を発する眼の前の化け物に、戦士団は怯えを隠せなかった。


 仲間の返り血に染まる、速くて固い、ひょろ長い亀。


「・・・踏ん張れっ!!団長ほど強いわけじゃあないっ!四方を取り囲んで、踏み込むな!攻撃はこっちがやる!」


「お、おお!!」


 カナンの指示に従い、残存戦士団7名が亀を囲んだ。カナン含む弓兵3名が牽制けんせいのために射撃を繰り返す。



 陣形を用いる敵の戦術に、カネは快いものを感じ、微笑んだ。


 ・・・幼獣をすり潰す罪悪感。感じずに済みそうだ。


 ちなみに、眼前の戦士達への警戒心は、最初から存在しない。


ズ ボッ


 貫き、抜き取る。鎧の強度はさほどでもない。が、肉体強度はそれなり。魔獣の中でもこれだけ鍛え込んでいる者は少ない。


 敵方であるのが惜しい。


「・・・・あ」


 カネの伸びる爪を身体から抜かれた戦士は、人形のように崩れた。最後の言葉を発しながら。


「生きてる!ルースはまだ生きてるぞ!」


 瀕死ひんしの重傷を負った仲間を助けに入った2人は、まとめてカネの追撃を食らい、死んだ。


 もちろん、カネはルースと呼ばれた戦士を、わざと肺だけブチ抜いて、即死はさせなかった。


 攻撃したカネにはもはや助けるすべはないと分かっているが、あちらはまだ助かるという希望を捨て切れない。


 結果、被害は拡大する。



 ・・・勝てない。硬度が、違いすぎる。


 カナンは矢を撃ち尽くしてしまった事に気付かず、矢筒やづつを手探りしながら、ひどすぎる戦力差を認識していた。


 こちらの攻撃が全て躱されているとか、そこまで超常的な相手ではない。流石に目への的中は叶わないが、何十発と身体に直撃している。


 そしてその全てが、体表面で弾かれている。


 一体、何で出来ているというのだ。あんな柔軟な体のくせに。


ボゴオッ!!


 と。カナンは、もう悩まなくてもすむようになった。


 3人の弓兵は、足元から生えて来た亀の腕に貫かれ、絶命した。


「・・・この野郎っ!!」


 逃げた方が良い。逃げたい。死にたくない。


 生き物として当然の臆病風おくびょうかぜに吹かれながらも、ゴーエンは突進してしまった。


 相手の腕は大地を掘り抜き、仲間を貫いている。こちらは無視だ。


 今なら殺れる。


 ・・・そんな甘い相手ではないと仲間の死をもって熟知しながら、ゴーエンは撤退の選択肢を選べなかった。


 あまりにも、若かった。


 仲間の死を無駄に出来ないという意思の下、亀の魔獣に突っ込み。


ギョア


 地面に突き刺さっている腕を足場とした亀の足の動きに惑わされ、死んだ。


 右足の伸び来る蹴りは、見てから反応出来た。それ以前に腕が伸びるのを見ていたため、反射が間に合った。剣を合わせ、軌道をそらし、そしてその真後ろから来た左足の蹴りで頭蓋骨ずがいこつを砕かれた。


 1人では、荷が重かった。



 見た者は皆死ぬがゆえに、カネの戦法は全く知られていない。


 身体が伸縮自在で、その力はヒポリ以外の魔獣を圧倒する。その場に突っ立ったまま、周囲20メートルほどは無差別に殺傷出来る。


 ヒポリと並んで生き残っているのは、ヒポリに守られて来たからではない。


 ヒポリの次に強いからだ。


 そしてその男は、エリート戦士団の半数を全滅させて、なお止まらない。


「次は逆サイドに向かいます。皆さんは、こちらを抜けそうな歩兵の足止めをよろしくお願いしますね」


「はい!!」


 血まみれのまま優しい笑みを浮かべたカネに、残留部隊は背筋を伸ばして全力で返事をした。


 そしてカネは走った。疲れを知らぬ男であった。



 しかし、戦場は生き物である。いかにカネが百戦錬磨であろうと、未来予知までは出来ない。


 敵エリート戦士団を壊滅したために、その領域には砲撃が雨あられと降り注ぎ、イブー部隊を含む剣闘軍団を散り散りに蹴散らした。


 魔軍はこの戦力差でも、まだ完全に勝ったわけではなかった。



「・・・敵は勝った気でいる?」


 デキシーは左翼に別れた戦士団を任され、指揮を取っていた。


 そしてその最中に、敵の動きを把握した。


 当たりが、あまりにも弱い。剣闘軍団の裏に居る野獣どもは確かに速いし怖いが、全くぶつかってこない。


 そしてデキシーは更に思考する。


 味方本陣にある白旗。そこに生存部隊が全力で走って、最短で1キロメートルを10分か。全身鎧に凶鳥への警戒を込みで。降伏の条件を満たすためには、白旗を上げた上で笛を鳴らす必要がある。そして笛はドンス将軍が所持していた。


 本陣の全滅・・・。その死体の中から、将軍の居た場所を特定し、将軍の衣服を発見し、笛を手に入れる。これも早くて10分はかかる。


 一体、団長と離れて、どれくらいの時間がたったのだろう。


 鎖時計をちらりと見ると、5分。


 まだ15分もある。


「おおい!」


 声をかけて注意を促しながら、ナチャホゥがデキシーに突っ込んで来ていた凶鳥を斬り飛ばす。


「いくら分隊リーダーだからって、ぼうっと突っ立ってんなよ!」


 ナチャホゥのもっともな意見に頷きを返しながら、デキシーはけろっとした顔で言った。


「後退しながら、右翼の部隊と中央で合流しよう。ナチャホゥ、あなた彼らに伝えてくれる?」


 ここには伝令が居ない。戦士団と共に動いていては死ぬので、既に本陣に帰還している。


「え・・・?」


 一瞬悩んでしまったナチャホゥの周囲を警戒しながら、デキシーは言葉を重ねた。


「砲撃ラインを割る。そして全部隊で敵を削る。敵の攻めが本気じゃないから、こっちも命を懸ける必要はない。そして団長が後退して来たら、こちらが交代で前線に向かう」


 団長が帰ってこれるとは思えないけれど。


 デキシーは、この場に居る人類としては、かなり正確に敵戦力を見抜いていた。


 ほんのわずかに目に映っただけだが、あれが魔王なのだろう。


 勝てるわけがない。明らかに砲弾より速い飛行速度を自由自在に操るような奴に、勝てるか。


 デキシーは、賢すぎた。敵の最も強い奴には、砲撃はおろか、自分達の攻撃も絶対に当たらないと悟ってしまった。


 とにかく、自分の指示に従ってくれたナチャホゥの無事を祈りつつ。


 デキシーは息苦しい倦怠感けんたいかんに包まれていた。


 それから3分もたっただろうか。


ドサ


 空から、かなりゆっくりとした落下速度で何か大きなものが降って来た。


 凶鳥軍団が投下したと思われるそれは、人の形をしていた。


 ナチャホゥの死体であった。


 陣形のど真ん中に落とされたそれに、戦士団の視線は一瞬釘付けになった。もちろん、ちゃんと第二撃を警戒して空を監視していた者達も居る。


ゴ ボ


 だが地中からの攻撃を警戒した者は皆無であった。


 奇襲の2つの爪で4人が死んだ。残念な事に、ちゃんと空襲を注意していたために、大地の動きを察知出来なかった者達だ。


「・・・逃げる!全員、脇目も振らず撤退しろ!」


 デキシーは、それでも判断を誤らなかった。ここで踏ん張って頑張ろう、などと不可能な事は考えなかった。


 自分達は、大地から芽生える敵への対処訓練をした事がない。


 修練を積み重ねて来た年月が、デキシーに最高効率の選択を選ばせた。


 すなわち、撤退を。



 戦士団分隊残り10名が一斉に駆け出したのを見て、カネは腕を元に戻し、配下の動きを見守った。


「おらあっ!!テンクウ様のお通りだ!!」


 何を言っているのかよく分からないが、イブー部隊は統率の取れた動きで、カネの命令通り、敵エリート部隊の後退を阻止した。


 テンクウらは一度、人族方の最左翼まで突進した後、また右翼を目指そうとしていたのだが、そこでカネの指示を受けた凶鳥軍団の者から言伝を受けた。


 敵エリート部隊の撤退を許すな、と。


 許すな・・・。ど、どうやって。


 よく分からなかったが、敵部隊が生存しているのなら、まだ砲撃は来ない。テンクウは単純に、敵後背を突き、進撃。そのまま敵右翼に向かう。


ドオオオオ!!!


「うわあああああああ!!!!????」


 テンクウは馬に乗ったまま、空を駆けていた。


 カネが敵右翼を壊滅させたために、敵砲が後顧こうこうれい無く火を吹けるようになったのだ。テンクウらはその影響をもろに受け、一気に被害を出していた。


「逃げ・・・」


 馬が走ってくれているのが不思議なほどの砲弾の雨。その中にあって、テンクウは言葉をつむげる状態ではなかった。砲撃の振動が馬乗にあっても体に響き、そして弾着の轟音はテンクウから一時的に聴力を奪っていた。


 周囲を固めていたイブー達も、散り散りに別々の方向に逃げてしまい、同族同士でぶつかり合ってしまっていた。


「・・・・がっ!逃げろおお!!!」


 テンクウは、それでもなんとか姿勢を制御し、生存している部下を引き連れ逃走をはかる。


 しかし。


「あっ、ああ・・」


「腕・・・。おれの腕・・・・」


 落馬し、呆然としている者。砲撃によって右肩から先を失った者。そして無数の怪我人、死人が、テンクウについて来れない。


 テンクウはその様子を振り返り、確認してしまった。ほんの一瞬、視界に入っただけだが、昨日まで一緒に働いていた奴らが、死んでいる。死にかけている。


 そしてテンクウは、愚かなチンツー種であった。


「!!!!!!!オオオオオオオ!!!!」


 馬を回頭、生存部隊を引き連れ、敵砲撃部隊に突撃を開始した。



「魔獣軍団が突撃を開始しました」


「何?」


「・・・」


 伝令の飛竜、マールは魔王の疑念を浮かべた表情に、背筋を凍りつかせた。


「指揮官はカネか?メイラ族の」


「は、はい。ですが、どうやら突撃を仕掛けているのは、イブーの御者ぎょしゃのようです」


 シャアルネルラは、マールの報告の内容の意味を考えていた。


 味方に無駄な被害が出る、か。多少ならともかく、魔獣軍団の構成要素が減りすぎれば、ヒポリを留め置く口実がなくなる。


 ヒポリには代わりが居ない。どうする。


 シャアルネルラの思考の中には、この戦場で散り行く一兵卒の事など、全く片隅にもなかった。


 ただ、致命傷を負って後退した部下の事だけを考えていた。

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