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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
過ぎ去りし夢。さらば愛しき人。
20/103

生産三国同盟と海軍。

「タンカイ。何かあれば、ちゃんと起こせよ」


「はいっす」


「本当だぞ」


「分かったっす。さっさと寝てくれっす」


 ・・・こいつ、おれが王様だと知らないのでは・・・。


 配下の言動に、そんな疑問を抱きながら、レックス王国国王、レックス・ラギアルスはベッドに横たわった。


 決戦反省会に参加して、一月。やる事は山のようにあった。そのピークがようやく終わり、毎日何百枚もチェックしていた重要書類ともおさらば。


グァァァァ・・・


 腹心の部下のいびきを聞きながら(タンカイ唯一の特技は立ったまま熟睡出来る事であった)、レックスは解放されたような気分であった。


 シウレリア半島を望む海沿いの街、クア。ここで最も高いホテルの部屋を用意されたレックスは、視察がてらの休暇を楽しみにしていた。帝都から帰って暇になるかと思いきや、国でも今までにないほど働く必要があった。


 しばらくは遊ぼう。


 レックス王国から南下する事、80キロ。以前なら馬車で2日かかった距離も、機関車の発明で1日にまで縮まった。


 レックスはタルン王国のリゾートに来ていた。



「どうですかな?」


「良いっすね!」


 タルン王に招かれた客として、クアのカジノで行われているショーを見物。タルン王国側はタルン王夫妻始め、家族総出、それに親戚筋なども来ていた。こちらは王と護衛のみだというのに。


 無論、これはレックスの身軽さが異常なのであって、タルン王の行動こそ常識そのもの。


 一族を引き連れたタルン王はクアに対して箔付はくづけする狙いもあった。自国王族のみならず、他国からもお客様を迎え入れた、新興にして格式高い観光地。


 羊にふんした踊り子が、客席をにぎわせるのを見て、タルンはニンマリしていた。レックス王もちゃんと喜んでくれているようだ。


 昼食を肉でまとめ、夕食は魚介類。タルンのおもてなしは、レックスの心を満たし、スミレ到着までの時間を十分に稼いだ。


 レックスに遅れる事、3日。スミレ・レブラン到着。


「お待たせしました」


「いえいえ!あの勇壮さ!」


「そうすよ!!」


 シュター海洋国家連合代表スミレ・レブランは、まさかレックスのように1人でここに来たのではなかった。


 ちゃんと艦隊を引き連れ、クアからほど近い軍港に寄せていたのだ。


 3人の国家代表の主目的は、これだ。


「山ん中から掘り出した鉱石が、まさか海の上にあるとは。すごいもんすね」


 レックスは艦隊旗艦に乗り込みながら、感嘆の声を上げる。これら艦船に用いられている金属は、ほとんどがレックス王国から輸出されたものだ。鉱物資源豊富なレックス王国。だが今までは武器と言っても、刀剣の類にしか使われる事はなかった。かまくわも農村地帯ではそれなりに有効な道具として、生産力向上につながっていたが、外貨獲得までには至っていなかった。


 だが、タルン王国との交わりが、全てを一変させた。シュターの持ち込んだ「美味しい話」を通して、三国は強く結び付き、新たな時代の到来をそれぞれが強く予感していた。


 実際に、タルン側はレックス王の嫁候補をここに連れて来ている。それがタルンの娘らであり親族らだ。りすぐりの美姫びき・・・は言い過ぎとしても、全員に教養を持たせ健康管理にも気を付けた、血統書付き。嫁として、決して悪い素材ではないと確信している。


 そしてスミレ代表のためには、息子を出しても構わない。それぐらいにタルンはこの結束にけていた。


 帝国本国には手の出しようもないほど、派閥が固まっている。どこに商談を持ちかけても色好いろよい返事はもらえなかった。


 だが、神は辺境を見捨ててはいなかった。


 「あの方」からの密使をつかわせて頂き、我らは孤軍奮闘ではなくなった。


「タルン陛下」


「おお!ダッガット艦長!実に見事な艦隊運用ですな!惚れ惚れしますぞ!!」


「いえ。陛下のご支援のおかげで、なんとか形になりそうです」


 ラアブレイ帝国第3艦隊司令ダッガット・リムスは、目の前の男に、心からの礼を捧げた。


 帝国の日陰者。海獣討伐の任に着いてはいるが、決して昇進の機会は無い。艦隊司令の地位も、この僻地に押し込められる慰謝料代わり。


 だが彼にもタルン王らと同じく、通達があった。


 とてつもなく大きな危険を伴うが、もし上手く行けば、救国の英雄。勇者でさえ目じゃない。


 いかなる犠牲を払ってでも、必ず成功させる。


 己の栄達のため。そして、先人の築き上げた平和の更なる確立のため。


 幸いな事に、戦場は魔界。こちらの民間人の被害の恐れは全く無い。これほど楽な戦争は無いと言い切って良い。


 そして。


「ダッガット閣下かっか。私達は兵器の運用に関しては、全くの素人です。どうですか?新兵器の具合は」


「全て良好であります。まだまだ実験段階ではありますが、改良を重ねる事によって使い勝手も増すでしょうし、威力も想定通りのものが発揮されております」


 幸運な事に、スミレの質問に、ダッガットは嘘を交えず答えられた。近海海上にて運用されている兵器試験艦は期待以上のデータを積み重ねている。


 迎撃用水圧砲。機雷。魚雷。大砲。それぞれの最新兵器を最高効率で運用する陣形の構築。


 魔界への出航準備は着々と進んでいる。


 次の領土決定戦。またしてもドンスが名を上げるのを黙って見ているわけには行かない。


 それに、たった一度の海戦を交えただけで諦める必要もない。これだけの装備があれば魔海で敗戦を重ねる事もない。


 徐々に人界を拡張し、いずれは魔都そのものをも壊滅させられるはずだ。


御三方おさんかたのご協力なしには、決してこの威容いようは実現させられませんでした。必ずや、三国に恩返しを出来るよう、努力して参りたいと考えます」


「そんなにクソ真面目に思い詰めなくて良いっすよ。そちらさんとは一蓮托生いちれんたくしょう。仲良くやっていきましょうや」


 レックスはダッガットとの関係を緊張感を維持しつつも、出来れば壁のないものにしておきたかった。こちら側としても、ダッガットから意味のない不興を買うつもりはない。


 レックスの言葉には、一言の誇張もなく。一蓮托生。


 この計略が上手く行けば、三国同盟並びに帝国海軍第3艦隊は比類ない栄光を手に出来る。


 だが失敗すれば。最悪の場合、海軍は魔族を刺激した結果として壊滅。最も近い人界である三国もまた、国土を焼かれるだろう。無残なかばねをさらす羽目になる。


 あまつさえ我々は人類と魔族の、再度の全面戦争の引き金を引いた者達として、未来永劫、歴史に悪名を残す事になる。


 究極のハイリスクハイリターン。


 だが、やる。


 鉱物資源は、有限なのだから。


 レックス・ラギアルスは、父祖から受け継いだ自国の資源量を、かなり正確に伝え聞いていた。


 タルンやシュターは、何十年、何百年が経過しても、生き残っているだろう。


 だがレックスは違う。


 だから今、国が経済的に戦える状態の内に、勝負を決める。魔界制定の足場作りに貢献こうけんしたあかつきには、農業生産国としての支援を頂けると、約束してもらったのだ。


 剣の時代は、間もなく終わる。砲弾によって、終わらされる。


 魔族を撃破した後の魔界。開拓団が絶対に必要な世界。


 そこに、レックス王国が噛ませてもらう。



 各人各様の野心を燃え立たせながら、船は進む。


 魔界征伐のための実力をたくわえながら。

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