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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
過ぎ去りし夢。さらば愛しき人。
18/103

海軍と海賊。

 シウレリア半島とワハフ島の間にあるシウレリア海峡。ここを超えれば、そこは魔海。魔の制する悪魔の海。


「無様だな」


「そうでもねえな・・・」


 1人は立っていた。もう1人は両手を縛られ、海岸に転がされ、多くの警備兵に囲まれていた。


 ラアブレイ帝国海軍第3艦隊司令ダッガット・リムス。彼の指示によって、大海賊ジャン・ロードは海砂の音を聞いていた。


「おれは変わらずここに居る。無様なのは、海賊の頭目とうもく1人縛り首に出来ねえ、てめえらの優柔不断」


ゴッ


 いらついた。わけではなく、同意するように、ダッガットはジャンの腹部を蹴り飛ばした。


「お前の言う通りだ」


「じゃあ、蹴るな・・・」


 蹴るなと言われたので、ダッガットはジャンの頭を軽く踏みつけながら、更に言葉を続ける。


「お前向けの仕事がある。受けるなら、今回に限り、お前の命を助ける。船も財産も戻してやる」


「・・・・」


 こめかみをブーツで削られながら頭を砂地に埋めつつ。ジャンは表情1つ変えず思考を巡らせていた。


 敵対国への工作活動か。それとも子女の誘拐か。なんにせよ後ろ暗い仕事だろう。


「ことわ・・・」


「リュッケは良い女だな」


「・・・・」


「お前に協力していた事を認め、お前と共に死なせて欲しいと言っていたらしい」


「そうかい」


「お前次第だ。リュッケもお前の仲間達も。まだ生きている。どうする?」


「はあ・・・」


 ジャンは、これを星の導きと受け入れた。


「受ける」


「良い返事だ」


 そう言ってダッガットは、ジャンの頭から足を上げ、また腹を蹴り飛ばした。


「ごはっ・・・。てめえ、頭ついてんのか」


「海賊風情にものを頼む私の身にもなってみろ」


 こいつとは噛み合わねえ。そう実感したジャンは、それ以上は喋らなかった。



 場所を艦隊旗艦リューユーの船室に移し、2人は話を進める。


「お前には魔海の水先案内人になってもらう」


「・・・」


 顔色1つ変えず、ジャンはダッガットの言葉を聞いていた。


「知っているぞ。お前たちは魔海を経由して各地方の港や船を襲撃する。だから海軍が追跡しても今まで取り押さえられなかった」


「人気者になったもんだな。おれも」


「我々はお前に付いて行く。逃げたら撃つ」


「はいはい・・・。それで魔海を経由して、どこに行くんだよ。場所次第だが、食い物はいくらあっても足りんぜ」


 他の船乗りがやらないのは、ただ海獣が怖いからだけではない。必然的に遠回りルートになる以上、余分な水と食料を積み込まねばならない。出費も増える。大きな船も要る。


 それを海軍の艦隊規模でやれば、移動するだけで輸送船が必要になる。


「目的地は魔界首都、ライン」


「・・・・・・・・・・聞き間違いか?もう一度言ってくれ」


「ライン。魔王の居る都だ」


「・・・今、縛り首にしてくれて構わないぜ。どちらにせよ、必ず死ぬんだからな」


「お前が死ぬかどうかは知らんが。我らは必ず魔王を倒す」


「魔王は、勇者でなけりゃ、倒せん。子供でも知っている事だろうが」


「今まではな」


「大砲を船に積んだからって、当たるか。相手は岩やクジラじゃねえ。空を飛ぶんだぞ。カモメすら狙えねえデカブツが、役に立つもんかよ」


「ふん」


 ダッガットはそれには答えず、自分の質問を続けた。


「それで。ラインには行けるのか」


「・・・どうしてそんな所に行きたがるのか、分からねえが。行けるっちゃ行けるはずだ」


「詳しく話せ」


 ジャンの語るところによると。


 人界と魔界をへだてるものは、海獣のみにあらず。潮流ちょうりゅうそのものが両世界を引き裂くように流れている。魔界からこちらには来れず、こちらから魔界に行く事も出来ない。


 ただ「海のへそ」をのぞいては。


 海のへそ、とは。1日の内、わずか1時間の間、その潮流が収まる海域。ここいらであれば、シウレリア海峡から南東200キロの地点に1つ。


 幅は広く、およそ80隻からの船が横並びに渡れるであろう余裕がある。


 ただし時間は1時間。あるいはそれより早いかも知れない。


 ジャンの率いる腕利きのみの海賊船だからひるみもせず飛び込めるのだ。海軍にも同じ事が出来るかどうか。


 そしてもし渡れたとしても、その先は悪名あくみょう高い魔海そのもの。あらゆる海獣に海魔のオンパレード。


 しかし。それら危険を乗り越えれば。


 その先はライン。まっすぐにたどり着ける。


「行った事は」


「あるかよ。考えてものを喋れ」


 今度は蹴りは飛んで来なかった。


 ジャンは不思議に思いながら、言葉を続けた。


「お前さんらが思うより、魔界は近い。大昔は、人間の世界だの魔界だのの区別はなかったって言うぜ。海神の娘っ子をもらった英雄や、海獣を倒した英雄。そういうおとぎ話がある以上、そいつは本当なんだ。昔はもっと近かったにちげえねえ」


 それこそ、シウレリア半島までもが魔界であったとしても、不思議ではない。


 人界も魔界も、住んでいる種族以外の違いは、あまりないのだから。


 そしてそのおとぎ話の1つに、こうある。



 昔々、シウレリアの若き勇者が旅立ちました。勇者は渦巻く海を恐れず、月の明かりを友として魔の海を渡り、都市を襲う魔獣を倒しました。そしてお姫様と結婚して幸せになりました。



 ちなみに、ジャンが発見したシウレリア近くの海のへその航行可能時間は、午後9時から午後10時の間。月はとうに出ている時刻だ。


 ゆえにジャンは信じた。


 魔界に渡った奴が居る。それが勇者なのか何者かは知らないが、そいつの痕跡こんせきは、こうして物語の形で残っている。


 ならばラインは近い。


「・・・・」


 ダッガットは思案した。


 出来うるなら、先遣部隊を出したい。正確な地図と敵戦力の情報が、のどから手が出るほど欲しい。


 しかしそれをやれば、魔族も気付く。そこを狙われていると。


 こちらの進行方向は、どうしても海のへそによって限定される。迎え撃たれては、あるかなしかの勝算も消え失せる。



 ・・・確認を取らねばならん。そして許可が下り次第、腹案を提出する。


 邪魔の入らぬ内に。こちらの手の届く内に、仕掛けたい。



 いつまでも勇者の良いようにされては。


 我らは、一体、なんなのだ。

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