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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
過ぎ去りし夢。さらば愛しき人。
16/103

戦後。

 ぼんやりとした光を発する松明たいまつでも、これだけの数があれば地上全てを照らせそうだ。魔獣軍団所属イブー調教師にしてイブー部隊を率いていたテンクウはそう思った。


 テンクウは全てのイブーを獣舎に帰して、もう一度帰って来たところだ。死骸を引き取りに。


「大きな死体は剣闘が引き受けてくれるそうです。私達は小さなパーツ。腕や指、頭を持ち帰りましょう」


「はい」


 上司カネの指示に従い、馬車から下ろした棺桶かんおけに目に見えるだけの身体部品を積めて行く。人間の部品は人間が持ち帰るから、触らないように。


 自分の死体ではないのだから、別に苦しくはない。辛くもない。


 けれど、少しズレていたら、自分もこうなっていた。誰かに拾ってもらってじゃないと、魔界に帰れなくなっていた。


 そう思うと、全部連れて帰ってやりたくなる。指も、爪も、毛も。全て燃やすんだけど。そこは魔界が良い。一緒に帰ろうぜ。


 この時、魔族と人族は同じ土俵の上で、争いもせず、お互いの同族の死骸をかき集めていた。夜を徹して、朝まで。朝が来ても、夕方になっても。


 3日以上をかけて、やっと死体は戦場から片付いた。


 皆で帰る。



 戦勝会を終えたレインは、トステンの病室を訪ねていた。


「・・・・」


 来てくれたのは嬉しい。が、合わせる顔がないトステンは、レインの顔を見るなり、そそくさと布団の中に逃げ込んだ。沈黙を守る。


ドオ


「・・・ぐ、お」


 布団の上から的確に拳を腹に叩き込まれたトステンは、たまらず顔を出し、うめいた。


「おはよう」


「・・・こ、殺す気か・・・」


 冗談ではなく、トステンは腹筋を貫かれ悶絶もんぜつしていた。


 おれは怪我人ではなかったのか・・・?


 難解な問いに挑んだトステンだが。


 レインと、やっと顔を合わせた。


「な、なんだよ。もうちょっと優しくしてくれよ・・・」


「そうだった?」


 時折、レインを神々しいものを見る目で見ているトステンだが、今は魔王か何かに見えた。


「・・・で。本当になんだよ。忙しいんじゃないのか」


「・・・あなた、今が何時か分かってる?」


「・・・決戦の翌日?」


「3日後よ」


「3日!?」


「やっぱり分かってなかったのね」


 レインの目の前のトステンは、頭の手術後で、頭髪が完全にられた上で包帯でぐるぐる巻きになっている。その時の麻酔、それに術後の長い睡眠で時間間隔がおかしくなっているのだろう。


 不意にトステンは、周囲を見回した。


 その様子を見たレインは、言った。


「戦士団の皆は死んだわ。最後にあなただけが味方陣地に降って来たって。多分、アルムが投げてくれたのね」


「そう。か」


 落ち着いている。というか放心している。


 レインは意外だった。てっきり暴れまわると思っていたので、自分が告げに来たのだ。暴れるトステンを取り押さえるために。


「・・・覚えてる。おれは亀に倒されかけた。皆は、亀の上役うわやくを4人で抑えようとしていた。それで」



 アルムはおれの身代わりになって死んだ。



 その事実に、トステンは死にたくなった。


 おれは。


 強くなった、はずだったのに!


 レインと肩を並べて戦えるつもりだったのに!!


 ・・・仲間も守れないなんて・・・!!!!



 ベッドの端を掴む手に力が入り、寝台が悲鳴を上げる。


「・・・下手な慰めを言うわよ。あなた達が立ち会ったのは、おそらく獣王ヒポリ。私のターゲットの1人で、魔軍軍団長最強の一角。勝てないのは」


「仕方ない?」


 トステンは、嫌な笑顔を浮かべた。


「・・・」


「そんなお強い御方になら、おれのようなザコじゃ、歯が立たなくても?」


「そうよ」


 レインは勇者だった。


「・・・もうちょっとだけ、優しく伝えて」


 ひねくれねじ曲がろうとしていたトステンの精神は、レインに叩き直された。


 嫌な笑顔は、苦笑に変わった。


「・・・生きて、帰れた。アルムの、皆のおかげで。感謝すれば良いのか?」


 改めてベッドに体を預けたトステンの静かな声に、レインも普通のトーンで応えた。


「そうだと思う」


 それだけで良いのか。それはトステンにもレインにも共通する、口に出せぬ思いであったが。


 2人とも、それ以上の事も出来ない。


 戦う事しか出来ない。



 トステンは2週間もすれば歩けるようになり、リハビリも出来るようになる。それまでは絶対安静。そうレインに言われた。


 なんとなく絶対安静の意味をレインに尋ねたくなったトステンだが、これ以上ケガが増えても困るので、何も言わなかった。


「・・・それじゃあ、こっちの防衛はお前1人でやっているのか」


「・・・そう、なのかな」


 レインにその意識はない。宿舎に常駐しているが、それだけだ。必要なものは言えば手に入るし不便もない。


 それにシャダンの森手前、ダンには常に守備兵がついている。実際に守っているのは彼らだ。とレインは考えていた。もちろん勇者の影響力はあるにせよ。


「あなたの出番はしばらくないはずだけど。いざという時には、逃げてね」


 病院を守るために戦うな、という意味だ。聞き入れるかどうかはともかく。


「出番も何も。勝ったんだろ?」


 トステンは顛末てんまつを知らないが、レインがこうして生きている以上、勝利以外の結末は有り得ない。


「勝つには、勝った。けれど、魔族側の被害はかなり少ない。いえ、私の思いを語るなら。少なすぎる」


「少なすぎる?」


「ドンス将軍とも話し合ったのだけど。将軍が言うには、敵、さっき言ったヒポリ、がもうすぐ味方陣営まで到達しそうだったそうよ。なのに、敵は白旗を上げた」


「・・・バカなんじゃないの?」


「違う。バカでは降伏を選択する事が出来ない。考えて、そちらの方がメリットがあると考慮して、そうしたはず。そしてメリットとは、味方被害を最小限に抑え、敵への損害を最大に仕上げる事」


「えーと、つまり」


 全然分からなくなって来たトステンは、レインに丸投げした。


「戦士団4人を倒した時点で、敵の目標は達成されていた。のかも知れない」


「・・・・うーん?」


 うなごえを上げながら、トステンは考え込んだ。


 あり得るのか?


 ・・・・いや、考えにくい。


「違う、んじゃないかなあ。だって魔族が勇者ならともかく、おれらを注視するとはとても思えない」


 トステン含む戦士団5人は確かにエリートである。人間の中で、飛び抜けた戦力である。その自負はある。


 あるが。それだけだ。


 今回、魔族に無抵抗で惨殺されたように、言うほどのレベルじゃない。


 トステンは、骨身にしみて、理解させられていた。自信など、欠片も残さず砕けていた。


「それに領土は確かにこちらが得たんだ。敵が計算づくでやっているとはとても思えない」


「そうかしら・・・。考え過ぎかもね」


「そうそう」


 レインは大人しく矛先を収めた。根拠など全く無いし。


 とは言え、人類側をどうとでも料理出来たはずのタイミングでの降伏は、全くに落ちない。私が魔王を仕留めかけていた、というのならまだしも、魔王は来ていなかった。


 そうだ。魔王は参戦していなかった。そこをドンス将軍とも話し合ったのだ。


 今回、奴らに本気で勝ちを狙うつもりは、無かった。だが目的までは分からない。


 トステンの言う通り、人類は確かに戦利品を得たのだ。手付かずの土地を。資材を。食料を。


 心配する事など何も無い・・・・。



「パアル。見事であった」


「いえ。判断は遅すぎました。ベストのタイミングでしたら、もっと損失を減らせたはずです」


「たらればは、現実には存在せん。お前を使って良かった」


 魔王代行として戦場指揮を取っていた、魔法師団ナンバー1、パアルカラッソ。終戦処理を終えた彼は、魔王城最上層。魔王の御前にあった。


 王は相も変わらず男装。いや男装を意識していない、ただのパンツスタイルかも知れないが。


 そして二人きり。この意味するところを、パアルカラッソはよく理解していた。


 信を、見せてくれているのだ。心から頼れる配下として。


 魔王手ずから注いでくれたラヴァを一口。


「・・・これは」


「気が付いたか。私にも、お前の底は見えぬようだ」


 これは一般販売されているラヴァではない。妖樹軍団に特注した魔王好み。


 が、面白いのはパアルカラッソが味の違いを識別した事ではない。


 この状況。魔王との接見の最中に、味覚が正常に作動していた事。



 太い奴。


 気に入った。



「パアル。お前を最前線から外す」


「はい」


 何故?と聞き返したりはしない。王に向かって問い返すなど、配下のやる事ではない。死ねと言われれば死ぬのが仕事。


 魔軍にあるとは、そういう事だ。


「私の娘を育てろ」


「は?」


 魔軍にあるパアルカラッソは、魔王シャアルネルラに聞き返した。


「私のスペアを作っておきたい。その養育をお前に任せたいのだ」


「お話は分かりました。ですが、私に育児経験はありません。城下の乳母うばをお雇いになられるのがよろしいかと」


「務まるか。お前でなければ、我が娘に消されて終わる」


「ずいぶんと、腕白わんぱくでいらっしゃる」


「なにせ、私の魔力量の半分を継承させる予定だ」


 その発言は、パアルカラッソにも予想外。


「・・・しかし。それでは」


 パアルカラッソの懸念。それは。


「無論、私はしばらく戦えなくなる」


 現在の半分の魔力量となった魔王。それは魔軍総勢の戦力なら、魔王に普通に勝ててしまうという事実を表す。


 そこまで脆弱ぜいじゃくになった魔王では、いざという時の戦力として数えられない。


 魔王。魔法師団。魔軍。この3つが安定した戦力として機能するからこそ、魔界の秩序は保たれているのだ。


 魔王の実力が落ちるのは端的に言って、魔界の危機である。


 なんならパアルカラッソにさえ、野心はある。現魔王には絶対に敵わないと分かっているから、その野心も抑えられるのであって。魔王の座を狙えるのなら、躊躇ちゅうちょなく動く。


 まあ、半分になってなお、パアルカラッソの20倍程度の魔力はあるのだが。


 しかしその領域にまで下りて来たなら、数に任せて勝てるようになる。それでは魔王の威信など、無いに等しい。


「ゆえにしばらく、魔界を周遊して来る。留守を頼む」


「・・・・」


 即答出来なかった。己の頭脳に多少の自負あるパアルカラッソが。


 はい、と答えるべきだったか。だが魔王の留守を預かった経験など無い。


 いいえ、と答える選択肢は己には無い。


 結果、答えられなかった。


「ガンズ」


「ここに」


 パアルカラッソの知覚していた魔王の御前ごぜんには、自分と魔王以外は居なかったはず。


 たかが虫の隠形おんぎょうを気取れないとは。


 パアルカラッソは己の背後に現れた体長30センチほどのカブトムシに、振り向かないまま注意を配った。


「この者、パアルカラッソを補佐せよ。私が居ない間は、この者を私と思ってな」


「分かりました。シャアルネルラ様におかれましては、良い旅を祈念きねんしておりますぞ」


「うむ」


 と。


 パアルカラッソの知覚するより先に、魔王の気配がいつの間にやら消えていた。今までここに居たはずなのに。


 それだけの事で、魔王の実力を思い知らされる。・・・まだ、勝てない。


「ガンズ殿。よろしければ、今お話がしたいのですが」


「構いません。ですが、ガンズとお呼び下さい。私は知虫軍団が一将に過ぎませんのですじゃ」


「いえ。それを言えば、私も魔王様配下。同格でしょう」


 実際には違う。魔法師団ナンバー1の地位は、軍団長より上。ガンズの言葉が正しい。


 が、2人はこのやり取りで、お互いの内心を推し量っていた。


 ガンズは、出しゃばるつもりはない。パアルカラッソの邪魔もしない。パアルカラッソが何を考えていようと・・。そういうメッセージを出した。


 パアルカラッソもまた、魔王への背信など心にもない、といったメッセージで返している。


 この会話を通して、2人はお互いを話の通じる相手だと認識。


 見た目は全く違うが、魔王が選んだ2人。案外、似た者同士であった。



「魔王様のご周遊。ご存知でしたか」


 所は魔王城3階。客将のために設けられたゲストルームの1つ。ガンズの部屋である。


 ざっと見て、広い部屋だ。奥行きのある広々とした間取りが3部屋続いている。この全てが客将1人のために用意されている。


「ええ。私の提案でしてな」


 ガンズのための小さなベッドの上にぴょんと飛び乗り、あたかも生まれてこの方ずっとここに居ましたよ、と言わんばかりの自然な姿でそこにたたずむ。


 わざとらしいジジイ言葉は、己の存在を役割に溶け込ませるため。「自分」を押し隠すため。パアルカラッソは目の前の小さな生き物に、全く油断が出来なかった。


御身おんみで魔界の空気を感じ取るべし。我ら知虫軍団がいかに働き者であっても、魔王様に細やかなニュアンスまで伝達するのは難しい。と、お伝えしたのですじゃ」


「なるほど」


 何故このタイミングで?それを聞きたかったパアルカラッソだが、視察の意味合いも教えてもらえて、それはそれで良かった。


 室内にある客用ソファ(ちゃんとガンズと向き合うよう設置されている。目の前には机まで)に腰掛けて、パアルカラッソは落ち着いて話を聞いていた。


コンコン


 ノックの音とともに客室係が入って来た。机の上に茶と茶菓子を置いて、すっと立ち去る。


「それで」


 飲み頃のお茶で口を湿し、パアルカラッソは話を続ける。ガンズのベッドの上にはオレンジ色のクリームが載った小皿が置かれ、ガンズも一口舐めたようだ。


「魔王様は本気で、ご自身の魔力を削ってまで、ご息女をお作りになるのでしょうか」


「それは、私にも分かりかねますのじゃ。魔王様のご心情は深く広い。何をお考えであるのか、この小さき身には到底思い及ばぬ」


 とは言え推測程度なら出来る。パアルカラッソはそれを聞き出したかった。


「ガンズ殿はなんと進言されましたか?」


「信の置ける配下を用意して、それからになされよ、と。魔王様がお望みならば、魔界動乱もよろしかろう。ですが、そうでないのなら、重しが必要。魔王様は、先の領土決定戦における貴殿の働きを高く評価されておりますじゃ。ご息女の養育を任せるほどに」


「そうですか・・・」


 分からん。


 確かに生き残れた。が。


 勇者には結局、かすり傷さえ負わせていない。戦場で延々逃げ惑っていたのみ。それしか出来なかった。


 勝てるとまで思って挑んだわけではないが・・・。負傷すらさせられていない以上、お褒めの言葉はおろか、お叱りも覚悟していた。


「ありがとうございました。貴重なお時間を頂き、参考になりました」


「いえいえ。パアルカラッソ殿をお支えするのは、既に我が職務の1つでありますのでな。これからもよろしくお願いしますじゃ」


「こちらこそ」


 パアルカラッソはその指先を、ガンズの足先の1つと触れ合わさせ、握手とした。


「では、失礼します」



 なんだかよく分からないが、大変な事になった気がする。魔法師団宿舎に帰る前に、パアルカラッソは魔王城2階、議員室サロンを訪ねた。


 ここは魔界議会の議員がたむろしている部屋で、普段は雑談と勉強の入り混じった喧騒に包まれている。今は、今回の敗北を受けての、ヒオウ緩衝地帯の影響度を推し量っている最中だろう。魔軍戦力も立て直さなければならない。


「父上」


「パアル」


 魔界全都市から参集する48名。魔都から10名。合計58名の議員の中に、パアルカラッソの父、パエルソーンも在籍していた。


 父の仲間に健闘を讃えられ、少し気恥ずかしくなりながら、パアルカラッソは父を連れ出し、廊下の長椅子に腰掛けた。


 パエルソーン。現役を退いて久しいとは言え、いまだ魔法師団級の魔力を維持している実力者。そして魔法師団の在するニア・ラインの代表である。


「魔王様より直々のお言葉を承りました。そして新職を頂戴しました」


「おお・・!」


 パアルカラッソはいきなり切り出してみた。どうやら父は知らなかったらしい。


「しかし、私は此度こたびの決戦において、ほぼ働いておりません。お断りも出来ず、受けたのですが。どうすれば良かったのでしょう」


 率直に、普段の丁寧さを捨てて、家族に対する気安さでパアルカラッソは父に相談してみた。


「無論、お前の判断は正しかったのだ。魔王様のご配慮、ご深慮を蔑ろにするなど、魔族の道ではない。戦果が物足りぬなら、これからだ。まだお前は若い」


 パアルカラッソ、19才。魔王その人をのぞけば、最年少で魔法師団トップに立った俊才しゅんさいである。


「そう、ですよね」


 まだ納得出来ていない息子を見て、パエルソーンは、少し安心もした。


 圧倒的な才を持ちながらも、まだまだ甘い。そしてその甘さへの自覚もある。微笑ましい成長の過程。それを間近で見れるのは、家族を持った者の特権だ。


「私からお前に言える事は、1つ。無駄に敵を作るな。何度も言われて、お前も聞き飽きているだろうが、念を押しておく。敵対するのであれば、ちゃんと勝てる勢力を用意してからだ。お前の後ろ盾は、言えば私だけだ。軍団長レベルとなれば、私と対等以上の勢力があっても何も不思議ではない。決して、無意味に敵対するでないぞ」


 パエルソーンは丁寧に念押しした。どうやら息子は魔王様に気に入られたようだ。それは魔界全土に自慢したいぐらい誇らしい出来事だが、同時に潜在的な敵も無数に増えた。現時点でも、魔法師団全員がライバル。


 もちろん、パエルソーンには魔法師団時代の友人達、今の議員でも馬の合う魔族などは居るが、彼らに矢面に立ち上がってもらうには、息子の細々した闘争では小さすぎる。


 戦うべき時だけだ。総力を費やして良いのは。


「もちろんです。それに、私のような若造に突っかかって来るような者も居ないでしょう」


「まあ・・な」


 パアルカラッソの言わんとするものは、ただ1つ。


 魔王配下にある軍団長。議員。そして魔法師団。


 それらを「魔王の了解なく」攻撃したならば、待っているのは確実な死。傍観ぼうかんしていても、それに加担したと考えられるだろう。それとも、魔王の道具を守ろうともしない役立たずと思われるか。


 どちらにせよ、三下さんしたではないのだ。かの凶鳥軍団長でさえ、無駄に敵対はしない・・・はず。


 逆に、無駄でないなら。


 隙を見せたなら、魔王様へメリットを示した上でこちらを排除にかかるのは、大いに考えられる。


 これもまた魔族として当然。


 ただ、今のパアルカラッソは特殊任務を命じられている。これを邪魔するのは、いかなる魔族にとっても得策ではない。


 おそらくだが、過剰な心配は要るまい。



 父との会話の中で心を落ち着けたパアルカラッソは、普段通り宿舎に帰宅。魔法師団は日常的に飛行が許されているので、楽だ。


 魔法師団用のそれは豪奢ごうしゃなマンション。魔界全土でも、ここ以上の建物はそうはない。


 最強の力を最高の状態で発揮するための養育場。魔力供給機関も魔都の最新モデル。


「お帰りなさい、パアル」


「ああ。ただいまルネイ」


 パアルカラッソの部屋には先客が居た。


 オゥルネイア。魔法師団ナンバー2にして、パアルカラッソの恋人である。年齢24才。このまま行くと年上女房となり縁起が良い。


「戦術レポートは出来ているわ。ヒポリ殿との話し合いは明日の予定よ」


「ありがとう。とても助かる」


 そう言いながら、リビングに進んだパアルカラッソはソファに腰を落ち着け、完全に身を預けた。


 珍しい、無防備な姿を見て、ルネイは意地の悪い笑顔を見せた。


「勇者はそんなに怖かった?」


 もちろん、ルネイもあの戦場にあり、紙一重のところで生き残った1人。友人らも死んだ。


 それでも生存している以上、魔法師団に怖がったままという選択はない。


 戦力として実力を保てないのなら、辞めた方が良い。そういう意味の冗談だ。


「それほどでもないさ」


 目を閉じたまま、パアルカラッソは嘘をついた。



 死ぬかと思った。


 なぜ生きて帰れたか、不思議で仕方ない。


 魔法師団総がかりだったから。他より少しだけ飛行速度が上回っていたから。間合いの取り方が他より少し上だったから。


 そうして必死で逃げ回っていたら、他の団員を捨て石にして生き残っていた。



 ・・・役立たずにも程がある。



 パアルカラッソは、ルネイにすら悟られぬよう、心底に悔しさを隠した。


 魔法師団ナンバー1が、感情におぼれるような存在であってはいけない。求められる能力を身に付け、相応ふさわしい人格を養い。


 それらをひたすらに実践する事でしか、自分は成長出来ない。


 魔王シャアルネルラに比べて弱すぎる己を鍛え直さなければならない。



「魔王様から面白い仕事を頂いた。君にも協力してもらうかも知れない」


 目を開いたパアルカラッソは、あくまで快活にそう言った。

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