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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
サルタ、魔界に立つ。
11/103

サルタとシャアルラの授業。

 サルタは自分を場違いだなどと思った事は無い。ここに来ればおやつを食べられるし、お茶もいくらでも飲める。ここは間違いなく、自分の居場所だ。


 衛兵に挨拶しながら盾車を魔王城駐車場に停めて、サルタはいつも通りにシャアルラとの待ち合わせ場所である、空中庭園を目指した。


 駐車場から歩いて10分。城門とは反対側、城の裏手に回るような道を行き、裏手の歩哨にも挨拶。


「こんにちわ」


「おう。寄り道すんなよ」


「はい」


 ちなみに衛兵は全員が魔法師団出身。サルタに対応した何の変哲もない気の良いおっさんにしか見えない魔族も、いざ戦えばカネに遅れを取らないレベル。そんな魔族が歩兵として働いているのが、ここ、魔王城だ。


 なお寄り道をするな、という言葉は、城内城外そこここに仕込まれたトラップに引っかかっちゃうから、正規ルート以外は行くなよ、という意味である。


 そして城の裏側にぽつんとたたずむ椅子がある。特別豪華なものでもなく、木製のまあまあの椅子。サルタは普通にその椅子に座る。と。


ふわっ


 浮いた。


 ゆるやかなスピードでサルタは空へ運ばれる。落ちる心配はまずないが、一応サルタは椅子のひじ当てにしがみつく。


 空を行く事1分。


「来たか」


「こんにちわ」


 修練着?のシャアルラが待っていた。同じく椅子に座って。


 場所は魔王城中庭上空。常人が立ち入ると、その場で消滅するエリアである。


 そこにシャアルラの願いで、庭園が設置されていた。40平方メートルの面積の「地面」に泉と花壇、木の机が備えられている。サルタはそこに飛んで来て、上手いこと机にピタッと収まった。


「サルタも来た事ですし。始めましょうか」


「うむ」


 机の前に突っ立っていた(座れば良いのに・・・とサルタは思っていたし言いもしたが、教師とはそういうものらしい)パアルカラッソの号令により、今日の授業が始まった。


「前回の授業で教えた通り、魔軍と人族の戦力差は3対1。魔王様と魔法師団、それ以外の魔軍全体で合わせて3。対する人族はたったの1。エリートの数にしても魔軍を少々上回る程度。魔王様が出るまでもなく、魔法師団に魔軍を足すだけで完勝出来るでしょう。もちろん、痛いだけの被害は出るでしょうが」


「うむ」


「はい」


 ここまでは前回のおさらい。魔法師団の成り立ちから魔軍誕生の経緯いきさつ。そして魔王を頂点とした支配体制確立の歴史。シャアルラは何度も聞いていたし、サルタもなんとなく覚えていた。


「なのに魔族と人族の勢力図は拮抗しています。それは何故か」


よこしまなる神々のえこひいきよ」


「人族に勇者が居るからです」


「サルタ正解」


 パアルカラッソの採点にえこひいきは無かった。


 勇者。それは人族からのみ現れるバランスブレイカー。魔法を無効化し単純な能力も化け物。勇者が戦場に現れた瞬間、魔法師団ですらがカカシと化し、獣王ヒポリであろうと単独では止められるまい。


「ですが今回の領土決定戦は我らの勝利でした。それは何故?」


「父上が出ていたからよ」


「勇者が温存されていたからです」


「・・・サルタ正解」


 今度はパアルカラッソにも迷いが見えた。


 魔王が出た戦場で、勇者は居なかった。ゆえに魔軍完全勝利は当然の帰結。


 が、それはこちら側の見方。人族の都合は、果たしてどうだったのか。


 勇者は出れば勝つ、言わばジョーカー。魔軍もそれを承知していて、前回の決定戦に魔王は出なかった。今回出れたのは、シャアルラがある程度大きくなり、パアルカラッソを始めとした腹心の部下、ヒポリら魔軍の土台となれる器量ある将を用意出来たからだ。


 だが。なぜ勇者は出ない?


 前回から今回までの10年の歳月。勇者は病に倒れたのだろうか。それとも事故?


 それとも・・・別の任を帯びた?


 例えば、秘密任務。魔軍の目を領土決定戦の勝利に向かわせての、別働隊。そのリーダー、など。


「では。勇者が次の決定戦に出て来たなら、どうしますか」


「圧殺する」


「勇者以外を狙います」


「サルタ正解」


「・・・さっきから、サルタばかりヒイキされ過ぎではないか?」


「仕方がありません。勇者を倒すなど、今のシャアルラ様の実力では到底不可能ですから」


「むう・・・」


 口をとがらせすねて見せるシャアルラだが、実の所は分かっていた。シャアルラは現在の魔王、父を超えてはいない。そして勇者とは、魔族全てを倒す者。


 で。サルタ正解とは、いかなる意味か。


「サルタ。お前の戦略を述べてみよ」


 パアルカラッソからの質問に、サルタはサルタなりに答える。


「勇者が前に出て来た場合、魔法師団全員で囮になります。いかに勇者でも、全員を片付けるまでには時間がかかるはずです。その間にジョウゴから出撃した魔軍総出で、決定戦場を駆け抜け、一気に人族の領土に突っ込みます。勇者が故郷に火を付けられてなお戦い抜けるか。見ものですね」


 1つ頷いてパアルカラッソは次をうながす。


「では、戦場にあって、温存されている場合は?」


「その時はシャアルラ様が正解です。こちらの消耗を抑えつつ戦いながら、ジョウゴと魔法師団の連携を密に取ります。勇者の最大の特徴は、魔法無効化。それさえ知っていれば、ただの足が速くてスタミナのあるヒポリ様を10倍強くしただけの人間に過ぎません。時間をかけて体力を削り、押し潰します」


「やはりそうか!」


 シャアルラはご機嫌であった。己の正解もそうだが、サルタと答えを同じくしたのは、なんとなく嬉しかった。


 が、パアルカラッソの授業は続いている。


「サルタ。お前の最初の答えは限りなく正解に近い。だが、それでは決定戦の前に後詰めを用意しておく必要がある。その瞬間、魔族領土の防衛は薄まっている。これをどう考える?」


 こちらの想定通り、勇者が決定戦に来ていれば良し。だが海側から来ている場合、魔族領はガラ空き。海魔防衛線を突破されれば、無防備な魔都がそのまま襲われる。


「その時は早い者勝ちです。領土決定戦にいち早く勝ち、こちらが人族の領土をいくらかでも奪えるかどうか。それとも勇者が先に、ここ魔王城を落とせるのか。先んじた方の勝ちです」


「うむ。分かるぞサルタ」


 これはシャアルラの感想。早い者勝ち。分かりやすく最もなフレーズに、シャアルラは感銘を覚えていた。


 魔王直系としての感性が、サルタに同意していた。


「シャアルラ様は次回までに戦略を整えますように。では次の課題に移ります」


 魔獣軍団解散後、次の軍団は何種族から補充するか。またその拠点はどこが良いか。


 海魔軍団に加えるべき支援は何か。また敵はどのような動きを効果的と判断するか。


 領土決定戦における被害の少ない戦法とは何か。またその問題点は。


 パアルカラッソの授業はおやつタイムを挟み、夕刻手前まで続いた。


「・・・では。今日はここまで。また来週です」


「うむ。実りの多い一日であった」


「はい。とても面白かったです」


 シャアルラはオレンジジュース。サルタはスイカジュース。パアルカラッソはミルク。授業終わりの一杯を傾ける。


「シャアルラ様、次回も同じく」


「うむ。飽きるまでやるぞ」


 またおやつがある。サルタは幸せな気持ちになった。


 ふと、シャアルラは真横のサルタの方を向いた。


「私はお前ほど安い男を見た事がない。一体、どこの生まれなのだ?」


「生まれは知りません」


「親は?」


「母親は死にました。父親は知りません」


 シャアルラは全く感情の色を出さず質問を繰り出し、サルタも涼しい顔で受け答える。


 夕食前の軽い語らいだ。



「お前、人族か?」



 答えまで、少し時間がかかった。

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