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魔界猿雄伝  作者: にわとり・イエーガー
大山鳴動して子供2人。
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猿雄、現る。

 魔界歴史大学校の卒業は、簡単だった。純粋にテストを受けるだけで良いからだ。


「800点満点で720点以上で簡単・・・?」


 例えば近代史200点、古代戦史で200点、近代戦術で150点、近代戦略で200点をとれば、簡単に卒業できる。


「も、もう良い。中退しよう」


 猿族のマルタは諦めた。どう頑張っても、小テストで8割しか埋められない。


 卒業して軍に入るか大学院に行けばチャラなんだが・・・。


「軍とか。誰と戦うんだよ」


「宇宙人だ」


「!?」


 寮生活であり同居人も居る。だからって扉を閉めた自室内には1人しか居なかったはずだ。


 やはり侵入者は、窓に居た。


「な、なにしてんだ。ルアナ」


「勉強だ」


 ルアナとは魔界軍学校に奨学生として在籍している優等生である。ただし優秀なのは実技のみで、学問は壊滅的な出来であった。指導陣が不思議がるほどに。


「第2次リアーク大戦の概要と行使された著名な戦術のレポートをくれ」


「それならこれだ・・・。いや、それぐらい教科書に書いてあるだろ」


 マルタの古代戦史の教科書にだってちゃんと書いてある。まだ魔界が銀河系に留まっていた時代の話だ。


「ページを開くのがめんどくさい」


 こいつが奨学生・・・?優秀な成績を収めた将来のエース・・・?


 マルタは残酷な現実に打ちのめされた。


「ところでお前、暇か」


「暇じゃない。・・・暇になるけど。バイトなら受けるぞ」


「そうか。なら来週、荷物をまとめて私のアパートに来い。1年間の演習に向かう」


「・・・は?」


 演習は分かる。ここ、第80銀河の近海で行われる軍事演習。マルタだって参戦したことはある。まあ、避難訓練のようなもので、民間人だって一度は参加している。


「演習先はエラストリア銀河。第3遠征部隊が全滅した激戦区だ。油断はできん。そのため、知恵袋が必要だ」


「・・・へえ」


 こいつ、バカなんじゃなかろうか。そう思いつつ、マルタは高速で思考を回転させていた。


 軍事演習に参加すれば、大学の卒業期限も延長される。しかもその間、給料が入る。学校の授業料も確か免除される・・・はず。


 美味しい。


 死ぬ可能性さえ除けば。


「おれなんかが行って、どうにかなる場所か?」


 そしてこれが問題だった。先述した通り、別にマルタの座学は優秀というわけではない。ルアナの役に立つ、とは。言い切れない。


「私と同部屋になる者が無能だったら、私はそいつを殺す。空気の無駄遣いだ。だからお前を指名する」


「・・・嬉しいね」


 嬉しくて涙が出そうだった。


 こいつはどこまでおれを買いかぶっているのか。一回、たまたま古代史から戦術を引っ張っただけで。


「お前も、あの猿雄えんゆうのようになりたいだろう」


「神話の人物じゃん。なれるとかなれないとか、そういう次元じゃないだろ」


「しかし本当に実在したのだろう?」


「教科書にはってる。でも当時のフィクションである魔界猿雄伝まかいえんゆうでんの影響が強すぎて、史実の本人の能力は分かってないんだ。歴史人物にはよくあるやつ」


 猿雄とは、魔王シャアルラの宰相さいしょうだか軍師だかとして活躍した、軍師サルタの異名である。魔法が使えない、剣も扱えない、そんなサルタをなんとか特徴づけようと、当時の作家が苦闘したのだろう。


「てか、ルアナも古代史、詳しいじゃん。おれ要る?」


「お前が語った方が、私の頭にも染み込む。来い」


 音声システムじゃねーんだぞ、おれは。


 そう思いつつ。マルタは現実逃避のように、ルアナの考えに同意していた。


 英雄にはなれなくても、バイト代は入る。ルアナとは気が合わないじゃない。


 なら、行ってみるか。



 不思議な組み合わせの2人の大冒険は、こうして始まった。


 が、それはまた別のお話。





「猿雄。おい猿雄」


「・・・・」


「聞こえんのか」


「・・・その恥ずかしい名で、おれを呼ぶな・・・」


「分からんな。お前だけの名だぞ。せっかく私が広めてやったというのに」


「せめて英雄にしてくれよ!?なんで猿族であることを強調するんだ!?」


「仕方あるまい。戦力ではないのだから」


「そりゃそうだけどさあ・・・」


 神位第20位の魔神と、神位第200位のなぜ神位持ちなのかよく分からないほど弱い神人は、いつもこういう会話をしていた。


「今の歴史にも残る名ではないか。私より有名になりおって」


「・・・そうかなあ」


 神人には理解できぬ世界であった。当時の戦術など、もう無用の長物だろう。


 妖樹軍団も魔獣軍団も飛竜軍団も凶鳥軍団も巨石軍団も剣闘軍団も、もう何も残っていない。魔軍は全て生まれ変わった。魔法師団だけが、かろうじてシンクタンクの役割を果たしている、ぐらいか。それも名ばかりではあるが。


 なんて遠いところなんだろう。


 果てしなく広がる世界は、神族にも理解の及ばぬ世界であった。


「会えたと思うか」


「何が」


「マリオンやダイナソアの探しものだ」


「さあ・・・」


 しばらくマリオンらにも会ってない。いつでも会えると思えば、なんとなく会う機会を探すのも億劫おっくうになる。


「先日、カルナと仕合った時、マリオンとダイナソアが祝いの席の準備をしていた」


「・・・じゃあ、会えたんだろ」


 わ、分かりやすすぎる・・・。もうちょっと、情緒じょうちょというものを。


 しかし。


「そうか。会えたのか」


「ああ。「いつか」は、来た。お前の言った通りだ」


 魔神は神人の手を握った。そうしたいと思った時、いつでも魔神はそうして来た。魔神になる前から。


「・・・生きてて良かった。死んだ後だけど」


「下手な冗談だ」


 でも、神人の下手な冗談で、魔神は笑った。いつもと同じく。



「・・・パーティーに着ていく服がない」


「え?何百着でもあるだろ」


「神位第1位の祝いの席に、古着など着ていけるものか。新しく仕立てるぞ」


「そ、そう。まあ良いと思うぞ」



「行くぞサルタ」


「おれも?」


「夫の服にこだわりがなくては、私の恥だ」


「分かったよ。シャアルラ」




 魔界猿雄伝。おしまい。

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