子猿、ミキメと出会う。
挿絵は柴田洋さんによります。
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柴田さんのマイページです。
いつも泥の匂いがしていた。食べるものも。自分も。
昔の話だ。
ジョウゴの歩みによって起こる地響きが活気づく市街地を更に賑わせ、より深い勝利の味わいをもたらす。豊かな実りを祝うラヴァの乾杯の音頭はいつまでも止む事を知らず、魔族の健勝を示していた。
だがもちろん、皆が皆幸せな気分とは行かず。
今日も今日とて、汗水たらして働いている者は居るのだ。
「魔獣軍団兵員募集中ー!飼料の配給だけの簡単なお仕事です!日当とは別に衣食住全てこちらで負担します!」
背高ノッポのメガッカが声を張り上げる。主であるヒポリを象った金の刺繍をほどこしたマントをしっかりとはためかせながら、朝からこうして突っ立っている。
「あの」
「資格要りません!魔法使えなくて大丈夫!必要なものはやる気だけ!若いスタッフのチームワークが活かされます!」
往来には立ち止まる者など居ない。誰も彼もが戦勝ムードに酔いしれ、兵の補充など後回し。今は祝杯が先よ、と仲間と馴染みの店に一直線。ちょっと背が高いだけのメガッカなど、誰も気に留めなかった。
「あの」
「はい?」
背の高いメガッカこと、魔獣軍団広報担当ミキメは、視線を下げてやっと自分に話しかけている者に気が付いた。
毛無し猿の子供だ。
「応募したいんですけど」
「おお!猿族なら手先が器用だろう!もちろん大歓迎だ!」
そう言ってミキメは獣舎の場所を教え、少年を送り出した。やっと1人。あと、9人・・・・。
仕事の責務の重さを思い知りつつ、ミキメは仕事に戻る。
「兵員募集ー!若い力で魔王軍を盛り上げましょう!」
猿族1人引き込んだだけでは、ミキメは帰れない。少なくとも、従者10人は必要。
「募集してまーす!」
日が暮れるまで、ミキメの声は魔都ラインに響いていた。
たかが背が高いだけのメガッカを重用してくれる上司のため。自分の安定した生活のため。
魔都ライン。タカウ橋を戦場としたミキメは、今日も明日も戦う。
そんなミキメと毛無し猿の子供の再会は、明日を待たずとも良かった。