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切札の引鉄  作者: 紅大地
9/21

EP.1蒼い乙女-8

 [2018/4/4 特装捜査局ミーティングルーム]


 「して、映像から推測される身長は島田美佐を殺害した人物が168cmから173cm。大学を襲撃したのが170cm前後だが…馬先、早乙女お前らの方は?」

 「たしか…僕が見下ろす形になったので175cmは下回っていたはずです…早乙女先輩。先輩の身長って」

申し訳なさそうに尋ねる馬先。

 「…………158」


早乙女としては彼女自身の身長の話はタブーであるようで、間を置いた後ややぶっきらぼうに答えた。


 「先輩より頭一つ分大きかったから…168cm以上175cm未満ですね」

 「服装も含めてほぼ同じ。ねぇ…」

 「同一人物という事かしら?」

 「だとすると20分強で渋谷~新宿間を……その前に課長。昴星大学の損害はどんなもんですかね」

獅子と剣崎が小声で言い合った後獅子が尋ねた。

 「ドアが複数破壊される。犯人と揉み合いになって学生1名が軽傷その他3名が転倒。以上だ」

 「言ったら悪いけど微妙ね…証言は?」

 「『島田美佐の死体はどこ?』等と何人かに訊いていたそうだ」

 「関係者って事ですか?被害者の」

馬先が良く分からないといった表情で発言する。

 「特定の赤の他人の遺体に用が有るとはどうもね…フランケンじゃあるまいし」

と獅子は頬杖をつきながら馬先に答えた。

 「つまりどういう事です?」

 「被害者に関係がある可能性が高い」

 「話を戻すわよ。昴星大学の件からこれらは同一人物と考えられる」

剣崎は言い切った。

 「容疑者リストの5人の昨夜のアリバイを調べれば犯人に近付く。という事だな」


と三角が言った。

 その時、どこかから携帯電話の着信音が鳴った。馬先は咄嗟に自身の物を確認しようとして、着信音が自分のそれと違う事に気が付き止めた。それは獅子の携帯電話から鳴っていた。

 獅子は電話に出ると幾度か頷きながら二、三言話して電話を切った。

 獅子は立ち上がって資料等纏めて持つと


 「科警研に依頼した事が終わったそうなのでそちらに向かいます」


と告げ、持っていた物を自身のデスクに置いてTW-01をホルスターに収め出ていった。

 三角はそれを見送ると会議を再開する。


 「--以上。早乙女と馬先は蛇川水樹の捜査。剣崎は矢島金治に関するデータの検証を」


三角が指示を出すとそれぞれ動き始めた。

 馬先は早乙女以上に素早く装備を整えると我先に-2人しかいないが-といったように飛び出した。


 「なんか急に異常なやる気を出してないかしら新人君。…いえ、やる気というかちょっと熱血か何か入ってきてる?」

馬先と早乙女が去った後剣崎が呟いた。

 「ギアが替わった、といった所だろう。車で言うところの」

 「ふーん。急降下する事は知っていたけれど急上昇する事もあるのね」


 剣崎はデスクに戻る前に肩を回しながら給湯室へ向かって、珈琲を淹れた。


 [同日 科警研]


 建物から出てきた獅子は私物のサイドカーの側車に荷物を詰め込むとイグニッションキーを回して走り去った。


 「細胞片は無しってか。あんまり期待はしてなかったけど…つっても他の収穫も有ったからなぁ」


横目で側車の荷物を見ながら呟いた。その声は周囲の排気音で掻き消されて誰に聞かれる事もなく霧散していった。

 サイドカーを停めてキーを抜き取り、荷物を持って特装捜査局の玄関を通っていった獅子は、ミーティングルームに入ると自身のデスクで何かを回収し巨大テーブル備え付けの椅子に腰を下ろした。


 「それで?何か判ったの?」


剣崎がパソコンのディスプレイから目を離さずに尋ねた。獅子は顔を上げて剣崎の方向を見ると言った。


 「足跡も指紋も何も無く、唯一残っていた剥がれた付け爪からは繊維片のみ検出された」

 「ふんふん、それで?」

 「被害者の体内に有った遺留物-恐らく体液-から犯人の血液型はB型RH+と思われる。それと性別はXXだから…」

 「貴方と課長の言った通り女性ね」


ここで剣崎は顔を獅子の方へ向けた。そこには何の感情も無く、強いて言えば"当然だろう"というような表情を浮かべていた。


 「ま、それ以外滅茶苦茶で判らないんだけどね…

今朝ので出た5人は全員女性だからいいとして、血液型はこれからの事情聴取のときに…てか細胞採取した方が良いか。そっちの方が確実だから」

 「ところで今は何をしているのかしら?」

 「繊維片に残留していた洗剤の成分からクリーニングした所を洗いだして…候補は多いけど」

 「うーん。それってどちらかと言うと私の担当じゃない?」

 「でも終わってない以上はどうしようもない。そこまで専門的な訳でもあるまいし」


すると剣崎は曖昧な微笑みを返して後頭部の中程で纏められた髪の根本を掻くと、ディスプレイへと顔を戻した。

 これまで黙って会話を聞いていた三角が突然立ち上がると


 「獅子、採取は出来るな?」

と尋ねた。

 「キットが解剖室の隣に有るから可能ですが…早乙女馬先と合流ですか?」

 「ああ」


 そう言いながら三角が頷くと、獅子は持っていた資料をテーブルを滑らせて三角に渡して部屋を出ていった。


 「そろそろ出来たか?」

獅子が去ってしばらくした後、三角が剣崎に言った。

 「確かに22時過ぎまで店を出ていませんね。店内で首だけのマネキンにコールドパーマか何かをしている映像も有りますのでどこかからこっそり出ていった。なんて事もありません。そもそも検出されたDNAと違って男ですからね。誰かに指示している様子も無いですし、その他諸々合わせて…シロですね。未練たらったらでも愛憎入り交じって殺したいってなるようなドく…でもそうなってくると一番怪しいのは…」

 「蛇川水樹」

 「なんですよね」


そう会話を繰り広げつつ2人は獅子の置いていった物を点検し始めた。


 [同日 馬場法律事務所]

 

 「居酒屋では異変は無かったと」

 「そしてX福を出た所で彼女とは別れたのでそれ以降は分かりません」

 「そうですか…」


早乙女と馬先はメモを取りながら蛇川から事件当日の様子を聞いていた。


 「ところで昨夜は大丈夫でしたか?」

馬先は唐突に切り出した。

 「はい?」


蛇川は困惑したように聞き返した。不意を突かれたかのように目を僅かに見開く。そして交互に早乙女を馬先を見る。


 「あの…一体…」


同性という事も手伝ってか質問した-どういうわけか目が据わって心なし前のめりになっている-馬先ではなく早乙女に向かってそう言った。


 「昨夜21時頃…ちょっと待って下さい」


早乙女は馬先の位置を押し戻した後そう言うとスマートフォンの地図アプリを立ち上げて、昨夜襲撃された地点にピンをつけた。


 「この海苔の専門店の上のマンションの階段に不審者が現れました。1名を暴行後逃走しましたが」

と言いながらそれを蛇川見せる。

 「家じゃないですか!?」

 「私達も昨夜蛇川さんのお宅に伺いましたが留守にされていたようなので」

 「9時半過ぎに帰りましたから遭遇はしませんでしたけど…怖いですね」

 「まだ逮捕されていないので十分に気をつけて下さい」

 「はぁ」

 「それは置いておくとして島田美佐さんの周辺で不審な点等はありましたか?」

 

 蛇川は首を傾げ、暫く考え込む素振りを見せた後、早乙女の手元を凝視しながら口を開いた。


 「去年彼氏と別れてからストーカーされてたみたいで、家に泊めてましたけど…あっストーカーの事は知ってます…よね?警察に相談していましたから」

早乙女と馬先は頷いた。

 「それ以降特には…いや待てよ…」


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