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切札の引鉄  作者: 紅大地
8/21

EP.1蒼い乙女-7

 [2018/4/3 渋谷区昴星大学]


 力ずくでこじ開けられたドア、怪我をした学生風の男を見て三角はどことなく悪い予感がした。


 「三角か。特装捜査局に出動要請はまだ(・・)していないが」

と知り合いの警察官に言われた三角は

 「別件を追って…まだ?」

と気になる部分を突っ込んだ。

 「特定犯罪特装捜査局(そっち)の領分だからな。恐らく」

三角は無言で目を見開いた。

 「20時26分頃。隅の部屋で資料を探していた学生が物音に気が付いてドアを開けると…廊下を歩く不審者、目撃者本人の言葉を借りれば怪人が居たらしい。で、それに運悪く襲われて…ああなったらしい」


と言って警官は怪我をした学生を見遣った。その学生は処置されているものの、左の肩から肘下にかけて血を流していた。


 「怪人…か。目撃者はあの学生だけか?」

 「他にもいるが…好奇心が恐怖心を上回ったんだろうな、彼は動画を撮っていた。ちなみにさっき言った事件発生時刻はその撮影開始時間だ」


その警察官は私物と思われるスマートフォンを取り出すと、その映像を再生した。

 撮影者曰く怪人は廊下を歩きながら手当たり次第にドアを開け、探し物をするようにその中を見ると再び歩き始めた。撮影者-怪人からすれば彼が半分だけ体を出しているドア-の目の前に立ったその怪人は邪魔だったのか、撮影者をドアから引き剥がそうとした。しかし、何故か撮影者が抵抗したため揉み合いとなり、左腕を引き裂いた所で撮影者がスマートフォンを落とした。そこで映像は暗転、数秒後終了している。


 「この後は?」

 「撮影していた学生はスマートフォンを回収しようと屈んだ時に突き飛ばされ転倒。その部屋も確認するとそれより先は無いから引き返す。が、屋外にでた後の足取りは不明。判明次第そちらにも連絡する」

 「特装捜査局は別件との関連性を調べる必要が有るから助かる」

 

と三角が言うと警察官はSDカードを取り外して三角へと渡した。


 「さっきの動画だ」


三角はSDカードを仕舞うと無線で聴いた事を思い出して


 「捜査中は気を付けた方が良い。ついさっき特装捜査局(うち)の刑事が襲われた」

 「ああ」


 [2018/4/4 特装捜査局ミーティングルーム]


 「そういえば馬先警部、ちゃんと冷やしてる?肩」

 「ああ、はい」


作業をしていた馬先は霊安室から上がってきた獅子からそんな言葉をかけられた。

 それをBGMに早乙女と三角は昨夜撮影された映像を見ている。


 「…昨夜襲ってきた不審者とは背格好、服装が同じですね。持っている帽子、鞄まで一致しています。帽子は被っていましたが」


メモとSDカードの映像を交互に見ていた早乙女が言った。


 「同一人物と見て間違いないか」

 「恐らく」


 一方、パソコンを前に手書きで何かを書き付けていた剣崎はそれを三角に渡した。


 「映像中犯人の着ていた衣類は一番新しい物で3年前のモデルですね。ちなみにキャスケットです。各々のメーカーは一応書き出しましたけど…」

 「ここからは探れないか」

 「はい」


 ここで三角が顔を上げて、その時獅子が戻っている事に気が付いた。


 「おっ獅子、遺族は何か言っていたか?」

 「既に遺体の確認に来ていた兄弟は割愛しますが、3月頭に会った時と殆ど変わらないそうです。外見は。後、殺されるような心当たりは無いとか」

 「そうか。馬先、所轄署からの報告は?」

 「整理完了しました」


馬先はタブレットを手渡した。

 全員が会議用巨大テーブルに移動し捜査会議が始まった。


 「--そして16時43分同僚の泉千翼が仕事の関係で確認の電話を掛けているが、この時点で被害者は自宅にいる事が判明している。その後18時20分泉に被害者から地下鉄の最寄り駅の入口にいる猫の写真が『出掛けようとしたらなんかいた』というメッセージと共に送られている。早乙女、この間の被害者宅付近の不審者情報は?」

 「何もありませんでした」

早乙女が答える。

 「そうか。更に21時16分別の友人から『かrカラオケこれる?2時間くらい』とメッセージを受信しており、これに『今水樹とX福(ペケふく)で呑んでるから』と返信をしている。以降何者かと連絡を取った形跡は無い」

 「つまり犯人は被害者の当日の行動を知っていた人物。という事になるわね」

剣崎が考えを口にした。

 「該当する人物は…判っているだけで直接会ってる蛇川水樹を含めて5人」

獅子が資料を見て言った。

 「更に、被害者にストーカー行為をした経歴の有る矢島金治を含めた6名が被疑者という事ですね」


早乙女が確信したように呟く。馬先はこれから増えるのだろうかと思ったが、その答えはすぐに剣崎から発せられた。


 「ええ。直接会った時に話した、固定電話で話している時にいる等場合によっては増える可能性が有るけれどね。ただ、防犯カメラの映像から…」


そこで剣崎は何かに気付いたかのようにはっと(・・・)した顔になってこう言った。 


 「葵ちゃん、馬先耀。矢島金治の体格は?」

 「身長は僕と同じか少し低いくらいでした」

 「細身とはとても…中肉といった所でしたね」

 「つまり180センチ程ね。防犯カメラに映っていたのとは異なるから矢島の可能性は低いと考えられる。でしょう?」

剣崎は三角と獅子に向けて言った。

 「まあ…そうなる…かと。詳しく調べる必要は有るけど」

獅子はやや首を傾げつつも返答した。

 「だな。さて、犯人と思われる人物、昨夜早乙女、馬先両名を襲撃した人物並びに昴星大学にて破壊活動を行った人物だが…」


そう言うと三角は写真2枚と絵1枚を貼りつけた。

 馬先は昨夜自分を殴った人物を思い返していたが、ふとあることが気になった。対峙した時に感じた冷気の事である。4月でまだ肌寒いとはいえ昨夜は風は吹いていなかったので、その出どころは謎だが、気のせいというにははっきりしていた。また、関係は有るか不明だが、その瞬間に僅かな隙間から覗く顔が変わったように見えた事も疑問だ。


 「左から順に犯人と思われる人物、昴星大学を襲撃した人物、2人を襲撃した人物だ」

 「あの、明らかに人じゃないのが有りますけど」


馬先は中央の写真を見て言った。馬先には蚊のような顔の化け物-あるいはそれをイメージしたスーツ-にしか見えなかった。


 「これでも人のはずだ。今は説明は省く」


三角は早乙女とアイコンタクトを交わすとそう言って説明を放棄した。馬先は曖昧な返事をして何となく背筋を伸ばした。  

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