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切札の引鉄  作者: 紅大地
7/21

EP.1蒼い乙女-6

 [2018/4/3 馬場法律事務所]


 「--以上が事件の概要です」


 馬先は馬場弁護士に発生した事件についてざっくりとした説明をしていた。法律事務所に居なかった-少なくとも早乙女と馬先が到着した時には既に-蛇川について聞いた所、それを求める理由を聞かれたためである。

 

 「それで蛇川ですか。本日は有給休暇を取っているので何処に居るかは判りかねますが…」


馬場弁護士は早乙女と馬先に対して落ち着きを持って言った。その言葉に早乙女が反応した。


 「それはいつ頃申請されましたか?」

 「今朝です。そうそう、半分泣いているような声でしたね」

 「理由等は?」

 「さぁ。急用が出来たと言っていたような…必要ですか?この情報。いや、彼女(蛇川)の行動に慎重になるのも分かりますが。なん何にせよ私は何も」

 「そうですか…」


 早乙女は無表情のままそう言って、馬先と共に蛇川水樹の情報を回収すると礼を言い馬先を連れて車へと戻っていった。


 「急用って何でしょうかね?早乙女先輩」

シートベルトをしながら馬先は言った。

 「連絡のつかない島田さんを探そうとした…とは考えづらいですね。事件は昨日の午前中のニュースでは既に取り上げられていましたから、どこかで目にしているでしょうし。とにかく本人に聞くしかありませんよ。それは」


ナビに蛇川の住所を入力する馬先に一瞬目を向けてそう返した早乙女はエンジンをかけ車を道路へと滑らせた。


 「こんなに必要なんですか?タイムカードの記録やら何やら。ただの重要参考人ですよね?」

馬先は手にした書類を見ながら早乙女に声を掛けた。

 「だからこそです。いきなり有休を取るという妙な行動もしている訳ですし」

 「成程……ん?今更だけどこれって」

馬先は何気なく見ていた蛇川の写真の顔に見覚えがある事に気が付くも何処で見たのか思い出せずにいた。

 

  [同日 特装捜査局ミーティングルーム]


 「気になるのは何で首をへし折ったのかよね」


1人椅子に座ったまま背伸びをしつつ剣崎は独り言を言った。


 「どした?」


ちょうどそこへ、コーヒーを両手に持って獅子が戻ってきた。剣崎のデスクにコーヒーを置いてから本来の自分のデスク-剣崎のデスクの斜め右- に座った。


 「ちょっと聞くけど意味もなく人の首を折る事ってある?」

 「……知る限りでは無いね。自己満足のためだけにやり、そうなのなら1人知ってるけど」

 「居るのね、そういうの」

 「まぁ日本じゃないけどね」

 「今回の-島田さんのも何らかの理由が有って、

ということよね」

 「ストーキングまでして殺している以上そうだろうけどね。ただ死因の偽装、あるいは混乱目的にしてはお粗末過ぎる。こちらをなめているなら別だけど」


獅子は若干苛ついているような声でそう言うと、ぬるめのコーヒーを啜った。


 「そして恨みや嫉妬にしては傷が少ない」

と三角が言った。

 「そう。その手の動機のやつは首どころじゃない。自分の意思ではそうそう止められないからね。激情ってのは」

 「となると…病院に行かせたくなかったとか?蘇生の見込みが無いような状態じゃない限り救急搬送ってされるのよね」

 「どうだろ。それこそ警察署に搬送されなきゃ困るって場合でもなきゃ」


獅子がこめかみを指で叩きながらそう言った時、三角は何かを閃いたかのように目を見開いた。


 「遺体が目的だとすれば…剣崎!」

 「はい?」

 「事件現場最寄りの医学部のある大学を調べてナビに転送してくれ。獅子、後は頼んだ」


と言うとWorf(拳銃)を持って慌ただしく出ていった。

 残された2人は顔を見合せると首を振り、剣崎は指示された事を開始した。


 「はい終わり」


数分でそれを終わらせた剣崎がコーヒーカップに手を伸ばした瞬間、早乙女と馬先の乗っていった車両からの無線が入った。


 『何者かの襲撃を受け馬先が軽い打撲。その後犯人は逃走、追跡したがこれを見失う。以上』

 「本部了解」


早乙女側に返したが応答は無かった。三角にも聞こえているはずだが何の反応も無い。それに対していつもの事だと結論づけた獅子は自身のデスクへと戻っていった。


 「犯人に動き有りってとこかしらね」


剣崎が呟いたが今度はそれを拾う者はいなかった。


 [同日 蛇川水樹宅]


 少々時間は巻き戻る。

 馬先がドア横のボタンを押すとそれは正常に作動して訪問者の存在を屋内に伝えた。

 しかし、チャイムの音だけが響きそれ以外の音はしない。間を置いて2回3回と押すが反応は無い。


 「留守ですかね?まだ9時前ですけどもう寝てるとか…は無いですよね」

 「20代でそれはさすがに…用事が終わっていないんでしょうか。また明日にでも出直しましょう」

 「はい」


 そして2人は廊下突き当たりの階段へ向かって歩いた。


 「気になってたんですが、特装捜査局(うち)って民間からも招集してますけど何か基準とか有るんすか」

 「さあ?上が決めているので私からは何も。少なくとも常人離れしている事は民間出身者全員に共通してますが」


 早乙女の2歩半ほど前を歩いていた馬先が階段の1段目に足を乗せようとしたその時。

 馬先の上に何者かが降ってきた。


 「そうなんで-って何!?」


 馬先は咄嗟に後退りしたため直撃を免れた。

 落下してきた人物は顔を隠すようにキャスケットを深く被り、襟を立てたトレンチコートを着ている。また、革の手袋をしており素肌はほとんど見えない。


 「あの、大丈夫ですか?」 


その人物が足を滑らせたか何かで落ちてきたと思った馬先はそう声をかけた。

 そのコートを着た不審者は何も言わず、馬先の左胸の辺りを見ると馬先に殴りかかった。殴りかかる直前に僅かな冷気が発生した事に気を取られていた上に、そうなるとは思っていなかった馬先は反応が遅れ、そのまま右肩を殴られる。それほど腰の入ったものではなかったが馬先は強烈な衝撃を受けよろめいた。

 早乙女は横でその一部始終を見届けると、殴った事で伸ばされた不審者の腕-の手首の辺り-を掴んで捻り上げつつ自分の方へ引き寄せようとした。しかし早乙女の予想より不審者の力は強く、もつれ合いながらも早乙女の手ごと腕を元の状態に戻すと早乙女を振り払い、今度は早乙女の頭に手刀を振り下ろした。

 その瞬間、不審者が早乙女と取っ組み合っている間

Worf(拳銃)を引き抜いた馬先がそれを不審者に向けた。さすがに動きを止めた不審者は2人からやや距離を取り、体を階段の方へ向けると一気に駆け降りた。2人は間髪を容れずに追いかけたが不審者の足も速く建物の外に出た所で見失ってしまった。

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