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切札の引鉄  作者: 紅大地
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EP.1 蒼い乙女-3

 [2018/4/2 関東特定犯罪特装捜査局]


 出動を指示した三角だが、馬先を呼ぶと課長席の後ろにある金庫を開け手帳サイズの物を取り出して馬先に渡した。馬先耀と書かれた名刺が巻き付けられており、その手帳サイズの物が馬先のものだと判る。



 「君の警察手帳だ。服に取り付けておくように」

 「はい!」


 そして早乙女に付いてくるよう促された馬先がミーティングルーム内のドアを通り隣の部屋へ入ると、そこには幾つかの金庫が置いてあった。早乙女はその内1つの金庫のロックを外して馬先も見覚えのあるアタッシュケースを2つ取り出すと1つを馬先に渡した。馬先が開くと案の定拳銃が入っていた。

 同梱されていたショルダーホルスターを着けながら馬先は訓練時の事を思い出す。


 [2017/12/? 特装捜査局6F射撃訓練場]


 馬先が引き金を引くと弾丸が発射され轟音が訓練場に響く。

 弾丸は狙い通り中央へ見事に着弾した。しかし、馬先は首を傾げた。


 「どうかしましたか?」

それに気が付いた早乙女が尋ねた。

 「拳銃にしては威力が高くないですか?」

 「正式名称TW-01 Worf。特装刑事課専用に作られたものですからね」

 「専用なんですか。これ…」

 「使う場面がありませんからね。普通は。ちなみにある人曰く『考えなしに作ってない?これ』とのことです」

 「使う場面が無いって…一体何を想定してたんすか?」

 「さあ?」


 [2018/4/2 特装捜査局5F]


 馬先は拳銃-TW-01 Worf-にマガジンを装填してホルスターに納めるとホルスターを着けるために脱いでたジャケットを着る。

 ここでふと、馬先の頭にとある疑問が浮かんだが、後で聞けば良いと思いその疑問を脳内から排除する。

 ケースを閉めて金庫に仕舞う。それで準備は終わったようで早乙女は僅かに手招きをしながら部屋を出ていった。 その足でエレベーターに乗って1階へ降りる。

 そして外に出ると、2人は紺色の車に乗り込んだ。運転席に早乙女、助手席に馬先が座る。

 早乙女はエンジンを掛けるといきなりギアをセカンドにして発進させた。


 「早乙女先輩!現場どこか聞いてないんですが」


急発進した事で腹部に衝撃を受けた馬先が息を整えつつ訊ねると、早乙女は無言でカーナビを指差した。ナビには目的地が既に入力されており、早乙女はその指示に従って車を走らせている。


 「いつの間に…」

 「課長がナビに送信したんですよ」

 「あっそういえば転送するとか言ってましたね」

 「……赤坂ねぇ………」

早乙女が呟いた。

 「それはそうと獅子先輩はいいんですか?乗ってませんけど」

後部座席を振り返りながら馬先が言う。

 「変死体を発見した。とのことですから遺体搬送専用の車で現場に向かっているはずです」

 「そうなんですか…」


 [同日 赤坂某所]


 路上にワゴン車を含む数台の車が停められている。が、それを咎める者はいない。それらが捜査車両であり、なおかつそこで事件が発生したからだ。

 女性が横たわっていて、それは一見眠っているように見える。しかし、血の気の無い顔とあり得ない方向へ回った首が眠っている訳ではない事を示している。


 「被害者は島田美佐27歳。女性」

 「発見当時、更に言えば救急隊が到着した時既に亡くなっていた。で合ってますよね?」

 「第一発見者は近くに住む男性で散歩中に倒れている被害者を発見した」


早乙女と馬先は今しがた現場にいた刑事-特装捜査局所属ではない-から聞き出した情報を確認していた。  

 その一方で獅子は被害女性(島田美佐)の遺体の元で何かを調べている。それに気が付いた馬先は何をしているか知っているであろう早乙女に尋ねた。


 「早乙女先輩。獅子先輩は何をしてるんですか?あれ」

 「検視ですね」

 「検視というと…死体の事件性の有無を調べる事でしたっけ」

 「そうです」


 検視を終えた獅子が2人に近付いたため2人はそちらに向き直った。


 「事件性は有る。但し死因については彼女を連れて帰って調べない事にはどうにも」

獅子が言った。

 「では…」

 「俺は戻って解剖だね」

 「ですね。私達は周辺に聞き込みをしてから帰還します」

 「おいよ。耀警部ちょっと手伝ってくれる」

 「えっあっはい」


 特に何も考えずに早乙女と獅子の会話を聞いていた馬先はやや詰まりながらも返事をした。

 2人(がかり)で島田の遺体を獅子の乗って来た遺体搬送用のワゴン車に積み込むと、獅子はワゴン車に乗り現場を去った。


 「さて」

 「うわっ!」


ワゴン車を見送っていると早乙女に背後から声を掛けられ驚いた馬先は思わず距離をとった。


 「驚かさないで下さいよ先輩」

 「そんなことよりまずは第一発見者に更なる聞き込みをしますよ」


ほらそこに。と早乙女がこっそりと指差した先には何やら呟いている老人がいた。


 「御念仏中すいません。少々お伺いしたい事がありまして」

早乙女は警察手帳を見せつつ老人に言った。

 「念仏だったんだ…」

と呟く馬先。

 「はい何でしょうかな」

早乙女の声に老人が反応した。

 「発見当時の様子を詳しくお聞きしたいのですが」

 「あれは7時頃でしたな。わしが日課の散歩をしていたら足が見えましてな。それで変だと思って足の出ている方向と言いますか頭の有る方を見たら人が倒れていたんでありましてな。慌てて119番に電話をしたという訳ですな」


早乙女はメモを取りながらその話を聞いていた。それを見た馬先も急いで手帳を取り出して聞いた内容を簡潔に書き留めた。


 「そうですか。では当時周辺に不審な人、物はありませんでしたか?」

 「いや特に変わった物は無かったはずですな。人はわし以外誰もいなかったと思いますが」


 ここで遺体の状態を思い返していた馬先の頭にふと疑問が湧いた。


 「あのー、被害者を発見した時首は気にならなかったんですか?」

老人に馬先が質問する。

 「はい?」

 「確かに被害女性の首が360度以上回っていましたね」

早乙女が同意と共に補足をする。

 「気になるもなにも分かりませんでしたな。首が隠れていまして、その何と言いますかマフラーでなくて…」

 「ネックウォーマー?」

早乙女が老人の頭に浮かんでいるであろう物の名前を言った。

 「そう、それですな。それが巻いてあったもんですから首については分からなかったんですな」

 「そうですか」


 その後聞き込みを続けたが、有力な情報は無いまま早乙女と馬先は引き上げる事となった。

 ちょうどその時早乙女の携帯電話に着信が入った。


 「早乙女葵です」

 『こちら獅子。まだ現場にいる?』

 「はい。間もなく帰還しますが」

 『良かった。つけ爪探してくれる?被害者の』

 「着けてたんですか?」

 『そう。それで右手中指と左手の中指と薬指のが剥がれてたんだよね。とっくに回収してあるとは思うけど一応見といて』

 「分かりました」

 『よろしく』


と言って電話は切られた。

 早乙女は馬先の方を向くと


 「獅子さんから要請です。現場に戻りましょう」

と言った。

 「何でですか?」

当然だが電話の内容を知らない馬先は尋ねた。

 「被害者のつけ爪を探すためです」

 「へ?証拠品はもう持ってかれてるんじゃ…」

 「鑑識が見落とすとは思えませんし、獅子さんもそれを分かった上で連絡してきてますから。私達がするのは念のための確認です」

 「なるほど」


納得した馬先と早乙女は島田美佐が倒れていた現場-車から数十歩だが-へ向かった。

 周囲数十メートルを2人で調べるが、結局つけ爪は見つからずに戻る事となった。

 その途中ある事が気になった馬先は車に乗り込んだ時に早乙女に質問した。


 「そういえば早乙女先輩。司法解剖ってどの大学でやるんですか?」

 「特装捜査局ですけど?」

早乙女はエンジンを掛けながら言う。

 「司法解剖って普通最寄りの法医学教室でやるんじゃ……」

 「異常性の高い遺体が多いのと得られた結果の正確性速報性等の理由から内部で処理する事になってるんです」

 「すると一体誰が解剖を?」

 「獅子さんが出来ますから…とりあえずは専門家ですし。さっき本人も言ってましたよ?」


ギアをまたもやセカンドに入れつつ早乙女が馬先の疑問の答えを言った。


 「あの~早乙女先輩。何でセカンド発進をしたんですか?」

その様子を見ていた馬先が聞いた。

 「気にしない方が良いというものです」

何故か微笑みながら言い放った早乙女であった。


 [同日 特装捜査局1F霊安室付近]


 「---それでは失礼します」


 カチャリ。と出来るだけ音を立てないように受話器を置くと獅子は気が抜けた様に息を吐いた。


 「遺族の了承は得たから…」


首を軽く回し、無駄な力を抜いた。獅子は司法解剖に際して遺族に了承を得るための連絡は何度もしているが、解剖を行う本人という事も相まって慣れるものではない。そのため大抵は緊張によって余計な力が入ってしまうのである。


 「裁判所で鑑定処分許可状を発行…は課長が行ってるから…待機か」


獅子は独り言を呟きながら比較的薄暗い廊下を歩き、解剖室に入ると設備を点検する。

 そんな中ある事を思い出した。


 「そういや、なんか軽かったなぁ。痩せすぎでもないし身長は普通だったから…ダイエット?いやでも気にする程じゃなかったしな。女心は分か…待てよ、死斑が無かった訳だからもしや…」


下唇に拳を当てながら考えていた獅子はある事に思い当たると、一瞬血の気が引けたような顔になり点検を再開した。 

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