EP.0 報告書
平成26年8月4日
報告書
特殊事件捜査室
警視正 叶竜大
今年7月に発生した事件について下記の通り報告する。
記
1.発生日時
平成26年7月15日14時32分頃
2.現場
東京都新宿区
3.概要
歩道を通行中の35歳男性、24歳女性、60代とみられる身元不明の男性。以上の3名が突然発火し死亡した。
4.補足
当事件担当の警視庁捜査員4名が行方不明となっている。なお、当時はいずれも被疑者と思われる人物を調査中であった。
5.備考
目撃情報として「化け物の仕業」「怪人が燃やした」などといったものが挙げられている
以上
-----------------------
背の低いテーブルを挟んで2人の男が座っている。
「--つまり君は何が言いたい」
そう言って初老の男は報告書を机に置きながら目の前の比較的若い男-この男こそ報告書を作成した叶竜大である-を眼鏡越しに見た。叶は質問には答えずタブレット端末を横に置いたブリーフケースから取り出すと、何か操作をして初老の男に差し出した。
「参考までにこれも。現場付近の防犯カメラの映像です」
差し出されたタブレットには多数の人間が行き交う様子が映し出されていた。初老の男はしばしその映像を注視していたが、何かに気が付くと映像を少し戻して今度はある人物に注目しながら見た。何回かそれを繰り返すと、衝撃を受けたような表情を浮かべながらタブレットを叶に返した。
「念のため聞くが、編集やら合成はしていないだろうな?」
「無論です」
「しかしこれが事実となると…」
「現在の装備では逮捕は困難でしょう」
「ああ」
「ですので、対策のための新しい組織の設立を提案しようと思いまして。常識を逸脱した事件はこれだけではありませんし」
「そのためにここに来たという訳か。確かに技術の発展に伴って犯罪も高度化している。その手の組織は必要だろう。検討しよう」
と言って立ち上がろうとした初老の男を制して再びブリーフケースから何かを取り出すと、叶は言葉を続けた。
「後は貴方だけです。長官」
取り出された物は書類の束であった。なお、その全てにサインおよび捺印がされている-当然だが全て異なる人物の名前、印鑑-。それを見た初老の男-長官は呆れたようにため息をつくと、立ち上がって事務用の机に向かい引き出しから印鑑と万年筆を取り出して応接セットに戻り、叶から渡された書類にサイン、押印した。
「有り難うございます」
「ところであの映像は君が見つけたのか?」
「はい」
「君は実働捜査は行わないはずだが?」
「法律上は」
「またやったのか」
軽く疲れたような声でそう言って長官はがくりと肩を落とした。叶は何も言わず急ぎぎみにその場を立ち去った。
この翌年、"高度化、多様化した犯罪への対処及び常識を超えた脅威の排除"を目的とした組織が新たに設立された。但し、その組織の詳細を知る者は極僅かである。