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 檻

作者: 磁力の海


「 すいませんが、治療方法もありませんし…

  更に延命処置も芳しい結果はこの病気に限ればありません。」


 沈痛な面持ちにも見えるけど、お医者なら慣れたもので演技かとも思う。

 ただ、私が慣れているわけじゃない。


「 はあ… 」


 長すぎる検査入院の結果を聞いて、私はそう言って固まるしかなかった。

 なんせ、まだ19年しか生きてないのに現実的に受け止めれる訳がない。


「 せ、先生。そ、それが結論なんですか? 」


 長い長い病気の説明の末、聞いたことも無い病名を告げた後の話がそれか?

 隣のお母さんの血相を変えた顔を見ながら、私は更に絶望の言葉を聞く。


「 ええ、残念ですが余命は半年も無いでしょう。」


 私は、呆然とそれ以降に続く緩和治療や心理カウンセリングなどの説明を聞いたが

 何も頭に入ってこなかった。


 恋愛経験も無く、決して容姿も良くなく、愛想も無く、

 ただ勉強に没頭してきただけで、その結果に達成感も無く私の人生が終わる。

 

 どうやってその後を過ごしたかは覚えていないが、

 絶望だけを抱えて一人寂しく寝ていたのは確かだろう。


 しかし、翌日の朝…とんでもないことを告げられた。


「 冷凍冬眠なら助かるかもしれません… 」


 れいとうとうみん?ってなんかSFなんかで聞いているけどぉ…


 それから難解な医学用語と工学系の言葉を沢山聞いたが、今一つ理解は出来なかった。

 

 ただ、一つ分かったことは、

 まだ動物実験段階で多少実績のある危うい物っていうだけだった。

 人間としては…

 ただ、蘇生まではされていないが同様の処置をして何十年と眠っている人が

 現実にはアメリカにいるらしいって事だけだ。

 なんでも、私と同じような不治の病を治すため眠っているらしい。

 が、蘇生実績のない馬鹿なものって

 エジプトのミイラとそんなに変わらない怪しいものだとは思ったが、

 どうせ、

 彼氏どころか友達もいないし大学でも存在感の無い私が

 半年生きていたって…

 保険も効かない高額な延命治療と副作用で寝たきりになるって聞かされちゃあ

 死んだ気になってやってみる価値はある様に思えた。



 私は意を決して、長い長い眠りにつくことにした。

 起きられる保証はどこにもないが、とりあえず今は微かな希望に賭けるしかない。

 神のご加護を…と信じたことも無い神様に一言虫のいい事を言って

 大勢の技術者が取り囲んでいる手術室へと入っていった。



 直ぐに麻酔をかけられてから、私は夢も見ることも無く

 深淵の闇へと堕ちて行った。



” は! ”

  私は、突然目覚めた。

 透明な水のような液体の中で漂うように浮かんで…真っ裸だった。

 棺桶のような長ぼそい透明のチューブに入れられているのは理解したが、

 全く動くことのできない私は、 

 見たことも無い模様の見知らぬ天井を見ながら…生きていることに感謝した。



「 もう心配ないでしょう、よく頑張りましたね。」


 私は目覚めてから1週間後には何とか自立歩行も出来るようになり、

 食事も普通に取れるようになった。


 そして、今、目の前で物凄くハンサムな若い医師に祝福されていた。

 周りの看護師のような美しい女性たちは、

 小鳥のように美しい声で歓声を上げ私に優しく微笑みかけ抱き着いて来る。

 友達もいなかった私は、同性のハグすら経験は無かったが、

 柔らかいその感触と、甘い匂いには正直戸惑った。


「 あ~君たち。彼女に必要以上に抱き着かない事。

  回復したからと言ってもですねぇ、まだ万全ではないんですから。」

 医師はそう言ってきつい眼差しで看護師たちを注意する。


 ?いいじゃん。

 そのぐらいはフランドリーだと思うし、彼女たちは結構私と仲良かったし

 看病だって声かけだってすごく献身的だったからと思うけどね。

 何で怒るんだろ?


「 先生のケチ! 」

 って小声が後ろから聞こえて来た…先生のケチ?

 

 違和感を感じたが、医師は直ぐに別の話を切り出してきた。


「 さて、望さん。

  今までは回復を優先して治療をしていたんで黙っていましたが、

  そろそろ現状というものを説明させてもらいましょう。

  かなりショッキングな内容でしょうが、

  私たちは出来るだけサポートさせてもらいますから安心して聞いてください。


  最初にあなたが寝ていた時間ですが…実に6500年と258日です。」


「 ろ… 」

 私はそれ以上言葉が出なかったが、とりあえず手振りで先を続けるように促した。


 6500年…彼の説明は壮大なものだった。

 国境は既に無く、

 言語は統一化され戦争もほぼ無くなった理想のような世界を

 彼は淀みなく要点だけを分かりやすく説明してくれた。

 その長き間に人類は凄まじい科学の進歩の末、

 あらゆる病を克服し、太陽系に植民惑星を作るなど

 夢のようなことを成し遂げ、

 ほぼ技術的には何の不具合を感じないほど発達したと聞かされた。

 

「 それを可能にしたのは、こいつです。 」


 医師は、小さな瓶に入った透明な液体を私に見せ言葉を続けた。


「 この中には”レギオン”という微細な生物が大量に存在しています。

  これらは、我々が幼少期に摂取して永久に共存していく生物です。


  そして、これらは種類ごとにより役割を決め

  我々の脳を活性化し体力も向上させます。」


 それから細かい説明があった。

 要は寄生虫のようなその生物が人類と共生をすることにより発達してきた…

 という事だ。

 う~ん、でもなんかグロイとも思う。

 古い人間(目の前の人からしたら6520歳だもんね。)

 の私からしたら、サナダムシを体で飼ってる芸能人みたいな印象があるから。


「  この”レギオン”を摂取すれば、あなたがこの世界で生きていくための知識を

  約2週間で全て履修できます。

  そうですね~、今では言語も違いますし数学的要素もかなり必要ですし、

  歴史や文化など常識的なものもたくさんありますから

  普通に勉強してとなると…多分、200年ほどかかっちゃいますから…

  とりあえず私としてはお勧めですね。 」


 彼から、提案を持ち出された時には多少気も落ち着いていたので

 彼の提案を考える前に疑問を解消しておくことにした。


「 言語が違う?って私…起きてから日本語しか聞いていませんですけど。

  それに、6500年たった割には… 」

 私は周りを見回す。

 起きてからこっち、病院内をリハビリで歩き回ってもいたが

 確かに機器や、一部には科学の進歩は感じられていたけど

 基本、コンクリートの塊とガラスなどで構成された建物だし、

 外の緑も…よく見る手入れされた庭の様だったからだ。


「 ああ、この病院ね…確かに今の世界ではこんなものありません。

  ただ、あなたは6500年眠っていた為、

  回復までにショックを与えないためですね作ったんですよ。」


「 作った? 」

 私は仰天とした…そういえば他の患者を見たことも無い。

 しかし、歩き回っただけでもここはかなりの大きさだった。

 敷地内の庭だってすごく立派だったし…

 私の拙い知識でも、私の時代なら数十億は下らない費用が必要だけど。


「 ええ、状態は芳しくなかったですけどあなたと一緒に発掘された機器を再生解読し、

  資材も砂や石、石灰石、鉄鉱石のレベルから採掘しまして

  ゆっくり時間をかけて建設しました。

  庭の植物たちは現在は品種改良が進み過ぎて別の外観ですので、

  極地にて種子状態での保存されていた植物も特別に栽培し… 」


 あとは、食器類やシーツの一つ一つに至るまでフルオーダーメードで作成…

 いくら馬鹿な私でもそれが莫大なお金が必要な事ぐらいよく分かる。

 

「 ああ、まあ軽く小さな都市ぐらいはお金はかかっています。」


 引く…引くわ。


「 外の世界は… 」

 そう言えば、私は病院と周りの壁とそこから見える空しか見たことが無かった。


「 ああ、ここからは小さな町でも近い処で200キロは離れていますよ。

  何があなたに危害があるか分からないから…

  地域を封鎖する為に砂漠に建てられてますからここって。」


 壮大過ぎるお話に私はボケっと口を開けた。


 後ろから…何故か「 か…可愛いわ。」とか「 可哀想ね、抱きしめてあげないと… 」

 とか変な声が小さく聞こえて来る。


「 言語に関しては、もっと単純な話ですね。

  私たちは末端に至るまで完璧にあなたの時代の日本語をマスターしています。

  同じように発掘した資料を分析して作り上げましたけど…

  単純な言語で助かりました。

  殆ど2日でみんなマスター出来ましたから。」


「 …それも、あの”レギオン”ってやつのおかげですか? 」


「 勿論です。 」


 私は、”レギオン”を摂取しないといけないと思った。

 話の流れからすると、見もしないし聞いたことも無い言語

 例えば私なら古代のエスぺランド語のような訳の分からないのを2日で覚えるって事だ。

 英語だって満足じゃない私がたった2日で…

 それって天才になる薬じゃン!

 サナダムシだって回虫だって天才になるなら飲んじゃわよ私!頭悪いもん。

 

「 で、ここであなたには選択をする必要があります。」

 医師がぐっと身を乗り出してきた。

 ああ、後にして欲しい…頭が混乱してるしって”選択”って何なのよ!


「 選択する時間はここ1年間は留保してかまいません。

  その間、ここの施設を使い、私たちも面倒を見ますから安心してください。

  選択する項目は、

  この”レギオン”を飲むか飲まないかの選択です。」


 馬鹿な質問をしてくるもんだと思った…飲むに決まってるじゃない!

 私が何かを言う前に、

 急に後ろから看護師で一番大きくて胸もバカでかい人に口を押えられる。

 思わず、私はきつい目で彼女を睨みつける。


「 御免なさい…この場は全て監視対象になっていますので

  あなたの言葉は全て記録され、言質とされる可能性があります。

  だから、

  彼の言葉を最後までちゃんと聞いて自分の意思で考えて返事してください。」


 彼女は泣きそうな顔で何度も頭を下げながら私にそう言った。

 さっきまでの自由でおおらかな雰囲気がその場から消えて、

 後ろの看護師や、医師の顔も少し苦し気な顔つきになった。


「 ええ、彼女に言う通りです。

  それにご返事は先ほども言った通り1年間ある訳ですから…


  選択についてはいろいろな規制がありましてそれについては後ほど詳細に説明します。

  この場で言えることは…


  ”レギオン”を摂取すれば、我々と同じ現生人類としてこの世界の一員として

  そう遠くない未来になることが出来ます。

  

  ”レギオン”を摂取しなければ…残念ですが、あなたはこの世界の人類としては

  生きてはいけません。

  一生…多分、一生この大きな施設…”檻”と言っても構わないでしょう。

  その中で暮らしていく事になります。 」


「 もが? 」

 そんなの答え一つしかないじゃないの?


「 あなたの損得勘定を考えたら…”レギオン”を摂取するのが当たり前ですけど。

  私とそこにいる「彼女」たちの願いは…

  あなたに”レギオン”を飲んで欲しくはありません…

  もし、あなたが飲まない選択をするならば、私たちは命を懸けてでもあなたをお助けし

  一生あなたに尽くします。」


「 もあが? 」

 何だって…一生私の為にって何よ…私は何なのよ一体。

 でも、周りの看護師たちが私の周りに集まって来てこういった。


「 飲まないで…何でもする、何でもするから…飲まないで。」

 必死な言葉だった。

 美しい彼女たちの顔が崩れるほど懇願しているのがよく分かった…しかし、なんで?

 ハンサムな先生も顔を歪ませて頭を下げている。


 私は、口を塞いでいる彼女の手を軽く叩いて振り返る。

 私の強い意志を感じてか彼女は手を放してくれた。


「 よく分かりませんが…そんなに必死にお願いされちゃあ

  返事は1年間ぐらい待ちましょう。

  まだ20だし1年ぐらいは社会に出なくてもいいですから。

  

  しかし、なんで私が飲まない方があなたたちが喜ぶんです? 」

 不思議な気がした。

 目の前の彼も、後ろの彼女たちも恐らくは仕事でこの場にいる筈だし、

 彼らにも家族が在ってそれぞれの生活ってものがあるはずなのに…


「 一生をかけて 」とか、「 なんでもする 」

 とかははっきり言ってただ事では無い。


「 実は”レギオン”にはとんでもない副作用がありまして…

  一度でも飲めば…血筋に女性が生まれることは絶対になくなります。

  既に、これが副作用を顕現させてから1000年…

  この世には”女性”という性別は無くなったのです。 」


「 はあああああああああ!!! と、ということは。」


「 ええ、あなたが人類最後の女性です。」


「 だ…だって、そこに… 」

 私は震える声で後ろを振り返り、美しい看護師たちを指さした。


「 ああ、”彼女”達は女性ではありません。

  人類が存続の危機を克服する為に生み出した”妊娠もする男性”です。」


 があああああ!!!

 私は、思わずそう言って立ち上がると後ずさりしたが…よく考えたら先生も男性だった。

 しかし、卑怯、卑怯!

 男なのに私より綺麗で…胸もあってお尻も柔らかそうで…見た目まるっと女なんですけど!!

 男の娘ってレベルじゃないんですけどぉおお!!


「 驚くのは無理ありませんね。

  私も発掘するまでは、”彼女”達は当たり前の存在だし

  私には子供もいますから、”彼女”達とも性交渉の経験は当然あります。

  でも、それが普通だったんですよ…1000年間。」


 私はしょんぼりとしている先生の肩に手をやった。

 ”彼女”達は物凄く違和感あって怖いけど…先生は私の世界では見慣れた男性だから

 思わず慰めてしまった。


「 あ、手を離してください…今必死に耐えているんですから。」

 先生はそう言いながら血走った目で私を見て来る。


「 あ~、”妊娠しない男”って男性ホルモンが私たちの10倍だから

  望さん…危ないわよ。

  こっちいらっしゃい… 」


 私は、看護師の中で最も女性らしく美しいその人のもとへと後ずさりした。


 でも…


「 うん、でもね…私たちだって望さんの事興味いっぱいなの…

  体なんか触りたいって思っているのよ。

  でも、嫌われたくないから絶対にしないから安心していいわ。」

 そう言いながら、私の手を強く握っている。


 頭が痛くなった。


「 私たちは特別な訓練を受けているから…1000年ぶりの女性でも我慢できるの。

  もし、あなたが普通の街で暮らしたら大変なことになるの。

  其れこそ”レギオン”飲んで私たちのような”妊娠もできる男”になるか、

  ”妊娠しない男”になるしかないのよ。


  あなたは、気が付いていないかもしれないけど…

  ここにいるみんながあなたの事が大好きなのよ、物凄く可愛いし美しいし

  匂いだって気配だって…特別なのよ。」


 とんでもなく褒められた…生きていて初めてだった。

 が、次に彼女の言った言葉には私は石になるしかなかった。


「 1000年間なかった本物の性交渉ってのをみんな経験したいから気を付けてね。

  もし、そんな目に会いそうになったら必ず私に相談してね。

  ”ぶっ殺してやるから”」

 その言葉は頭がクラクラするほど暴力的な響きだった。


「 あの~ 」

 私は美しい看護師さんとその仲間の皆さんの顔を今一度見渡す。

 私のいた世界ではとんでもない美人ぞろいにしか見えなかったが…


「 その~みんな経験したいって言ってましたけど…

  あなたたちもその…あるんですか?その…あ… 」


「 ああ、男性器ね…ついてますよ。男だから当然でしょ…

  ま、妊娠する為に女性器もどきもちゃんとついてますけど…あなたとは違う場所だし。」


「 へ、見た? 」

 

「 看護師なんだから当たり前ですけど…しかし、私たちよりずいぶん複雑… 」


「 やめて~~~!!! 」


 私は、それから先生と”彼女”達にいろいろと教えてもらった。

 この世の”彼女”達の体の秘密を…


 ”妊娠できる男性”は同じく”妊娠できる男性”を相手に妊娠もさせらる。

 男性器は殆ど”妊娠できない男性”とほぼ同じ大きさと機能があるらしい…

 聞いていて私は真っ赤になったけど…

 長さや勃起角度や持続時間なんて流石に、男同士なのか普通な会話らしかった。

 なおかつ、

 女性としての機能の中にある生理は無いとし、女性独特の病気も少ないし

 何より、ヒステリーや精神の弱さとも無縁らしい。更に、

 基本的に男が作り出した女性もどきなのでブスは存在しないというから

 反則技のような存在だった。


  で、その後私はまだ病院にいる。

 ”彼女”達に囲まれて生活はしているけど…身の安全は確かだ。

 お互いに私が好きなので、

 お互いをすごく細かく監視しているからだ…


 その後は…どうしようかと今思っている。

 でも、妊娠して子供は生みたいと思う…人類で最後の女性として。


 たとえ、一生”檻”の中で生活したとしても…出来るだけ多くの子供を産みたいと思う。


  


  


















   









    















  

 




 


続編も作ってみたいかな。

今度は”彼女”が主人公で書いてもいいかも

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