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精霊のソロバン勘定  作者: 十参乃竜雨
第一章 その背は凛々しい
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自治会室のとある日の風景

「次はこれをお願いします。これが終わればこれをまとめてくれますか。その次はこれを計算しいておいてください」

 レイミィが自分の仕事を片付けながら俺に指示を出してくる。

 自治会の仕事は多忙を極めていた。次から次へと俺の割り当てられたデスクにわんさか紙の束が積み重ねられていく。頭痛を発症しそうになるが、頭痛する暇があったら手を動かす方が現実的だ。

「いやいや頑張っているね~」

 自治会室の一番の上座に座っているのがミリア会長だ。今日も一段と見事なプロモーションが自己主張していらっしゃる。

 でもその机の上はきれいに更地されている。

 わぁ、俺とは大違いだぁ。

「二週間近く経つわけだけど彼はどうかね」

 本人の前で本人のこと言うのはやめてくれませんかぁ。

「いやぁ、どれくらいが限界かはかるために無理難題を押し付けたのですが、予想以上に持ちこたえてますね。現在進行形で頑張り中です」

 道理で理不尽だと思ってたんだけどわざとだったんですね。

 二週間でいくつかわかったことがあった。

 まず、レイミィが同じクラスであったことだ。彼女はこの学園の中等部から上がってきた。基本みんなは高等部からの入学がほとんどであり、逆に中等部は少数だ。

 しかし、小さい時から精霊を使う才能を見込まれているだけ誰も能力は高い。レイミィもその例に当てはまる。

 俺に無理難題を押し付けているというが俺の何倍の書類を俺と同じ時間で片付けている。中等部から自治会に参加している経験もあろうが、本人の才能が高いから可能にさせている事だろう。

「優秀な部下を得て、お姉さん嬉しいよ」

「あとは会長が手伝っていただけると完璧なんですが」

 レイミィがチクリと刺すのだが、物怖じする様子は全くない。そもそも効果がないのはレイミィが一番分かっているのか。

「では、この迷える書類達に自治会長承認印を恵んでやってください。特に問題ない物しかありませんので」

 判を押すだけという簡単な仕事与えた。

 ミリア会長が事務仕事を基本的には行っていなかった。しかし、仕事をさぼっているというわけではなかった。

 学園は内外両方に危険をはらんでいる。

 内には入学式の時のような学生の暴走。

 外には優秀な人材を狙う非合法の組織。

 もちろん教師等の学園の大人達も対応しているのだが、どうしても手が行き届かないところがある。それらをすべて会長が一人で補っている。

 昨日の晩も学園をつき狙っていた非合法テロ組織を一人で壊滅させたと涼しい顔で言う。

「会長。あまり無理しないで下さいよ。ゆっくりぃイイイ!」

 ねぎらいの言葉をかけたのだが、言い終わる前にミリア会長が飛びついてきた。俺の席と会長の席は離れているはずなのだが、すごい勢いで飛びついてきたものだから俺は押し倒される形となる。

「心配してくれるのはセルファ、君だけだよ~」

 すいません。あなたの大きな女性の象徴二つが私に当たってます、すっげぇやわらけぇ、いろんな意味でやばいです。はい。

「あのお二人さん、十秒以内に離れてくださいますか、粉砕したくなりますので」

 レイミィがそういうと自治会室の温度が下がり、肌寒くなった。

 原因はレイミィの精霊の力だ。

 彼女の精霊は魔術型で氷を扱う。彼女の実力はミリア会長の影に潜んでしまうものの相当なものだ。彼女の精霊の力を認める者の間では神童と呼ばれているほどだった。

「あれ、あの冷静沈着のレイミィがヤキモチかい?」

「はい?何を言っているのですか。ミリア会長。私はただ仕事の邪魔になるということをいいたいだけであって、決してそのようなヤキモチというものを、一塵の思いも持つわけがないわけであって……、たしかに彼はだらしない男性とは少し違いますが、と、とにかくあなたは自身が女性であると認識するべきであり…………」

 自治会室内の気温とは違ってレイミィの顔は赤くなっていく。レイミィはノンストップでミリア会長を畳みかけようとする。

「あれ、私はてっきり私ラブのレイミィだからてっきり私にヤキモチを焼いていると思っていたのだが、彼にヤキモチを焼いていたのか。いやぁ、恋人を取られた気分だなぁ」

「な、な、な」

 確かにミリア会長は『誰』とは言っていなかったな~。

「かいちょうぉオおおおお!」

 精霊の力を使うわけでもなく、手元にあった書類をミリア会長へ投げつけはじめる。よけれなさそうな量を投げつけられているのが、ミリア会長はいとも簡単にひらりと蝶のように避けていく。さすがの身体能力である。

 それはレイミィが疲れきるまで続けられたが、会長は投げられた書類に最後まで当たることはなかった。自治会室はあっという間に悲惨な状態となった。

「……とりあえず、セルファ。…………私がしでかしたこと…………ですので、会長と……外に……出ていていただ、けますか」

 スタミナが切れて肩で息をしているレイミィに俺は首を縦に振ってこたえる。

「じゃあ、行こうか、セルファ」

 俺と会長は一緒に自治会室を出る。出ると扉の向こう側で紙を片付ける音が聞こえてくる。気づくと会長はもう歩き出していた。

 俺はその背中に問いかける。

「あれはやりすぎでは?」

「いや、セルファ、あれでいいんだよ」

 ミリア会長は振り向くと俺に微笑んできた。

「彼女は良い意味でも悪い意味でも真面目なんだ。たまには息抜きも必要なのに、それをしようともしない。息抜きするように命令しても断固としないからね」

 また歩きながら話し始めた。俺はただそのあとを追いかける。

「彼女の先輩としてこれぐらいの気分転換ぐらい提供しないとね」

 正直、あれは息抜きにはならないだろうが、ある種の気分転換はできるのかもしれない。会長なりの気遣いなのかもしれない。

「そうだ、私の仕事を手伝ってくれるかな」

「別にかまわないですけど」

 俺はそのまま会長の後をついていく。




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