プロローグ(5)
「お兄ちゃん!」
目の前には自分と同じ髪をした少女が自分の腕をとっていた。フリルのついた白いワンピースで麦わら帽子をもう片方の手で押さえているその腕は白く細かった。
こんな妹がいたら、目に入れてもいたくないんだろうな。
でも願ってももう手に入れることのない現実。
だからこれが夢であると自覚する。
「お兄ちゃん、私、明日には家から出て行っちゃうけどさみしがらないで」
家のそばの向日葵畑で、向日葵に負けないほどの笑顔をする少女。
「たまには家に帰ってくるからね」
心配させないようにするその優しい心はとても眩しい。
「お前は、よく無茶をするからな。それもお前は自分のためでなく誰かのために」
そうだこの時に俺はこう言った。
彼女はよく近所の女の子をいじめていたガキ大将に殴り掛かりに行ったり、失くし物をした人がいれば日が暮れても一緒に探していた。
俺はよく自分自身のこともきっちり大事にしろと怒っていたような気がする。
「大丈夫だよ、私は家族に心配させることなんてしないよ」
笑う少女。ほんとにこいつはよく笑っていた。
「私は家族を少しでも楽をさせるためにも頑張らないといけないんだから」
眩しいほどにどこまでもやさしい少女だった。
「お兄ちゃんは私が養ってあげるよ」
「馬鹿言うな」
いたずらな笑みで見てきた少女の俺は言った。
そしてそれからもとりとめのない会話をする。
その時は感じなかったが、とても幸せな時間だったと思う。
もう、二度とあの時の彼女は俺の目の前に出てこない。