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精霊のソロバン勘定  作者: 十参乃竜雨
プロローグ
3/40

プロローグ(3)

「諸君は厳しい選考に勝ち残った猛者だ。この学園に入学できたことは誇りに思っていい」

 今壇上ではこの学園の生徒自治会長の挨拶である。

 銀髪ですらりと長く伸びたきれいな髪。そして出るとこは出て締まるとこは締まるといった完璧なプロモーション。

 これはお近づきになりたいものだ。

『セルファ~、鼻の下伸びてるわよ』

 当然のことながら隣にすぐ人がいるため、うるさいと、自分の精霊カシィアに言えるわけもなく。グッとこらえる。

 で、壇上と俺の間にいる奴の精霊が巨大すぎて会長さんのお姿がはっきりと見えないのは腹が立つ。万死に値すると言ってもいい。鳥のエサにでもなってしまうがいい。

『人が精霊が見えないように、動物も精霊が見えないんだから食うなんてできないわよ』

 言われなくてもわかってる。わかっていなかったらそこまで苦労しない。

『あのデカブツ精霊をどかしてほしいのならわかってるわよね』

 カシィアは小悪魔な笑顔をして俺の目の前を浮かんで言った。

 ああ、わかってるよ。『対価』だろ。

 精霊は人との契約によって人に多大な恩栄をもたらす。

 それはこの世界の常識だ。

 しかし、精霊を見たり話したりできないのが人間。つまりはこの世界のほぼ全員は知らない。精霊がタダで恩栄をもたらしているわけではないことに。

 俺はカシィアに向かって二本指を立てる。

『よしきた!まかせなさーい♪』

 カシィアは、会長さんと俺の間にいる精霊の所へ行った。

 精霊の力を行使するためには対価が必要なのである。対価といってもそれぞれである。のどが渇くといった比較的軽いものから、生命自体を奪っていくものまである。対価が大きければ大きいほど巨大な力を行使することができる。

 肝心なのは精霊と話せない人間はそのことを知らないことだ。

 だから世界の非常識となっている。

 いろいろと考えていたら目の前のデカブツ精霊が少しだけ移動してくれた。

『ふふ~ん、これでチキン2本ゲットだぜ♪』

 そして、俺の契約精霊カシィアは簡単なことであれば鳥の揚げた肉さえ与えればだいたいやってくれる。あくまで簡単な事であればの話なのだが。

 上機嫌に飛んでいるバカ精霊のことは置いておいて、俺は目の前の会長を見る。

 彼女の名はミリアリー・ウィルド・クラウィン。豊かな銀の長髪は輝いて見える。きっちりと首元まで閉めた制服は凛々しさを醸し出している。そんなきっちりとしているのだが、逆にすばらしい彼女のプロモーションは隠しきれていない。

 胸の部分の布は力強く張っている。はじけてくれればどんなに良い事か。

 この学園の素晴らしい所は、色調さえ変えなければ良識の範囲内で制服を改造できる所だ。

 彼女はスカートを長めにしており、ひざ上までのソックスを履いている。その二つが織りなす絶妙な生足のチラリズムは天にも昇る勢いだ。

 その禁忌の領域に触れることができるのであれば、今ここで死んでもいい。

「この学園は寛容だ。だからハメを外しすぎないようにこの学園で青春を謳歌したまえ」

 そして彼女の背後には契約している黒色の甲冑の精霊がいた。中身は暗くなっていてよく分からない。もちろんのことながら俺にしか見えていないだろう。

 そして、これは事前に調べた情報だが彼女の精霊の力は身体強化型の精霊であるらしい。

 精霊の力はお偉い学者たちによって分類されており、大きくまとめると強化型、魔術型、特殊型の三つに分けられる。

 強化型は身体または物体を精霊の力によって強化する精霊の力である。

 魔術型は水や火などといった物体を生成する精霊の力である。

 特殊型は前者二つでは分類することのできない精霊の力である。

 特殊型は予知や記憶操作、幻術などといえばわかりやすいだろう。そして俺の精霊であるカシィアは特殊型に分類される。『願い』に対してそれに見合う『対価』を支払えば何でもできる。よって強化型でもなく、魔法型でもない特殊型だ。

 ミリア会長は身体を強化する精霊であり、さらに他に類を見ないほどの実力があるらしく、国の軍からスカウトをされているとのこと。エリートコースまっしぐらである。

 いろいろと考えている間に会長の挨拶も終わり、一通り黄色い声援が終わった後、入学式は終了した。

 教員が俺ら入学生に指示を出し始める。俺は皆が動き始めるとそれに動きを合わせて外へと出る。

 この学園はとにかく広い。そりゃ、未来の国を担う若者の学園ということで、国が力を入れているのは分かる。でも徒歩で学園を外周しようとすると二時間はかかってしまうのはどういうことだ。それにやたらと建物に金がかかっていて、どこかの豪邸かお城に迷い込んでしまったのではないかと錯覚してしまう。

 だからこの学園に慣れていない新入生達は浮ついたり落ち着かなかったりしている。

「おいてめぇ!」

『あら、ケンカぁ?』

 集団の中でひときわ大きな声が起こる。

 俺はカシィアの声を無視してその声のした方に顔を向ける。そこでは二人の男がもみ合っていた。

『あらぁ、青春ねー』

「さっきハメを外しすぎないようにっていう会長様のありがたいお言葉は聞いてなかったのかよ」

 先ほどから大きな声を上げている男は目つきが悪く制服も乱れている。そして相手の黒髪のガタイのいい男の胸ぐらをつかんでいる。

 女教師がその騒ぎを止めようとしているが、どこかの小動物みたいにあたふたとあわてているだけだ。なにこの可愛い生き物。いろんな意味でペットにしちゃいたい。

 他の生徒たちは少し離れてその二人を取り囲むようにして傍観を決め込んでいる。

「何邪魔してくれてんだ?」

「女性にしつこく言い寄る馬鹿の髪をひぱって、拳大のハゲを作ってやろうとしたんだが」

 その一言に事の次第が見えてきた。目つきの悪い男、不良Aとしよう。おそらく近くにいた女生徒にちょっかいをかけていたところを黒髪の男がお仕置きしたというわけだ。

『あら、河童が見れると思ったのに』

「この野郎なめやがって!」

 不良Aが手のひらを天に向けた。すると空気が揺らぎそこから火の玉が出現する。

「あの不良A、魔術型の精霊か」

 よくよく見てみると彼の後ろには赤毛のトカゲがいた。それが不良Aの精霊だろう。

 モブのくせになかなか良い精霊じゃないか。

 俺は黒髪の男のほうを見る。彼の精霊は……。

 …………なんだ上半身裸の色黒筋肉マッチョ人型精霊は。

 肌がテカテカしてる。何あれ、気持ち悪い。子供が見たらトラウマ確定。

「死ねぇぇええ」

 そうしてる間にも不良Aが火の玉を投げる。おそらく戦闘ではなくケンカに慣れた程度であろうが、かなりの威力に見える。

『止めないの?』

「止めないさ」

 理由は至極単純。その必要がないからだ。

 黒髪の男は自分に飛んでくる火の玉を顔の前の手の届くところに来た時に弾き飛ばす。左手で虫を追い払うかのように。

 彼もミリア会長と同じく身体強化型の精霊の契約者であろう。精霊の力を借りれば火の玉を弾き飛ばすことなどたやすいことだ。

 しかし、

「あのバカ!」

 どうやら黒髪はおつむが足らなかったらしい。

 火の玉を弾き飛ばした先が悪い。

 その騒ぎの周りには多くの生徒がいる。全員が優秀な精霊使いであれば何の問題もなかろう。でも中には非戦闘系の精霊を持つ生徒、精霊を扱えるがまだ契約する精霊がいない生徒なども平然と混ざっている。

 その火の玉の先には明らかに精霊と契約してなさそうな小柄な男子がいた。

 あまりの出来事にその男子はその場で動けなくなっていた。

 その火の玉は彼の顔めがけて飛んでいる。

 俺は彼を助けようとその場に向かうがとてもじゃないが間に合わない。

 そして一瞬のうちに火の玉が彼の眼前へとせまる。そんな時だった。


 世界は白黒の停止世界へと反転する。


 そこではあらゆるものを停止させる。それは物体から時間までありとあらゆるものだ。

 動くことができるのは……。


『対価交換の部屋にようこそ』


 俺と化けの皮を自ら剥がしてきたカシィアだった。

 彼女はすべてを悟ったかのようにただ不敵に笑う。




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