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精霊のソロバン勘定  作者: 十参乃竜雨
プロローグ
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プロローグ(2)

 春といえば始まる季節。

 誰もが新たな生活に胸を躍らせる季節。

 自分は今、この春から通うことになった学園へと登校している。寮生活になるのだが、その寮から学校までの道は一本道になっている。それも新緑が芽吹く並木道である。誰もが新しいことに心を湧き立たせる。


 グレントフィリアス・フィリスフィル精霊学園。


 それは自分が通うこととなる学園の名である。通称、グレフィル学園。ここに通うための最低条件が精霊の力を使う素質があることである。

 この世界は、なにもかもすべての物事において精霊の力がすべてである。

 世間一般ではこのように言われている。

 精霊の力を借りて火を放てるのであれば軍のエリートの道を歩めるであろう。

 そのような類が数十種類ある。

 とにかく精霊はこの世のすべてである。

『ねぇ、おなか減ったんだけど、なんかない?』

 この学園に入れるということは、世の中の勝ち組になれる。

『チキンが食べたい。ねぇ、買ってきてよ』

 かといって自分はそういった出世の興味なんぞ塵よりもない。俺の野望において食って寝れるだけの金さえあれば大丈夫だ。

『ねぇ、聞いてんの?』

 じゃあ、俺の野望とは何か。

 それは男であれば、誰しもが夢見ること……。

『ねぇ~、チ~キ~ン~』

 美女とお近づきになってあわよくば恋人になること。

 精霊は美女が好きなのか、グレフィル学園に通う女子は軒並みレベルが高い。貴族のお嬢様だっている。

 貴族と平民がくっつくなんてあり得るわけないだろうと思われるかもしれない。

 でもグレフィル学園ではそれがありえてしまう。

『ねぇ~、セルファ~!』

 精霊を使役しているというだけで、勝ち組。そう勝ち組なのだ。

 精霊を使役しているだけで貴族のお嬢様のご両親を納得させることができる。

 つまりこの学園に入学しているだけで問題無し。

『ぶ~ぶ~、無視するなぁ~、もー、こうなったら……』

 そして、気を付けなければならないことがある。

 それは精霊の事である。彼らはあくまで親切で人間と契約しているわけではないこと。

 彼らは人間に対価を求めている。

 そこまで考えて、急にうるさいやつが静かになったなと思ったその時だった。

 目の前に大きな物体が二つ落ちてきた。

 俺は避けることもできずに真正面から顔面で衝突する。

「あぁん♪」

 それはとても柔らかかった。まるで雲のような……って。

「ブァアアハァッァァァァァアァァ!」

 俺はその谷間から即脱出した。しかし過ちに気づく。

 ここは学園までの通学路。もちろん俺のほかにも生徒がいるわけで。

 周りから「何あの人?」「危ない人?」「こわーい」などといった小声が聞こえてくる。

(カシィアてめぇぇぇぇえええ)

 俺は柔らかい谷間に衝突させた犯人を睨みつける。俺の学園での評判が悪くなったらどうしてくれるつもりだ。

『何よ、無視するそっちが悪いんじゃない』

「その胸にぶら下げてんのは人間様だからご利益があんだよ、貴様のなんかちっとも嬉しくねぇよ」

 まぁ、気持ちよかったのは否定しないが。

 もちろん周りに聞こえない程度に静かに怒鳴った。そう彼女は人間ではない。俺の契約精霊である。周りの奴等はそれのことは見えていない。

 だから、周りから見れば俺は虚空に叫んでいるおバカさんに見えるというわけだ。

 正直、彼女と俺の関係は普通ではない。


 精霊とより強く結びつけばつくほど、その世界でのそれ相応の地位を得ることができる。


 精霊について学ぶにあたって一般常識である。

 ということはどのように精霊と結びつきを判断するのか。

 その一つとしての精霊の契約によって発現する能力の大小だ。

 その能力が大きければ大きいほど結びつきが大きいというのは当然であろう。

 そしてもう一つは精霊と契約者との繋がりの度合いだ。

 簡単に言えば、どれくらいコミュニケーションが取れるかということだ。

 この前者と後者では前者が主に判断基準とされる。

 後者がまったく判断基準として使えないからだ。

 つまり、精霊と契約できた数限られた者達であってもそのほとんどがなんとなくといったような程度でしか精霊を知覚することができない。

 通常では会話することはおろかその姿を見ることはできない。

 だから、俺と契約精霊であるカシィアとの関係は普通ではないのだ。

 それはどれくらいといえるのか。

 精霊との契約が始まってから、精霊と何らかの意思疎通ができた者が人間の記録上で七人。その中で今も生きているのは一名のみ。

 何らかの意思疎通ができた程度で七人なのである。会話し、ましてや触れ合うことができるというのは奇跡でもあり、異常でもある。

 おまけに自分の精霊だけではなく他人の精霊まで見ることができる。

 もしこのことが他の人にバレれば大変なことなのだが、むしろ現実離れしすぎて誰にも信じてもらえないかもしれない。

「とりあえず俺の学園生活を邪魔すんじゃねぇよ」

『ちゃんと食事としてチキンを用意してくれるのなら邪魔はしないわよ』

「はいはい、わかりましたよ」

 学園の食堂にチキンがあるのかどうか知らなかったがそう答えて置いた。

 そういって俺は始業式に出るためにホールへと向かう。


 ある意味特別な能力を持ってしまったがために見えてきたものがある。

 人間と精霊とが契約するというがあれは大間違いだ。

 契約というものは双方が同等の立場で互いが同意することによって成り立つものだ。

 あれは精霊の一方的な契約だ。

 ふたを開けて見てしまった俺だからこそ分かる。

 あれは精霊の悪徳商法だ。あれは精霊の上っ面の皮をかぶった悪魔だ。

『チキン、チキン~♪』

 俺の悪魔はそう嬉しそうに呟いていた。




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