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精霊のソロバン勘定  作者: 十参乃竜雨
第一章 その背は凛々しい
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生徒自治自警団の面々


「んン~! おいしい! とってもおいしい!」

 俺は食堂に来ていた。メンバーは自警団の面々でミツギさん、ウィニィ、トウジにジール。それにトゥルゥだった。

 ウィニィはデザートを口に入れては頬に手をあてて喜んでいる。とても幸せそうな顔をしている。トウジは相変わらずがっつりと食事をしている。

「ほんまにありがとね、セルファはん。ごちそうになって」

 ミツギさんの前にも同様にデザートがあった。

 というのも、俺はちょっとしたきっかけでこの食堂の大量の食事券をゲットしたため、一人で使うのもあれなのでみんなを集めて現在に至っている。

 まぁ、その大半はトウジの胃の中に入っているのだが。

「女の子は甘いもんに弱いんよね」

「そうそう、セルファ。これポイント高いよ♪」

 喜んでもらって幸いだ。それも笑顔の女性は目の保養になる。うん。

「腹の足しにならないの食べて何がいいかね~」

 トウジのその一言は女性陣を一瞬にして敵に回した。

「うわ、最低。トウジそれ減点だわ……」

「だってそうだろ、そんな甘いだけの物のどこがいいんだか」

 ちょうど4つ目の料理を平らげたトウジが言う。


「……………………トウジはん?」


 その五文字だけでその場の空気が冷たくピンと張りつめる。それは殺気に類似する気配。獣が獲物を仕留めようとするときの空気。

「それ以上過ぎた口使うんやったら、明日からずっと暇あげてもいいんよ」

 事実上のクビ宣言。

 トウジには効果絶大だった。自警団の給金は決して安くはない。それを断たれてしまっては補給路を断たれてしまうのと一緒なことだ。仕事が自分の性に合っていることもあり、トウジは絶対に避けたいはずだ。

「いえ、すみません、デザートはおいしいです。おなか一杯になります」

「それでよろしい」

 青い顔をするトウジをよそにミツギさんはデザートに口を運び始める。

「………………デザートいいなぁ」

 隣から声がしてみてみるとトゥルゥだった。女性陣にだけデザート券を上げたのだが、トゥルゥもほしかったみたいだ。

「ほら」

 俺はまだ余っている食券の中からデザート券を取り出してトゥルゥに差し出す。

「え?いや、いいよ。男がデザートとか恥ずかしいし」

「別に気の知れた奴等だけだし大丈夫だろ。俺は食べないし、余っても捨てるだけだからな」

 トウジみたいなやつがデザートとか笑顔でいっても吐き気がするだけだが、見た目幼く中性的なトゥルゥなら別に大丈夫だ。

「で、でも」

 それでも踏ん切りがつかないトゥルゥに、俺のもう片方の隣にいたミツギさんが口を開く。

「人間欲望に忠実の方がいいと思うんよ。トゥルゥはん。この新作のデザートおいしいよ」

「あなたはもっと自分を律してください」

 俺は俺の太ももに手を置こうとしたミツギさんの手を払い突っ込みを入れる。

「…………うん! 分かりました。行ってきます」

 明るい笑みをつくって椅子から立ち上がり売り場の方へと行くトゥルゥ。ああ、こいつが女だったらどんなにいいか。可愛いし常識人だし。

 ぜひ彼女にしたいところだ。

「セルファはん。優しいなぁ」

 ミツギさんがそんなことを言ってきた。そんなことないですよと返す。すると優しく微笑んでミツギさんが言う。

「その優しさにほんとに助かっとんよ、ウチ。自警団自体、武闘派の集まりやから仲間内でもトラブル絶えへんし。うまく仲介してくれる人がいてくれるのはほんまにありがたい」

 たしかに、ここ最近結構な割合でそんなことをしていた。この食券もそれ関係のお礼としてもらったものだ。

 でも、俺は笑うことしかできない。

 実際の俺はミツギさんの言うような優しい奴ではない。

「それに、ミリアはんの件でも動いてるんやろ。ここ数日の二人の関係見てたら気づくわ」

 周りに気づかれないように小声で俺に話しかけてきた。この人はよく人を見ている。

 ここ数日、復帰したミリア会長とは自治会の仕事で顔を合わしている。がお互いに気まずい空気になって、ろくに会話をしていない。とりあえず数日後の会う事については話している。もちろん決闘の事は伏せて。ろくな会話といえばこれぐらいだった。

「だから、膝枕ぐらいならいつでも」

 むしろそのように気を使ってくれるミツギさんの方が優しい。

 でもその優しさは今となっては辛い。

「では今度お願いします」

 その俺の問いかけに意外そうな顔をしてから笑う。

「今日はいつになく素直やね」

「これでも男ですよ、俺。女の人の膝枕ならいつでもオーケーです」

 そんなこんなで、トゥルゥが嬉しそうな顔をしながら新作デザートをもってこちらに来ているのが見える。それを俺とミツギさんは微笑みながら見る。

「何度も言うけど、なんかあったら言うんやで」

「ええ、分かりました」

 ミツギさんはいろんな意味で油断の出来ない人だ。後ろめたさを隠すために俺は必要以上に表情をつくった。

 俺の内心を彼女に気が付かせないために。



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