自分の永遠の時を止めてもらったらこうなった。
赤谷家ほったらかしですが、新作です。
私は千年前、神様に時間をもらった。
そのときはとてもうれしかった。でも、百年たったら知り合いはいなくなって、二百年たったときには人類が少なくなって、三百年たったとき、私以外誰もいなくなった。
こんな広い世界私には必要ないのに。神様はどうしてこんなにも長い時間を私に授けたの?
願った私も悪いけど、私寂しいの。誰かと話したいの。助けてよ。どんなに時間があっても私の心の隙間を埋めることはできないの。嫌だよ、嫌。こんなの。あと、何年ここで生きていけば良いの?
誰か…。
ん?ここはどこだろう。風の音が心地よい。そして、何より暖かい。なんでだろう。今まであんなに冷たい世界だったのに。暖かい。
あれ?誰かが扉をあけた?誰だろう。だってこの世界には私以外の人はいないはずなのに。
私は恐る恐る近づく。
あっ、男の子がいる。あー!目があっちゃった…。近づいてくるし、怖い。え?私に手をさしのべてくれるの?
涙がでちゃうよ。
―僕はユウト。―
ユウト君っていうんだ…。
―外に出よう―
え?でも、外は六百年前に灰色に…。
待ってよ、まだ、怖いよ。
―怖くないさ。それに外は明るいよ。―
キャッ!そこは私が千年前に見た景色だ。鮮やかな緑、透明な川、そして小鳥たちのさえずる声。どうしてなの?
―ユウト君は魔法使いなの?―
―いや、違うよ。ただ君を助けるためにここへ来た。―
私を…助けるため?
―そうだよ。君はいつになっても消えないんだ。この世界にとどまる。それは君をずっと苦しめる。だから僕が助けに来た。―
私は驚いた。私のことを考えてくれている人がいた。そして、なによりこの世界から出られるのがうれしかった。もう私は寂しい思いをしなくていいんだ。
―助けに来てくれてありがとう。早く私を助けて。―
ユウト君は少し笑みを浮かべたがすぐ切なそうな顔をしてポケットからナイフを取りだした。
―このナイフで僕を殺して。―
ユウト君が突飛な発言をした。
私はよくわからなかった。
―うそだよね?―
―いや、嘘じゃない。終わらせるためには僕を殺さなければいけないんだ。さぁ、早く。―
私は涙を流してナイフを手に取る。震えている手をしっかりおさえてゆっくりと歩み寄る。
―最後に教えて。どうして私はユウト君を殺さなければならないの?―
―…僕が君をこの世界に閉じ込めた張本人だから。千年前、君に時間を授けたのは僕なんだ。ごめんね。―
ユウト君はそう言って笑い泣きした。
私は泣いた。殺したくない。私の神様、それは今になっても変わらないもの。神様を…ユウト君を殺したくない。
―どうしても殺さなきゃいけないの?私はユウト君とまだ、一緒に生きたいよ。―
―…ごめん。僕は自分の犯した罪を償いたいんだ。―
―全然償ってないよ。そんなんじゃ。―
―え?―
―私はユウト君と生きたいの。ユウト君がいればいいの。―
私はそう伝えた。ユウト君は長い時間下を向いて黙っていた。
そして、ユウト君は決断をしたように見えた。前を向いた。
―僕はこの世界で君を守り抜く。ずっとだ。僕は神様だから死なない。ずっと隣で見てるよ。―
私の世界は明るくなった。桜が舞ってるようなとても清々しい気分。
―ありがとう、ユウト君。―
私とユウト君は抱き合った。そしてキスをして永遠の誓いをした。
そして、それから百年たったとき子供が生まれた。双子だった。兄の名前はアオイ、妹の名前はサクラ。二人とも元気に育った。でも、二人の時間は私とユウト君とは違って進んでいく。私は19歳のまま、ユウト君は20歳のまま。だけど、アオイとサクラは七十年たった頃には70歳に。そして、サクラは病にかかりそのまま死んでしまった。アオイは75歳のときに安らかに眠った。
私とユウト君の世界はまた二人だけになった。そんな世界で静かに過ごしていたときユウト君が言った。
―どうして、君は時間を欲しがったんだ?―
思えばどうしてだろう。もう、千年以上前のことであまりはっきりとは覚えていない。ただそう聞かれたので答えようと思い、覚えていることを話した。
―私、あの日結婚まで考えていた彼に捨てられたの。理由はね、私がいなくなることを考えてると気が重くなるからだって。だからね、私死ななければ良いんじゃないかと思ったの。それで、神様にお願いしたの。“時間がほしい”って。最初は嬉しかったの。何年たっても若いままで好きな人の隣にいられて。でも、わかったの。私が長生きすれば当然大切な人の方が早くいなくなっちゃうって。そこから嫌になった。長い時間も、願ってしまった私自信のことも。だから、千年以上前に時間を感じさせないこの家で暮らすことにしたの。―
ユウト君は真剣に聞いてくれた。涙ぐむ私を抱き締めてくれた。
―辛い思いをさせて本当にごめんね。でも、これからは僕がこの世界を変えて見せるから。―
それを聞いて私はとても嬉しかった。こんなにも私のことを考えてくれている人がいる。それだけで心が軽くなった。
だが、そんな喜びもつかの間。ユウト君が突然私の目の前から姿を消した。私は最初何かあったのかと心配して夜も眠れないほどだったが次第に(あぁ、私は捨てられたんだな)と自覚するようになった。それからまた私の長い時間が始まった。ユウト君がいたころは時間を感じさせなかった。二百年たってもまだ、二年くらいしか流れていないんじゃないかと思ったくらいだ。
だけど、今はただただこの時間が終わる日を一人で孤独に待つだけだ。あぁ、死にたい。お母さん、お父さん、兄、妹、死んでしまった夫、死んでしまった夫との娘、アオイ、サクラ、みんなに会いたい。皆空の上にいる。また、寂しくなってきた。辛い。ユウト君、もしあなたが帰らないなら私いったいここでどうすればいいの?ユウト君は本当に私を捨てたの?守ってくれないの?
涙が出る。
―ユウト君!―
私は思いっきり叫んだ。すると、空から光が射して
―澪苑!―
そう言ってユウト君は舞い降りてきた。そして、私は気づく。あの悪夢の日からずっと呼ばれてこなかった私の名前・澪苑と呼んでくれたことに。
―ユウト君、今まで何してたのよ!バカ…また一人になっちゃうかと思ったよ―
ユウト君は申し訳なさそうに私を抱き締めて
―ごめんね。僕、天界に戻らなきゃいけないことになって…だけど、澪苑をここにはおいていけない。だから僕ね、天界からある人を連れてきたんだ。―
私は誰だろうと思いユウト君の後ろの人を見る。するとその人はとても美しい女性だった。そしてその女性は口を開き、美しい声で
―初めまして。私はユウトの姉のヒトハです。私がここに来たのはあなたを助けるためです。私はユウトと真逆の力を持った神様なんです。―
と言った。
―初めまして…。真逆の力?―
―そうです。私は時間を縮める神様なんです。よって私はあなたが授かった永遠の時を縮められるんです。―
女神様…。私やっとこの時間から抜け出せるんだ。しかもユウト君と離れなくてすむ。
―…いますぐできますか?―
―はい。時間はかかりますが必ず今から縮められます。縮めますか?―
私はユウト君があの日決心したように前を向き
―はい!おねがいします。―
と答えた。
女神様は少し微笑んで私の手と、女神様の手を繋げて目をつぶった。なにかパワーを送っているように感じた。そしていきなりのことだった。私の体に強い電流のようなものが走った。すぐに意識を失った。そして、気がつけば走馬灯のようなものが見えていた。生まれたときのこと。その時私は息をしていなかった。それを必死にお医者さんたちが助けようとしているところ。そして、幼稚園、小学校と上がり、卒業して中学生になった。中学生の頃死んだ夫と出会った。懐かしい。そして高校生。高校生になると大学進学のために受験勉強を必死で始めた。その結果有名大学への進学が決まったところ。そして、辛いあの日。泣きながら時間をくださいと願う私の姿。今見ればどんなに惨めだっただろう。
そして、時間をもらった私は幸せな家庭を築いた。娘の紗菜も元気だ。だが、いつしか、そんな日々はなくなっていた。
あぁ、これが悲しい私の末路か。そう思った。でも悲しくないよね?だって、私にはユウト君がいる。ユウト君のおかげで私はやっと皆に会える。
そして、走馬灯のようなものが消えていった瞬間、ユウト君の顔が見えた。
―大丈夫?無事?―
―うん!平気よ。ありがとう、本当にありがとう!―
そして、女神様も。
―良かった。澪苑さんが無事で…。あっ、これから私たち神様がすんでいる所に案内したいんだけど良いかしら?―
―はい!喜んで!―
そして、三人で進む。ついた先には大きなお城のような建物が建っていた。
ユウト君が
―久しぶりだなぁ…。親父元気かね~?―
と言った。
そしてなかにはいる。そこは中世のヨーロッパのお城みたいで、シャンデリアなどがぶら下がっていた。
ユウト君と女神様は堂々と進んでいく。そして、そこにはいかにも神様のようなおじいさんがいた。すると、おじいさんは
―お前さんがあの世界に残されていた唯一の人間か。今まですまんな。息子のユウト以外お前さんが生きていることを知らなかったのじゃ。本当にすまん。―
と謝ってきた。私は
―いえいえ!全然です!今はこうして幸せなわけですし結果オーライですよ。―
と訂正した。
―本当か?まぁ、本当反省しておる。そこでじゃ!お前さんを神様として迎えようと思うんじゃ!そうじゃなぁ…力は“幸せにする力”でよいかのう?―
―え!?私が神様ですか?そんな簡単になれませんよね??―
―なれるぞ。お前さんにその気があればいつだって、誰でも神様になれる。―
私は困惑した。そんな力持ってないし、神様なんて!荷が重いよ~…。
―えっと、あの…その私がちゃんとした神様になれる気がしないんです…だから、この話は…―
―ふむ、お前さんには勇気が足りないだけじゃ。後のことはあとで考えるんじゃよ。そうだ!なら、一年間神様をやればいいじゃないか!決まり、決まり!報告書っと♪―
え~??決まっちゃったのかな?でも、ユウト君や女神様はさすがに止めてくれるはず…と思いきや、すごい満面の笑みだ。
そしてユウト君が
―澪苑!今日から神様としてよろしくね!―
と言い、女神様は
―あぁん、もう…仕事が減っちゃうじゃない!幸せにする力なんて確かお父様以外持っていないわ。―
と仕事のことを気にしていた。
これやらなきゃいけないのかな?仕事ってなにするんだろう。
そう考えているうちに報告書ができたらしくおじいさんが
―お前さん、澪苑はこれから一年間神様としてここに勤務することに決まった。皆のもの、この娘を頼むぞ。―
と言い群衆たちがワーッ!と歓声をあげた。
というわけで、一年間神様始めます…?
次回にご期待ください。