使い回された言葉
好きなものには昔から一直線だった。
好きになった靴はボロボロになるまではいたし、好きな本は何度だって読み返した。大好きな友達とは飽きるぐらい一緒にいた。
好きなものにくらい、素直でいたいと思っていた。
好きなものには、ちゃんとその思いを伝えたいと思ってた。
「好きだよ」
私のその一言で、君は見ていた本から視線を私の方へと向けた。
君と視線が会った瞬間に、私の心音は少なからず早くなったのだけれど、君の視線が冷たいせいか、私はそれを表に出さないように、作り笑いを浮かべてしまった。
「…そうなんだ。でもその言葉、俺だけに言ってるわけじゃないだろう」
深い溜息をついて、君は再び本へと視線を落とす。私は未だに、作り笑いを辞めることができない。
そうさ、別に君だけに言ってることじゃない。
先輩だって後輩だって友達だって好きだよ。好きなものには好きと言って何が悪い。そう思って、今まで何人にも好きと伝えてきた。
でも、君だけは違うんだ。
君に伝えた好きと、みんなに伝えた好きは、ちょっとだけ違うんだ。
「俺はそんな言葉に騙されないよ」
「私、本当に君のことが好きなんだけど」
「…博愛主義のお前に好きだって言われても、どうとも思わない。むしろ嫌気しかわかない」
「…なんで?人に好きと言われるのは嬉しいでしょう?」
好きと言われて、不快に思う人はいないと思う。
私だって、好きと言われたらとても嬉しいもん
「…俺は嬉しくない」
「なんで?」
「他人に使い回された好きなんて、俺には必要ないんだ」
彼はそう言って、読みかけの本を閉じて、席をたった。私は、彼の背中を見送ることしかできなくて、
「…本当に、好きなんだけどね…」
(使いすぎてしまった好きは、どうやら効力を失ってしまい、本当に愛する人のところまで届くことはないのだろうか。)