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野良狼、拾いました   作者: 桔夜読書
37/38

31話 誰かの記憶

まあタイトルが真面目ぶってるんでシリアス調ですね。

ここから所謂2部スタートみたいなノリです。

何部まであるかって?予定は未定です!


何処かの山深く、道もない空間に屋敷が立っている。

周りは雪に白く染められ、多少の音は吸い込まれてしまう。

しかし、その屋敷からは声が聞こえる。

「おぎゃああああ!おぎゃああああ!」

生まれて間もない赤子の産声だ。

それは生を受けたことを歓喜する雄叫びか

それとも過酷な未来を呪う怨嗟の声か。

赤子に寄り添う二人の男女にもそれはわからない。

おそらく赤子の父親であろう男は、もののふという言葉が見事に当てはまるような雰囲気をしている。青みがかった髪を束ねた姿は美丈夫と言うに相応しい。

しかし、今は声も出さず、精悍な顔を歪めて、涙を流していた。

その表情に喜びは無く、あるのは得たものへの哀れみと、これから失うものへの哀しみだった。

それを優しく見つめる女性。男の妻であり、赤子の母である彼女は病的に白い肌をしており、触れれば壊れてしまいそうな雪の結晶のように、儚い雰囲気を纏っていた。

透き通るような白い髪と瞳。だが、そこに輝きは見られない。

事実、彼女は、もう長くない。

もともと体は丈夫では無いのに、出産により体力を消耗したことが原因であった。

彼女は母として何かをすることかなわない。

しかし、彼女の瞳に哀しみは見えない。

ただ、腹を痛めて生んだ娘への惜しみない愛と、自分を心から愛してくれた彼への感謝だけだった。

「貴方…泣かないでください…」

あまりにも弱々しい。しかし、暖かい声。

赤子の産声を前にしても男へと届く。

「何故、泣かずにいられようか…娘の背負った業と妻の死を目前にして、お前たちに罪は無いのに…!」

膝の上で拳を握りしめ、赤子に複雑な眼差しを向ける。

「これは運命です。貴方にも過酷な役目を押し付けてしまいすみません」

そういって女性は赤子を見つめる。

くしゃくしゃの顔。まだ、うまく開けられない瞼と手。それと…

耳と、尻尾。

普通の子供には絶対についていないそれらが、男が泣く理由を物語っていた。

「私は、覚悟できている…」

男は悲壮な決意を目に宿していた。

「でも、傷つくことに変わりありません」

だが、女性にはそれが悲しくて仕方がない。男の傷つく姿が最も辛いのだ。

「っ!…何故、お前たちが…」

「泣かないでください。泣くなら、この子の…」

女性は少し考える素振りをして、再び口を開く。

「…恋の生まれたことに喜び、泣いてください」

「恋…それが、この子の名か…?」

「私が、この子にあげられる、最初で最後の贈り物です。いいでしょうか?」

遠慮がちな目で尋ねてくる。

「いいに、決まっているだろう…」

断るわけないのに何を聞いているんだといった様子で頷く。

その返答に心から安堵した様子で女性は微笑む。


「…よかった…恋、これが貴方の名前ですよ。貴方のお父さんが私に教えて下さった、最も素晴らしい感情です」

そういって我が子を見つめる。

「貴方、この子を抱いてくれませんか?私にはもう無理そうです」

「!?」

それは最期が近いことを示唆していた。

男は、苦渋に満ちた顔で、ゆっくりと立ち上がり、未だ泣きやまない我が子を、彼女から受けとる。

初めての感覚に戸惑いを覚える。

抱き締めた感触。体の暖かさ。何も変わらないはずなのに、忌々しき耳と尻尾を睨まずにはいられない。

「貴方」

それを諌めるように女性が凛とした声を掛ける。

この声には逆らえないのか、はっとなって女性へと向き直る。

「お願いです。優しくしてあげてください。その子の生を私たちが祝福しないで、誰が祝福するのですか」

「…うむ…すまなかった」

女性はその様子に微笑むと、すぐに顔を引き締めて男へと声を掛ける。

「私は、もうこの手でその子に触れることはありません。だからお願いです。私の分まで、私を愛した以上に、恋を愛してあげてください。それが、私の、大守雪の最期のお願いです」

「ゆ、き…」

涙が、今まで以上に流れ出る。泣いてはいけない。本当に泣きたいのは誰かなど百も承知。

しかし、彼女への愛しさが娘へと降りかかるように、涙は溢れていく。

女性――雪の体が後ろへと倒れる。もはや上体を起こすこともかなわないのか。

「雪っ!」

男はすぐに駆けよる。

「ねえ、蒼様」

しかし、雪は何も動じた様子も無く、男の名を呼ぶ。

「どうした…?」

男――蒼はその様子に悟るものがあったのか、優しく尋ねる。

「申し訳ありません。お願い、もう1つだけありました」

「何だ…?」

雪は、少し恥じるように白い肌を僅か赤らめてお願いを口にした。

「口づけを、してくださいませんか?」

「っ…ああ…いいに決まっているだろう…」

いつの間にか泣き止んでいた我が子を左手で抱え直す。

空いた右手で雪の体をそっと持ち上げる。

二人分の命の重さを、体の軽さを、温もりを感じながら、そっと、口づける。


雪も、蒼も涙を流していた。


どのくらいそうしていたのか。

やがて、満足そうな顔で微笑みを浮かべた雪はゆっくりと目を閉じる。


もう、思い残すことはありません。


そう、聞こえた気がした。


蒼は静かに立ち上がる。

心に迷いがないと言えば嘘になる。

しかし、雪と恋の為にやらねばならない。

彼女がまだ生きているうちに


この手で彼女を殺す。


脇に置いてあったものへ手を伸ばす。やや長めの日本刀だ。

鞘から抜き出してその白刃を晒す。出来る限り音は立てないよう気を配る。

彼女の恐怖を少しでも減らすために。

これは必要な行いと何度も言い聞かす。

慣れた重みにこれ以上なく手が震える。

切っ先を下に向ける。

狙いは心臓。

出来る限り速く。痛みも感じないほどに。


刀を降りおろす。


ズブリという嫌な感触。

「っ!…あ、あ…ああああああああああああああああああああ!!」

口から出したこともないような叫びが出る。

すぐに刀を引き抜く。

吹き出る鮮血。血に染まる刀身。

ビクリと僅かな痙攣を残し雪の体は活動を停止した。

髪も顔も何もかもが赤く染まっていた。

あり得ないほど安らかな寝顔のようなそれに嗚咽が漏れる。

「雪…雪…くっ…また、いつか…」

刀を強く握り締める。自分を奮い起たせるように。

そのまま抱いた我が子を見つめて、息を呑む。

「っ!」

目を開いていた。

生まれて間もない赤子が、はっきりと両目を開いていた。

瞳は赤い。

母の死が焼きついたかのように。

血のように赤かった。



――――――――


恋の部屋。

「ハッ!?」

布団から飛び起きる。

喉がからからで、動悸が止まらない。

体は寝汗をかいており震えている。

「な、なんだ…」

とても怖い夢を見た気がする。

夢の内容は思い出せない。

今までこんなことは一度も無かった。

知らずに握っていた刀を抱き締める。

ほんのり冷たいのに、昔からこうすると安心する自分がいた。

しかし、何故だか今日に限ってはなかなか落ち着かない。

むしろ、悲しい気持ちになる。

刀からそれが伝わってくる気がした。


どれくらい経ったか、とりあえず落ち着きを取り戻すことが出来た。

しかし、時は草木も眠る丑三つ時。

起きるにはあまりに早く、何事も無かったように寝るには背筋の凍る時間だ。

では、どうするか?

「困った時の望だ」

即断だ。というより他に選択肢は無い。

恋は刀を壁際へと立てかけて、枕を抱えて望の部屋へと突貫すべく立ち上がり扉へと手を掛け…


ガシャン


「む?」

音に慌てて振り向く。

刀が倒れている。

おかしい…確りと立て掛けたはず…

不気味だな、と思い再度立て掛けるべく近寄ると…

カタカタカタカタ…

「ひぃ!?」

独りでに刀が震えはじめた。

短い悲鳴が漏れる。

「な、なな…これはいったい…」

しばし怯えた目で観察するが、試しに手に取ってみると刀の震えは治まった。

「も、もっていけということか?」

尋ねるが返事はない。当たり前だ刀が返事をするわけはない。

「ま、まあ…神器だから…これぐらいの不思議は……いいのか?」

自分で言って首を傾げてしまう。

仕方ないので腕輪に収納していくことにした。

それなら問題ないのか異常現象は何も起こらなかった。


とりあえず疑問は止まないが、今は恐怖を少しでも紛らわす為に望の部屋へと突貫するのだった。



恋パパと恋ママ登場だぜ!

色々伏線張りまくったけど回収できるかはわかりません。


さてさて以下おまけ


この後(本編シリアスだったんでおまけにしました)


音を立てないように望の部屋へと侵入する。

暗闇をものともせず、望の布団へと下から潜り込む。

ベッドは望が寝るには大きすぎる規格なので侵入は容易い。

「ふむ。完璧だ」

布団から頭を出し、枕を設置して自画自賛する。

そのまま望を抱き枕にしてやろうと向き直って


バッチリ目があった。


「うん。完璧にアウトだね」

いい笑顔。普段ならこんな笑顔向けられたら嬉しくて仕方ないはずだが、今は震えが止まらない。

「よ、よこもじで言われてもよくわからんぞ…」

「夜中に騒がしい。部屋に帰りなさい」

「うっ…ご、後生だ。今あったことを正直に話すから一人にしないでくれ…頼む」

瞳に涙をためながら事のあらましを伝える。

「うっ…ううっ…本当に怖かったのだ…」

「はあ…刀のことは後で考えようか…誰かさんに起こされたせいで眠いし」

「う……じゃ…じゃあ今日は一緒に、寝るのは…?」

上目遣いで尋ねる恋。涙で少し潤んでいるため高い威力を誇る。

「なら…僕は下で…」

「それでは意味がないだろう!」

「女の子と一緒には寝れないよ」

「だだ、大丈夫!私はぺっとだ。問題ない!」

「………そんなに1人じゃ嫌?」

「………そっちこそ私とじゃ嫌なのか?」

「……恥ずかしい」

「先ほどは接吻もしたから大丈夫ではないか?あ…///」

「おもいだすなああああ!!おもいださすなあああああああ!!」

「しまった…でも、どうしても怖いのだ」

「はあ……抱き締めるのは無しね」

「…意識があるうちは安全を保証しよう。だからだな…」

「何?」

「望が抱き締めてくれ…後ろから。それなら大丈夫だろう?」

わかってない。恋は全然わかってない。だが…

「……………わかったよ」

こうして望の睡眠時間は削られていった。



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