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野良狼、拾いました   作者: 桔夜読書
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26話 矛刀「固有結界を展開するのはいいが…別に壁を殴ってしまっても構わんのだろう?」

大事なことがいくつか。

・殺の字が妙に多いけど気にしないでください。

・望くんは悪役じゃないです。



緊迫した空気が体育館に流れていた。

それは、戦闘によるものではない。が、間違いなくそれ以上の緊張感を孕んで存在していた。

望と視線がぶつかる。

その眼差しは言い様のない気持ち悪さを感じさせた。まるで昼にみた人形のように。まるで中身が無いかのように。

しかし、人である彼は口を開く。

「早く殺さないと。恋を傷付けたんだから」

さも当たり前のように淡々と話す。既に本来の目的は頭にないようだ。

まさしく暴走と言える。落ち着き払っている所が妙に不気味だ。

「…お前は、これからもそうするのか?」

「うん。じゃないと恋が殺されるから」

口調はいつもと変わらないのに何故か子供じみて聴こえてくる。

子供のように単純でいて、悪意がない。

きっと彼はこんな風に誰かを殺してきたのだろう。普通過ぎるくらいに。

「私のいる前ではもう殺させないといったはずだが…」

「そうだね。でも殺るよ。実力を測るのにここまでしなくても良かったのに、恋をぼろぼろにして…」

そう言いながら氷越しに矛刀を見下ろす。彼は何も言わずにそれを見返すだけだ。

「それに、恋じゃ止められないよ」

「…何故だ?」

半ば返ってくる答えをわかりながら訪ねる。すると彼は、笑顔を浮かべて言った。


「恋は優しいから、僕を殺せない」

恋は、そう言った望の笑顔が、すぐにどちらのものかわからなかった。

しばらくして、それは紛れもなく“彼”の本心なんだと理解する。

そして言い返せないとも。

わかっていた。先の戦いにおいても振るう刃が相手に触れる瞬間、どうしようもなく怖くなってしまい、刀が鈍っていた。

覚悟など出来ていると思っていた。

でも、無理だった。

普通ならそれで構わないのだろう。だが自分は普通じゃない。この先、この甘さを抱えたまま生きていけるかどうか。そして望は、死と長らく接してきた彼には、それがわかったのだろう。私には殺せない、と…

だが、ここで引き下がっていいのだろうか。

「だからなんだ。お前を殺さずに止めればいい話ではないか」

「その状態で?無理だよ」

「そうか?…なら、試すまでだ…」

理解した。彼は自身なんかよりも危険だ。とても危ういところに立っている。だから、止める。殺すのではなく。

勝算はある。いや、無いとしてもやることは変わらない。

前へと足を踏み出す。

「…本気?」

望の銃を握る手に少しだけ力がこもる。何に対する緊張からだろうか。

「ああ、大丈夫だ。お前じゃ私は殺せない」

先ほどまでの弱々しい様子は演技かと疑うほどに堂々と胸を張る恋。

更に…

「っ…どういうつもり」

恋は邪魔とでも言うように武器を置いた。

「こんなものがなくても、私は殺されないし、お前を止めることはできる」

まるで挑発するようにわざとらしく手をひらひらと振る。

「…後悔するよ?」

少し苛立たしげに望が目を細める。

「それは難しい。私が正しいからな。仮に間違ってたとして私が死ねば、後悔も出来ない。だって殺すのだろう?私を」

ゆっくりと歩み寄ってくる。その余裕はどこから来るのか。望にはまるで理解出来なかった。

銃を持つ手が震える。

怒り?恐怖?何に対して?それすらよくわからなかった。

気付けば目の前に恋が立っていた。ゆっくりと銃口を向ける。

「さあ、やってみろ」

「試すって…そういうこと?」

彼女は馬鹿か。今まで散々出来ると言ったではないか…だが、とりあえず足にでも当てて動けなく…

「何をやっている。狙いはここだろう」

「っ…なにを!」

突如銃身が握られ、無理やり銃口を頭に向けさせられる。

「殺すか殺さないかだ。間はない。さあ引き金を引いてみろ」

「死ぬのは怖くないの?」

「怖いさ。だが、私は死なない。少なくともお前の手では」

強い眼差しがこちらを射抜いてくる。頭がおかしいとしか思えない。

「何をそんな必死に…」

「もう人は殺させないと約束したからに決まっているだろう!」

怒声が鼓膜を揺さぶる。

「僕は大丈…」

「大丈夫なわけがない!いいかげん気づけ!」

「な、なにを…」

「…腕が、震えているぞ…」

「…え?」

何のことかと思った。そんなわけないと見下ろす。

「…あれ?」

おかしい。腕が震えている。まるで引き金を引くことを拒むように。

「なん、で…」

「お前はあることに気づいていない」

恋が諭すように語りかけてくる。

「望。お前は家族や友人。好きな人達に銃を向けたことがあるか?」

「…ない」

「だからだ。お前は大切なものを壊せるほど冷たくはなれてないんだ」

「そんな馬鹿な…今まで何人も何人も…老若男女問わず殺してきて、いまさら…」

「その中に愛するものはいなかった。命として忘れず、敬意は払ったかもしれないが…。だが、お前が幾ら殺してきたとしてもお前はまだ人だ。大事な人は傷つけられない。当たり前だ。それが出来るのは理性を無くした化け物だ」

「嘘だ…僕はそんな弱く…ない」

「なら、引き金を引けるはずだ。お前の言う強さとやらがあれば」

「っ…なんで…」

出来なかった。いくら力をこめても頑なに指は動かなかった。

「なあ望。私はお前に化け物になってほしくない。私と違って、お前は自らの意思で、それを選べるはずだ」

銃身を握る恋の手に力が籠る。よく見れば、足が震えている。怖くないわけがない。言葉が届かなければ、死んでしまうかもしれないのだ。

だが望は、そんな精一杯の強がりにさえ気づかない。

「でも、でも…強くなりたくて…」

心を殺して、人を殺して、弱音を吐かず、血へどを吐いて、歩いてきた。それが父さんとの約束。

だが、次に恋の放った言葉は、それを壊した。


「お前の求める強さは何のための強さだ?」


思考が、止まる。


「自分のためか?大切なものを壊すためか?」


考えたことも無かったから。


視界が滲んできた。自分はあれほど人を殺して強くなった気でいた。確かに一面で見ればそうだったのだろう。でも気付いてしまった。理由も目的もない強さにどれ程の意味があるのか。今までの自分は一体何だったのか。

「なんで…なんで…」

「お前は…弱さを凍らせて生きてきたんだろう。でもとけてしまった。何故だかわかるか?」

混乱した思考の中で、恋の声が木霊する。

「どんなに固い氷も、太陽の光が、温もりがあればとける。お前は知って、触れてしまったんだ。この日常の温かさに」

その言葉に顔をあげる。

「つまり、一人でご飯を食べるのは寂しいから私が撃てなかったということだ」

そうやって、どうだ、と笑う彼女が眩しかった。

そして、その眩しさと彼女の言っていることの可笑しさに目を細めた。細めた拍子に温かいものが込み上げてきそうになる。まだ自分の中にこんな温かいものが残っていたことに驚く。

「だから、帰ろう」

あの雪の日に凍り付かせた何かが止めどなく溢れてきそうだ。日常の温もりのせい?いや、違う。

「…いつも、借りてばかりだからな。たまには貸そう」

恋が手を伸ばして、頭に触れてくる。熱い。

そのまま恋に柔らかく抱き寄せられる。不思議と恥ずかしさはなく、自然と、涙を流した。

こんな近くに太陽があれば、どんな氷もとかされてしまう。

どうして今まで気付かなかったのか。この温もりに。泣けるほどに温かくて居心地のいい場所。

これを壊せるわけがない。昔ならこんなことを思いもしなかった。

「…弱く、なったなあ…う…うう…っ…ぐす……うううう…」

静かに、あの日から止まったままだった涙を流した。

恋はその様子には目を向けず、淡い嘆息と共に呟く。

「…悪いよりましだ。馬鹿者」


少しずつ落ち着いてきた。

今は、暴走して人を殺そうとしたことの後悔と、抱きついて泣いていたことの恥ずかしさが責めぎあって、筆舌に尽くしがたい自己嫌悪が渦巻いている。

「なにか言うことはあるか?」

「…ごめん、なさい」

「違う」

ゴス

「あうっ…」

望の頭に手刀がめり込む。恋は不服そうな顔をして口を開く。

「別に怒って止めたわけじゃない。私がしたくてしたことだ。お前の為に」

後半は少しだけはにかんだように顔を背けていたが、言いたいことは伝わった。

「……ありがとう」

「…以後、気をつけるように」

恋に叱られて自分が謝る。不快ではないが不思議な感覚だった。経験したことは無いが、母親に怒られると言うのはこういう感じなのだろうか。

初めての感覚に戸惑う望。さらに、また違う感覚を胸の内に覚えていた。

熱。自分の内から熱さを感じる。初めて感じる熱さ。恋からのものではなく自分自身の。

色んな感情がない交ぜとなってしまい、明確な形が見えてこない。

「む?どうかしたか?」

「い、いや、何でもないよ…」

慌てて首を降って否定する。何故慌てたのか、望自身気づいていない。自分でもよくわからない感情を持て余している。

だから、この熱は外に出さないで自分の中に点しておく。燃え広がらないように、そっと。

まだ知らない。その熱は、確かに恋のものではないが、恋が点けたものだと。

でも知っている。この熱があればもう心を凍りつかせることはないと。

これを頼りに探そう。何のために強くなるのか。

「そうか…では、帰るとしよう」

自然と手を握ってくる。来た時と同じように。

「そうだね」

その温もりを確かめるように静かに握りかえして…





「ん?もう終わったのか?」

ボンッ!!!

「「っ!!!!????//////」」

盛大に火傷した。






学園長室。

「やってくれましたね」

「ええ…」

「そうね」

三人が何とも言えない顔でうなずき。口を開く。

「かーくん邪魔するの早いです」

「仮にも戦闘中にするとは…」

「矛刀グッジョブ」

三者三様の感想だった。

か え ら せ る と ?


そんなバカップルエンドは許さんぜよてな具合です。

きっと皆さんもそうですよね。←確定

それにしてもなんでしょうね地の文。詩的な文書こうとして痛々しいことになって白眼向いてアヘ顔ダブルピースしちゃうう(震え声)


おっと素が出てしまった。

とりあえずイライラな展開とかイチャイチャな二人とか痛々な文に眼を背けたくなり回でしたねー

次回は…どうしましょー←半ば本気



以下おまけ


望ガチ泣き中


「うう…ぐす…うううううう…」

(む、胸を貸したはいいがマズイな。顔が熱い。心臓も鼓動が忙しない…ばれていないか…?)

「ひくっ……うう…」

(いや、別にやましい気持ちがあるわけじゃない。ただ純粋に慰めるための行動の副産物で、たまたま…その…個人的に美味しい展開になってしまったわけであって…って誰に言い訳をしてる!落ち着け私!)

「うう……うううう…」

(くーるになれ。くーるに…あってるよな?………望の匂い……髪さらさら……なでなでなでなで……なでなでなでなで……いける!)

「…うう……(なんか、くすぐったい)」

ごそっ

(っ!頭動いた!待てっ!あまり動かすと着物がずれてしまう!それは流石に不味い!くっ…動くな)

ぐいっ

「んっ!?……う、うう……(む、胸が、く、苦しい)」

(よし、これなら動くまい)

「うう…うう…(息が、しづらい)」

(あっ…息が当たって…くすぐったい…)




「何してんだあれ…」

矛刀の目には明らかな変質者しか映っていなかった。

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