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野良狼、拾いました   作者: 桔夜読書
14/38

13話 暇をもて余した朝の一幕

今回あったことをありのままにお伝えします。いつの間にか自分でも予想していなかった展開を自分で書いていました。何言ってるかわからないと思いますが自分が一番驚いてます。プロットとか構成とかそんなもののない。もっと恐ろしい何かの片鱗を感じました。

望たちはなづなと別れ教室へと入った後、未だに閑散とした教室で望と恋の席の前に集まり、ホームルームまでのささやかな一時を過ごしていた。

「まだ頬が痛いよ…」

涙目で抗議する波涼。

「まだびしょ濡れの私よりは早く痛みはひくだろうな」

それを切って捨てる。

「れんれんが冷たいよ〜」

「まあ自業自得だよな」

「そうだね…でも恋もこのままじゃ風邪ひいちゃうね」

「大丈夫だ。これくらいでどうにかなる体じゃ……は、はくちゅんっ!……だ、大丈夫だ」

やはり寒そうだ。春先になって記憶は上がりつつあるがそれでもこの状態が続くのはよろしくない。

「腕輪に制服の替えとかは?」

「これしかない」

「うーん。じゃあ仕方ないか…恋、ちょっとじっとしてて…」

そういって腕輪からナイフを取り出す。

「ん?望の武器は銃じゃなかったか?」

渓が疑問を投げ掛ける。

「補助系の技とかはこっちでやってるんだよ……はい」

昨日と同様に魔力を纏った風が恋の周りに吹く。

「これは…暖かいな。温風か?」

自身の周りの空気を掴むように手を伸ばし訪ねる。

「そう。これぐらいなら簡単に出来るよ」

ナイフを下げて頷く。

「手間をかけてすまない」

「いやいや、これくらないなら簡単に出せるから気にしないで…」

それをいきなり波涼が遮った。

「のぞみん…これは嘘の味がするよ」

舌をだしてよくわからないことを言う。しかし、そのセリフに望は動揺していた。

「どういうことだ?」

怪訝な顔をして恋が詰問してくる。

「えっ…な、なんのこと?これくらい大した手間じゃないよ?」

「そうだな…確かに出すのは簡単だよな」

渓が意味深に事実を反芻する。

「でもよ。俺は水。お前は風、か。同じ不定形なものを操るからわかるが……それを維持するのって割と大変だよな…」

「うっ」

「そう、その証拠に…」

波涼が望の右手を掴みあげる。

「あっ、ちょっと」

「ほーら…のぞみん。ナイフが光ってるよ〜魔力を使ってる証拠だね〜」

にやつきながら追い詰めていく。きっと頬の痛みの憂さ晴らしに違いない。

「まあ、風を動かすだけなら簡単だろうな。でも性質を変化させた上に常に人に纏わせるように動かすのは、かなり骨だよな」

詰みだった。まだ能力に関して疎い恋だけなら誤魔化せただろうが、どうやらこの二人はそうはいかなかったらしい。

「………はい。嘘です」

観念して肩を落とす。彼なりの気遣いだった。自分が苦労してるのを悟られたくなかったのだろう。

「恋だけなら気づかれなかったのに…」

「全く、そんな地味ーな高等技術使いながら授業出来るのかよ」

「多分、だいじょ」

「望」

恋が平坦な声で望の名を呼ぶ。どこか冷たい。

「は、はい」

思わず萎縮する。

「解け」

逆らえぬ雰囲気なので素直に従う。

「何故、嘘をついた?」

無表情で問う恋。その態度に他の二人は首を傾げる。どうみても怒っているが、今のなかでそれほど怒る要素があっただろうか。

「え、いや…その、言ったら多分断るでしょ?」

「当たり前だ。お前にそんな負担掛けてまでこんな些事を気にする私ではない。私はな…嘘をつかれたことが非常に腹立たしいのだ」

だが、彼女には充分な理由があったようだ。

「れ、恋?」

あまりの剣幕にたじろぐ。

「そんなに私は信用ならないか?昨日から迷惑かけてばかりで、情けないところばかり見せては仕舞いに怒られ…私は荷物か?邪魔か?」

段々と感情が昂ってきたのか饒舌になっていく恋。怒る切っ掛けが些細なものである事は多々あるが、実際となると理解しがたいものがある。

「そ、そんなこと…」

ない、と言い切れなかった。心のどこかで目がはなせないとか心配と思っていた。それはつまり…

「信用してないのだろう…心配は時に有りがたい。私に出来ないことは多々ある。だが!過剰な心配は不要だ!私はそんなに弱いか!?お前に守られなきゃ何も出来ない存在か!?」

「違う!別に恋は弱くなんかない。ただ、何も知らないから教えてあげ」

「今みたいに嘘の言葉でか?」流石にその言い方は無いだろう。頭に血がのぼるのがわかる。理性は相手にするなと言うがどうしようも無かった。

「人の気も知らないで好き勝手言わないでよ…あれだけ迷惑掛けられたら警戒もするよ。次は何をやらかすのかって気も休まらないよ」

「っ!なんだと!お前だってこっちの気も知らないで、大事なことは何も教えてくれないし、嘘ついて誤魔化したり、私がそんなに嫌いか!?」思ってもいない…いや、きっと心の片隅で思っていたことが出てくる。これは本心じゃない。でも確かに心のどこかから出るナイフは自身と彼女を容赦なく傷つける。

「正直一緒にいると疲れるよ………っ!ごめん。言い過ぎた」

最悪だった。彼女は目を見開いて立ち尽くしてる。

「そうか…それが本心か…私はやはり扱いに困る獣か…っ!」

走って教室から飛び出す恋。静まり返る教室。

「…騒がしくしてごめ」

「違うだろ」

渓が望を睨む。

「ここは追うとこだろ」

「いや、今は何を言っても…」

「何か言ったの?」

波涼がいつもと変わらぬ調子で訪ねる。しかし目は嘘をつくことを許さないと物語っていた。

「えっ?」

「だから、さっきのはのぞみんの言いたかったこと?本当にれんれんが邪魔?迷惑?」

「そんなこと…ないよ」

「でも嘘をついた」

「それは、恋のために」

「そんなのお節介だよ。優しさの押し付けなんて苦痛だよ。のぞみんは優しすぎる。それは、時に怖いよ」

波涼が捲し立てる。それを渓が引き継ぐ。

「お前らよ…もうダチだろ?あんま気遣いばかりするのがダチか?俺なんかこいつから気遣われたためしなんてねーぜ」

「それは渓が鈍感なんだよ。あたしの気遣いは溢れてるよ。じゃなくて…早くいってあげなよ。言いたいことを」

「言いたいこと……それが恋を傷つけるとしても」

「嘘よりいいよ。傷がよく見えてわかりやすいから治療のしようもあるでしょ」

「おお波涼がいいこといった…」

何故か戦慄する渓。

「茶化さない」

項垂れる渓。しかし、この二人を見ていたら少し気が楽になった。きっと本当の信頼ってこういうことを言うんだろうか。

「わかったよ…恋を探すよ」

望の顔に迷いは無かった。

「でも広いからな…どこにいったか…」

「大丈夫」

ナイフを取り出し意識を集中させる。

「サーチ・ウィンド」

複雑な技のため呪文を唱える。屋内に風を走らせ恋の姿を探す。風が恋を捉えた。場所は…

「屋上か」

そう呟いた刹那、真っ直ぐに走り出す。

「え?望?」

窓へ向かって。




少し遡って屋上…

「ぐすっ…」

柵に寄り掛かるように体育座りをした恋が泣いていた。

「どうしよう…」

完全に勢いで走り出したが戻るに戻れない。それに望に酷いことを…

「いや、あいつも、あんなことを………ううううう」

思い出したら涙が溢れてきた。自分が望の負担になっていたことに悲しくなった。いつも彼は大丈夫といってくれていたが、やはりそんなことは無かったのだ。「そもそも私を助けたのだって同情なんだ…そうだ…そうに違いない」

段々と考えが暗くなってくる。自己嫌悪も止まらない。

「……初めての………友達だったのになあ…」

「奇遇だね。僕もなんだよ」

「そうか、お前もだったのか」

「暇を持て余した」

「休み時間の」

「「孤独」ってえっ?」

いつの間にか、絶妙のタイミングでギャグを噛ましていたが、後ろから声がしている。咄嗟に振り向くと


望の首が生えていた。


「ぬおおおお!」

驚いてあとずさろうとした。しかし

「う、動けない?これは風か?」

「逃げないように縛らせてもらったよ」

望の首がゆっくり上昇してくる。どうやら風を使って飛んでいるようだがあまり速くは動けないらしい。

「よっと」

そういって着地する。二人を隔てるのは穴だらけの柵だけだ。距離は一メートルもない。

「な、なにしに来た」

「まだ言いたいことがいっぱいあったから来た」

「これ以上聴きたくない!」

耳を塞ぎたい。しかし、風の戒めがそれを許さない。

「僕はね。確かに、恋を同情で助けたかもしれないし、一緒にいると疲れるかもしれない」

「っ!?やめろやめろもうやだそんなの、そんなのききたくない!」

「でもね。それは事実だけど全部じゃない…」

「…え?」

「助けたのは同情以外にも、その………寂しかったから、かな。あの家で一人で過ごし始めたのは最近だけど、やっぱ寂しいんだよね…ご飯の時とか、夜寝るときとか。でも同じ空間に誰かがいるとやっぱ、嬉しいんだよね…」

少し恥ずかしいのか頬を赤くしながら喋る。それでも目は真剣に恋を見つめ嘘をついてる様子はない。

「で、でもそれは私みたいな疲れる女で無くても」

「疲れなんて、恋が笑ってくれてれば気にならない。そんなことより今みたいに泣いてる恋を見るのが、一番辛いよ…僕のせいなら尚更」

「でも、私がいると望に負担がかかる上に心配させてしまう。それに嘘をつかれてまで私が笑っていたら、それこそ馬鹿ではないか!」

あふれでる涙と本音。

「負担も心配も気にしなくていいよ…って一方的じゃ駄目か…ねぇ恋。友達ってなんなんだろう」

いきなりの言葉に訝しむ恋。

「僕もね。友達って言えるような人はいないんだ。だからどうしたら、どうすれば、どんなのが友達って言うのかよくわからなかったんだ」

でもと続ける。

「渓や波涼が教えてくれた。負担や心配を掛けてもいいって。でもそれは無遠慮とかじゃなくて、信頼してるから。恋は、僕のことを信頼してくれてた?」

「………」

結局、お互いに相手を気遣って必要以上に迷惑を掛けまいとしていたのだ。

「だからさ、辛くなったら助けを求めよう。弱音を吐こう。相手を頼ろう。お互いに弱いとこなんてたくさんあるんだから。今までは偶々恋のほうが多かったけど、今後はもしかしたら僕の弱いとこを見せるかもしれない。だから僕も、変な気は遣わないよ。互いに迷惑なことしたら迷惑って言おう。誤魔化さない。それで傷ついても本音なら、見えるぶんいいよ」

「……それが、信頼と言うのか……なあ、望」

「なに?」

声をかけた恋は躊躇うように俯き、やがて何かを決心したのか、大きく息を吸い込み。

「お前はお節介で鈍感で馬鹿みたいに優しくて男のくせに可愛らしくって料理も上手くて髪は綺麗で時々意地悪で見た目の割りにピーーが大きくて風を操れて武器はナイフと銃で戦うときは非情で私より勉強ができて抱き締めるといい香りがして接吻するとドキドキして馬鹿で落ち着いてるようで子供っぽくてでもかっこよくてそんなお前が大好きで一緒にいたくて本当はあんなこと言うつもりなくってでもお前がどう思ってるかわからなくて嫌われてないか怖くて怖くてでもあんなこと言われて悲しくてでも言えなくて…はあ…はあ………そう、これが今お前について私が知ってることと思ってることをご、誤魔化さずにありのままに言った」

早口で色々と恥ずかしいことを捲し立てた。さしもの恋も顔が今までになく赤い。多分自分も同じくらい赤い。

「あーすっきりした。まだ私は望の事を一息分しか知らないのだな…いつか、それでは足りないくらいにお前のことを理解してみせる……ほら」

「えっ?」

「えっ?じゃない、次は望の番だかかってこい。覚悟は出来てる」

つまり、今の恋の真似をしろと?

「っ!」

ヤバい恥ずかしい。今の恋の行動にどれほど勇気がいったか身をもって知る。

「まさか、さっきの言葉は嘘だったのか?」

恋が目に涙を溜める。この顔だ。この顔はいつだって自分を動かした。悲しませたくないから。そのためなら何も恥ずかしくはない。

ただ、一息で言うのは自分らしくない。真似じゃない自分なりに伝えたい。

「最初、恋にあった時ね…髪が絹みたいに綺麗で目が宝石みたいだと思った。顔も目付きは厳しいけど美人だと思った。正直、胸の大きさには少し、いやかなり興奮しちゃった。男子だからね…でも、見た目に反して中身が本当に何も知らない女の子って感じでビックリしたかな」

つい昨日のことだけど時間をかけて思い出す。チャイムが鳴ったようだけど気にならない。

「それで正義感が強くて頭いいくせに感情的になりやすくて英語知らない。それで凄い申し訳なさそうに涙目で僕を頼る。それに罪悪感なんか覚えなくていいのに」

学校であったことから思い出す。感情豊かな彼女の姿。でもこの時はまだ知らなかった。

「帰り道の時は驚いたよ…まさか耳に尻尾があって襲ってきて…でも似合ってた。それにしてもいつも腹ペコだよね。ふふっ」

あ、少し膨れた。

「それでうちに来てからは凄かった。お腹の音が獣の唸り声みたいで。食べる速さも獣みたい。正直、今後の食費が不安だよ」

ちょっとしょんぼりした。でもまだまだいい足りない。

「それで大事なときに人に頼るのが下手だよね。顔に困ってますって書いてあるのに放っておけるわけないじゃん。でもあの時、初めて恋の心からの笑顔が見れた。それが見れたから良かったって思えたよ。泣き顔は見たくないんだ」

でもそれを少し後悔するような出来事が立て続けに起こる。

「まさか入浴中に入ってくるとはね…言っとくけど本当にあの時は死ぬほど恥ずかしかったんだからね…しかもあのあと!あんま口にしたくないけど、半裸になって…正直思い出すだけで悶えそうだよ。あ、ソウイエバツルツルデシタネハハハ。…はっきり覚えてる自分を殺したくなる。そのあとは怒った。自分にも怒った。恋の裸を見てしまったことに。ちょっとでも理性が揺らいだ自分に。正直、恋の体はかなり……ごめん。悟って……だめ?………ああ!欲情しちゃいましたよ!襲いたくなりましたよ!はい!オーケー!」

やけくそに叫ぶ。他人に聞かれたら死にたくなる。本人に聞かれたから死んでもいい?

「で、今日。正直、あれは恨んだよ。怒ったよ。でもまあ許すよ。そのあとが酷かったし…わんは可愛かった。可愛かった可愛かった可愛かった撫でたくなった抱き締めたくなる可愛さだった。今度やったら多分大変なことになる。それとそのあとはごめん」

既に顔がヤバいくらいに熱い。だがもう少し耐えてくれ。

「あと…そのキスは僕もドキドキした」

あとは言いたいことを纏めて伝える。

「僕も、恋のことは好きだよ。でもね、まだ知らないこと教えられないことがある。でもそれは悪気があるわけじゃない。ちゃんと理由があるんだ。いつかその時が来たら教える。少しずつ教えてく、だから少しずつ知っていきたいんだ。お互いのこと。そうやって信頼していきたい…これが僕のありのままの気持ち、かな」

最後に疑問がついてしまった。しかし、これは自身でも意識してない何かがあるゆえの無意識の行動であった。「そう、か…」

恋は顔を下げて、望の言葉を噛み締めるようにしている。望としては、その行動がどういった感情から生じるものか判断がつかないため正直気が気でない。

「望」

「なに?」

「知っているか?私たちが会ってから、まだ1日しか経っていない」

「……そうだね」

答えに間があったのは少しだけ驚いたから。まだ1日。それにしては色々なことがあった。

「友達にはたった1日でなれるんだろうか…」

呟く、自分と相手に向けて。

「わからない…でも、互いに友達って思ったら友達。それでいいんじゃないかな」

曖昧な答え。しかし、二人が求める答えとしてはそれで良かった。

「ふふっ…じゃあ私たちは友達だ」

「でもお互い知らないことがたくさんあるよ?」

わかりきった答えを聞くように問いかける。それに恋は顔を上げて答える。

「なに、私たちは仲良くなるのが早かったのさ。これから知っていけばいい…だろう?」

「そんなものかな」

「そんなものだ」

そうに違いない

どちらともなく心で呟く。

「ただ、望…」

「なに?」

不満げな顔で恋が上目遣いで睨んでくる。普段見下ろされてるので新鮮な気がする。

「なんか私の方が知ってること少ない。微妙に不公平じゃないか」

不貞腐れたように頬を膨らませる。さてどうしたものかと頭を捻る。

「うーん…何が知りたい?」

「全部だと言いたいが今は叶わないな…」

同じように考え込む恋。

「あっ…」

望が良いことを思いついたと言わんばかりに顔をあげる。

「ん?何か思いついたのか?」

「まあね、今日のことのお詫びも兼ねて…ちょっと待ってね…あ、その前に、と」

恋に掛けたままの風の戒めを解く。

「ああ、忘れていたな。それにしても風とは色々便利だな」

「今からもっと良いものを見せてあげるよ」

そういってナイフを胸の位置に掲げる。そのまま目を瞑って黙りこむ。おそらく何かを準備していることは明白だ。

「………よし、いくよ」

そういってナイフを振るう。しかし、その様子は普段武器を振る時とは何かが違う。

♪〜♪〜♪〜

「?…この音は?」

何故か目の前の何もない空間から音が聴こえてくる。それは次第に音量を増し、小さなオーケストラが出来上がった。

「僕の好きな曲なんだ」

ナイフを指揮のように振りながら答える。普段、気分がいいと良く鼻歌で奏でたりする。今は風で奏でているのだ。

「聞き覚えがあると思ったら…成る程な…いい曲だな…私は音楽には疎いが、素直にそう思う」

「ありがとう…これはね、父さんがよく歌ってたんだ。名前は知らないけどね」

昔を懐かしむようにメロディを辿る。

「お父上に訊かなかったのか?」

「…訊かなかった。それにもう訊けないんだ」

「っ!…すまない」

それがどういう意味の言葉かすぐに悟る。

「いや、言うつもりだったから。……曲名はわからなかったけど、1つだけ覚えてることがあるんだ」

父との会話に思いを馳せる。



父が鼻歌を奏でている。それに無邪気に質問をする幼き日の自分。

『ねえ父さん。その歌なんの歌?』

『ん?これはな…お前の母さんが好きだった歌だ』

笑顔で、でもどこか寂しげに答える。

『そうなんだ…何で歌ってるの?』

『それはな。母さんが好きだった歌ってのもあるけど…』

『けど?』

『あいつが今もここにいるって思えるから、かな』

そういって胸に手を当てる。

『へえ〜…じゃあ僕も歌う!そしたら僕も母さんと一緒だよね』

その言葉に父は少しだけ泣きそうな顔をし、すぐに笑顔で

『…ああ、そうだ。お前が覚えてくれれば、忘れなければ、母さんはずっとお前と一緒だ……よし、じゃあ一緒に歌うぞ』


♪〜♪〜♪〜


「そうか…思い出の曲なのだな」

「母さんのことはよく覚えてないけど、この曲を歌ってると二人がいる気がするんだ」

「そうか」

優しい眼差しで望を見つめる。

「これが今僕が教えられることかな」

「ありがとう」

また一つ知ってることが増えた。そんな些細な事が今はとても嬉しい。

「じゃあ…戻ろっか。心配してるだろうし」

「そうだな…迷惑を掛けて…いやわざわざ言うまい」

「うん、気にしなくていいよ」

そのまま、どちらともなく扉へ向き直る。そのまま向かっていると僅かだが扉の向こうから物音がする。

「?」

怪訝に思い、忍び足で扉に近より…ゆっくりと開ける。そこには…

「いや〜青春だね〜堪能したよあたしは〜」

「今時あんなこと言えないよな」

「あれ?会話がきこ、え…な…」

「ん?どう…し…た…」

聞き耳をたてていた様子の渓と波涼がいた。

今、自分はどんな顔をしているのだろう。二人は怯えて震えている。そこで隣から聞き覚えがない低い声が響く。

「いつからいた?」

一応確認したが、そこにいたのは紛れもなく恋であった。きつめの目が人を殺せるんじゃないかと思える眼光を放っている。

「えーと…今さっき心配になって見に…」

「ホームルーム中に二人揃って?」

自分のとは思えない声が出た。

「そ、そうさ」

「暇をもて余した?」

「「休み時間の」」

「「「孤独」はっ!?」」

ダウト

「ま、まってくれ、悪気は無かった。ただ、様子を見にきたらつい…」

「渓」

「はひっ」

「波涼」

「はいっ」

「「少し、頭冷やそうか」」

二人の運命は決まった。そう思った瞬間。波涼が起死回生の一言を放つ。

「き、きすってなんのこと?」

「「!?」」

動きが止まる。同時に聞かれた羞恥心で頬に朱がさす。隣も同様に硬直している。

「にやり…昨日何があったのかな〜流石に全部は聴こえなかったから詳しくききたいんだけど〜」

「くっ」

ヤバい、万事休すか。しかし、恋はまだ負けていなかった。悪い意味で。

「き、きす?なんのことだ一体?き昨日は何もなかったぞ…泊めてもらったりしてないぞ」

墓穴が高速で掘られていく。目の前の二人がニヤニヤしている。

「成る程ね〜じゃあどこで寝たの?」

「朝起きたら望がベッド」

「恋!逃げるよ!」

戦略的撤退を計る。とりあえず授業時間に対策を練るしかない。

「待て!のぞみん!」

「待たない!」

「れんれんの毛!」

「そんなのはないっ!…はっ!」

「えっ…ちょっ…マジ?」

渓が驚愕している。おそらく2つの意味で。

「の、望!何を言ってる!お前だってピーーはむぐっ」

「なにも言わないっ!」

恋を抱き抱える。扉は二人が塞いでるのでそのまま屋上の柵のほうへ逃げる。

「歯くいしばって!」

跳ぶ。風を足場にしてゆっくりと降下する。

「あっ」

しかし、その先を考えていなかった。今はまだホームルーム中、教室には教師と生徒がいる。そんな中、窓に見える空飛ぶ男女。

案の定、視線を独り占めにしている自分たち。上を見上げると二人がにやついている。

しかし、降りきるわけにはいかないのでA組の窓から一言も発さず入る。二人とも顔は真っ赤であるが、みんな空気を読んでいるのかなにも言わない。しかし、その沈黙も辛かったりする。

「おはよう、大守さん。神無くん。今日はどうしたのかな?」

普通に訊いてきた人もいた。まあ教師は訊かざるを得ないだろう。


「少し、屋上で寝てました」

「二人っきりで寝てるなんてまだ二日目なのに凄く仲いいのね。羨ましいかな」

おそらく他意のない。素直な感想だろう。だからこそ辛かった。クラスの目線も痛い。

「遅くなりすみませんでした」

大人しく座る。しかし、このあとの授業はかなり苦痛だったことを明記しておく。


もちろん。渓と波涼は昼飯抜きじゃ済まされない罰を与えたことは言うまでもない。

読者の予想を裏切るのは楽しいとは思いますが、自分の予想を裏切る展開は驚きましたね。いつの間にかこんなんなりました。そういえば色々アニメ始まりましたね。少女漫画原作が面白いとか思ってます。あとの作品は萌えが足りない気がします。萌えが足りない気がします。大事なことだからry



以下おまけ


苦痛の授業集


ケース1 盾衣先生

「先生、羨ましいかな。普通お姫様だっこなんてしてもらえないし」

「あれは不可抗力で…」

「ねえねえ大守さんどんな気分だったかな?」

「あ、えーと…とても落ち着くけど胸が高なると言いますか…」

「きゃー!可愛いー!じゃあ、他に何かして欲しいこととかはあるかな?」

「先生…授業は…」

授業そっちのけで質問攻め



ケース2 土居先生


カツカツ…ピタッ

「ん?」

二人の前で何かに気づいたのか止まる。

「「…………………」」

「…若いですねえ…」

「先生!それはどういう意味かあたしに是非ご教授を!」

「それはいけませんよ。若者のプライベートを妄りに明かすわけにはいけませんから」

「ぶー」

ふて腐れる波涼。それを尻目に土居先生は二人にしか聴こえないように

「同棲まではいいとして同衾は流石に頂けませんね」

「「!!!!」」

「……軽い鎌かけでしたが、まさか本当に…いや……若いですねえ」


ケース3 不良教師


「お前ら職員室で噂になってんぞ〜」

「え?」

「え?じゃねーよ。あんな目立つことした上に、無意識でお喋りな守にバレたら当たり前じゃねーか」

血の気が引く。

「で、どこまでいった?」

「な、なんのことですか?」

「いや、二日目でお姫様だっこなんてできるんだから、昨日1日で何かあったのは明白だろ?な?」

平静を保て反応したら負けだ。

「手繋いだ?」

「食事した?」

「とまった?」

「一緒に寝た?」

「キスした?」

「お風呂入った?」

「やった?」

自分は全てに対して平静を装いきった。

「神無…悪かった。俺もな冗談のつもりだったんだぜ?」

珍しく謝罪する矛刀。それはつまり…

「でも、まさか手繋いだとやった以外に反応するとは思わねーじゃねーか。嬢ちゃんがわかりやすすぎるんだよ」

全てバレた。恋にそんなポーカーフェイスは無理だったのだ。

「まあなんだ。末永くお幸せにな」

周りから怨嗟の声が止めどなく聞こえる。


胃に穴があくかと思った。

むしろ入る穴を開けてほしかった。



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