「苦くて甘い1日」
「ごめん、おれと別れてくれない?」
残暑が過ぎ去り、肌寒い風が吹きはじめ、秋の訪れを感じさせたある日。
私は彼氏に振られた……。
振られた訳もわからず、すぐに彼に理由を尋ねたが、返ってくるのは「うん」とか「いや……」とか曖昧な返事だけ。その場にいるのも辛くなって走って家まで帰ってきた。
部屋に入り、そのままベッドに倒れた。なんだか無性に悲しくなってくる。涙が溢れて止まらない。
せっかく付き合って初デートをして、これから楽しくなってくるところだったのに……。クリスマスの予定も考えてた自分がバカみたい。
コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえるけど、今の私はそれに応える元気がない。
「ちょっと、いるなら返事しなさいよ」
お姉ちゃんが扉を開けて部屋に入ってくる。
「なにあんた、泣いてんの? なんかあった?」
「……かっ、かれし……に……ふられた」
泣きながら返事をしたためうまく言葉が出なかった。
お姉ちゃんは少しだけ驚き、「なるほどね」と呟いて納得すると、
「落ち着いたら来な。ご飯用意しておくから」
と言って、部屋を出てった。
そんなにすぐに落ち着くわけないでしょ! とやり場のない怒りを心の中でぶつける。
やがて、泣くことに疲れた私は襲い掛かってきた睡魔に身を委ねた。
目が覚めると、窓からは月明かりが射し込み、辺りは暗闇に包まれていた。
携帯を開いて時間を確認すると、12時前。ずいぶん寝ていた。
不意にお腹が鳴った。気分はまだ晴れず、食欲は湧いていなかったが、一応何か食べておこうとリビングへと向かう。
リビングではお姉ちゃんがテレビで深夜番組を見ていた。
「あっ!? ようやく起きた~」
リビングに入った私に気づいたお姉ちゃんはテレビの電源を消した。
「食欲ある?」
「……あんまりない」
「そう。じゃあこれでも食べておきな」
お姉ちゃんは冷蔵庫からスイートポテトを取り出して私に手渡した。
こんなの家にあったっけ?
「お姉ちゃん、これどうしたの?」
「これ? あんたが寝てから作ったのよ。どうせ起きてもあんまり食べられないだろうと思って、糖分が採れて少しは食べれるものを考えてそれ作ったの」
私は手渡しされたスイートポテトを一口かじる。
「どう? おいしいでしょ?」
お姉ちゃんは自信満々にこちらの反応を待っている。
「お姉ちゃん……。これ、砂糖と塩間違えて使ってるよ」
口の中はショッパイ。
「なに言ってんのよ。それはあんたの涙の味でしょ」
また泣き出した私の頭をお姉ちゃんは優しく撫でた。
恋の終わりは苦さとほんの少しの甘さがあった。
失恋を経験した女の子と彼女を見てほんの少しの優しさを与える姉を書きました。
恋の相手とは一緒にいた期間だけでも、家族とは生きている限り一生支えあって生きていけるんだなと思いながら書きました。