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第一話「炎の中で目覚めて」

初めまして。今回が初めての投稿になります。

まだまだ拙い部分もあるかと思いますが、最後まで楽しんでもらえたら嬉しいです。

燃え上がる炎。近づいてくる影。少年――ゼイルは、それをただ見つめることしかできなかった。怖い。十二年の人生で感じたことのない恐怖だった。いや、どれほど経験を積んだ冒険者でも、スラム街で生きてきた者でさえ、こんな恐怖は知らないのかもしれない。


そのとき――雷が空を切り裂いた。轟音が夜を揺らす。その衝撃で、ゼイルの意識がわずかに戻る。もしかしたら、これはただの悪夢なのではないか。そんな希望が、頭をよぎる。だが――頬に熱を感じた。ゼイルはゆっくりと顔を上げる。その瞬間、希望が崩れた。笑顔と笑い声で満ちていたはずの村は、今や炎と、泣き叫ぶ声に包まれていた。ゼイルの体が震える。


炎の向こうに、影が見えた。長い角。黒い影のような体。低く唸る声を漏らしながら、それはゆっくりと近づいてくる。魔族だった。


そのとき、ゼイルの前に、一人の老人が立った。守るように、ゼイルの前へ。雷をまとった魔法使い――ゼイルの師匠だ。老人が何かを叫んだ。だが――雷鳴がすべてをかき消した。ゼイルには、その言葉は聞こえない。ただ、口だけが動いていた。


その瞬間――ゼイルは飛び起きた。荒い息が漏れる。背中が冷たい。汗で服が張り付いている。しばらく、呼吸が整わない。


「……夢か」

小さくつぶやく。だが、胸の奥のざわつきは消えなかった。あの夜から三年経った今でも――同じ夢を見る。


ゼイルはゆっくりと体を起こす。窓の外は、すでに明るかった。鳥の鳴き声が聞こえる。静かな朝だ。あまりにも平和で、さっきまで見ていた光景が嘘のようだった。


ゼイルは顔をこすり、立ち上がる。小さな家の扉を開けると、朝の空気が流れ込んできた。外では村人たちがすでに働き始めている。畑を耕す者。井戸で水を汲む者。どこにでもある、小さな村の朝だった。この村では、ゼイルは三年前から暮らしている。あの襲撃のあと、行き場を失ったゼイルを、この村が受け入れてくれたのだ。


ゼイルは空を見上げる。青い空だった。あの夜と同じ世界とは思えないほど、穏やかな空。だが――夢の中で見た光景は、頭から離れなかった。炎。魔族。そして――雷の光。ゼイルは小さく息を吐く。


「…..爺ちゃん」

誰にも聞こえない声だった。


「おう、ゼイル。もう起きてたのか」

声をかけてきたのは、畑仕事をしていた男だった。ゼイルは軽く手を上げる。「ああ」短い返事だった。男は気にした様子もなく笑う。「ちょうどいい。あとで村長がお前を探してたぞ」


ゼイルは少し首をかしげた。「村長が?」

「森のことで何か頼みたいらしい」


ゼイルは急いで支度をする。肩まで届く黒髪は、普段はきれいで整っている。育ちの良さを感じさせる光沢のある髪だが、今朝は寝癖で少し乱れている。水で軽く濡らしたせいか、束になった髪が額にかかり、夏の朝の涼しさを少し感じさせた。いつもの濃い灰色のチュニックは丈が少し長く、動きやすい。腰の小さなポーチや革ブーツも、村での生活の痕跡を残していた。


肩からかけるローブを手に取る。少し色褪せた布地に、養父が残した雷の紋章のブローチが光る。ゼイルは毎日、養父が唯一残したこのブローチを首にかける。彼を救ってくれた、今は亡き恩人を忘れぬために。深呼吸を一つして、ゼイルは小屋の扉を開ける。朝の冷たい空気が顔をなで、髪を軽く揺らす。外の村はすでに、日常の音に包まれていた。

手元のポーチやローブの重みを感じながら、ゼイルは足を踏み出す。今日は、村長が呼んでいるらしい。何の用かはまだ分からない。道を歩いていると、遠くから村長の声が聞こえる。


「ゼイル、こっちだ!」

声の方へ向かうと、白髭の村長が手を振っていた。ゼイルは少し足を早め、村長の前に立つ。


「呼び出しとは一体……」

「おぬしは、この村の魔法使いの中で、一番腕が立つだろう。剣の腕も、この村の中なら、5本の指に入るほどの実力」


そう。ゼイルはこの村の魔法使いの中で一番強い。それも圧倒的に。単にこの村の魔法使いのレベルが低いのかもしれないが、任務以外でこの村を出ないゼイルには、何もわからない。ゼイルに両親はいない。昔は名を馳せていた魔法使いであった育ての親、ライゼルに拾われ、魔法の基礎を全て学んだ。この村に来た頃からすでに、村で一番強かった。


「それで、要件はなんでしょう」

「ゼイル、最近この村から少し離れた――おぬしが昔住んでいた村じゃが、そちらから魔獣が頻繁にこちらへ来るようになった。この村の魔法使いを二人向かわせたが……残念ながら、二人とも戻ってこなかった。もう二日経つ。もう、死んでいてもおかしくはないだろう。そこでじゃ、ゼイル。おぬしに調査に行ってもらいたいのじゃ。村で一番強い剣士も一緒に向かわせる。二人で何とかしてきてくれ。頼んだぞ」


なんて冷静なおじいちゃんだ。ゼイルは心の中で呟いた。「なんでこいつ死ぬかもしれない任務に15歳の子供を向かわせるんだよ」


それを見透かすかのように、村長は淡々と返す。「なんか文句あんのか、お前」


ため息をつきながら、ゼイルは準備を始めた。一度家に戻り、腰のポーチに魔法道具を詰め込み、ローブを肩にかける。手にしたブローチをぎゅっと握り、深呼吸を一つ――杖を取って、家を出た。


「……さて、行くか」

覚悟を決めたゼイルは、村長に軽く会釈し、剣士と待ち合わせの場所へ向かった。そこには、村で一番強い剣士――ゴウマが既に待っていた。大柄な体格に鋭い目つき。普段は無口だが、戦いとなると頼りになる人物だ。ゼイルを見ると、ゴウマは小さく頷き、準備の確認もせずに軽く声をかけた。


「遅いぞ、ゼイル。準備は整ってるな?」

ゼイルも軽く頷く。「うん。大丈夫だ」


二人は村を出て、森へ続く道を歩き始める。木々のざわめき、遠くで鳴く鳥の声、風に揺れる草の香り。普段なら気にも留めない自然の息吹も、今はどこか神経を逆なでるように感じられた。ゼイルは小さく肩をすくめ、少し前傾姿勢で歩く。背中には養父の教えと、この村での日常――そして未知の恐怖が重くのしかかる。


「……魔獣か。二人も戻らなかったのか」

ゼイルは自分に言い聞かせるように呟く。ゴウマは何も答えず、ただ道を見つめながら歩き続ける。静寂の中に、二人の足音だけが響いた。


森の入り口が近づくにつれ、空気が少しひんやりとしてくる。ゼイルの胸の奥で、冒険の始まりを告げる小さな緊張が膨らんでいった。二人は森の入り口に差し掛かった。木々が生い茂り、空は徐々に枝葉に遮られて薄暗くなる。風が木の葉をざわめかせ、何かが森の奥からこちらを見ているかのような錯覚を与える。


「……空気が違うな」

ゼイルは小さく呟く。いつも感じる森の匂いとは違い、湿った土と生暖かい風、そして微かに腐敗の匂いが混ざる。ゴウマは杖や剣に手をかけることもなく、黙って周囲を見回している。その無言の警戒が、ゼイルにも緊張感を伝える。


「……魔獣か」

ゼイルの心臓が早鐘のように打つ。二人も戻らなかった魔法使い――それを思い浮かべるだけで、体が自然に硬直する。森の奥から、かすかな枝の軋む音。葉の間に、黒い影がちらりと見えたような気がする。


「……気を抜くな」

ゴウマが低く呟く。ゼイルは頷き、掌に魔力を集める。雷の紋章のブローチが、わずかに光を反射した。


森は静かに二人を迎え入れる。だが、その静寂は、ほんの少しの気配で簡単に崩れそうだった。ゼイルの胸に、覚悟と同時に少年らしい不安がわき上がる。


「……行こう」

ゼイルは少し前に足を踏み出す。ゴウマも間を置かずに続く。森の奥に、何が待ち受けているのか――二人にはまだ、全く分からなかった。

読んでくださり、ありがとうございます。

初めての投稿なので、至らないところも多いかと思います。

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