輪ゴム
大晦日に実家に帰省した私は自分の部屋を掃除していた。
「変わらないな…」
そう呟きながらノスタルジックな空気に包まれる部屋をあちこちと片していると、懐かしい産出品は続々と出てくる。
時間の経過でぼろぼろながらも私のアルバムを束ねてくれていた輪ゴムを取り外して、ホコリまみれのアルバムを開いた。
「懐かしいな…」
懐かしい。その一言で私達は時の去り具合を復習し、まるで今時の流れが解放されたような気分を作り出す。アルバムに映る昔のクラスメートはこの時を待ち構えていたかのように私の記憶のなかで動き出すのを感じた。
次へ次へとページをめくる指のひんやりとした感覚を覆いかぶさるように私は懐かしさを覚え、記憶のページをもめくりだす。めくるほどにあの時の記憶は鮮明に脳裏に焼きつく。
教室の匂い、暖かくて寝てしまいそうな午後の日差し、騒々しく響くクラスメートの笑い声。
今までも思い出せたはずなのに、目の前のアルバムが私の記憶を完全に補完し私と部屋を飲み込まんとばかりにふくれあがる。
楽しかったなあ懐かしいなあ。ああ。私はどうして…。
「ちょっと!あんたこっちも片さな!」
一階から響く母の声に引っ張られながら、私は輪ゴムをつけ直そうと指先触れると、ぼろぼろと、不規則に崩れ落ちてしまった。
「今行く!」
古いアルバムは輪ゴムで何年も束ねられ、閉じ込められていた。しかし、私の記憶こそがまとめ上げていた古びた輪ゴムであり、解放されたのはただ感情の崩壊のみであったのではないか。バラバラになった過去をまとめられる物は何もない。
除夜の鐘がなろうとする今、足元に散る輪ゴムは過去を束ねる力を持たず、ただそこにあるゴミとして、静かに風化していくのを待つだけであった。




