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野生のもんはな、年寄りになって枯れるみたいに死んだりせえへん。
早いか遅いか、それだけや。
どこで、どないして、敵に捕まるか――それが寿命や。
せやけどな、ラッグの一生はちょっと違う証拠みたいなもんやった。
ウサギいうんは、子ども時代さえ越えたら、しばらくは案外しぶとい。
ほんで、坂を下り始めた最後の三分の一 ―― その「三番目」に来て、ようやく死ぬ。
ラッグは、そういう生き方をしたウサギや。
綿尾ウサギの敵は、数えだしたらきりがあらへん。
犬、キツネ、猫、スカンク、アライグマ、イタチ、ミンク、ヘビ、
タカにフクロウ、人間、果ては虫までや。
毎日が逃走、毎晩が綱渡り。
一日に一回は、命を担保に跳ねなあかん。
スプリングフィールドの、あの忌々しいキツネにな、
有刺鉄線つきの豚小屋の残骸の下に追い込まれたことも、
春までに二度あった。
せやけど一回潜り込んでしもたら、
キツネが無駄に脚をズタズタにしとるのを、
落ち着いて眺める余裕まであった。
猟犬を、同じくらい厄介なスカンクにぶつけて逃げたこともある。
あれはなかなかええ勝負やった。
一度だけ、ほんまにやばかったんは、
フェレット使いのハンターに生け捕られた時や。
翌日、奇跡みたいに逃げられたけど、
それ以来、ラッグは「穴」を信用せんようになった。
猫に追われて水に飛び込んだこともある。
タカやフクロウに空から狙われたこともある。
せやけど、どの危険にも「対抗策」はあった。
母親のモリーは、まず基本を教えた。
ラッグはそれを育てた。
育てて、いじって、組み替えて、
気がついたら、まるで別の技にしてしもた。
年を取って、賢なればなるほど、
ラッグは脚力を信用せんようになった。
速さやのうて、頭や。
生き残るんは、そっちやと悟ったんや。
レンジャーいう若い猟犬がおった。
飼い主が訓練用に、
綿尾ウサギの通り路に放す犬や。
相手は、たいていラッグやった。
若いウサギにとっては、
この追いかけっこ、正直おもろかった。
ほどよく危険で、脚も頭も冴える。
ラッグは言うたもんや。
「なあお母ちゃん、また犬来たで。
今日もひとっ走り、行ってくるわ」
「調子に乗りすぎや、ラッグ」
モリーは鼻を鳴らした。
「走りすぎるんが、あたしは怖い」
「でもな、あのアホ犬をからかうんは、
ええ訓練や。
ほんまにやばなったら、合図送る。
そしたら、代わってくれるやろ?」
レンジャーは、ラッグが通ると、
必ずその道を選んだ。
疲れるまで追う。
ほんで、
合図が飛んだらモリーが引き取るか、
あるいは――
ラッグが一人で片づけた。
ここから先は、その一例や。
ラッグはよう知っとった。
自分の臭いは、空中やのうて、地面すれすれでいちばん強う残る、いうことを。
それに、走って体が熱うなっとるときほど、
その臭いは生き物みたいに地面にへばりつく。
せやからや。
本気で追われたとき、ラッグはすぐに結論を出す。
――冷やせ。まず冷やせ。
地面から離れて、じっと三十分。
体温が下がり、臭跡が薄まるまで、決して動かん。
それができへん場所では、別の手を打つ。
追跡にうんざりしたとき、
ラッグはクリークサイドのイバラの一角に、
自分だけの**“wound(罠)”**を作っとった。
それは穴でも壁でもない。
犬の脚と鼻を、同時に裏切るための場所や。
まずラッグは、そこをわざとらしいほどジグザグに走り回った。
真っ直ぐ逃げたら終いや。
迷わせるために、足跡を重ね、絡め、ほどく。
案の定、猟犬は正しい線を見つけるのに、えらい時間を食うた。
そこからや。
ラッグは高い丸太のある地点Eの風上へ、
一跳ねで移る。
風下へは行かへん。
臭いを運ばせんためや。
Eからは森の中のDまで、一気に直進。
途中で止まらん。
Dに着いて、ようやく止まり、
今度は自分の足跡を踏み直しながらFまで戻る。
ここで、横へ大きく跳ねる。
足跡を断ち切るようにしてGへ。
さらにJまで戻り、
犬がIで「ラッグはこのまま行った」と思い込むのを、
腹這いになって待つ。
十分や。
犬が完全に通り過ぎたのを見届けてから、
ラッグは前に通ったHへ戻り、
またEまで、自分の足跡だけを辿る。
そして最後に、
大きく横へ飛び、
高い丸太の上へ。
そのまま上端へ走り、
一瞬で――
ただの木のこぶみたいに座った。
レンジャーは、イバラの迷路でえらい時間を食うた。
抜け出た頃には、臭いはもう薄うて、
それでも必死にDまで辿り着く。
ここで犬は、
鼻を地面に押しつけ、
円を描くように歩き出す。
臭いの輪を、探すためや。
けどな。
どれだけ回っても、Gで臭いはぷつりと切れる。
犬は一瞬、立ち尽くす。
――またや。
また、してやられた。
円はだんだん大きなって、
ようやく最後に、
レンジャーはラッグの乗っとる丸太の右側を通り過ぎた。
寒い日やった。
冷えた臭いは、そうそう上には上がらん。
ラッグは動かへん。
瞬きもせん。
呼吸も、地面に落とさん。
犬は通り過ぎた。
それでもレンジャーは諦めへん。
再び戻ってきて、
今度は丸太の低い部分で、鼻を止めた。
「……これは、間違いなくウサギの臭いや。
せやけど、もう古い」
そう判断しても、
訓練された猟犬は丸太を登る。
立派な体格の猟犬が、
丸太に沿ってフンフンと臭いを嗅ぎ上がってくる。
この瞬間は、ラッグにとって試練やった。
度胸が問われる。
風向きは正しい。
逃げるなら、半分登ってきたところや。
……けど。
犬は来えへん。
臆病な野良犬なら、
そこに座っとるウサギを目で見て気づいたやろ。
せやけど猟犬は、鼻しか信じへん。
臭いが消えた。
そう判断した犬は、丸太から飛び降りた。
その瞬間、
ラッグは勝った。




