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流れる水いうもんにはな、不思議な力があるんや。

魔法いうてしもてええ。

これを知らんもん、感じたことあらへんもんがおるやろか。

人間の鉄道技師かて、でっかい沼や湖、しまいには海の上まで土手を通してまうくせに、小さな小川となると話は別や。

流れの癖、進みたがる方向、その水が何を望んどるか、じっと読みよる。

水いうのは、そういうもんや。


アルカリでざらついた砂漠を歩いて、喉を焼くほど渇いた旅人は、スゲの生い茂った池を前にしたら足が止まる。

あそこは命を取られる場所や、と身体が先に知っとるからや。

けどな、その真ん中に、うっすらでも筋が見えて、水が生きて流れとる気配があったらどうや。

旅人は喜んでその水を飲む。

流れる水は、生き延びろ言うてくれる水やからや。


流れる水には魔法がある。

どんな悪さも、どんな呪いも、流れる水だけは越えられへん。

昔の話にあるやろ、魔女は流れを渡れんいうやつ。

あれは嘘やない。森で獲物を追うもんは、匂いを辿るんが仕事や。

匂いが切れた瞬間、胸の奥がひやっとする。

逃げ場のない呪縛にかかったみたいになる。

せやけどな、最後の力を振り絞って水に飛び込めたら話は変わる。

冷たい流れに身を任せて下へ下へ行くんや。

そうしたら、また森に帰れる。


猟犬らは、そこまで来て止まる。

くるくる回って、首を傾げて、吠えるけど、答えは出えへん。

流れが、全部さらっていくからや。

これが水の魔法や。


――水はな、イバラの次に頼れる友だちや。


これは、モリーがラッグに教えた、大事な秘密のひとつやった。


八月の蒸し暑い夜、モリーはラッグを森の奥へ連れていった。

モリーの尻尾の下に見える綿白の毛は、夜道でふわっと光る道しるべみたいやったけど、モリーが立ち止まって腰を下ろしたら、すっと闇に溶けて消える。


ラッグは、その白い印だけを信じてついて行く。


走って、止まって、耳を澄まして、それを何度か繰り返した末に、ふたりは池の縁に出た。頭の上では、木の上におる小さなカエルらが「おやすみやで」と歌うてる。沈んだ丸太のあたり、深いとこでは、顎まで水に浸かったウシガエルが、低い声でゆっくり鳴いとった。


「そのまま、ついてき」


モリーはそう言うて、ためらいもなく、どぶんと水に入った。

真ん中の沈み木に向かって、力強く泳ぎだす。ラッグは一瞬ひるんだ。

けど、小さく「つめた…」言うただけで、腹をくくって飛び込んだ。

鼻を震わせ、息を詰めながら、必死でモリーの真似をする。

陸で走るときと同じように、脚を動かすだけでええんやと、身体が勝手に覚えていった。


気がついたら、泳げとった。


沈み木まで辿り着いて、乾いた端に這い上がる。

モリーはもうそこにおって、毛から水を滴らせとる。

周りはイグサが輪みたいに生えて、池の水は急に静まり返る。

流れは、ちゃんと下で仕事をしとった。


この夜のあと、スプリングフィールドの古いキツネが沼地を抜けてきたとき、ラッグは思い出した。

ウシガエルの声がした場所を。

あの低い歌声は、それからラッグにとって――


「来い、来い。危ないときは、こっちや」


そう聞こえる合図になった。


これが、モリーからラッグへ渡された、いちばん新しい知恵や。

そしてこれは、最後の段階に近い教えやった。

多くの小さなウサギは、ここまでは辿り着かれへん。

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