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八月の、えらい明るい朝やった。 オリファントの沼はな、朝から日ぃがぎょうさん流れ込んで、ぬくぬくしてて、「ああ、今日は何も起こらへんな」と思わせる顔をしとった。そういう顔ほど信用したらあかんのやけど。


茶色いちっこいスワンプ・スパローが、池に伸びた灯心草の先で、ちょこまかちょこまか落ち着きなく動いとる。

水面の下には濁った水が広がって、青空の切れ端がバラバラ落ちてるみたいや。

そこに黄色なったアオウキクサが混じって、やたら手の込んだモザイク細工みたいになっとった。

反対側を見たら、水の上には鳥が逆さまに映っててな、上下がどっちかわからん、沼らしい景色や。


奥の土手には、金色がかった緑のミズバショウが、これでもかいう勢いで茂ってて、茶色い草むらの上に、どっしり濃い影を落としとった。


スワンプ・スパローは、色の豊かさなんぞ分かる目ぇしとらん。

でもな、人間が見落とすもんを、きっちり見とる。

キャベツみたいに幅広い葉っぱの下、茶色うなった枯れ葉の塊の奥で、辺りが静まり返っとる中でも、鼻だけはひくひく止まらん、毛皮の生きもんが二つ。


モリーとラッグや。


ウサギらはミズバショウの下で、のびぃっと体を伸ばしとった。

あの独特の嫌な匂いが好きなわけやない。

あれは翼ダニが耐えられへん匂いやから、勝手に逃げていきよる。

掃除いらず、ようできた仕組みや。


ウサギにとってな、「今から授業や」いう時間割なんかあらへん。生きてる限り、ずっと勉強や。

しかも、目の前で起こりかけとる事を、起こる前に身につけなあかん。

せやから、油断いうもんは命取りや。


そのときや。

アオカケスの、やたら切羽詰まった警告が飛んできた。

モリーの鼻と耳が、ピン、と立つ。尻尾は背中にぴたり張り付く。

沼を横切って、オリファントはんとこの、でかい白黒の犬が、一直線に向こうから来とった。


「今からやで」 モリーは低い声で言うた。

「私が相手したる。あのアホが余計なことせんようにな。あんたは伏せとき」


そう言うが早いか、モリーは迷いもせんと、犬の進む道を横切って走り出した。


「バウオウオウ!」

犬は吠えて、磁石に吸われたみたいにモリーの後ろに張り付いた。

けどな、モリーは絶妙な距離を保ちよる。届きそうで届かん、その一線や。

そして、無数の短剣みたいな棘がわさわさ待っとる場所へ、犬をきっちり案内していく。

最後は、有刺鉄線のフェンスに、体ごと突っ込むよう仕向けた。


犬はえらい深手を負うて、痛い痛いと泣きながら家へ逃げ帰っていった。

モリーはその後、犬が戻ってくることも考えて、short double(足跡を逆に辿って戻る技) と loop (輪を描いて歩き足跡をわからなくする技)を使うて、きっちり baulk (敵の裏をかく術)をかましといた。


ほんで戻ってきたらや。

ラッグはいうたら、ぼーっと立ち尽くして、首伸ばして、翻弄されとる犬を見物しとった。


モリーは、そらもう、かんかんや。

言いつけ守らんラッグを、後ろ脚でどん、と蹴り飛ばして、泥の中に叩き込んだ。


――これも、授業や。


またある日、クローバー畑で食うとったら、アカオノスリが襲ってきよった。 モリーは後ろ脚を蹴り上げて、ノスリをからかうようにかわし、古い小径沿いのイバラの茂みに飛び込んだ。

もちろん、ノスリはそれ以上来られへん。


その小径は、クリークサイド・シケットからストーブパイプの藪まで続く、大事な通り道や。ツタカズラが何本か横切っとったんで、モリーは片目でノスリを見張りながら、歯でそれを噛み切り始めた。


ラッグもそれを見て、ちょい離れたところへ走っていき、同じようにツタカズラを切った。


「ようできました」 モリーは言う。

「通り路はな、いつでもきれいにしとき。広うなくてええ、ちゃんと通れるだけでええ。こうして切っとったら、そのうち罠まで切っとった、なんてこともある」


「罠?」 ラッグは左の後ろ脚で右耳を掻きながら聞いた。


「罠はな、ツタカズラみたいな顔しとるけど、人間いう生きもんが仕掛けたもんや。猛禽より、よっぽどたち悪い」

遠ざかる赤い尾をちらっと見ながら、モリーは言うた。

「昼も夜も、ラッグが来る日を待っとる」


「僕なんか、捕まえられへんで」 ラッグは胸張って言うた。


若いもん特有の調子で、顎とひげを、つるっとした若木の高いとこに擦りつける。

本人は気づいとらんかったけど、モリーはそれを見て、ああ来たな、と思うた。


あのちっこかったラッグは、もう赤ん坊やない。

間もなく、一人前の綿尾ウサギになる。


――せやけど、その前に、まだ教えなあかんことは山ほどあるんや。


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