転生魔術師の記録。
「転生魔術師についての記録、か。」
この本は、かなり古いが、何やらページを継ぎ足せる様になっている様だ。
一番後ろには、私の事が書かれている。
しっかりとした記録だ。
あの国は、あの後隣国に攻められて滅びたのか。
・・・国民の皆には申し訳のない事をしたな。
・・・だが、かなり期待できそうだ。
早速、読み始める事にしよう。
転生魔術の起源。
太古の昔、転生魔術は、神々のみが受け継ぐ、一子相伝の魔術であったとされる。
代々、親から子へ受け継がれたが、
血のつながりが無くとも、引き継ぎをする事ができる。
ある悪鬼と呼ばれた神が、転生魔術を引き継いだ若い神を殺し、転生魔術を我が物とした。
転生魔術は、神々が使用すれば、神々にさえ影響を及ぼす。
もちろん、対抗策を講じることはできたが、悪鬼は、巧みに神々を騙し、転生させ、自分自身の地位を高めていった。
悪鬼が神々の頂点に手が届く所まで来ると、他の神々は手を組み、悪鬼を追い詰める。
追い詰められた悪鬼は、自らを人間族へと転生させた。
「なるほど。神々は、私のできない事もできたのか・・・できないと思い込んでいるだけで、何か方法があったりはしないのだろうか?
・・・そう言えば、エレナが不老不死が解けるかもしれないと言っていたな。
読み進めてみるか。」
神である悪鬼が、人間族へ転生した事で、この世界線は狂い始める。
人間族だけが暮らしていたこの世界線に、天使族、魔族など、様々な種族が現れ出す。
これは、悪鬼が人間族と交わりを持ち、産まれた者達であるが、
悪鬼が、時の王となっている間は、違う種族も人間族として悪鬼が支配していた。
悪鬼の国政は酷いもので、国民の不満は日を追う事に強まっていく。
もちろん、悪鬼は不老不死であった。
このまま永遠に悪鬼に支配され続ける事に絶望を覚えた。
そして、ついに、悪鬼を討ち果たそうとする者達が現れる。
彼らは、自らを聖騎士と名乗った。
パラディンの中には、様々な種族が混在していたが、悪鬼の血を引き継ぐ人間族のみに、稀ではあるが特殊な魔術を使う者が現れ出す。
転生魔術を無効化したり、
不老不死を解いたりする魔術、
転生だけではない、全ての魔術を跳ね返す結界を張る魔術。
その不思議な魔術は多岐にわたる。
「こ、これは!!そんな魔術が存在するのかー!」
シンは、感動のあまり叫んだ。
「う、う〜ん。」
大声に、エレナが目をこすり、ゆっくりと赤い瞳が顔を出し、シンを見つめる。
「・・・・・わぁー!!」
エレナは飛び起きて、シンから離れると、身構える。
「だ、誰だ!?」
エレナは、シンを警戒しながらも、衣服の乱れがないかとか、色々確認している。
特に何もされていない事を確信すると、シンを見つめる。
「・・・・シン・・・なの?」
「そうだけど?」
「よ、鎧は?」
シンは脱ぎ捨てた鎧を指さした。
「約束したから。
それに、鎧で膝枕は寝心地が悪いかと思って。本、頑張って探してくれたんだろ?」
「そ、そうだけど。」
鎧を脱いだシンは、綺麗な金色の長髪に、白い綺麗な肌。瞳は、左右色が違うが、片方は赤い瞳、片方は茶色い瞳。
そして、服の上からでも分かる、スリムな体つきなのに鍛え上げられた肉体。
極めつけは、鎧を来ていた時の、おじさんの様な声と話し方ではなく、心地よい綺麗な声に、優しい言葉遣い。
エレナは、まさかの姿に、シンと目が合うだけでドキドキしている。
顔を少し赤くして俯いたエレナは、動揺を隠しきれない。
「エレナ?」
「は!はい!」
エレナは突然名前を呼ばれ、裏返った声で返事をする。
「大丈夫か?まだ寝始めてからそれほどたっていない。もう少し休むといい。」
シンは、自分の太ももの辺りをトントンとしてエレナを呼ぶ。
「・・・。」
バカ野郎!鎧の中身、王子様かよ!
無理!無理!無理!
あのブタ野郎の隣とは比べるべきでも無いが、これはこれで無理ー!
エレナは緊張のあまり声が出ない。
「どうしたんだ?」
シンは、傍らに本を置くと、立ち上がる。
来た!こっち来るー!
無理です!
許して下さーい!
俯いているエレナを、シンは抱きかかえた。
「キャ!」
「もう少し休め。本もまだ途中だ。」
「・・・は、はい。」
エレナは、大人しく、シンに再び膝枕されると、シンの足に顔を埋める様に眠ろうとする。
「エレナ、息ができなくなるぞ?」
「こ、これでいい・・・ハァハァハァ。」
「だから言っただろう。」
エレナは、シンの体と反対の方を向いて目を閉じた。
眠れる訳ないと思いながらも、体は正直だった。
疲れていたエレナは、眠りに堕ちた。
「では、再会しよう。」
パラディンは、集結し、悪鬼の城へとなだれ込む。
広間に着くと、悪鬼は余裕綽々といった様子で、玉座に座っている。
「我を貴様らごときがどうにかできると思ったか!」
悪鬼は、叫ぶと、ヘラヘラと笑う。
パラディン達は、怯むこと無く、悪鬼に斬りかかる。
着座しながら、悪鬼は迫りくるパラディン達に手をかざし、転生魔術を展開する。
「転生無効化。」
一人の魔術師が魔法陣を展開すると、
悪鬼の転生魔術はかき消された。
「な、なんだと?!」
悪鬼は驚きを隠せない様子だ。
「まさか、我の血を受け継ぐ者に特殊な力が宿ったのか?!」
悪鬼は、一瞬怯んだが、立ち上がり冷静さを取り戻した。
「まぁ、良い。どうしようと、我の力は圧倒的なうえに、不老不死なのだから。」
悪鬼の不老不死は、外的要因さえも超越している。殺す事も不可能なのだ。
パラディン達は、それを知っている。
「無駄な事をしおって!大人しく我に支配されていれば死なずに住んだものを!消えてしまえ!エクスプロージョン!」
悪鬼が手をかざし唱えると、パラディン達の足元に魔法陣が展開される。
全てを焼き尽くす業火の炎がパラディン達を襲う。
「ミラー!」
一人の魔術師が、結界を展開すると、魔法陣は、悪鬼の足元へと移動し、悪鬼は炎に包まれた。
「お、おのれー!」
体がただれた悪鬼は悔しそうに叫ぶ。
「だが、こんな傷、すぐに治る!
ヒャハハハ!」
ヨレヨレとしながらも笑う悪鬼に、手をかざす魔術師。
「不老不死無効化。」
魔法陣が悪鬼の足元に展開され悪鬼が光に包まれると、傷の回復が止まる。
「あひ?」
「悪鬼!終わりだ!」
パラディン達は、高らかに叫ぶと、剣を構えた。
「・・・・我をここまで追い詰めるとは!褒めてやろう!だが、我にとどめをさした者には、転生魔術とそれに関連付けした呪いが、降りかかる。
それでも我を亡きものとできるかー!」
シャーン。
剣の太刀が、悪鬼の首を切り落とす。
ゴロゴロと地面を転がった首は、息絶えても首切り落としたパラディンを睨みつけていた。
「団長!呪いが!」
「良い。私が一人呪われるだけで皆が幸せにあるのなら。」
パラディンの団長はにこやかに笑う。
「やった!やったぞー!ついに悪鬼を倒したー!」
「おーー!!!」
大地が揺れる程の喜びの叫び声が城内に響き渡った。
悪鬼が倒された後、パラディンが国政を担う様になる。
悪鬼の首を切り落とした団長は、王として崇められた。
そして、新しい王の政治は人々を幸せにし、国を反映させた。
国政が落ち着き、余裕のできたパラディン達は、王の呪いについて調べ始める。
悪鬼について記された古い書物を読みあさり、王にかけられた呪いが何なのか、躍起になって調べた。
「王よ!」
パラディン達が控えなら言う。
「王はやめてくれ。いつも言ってるだろうに。私達しかいないのだ、団長の方が気楽でいい。」
「団長はもう、王なんですから!
自覚を持って下さい!」
「まぁ、努力する。」
「それより!呪いの事が書かれた書物がいくつか見つかりました!」
「どのような呪いなんだ?」
「書物によると、悪鬼は、もしもの時のため、自分を殺した者に呪いがかかる様にしている。と、側近に口をもらしたと書かれています。
まず、転生魔術は、親から子へ、親の死と共に自然に譲渡されるか、転生魔術を所有する者を殺した者へ譲渡される様なので、その転生魔術に呪いを付与したと。
神々が死ぬ時、それは、全ての世界線から忘れられた時。神々が死ぬ事は稀な事の様で、転生魔術の譲渡は中々起こらないとも書いてありました。
そもそも、悪鬼が不老不死だったのは神が転生したからであって、転生魔術とは無関係の様です。」
「なるほど、良く調べてくれたな。
大変だっただろう?」
労いの言葉を受け、パラディン達は嬉しそうにしている。
「では本題ですが。ごほんっ!」
少し気不味そうに咳払いすると、口を再び開く。
「転生魔術に付与された呪いは、不老不死です。」
「やはりそうか。私は、先日一度だけ、自害を試みた。」
「な!なんですと?!」
「勝算と言っていいのか、それがあったからだ。」
「もし、間違ってたらどうするつもりだったのですか!」
「すまない、すまない。そう、目くじらを立てるな。」
「はぁ。」
呆れる様にため息を着くと、団員は続ける。
「恐らくですが、自害しようとすると、体が動かなくなったのでは?」
「あぁ、そうだ。」
「なるほど。この文献は信憑性がありますね。
不老不死と共に付与されたのは、自害ができなくなる魔術と、外的要因による攻撃を受け入れられない魔術。
つまり、団長より強い者が現れない限り、団長は永遠に死ねないという事です。」
「なるほど。不老不死など、喜びそうなものだが?」
「団長、それは違います!
悪鬼はこう言って笑ったと記されております。」
神と違い、どの種族にも悲しみと孤独という感情が存在する。
この感情がある限り、付与した呪いに苦しみながら、絶望に暮れるだろう。と。
「・・・この命、捨ててでもと思い悪鬼に立ち向かったが、まさか命を失うより辛い未来があったとはな。」
団長は頭を抱えた。
「しかし!大丈夫です!」
「と、言うと?」
「私に宿った魔術は、不老不死を無効化します!」
「なるほど。効果はあるのだろうか?」
「それをこれから試します!」
「・・・頼む。」
団長は、神に祈るように手を合わせて握ると、目を閉じた。
「不老不死無効化。」
団長の足元に、魔法陣が展開され、光に包まれた。
「こ、これは!」
「効果ありの様ですね。」
「あぁ、分かる!死に対する感情が変わった。恐らく呪いが解けたのだろう。」
団長は、安堵したあと、また新たな問題に気づいた様だ。
「だが、この後だ。私の死後は転生魔術はどうなるのだ?」
「団長は、子を作らねば死ねません。
それも呪いの一種。」
「では、私が子を作ったとしてだ、寿命を迎えればその子が。」
「はい。ですが、不老不死無効化の魔術を使える者がちらほら城内にも。
そこに賭けるしかありません。」
「なるほど。私の子には苦労をかけるが。ならば、唯一の王族からの願いとして、不老不死無効化魔術師を、常に重役として、役職を与えたい。」
「さすが団長!私達が何日も考えた結論にすぐにたどり着かれるとは!」
こうして、転生魔術との共存の日々は数百年続くのだった。




