妬みと陰謀、良く聞く話だ。
「シンー!おかえりなさい。
ご飯にする?
お風呂?
それとも?」
あの日と変わらず、太陽の様な笑顔で見つめてくるミラを、シンは抱きしめた。
「ただいま。遅くなりすまない。
ご飯にしよう。」
「ちぇー。」
「いつも言ってるが、先に食べてて欲しいのだが。ミラがお腹をすかせていると思うと、気が気ではない。」
「シンだって、お腹空いてるのに頑張ってるんだもん!待ちますよ、そりゃ。
・・・実は何度かつまみ食いはしました。てへっ。」
「か、可愛い。」
「もう!」
ミラは照れた仕草でシンに擦り寄る。
二人は、定食屋の上で一緒に暮らしている。
ミラは、定食屋をやめて、もっと立派な屋敷に住む事もできたが、年老いた定食屋のマスターを一人にするのは気が引けた。
これまで通り、定食屋で働きながら、
定食屋の上で暮らす事を選んだ。
シンは、これまでは遅くなれば城に泊まっていたが、ミラと暮らす様になってからは、必ず帰る事にしていた。
どんなにシンの帰りがおそくなっても、ミラは食事を用意して健気に待ってくれている。どんなに忙しくとも、シンは毎日が幸せだった。
パラディンともなったシンが、身分の低い女をめとった事、派手な生活をせずにひっそりと、仲睦まじく生活している事は、瞬く間に国民に広まり、一部、妬む者さえいたものの、シンの人気は更に上がった。
街を歩けば、賞賛の嵐。
何かのお祭りかと勘違いする程に。
「おい!ちょっと待て!
変わらずのろけが続くのか?!」
エレナは、自分が何故イライラしているのかは分からないが、いよいよ、爆発寸前だ。
「話の腰を折るでない。
この話に、我がどれだけ幸せだったかは、とても重要なんだ。」
「はい、はい。悪うございました〜。」
エレナは、ひねくれた様に謝ると、話を続けろと言う様に、俯いた。
「では、続ける。」
そんな生活が始まり、数年経った頃。
「パラディンよ。」
「はっ。」
シンは王の前に控えている。
「そちには、隣町に出る魔獣の退治を頼みたい。」
「は?魔獣ごとき、一般兵でも良いのでは?むしろ、一般兵に経験を積ませる、良い機会かと?」
「そちの名声を、他国にも広めたい。
この国を盤石な物とするためなのじゃ。」
「はぁ。な、ならばこのシン、魔獣を圧倒的な力にて退治してまいります。」
シンは、腑に落ちないと思いながらも、魔獣退治を引き受けた。
それが間違いだった。
シンは、ミラと離れるのが嫌で、5日は掛かるであろう遠征を、2日で終わらせた。
「パラディンー!!」
城下町に入ると、国民がシンに気づき、血相をかいて走り寄ってくる。
「ど、どうしたのだ?」
様子のおかしい国民に、城下町に魔獣でも出たのかと思いながら、シンは国民の次の言葉を待っている。
「大変なんだ!」
「落ち着くのだ!何があった?」
「パラディンの!パラディンの嫁が!」
「ん?ミラがどうしたのだ?」
「城に連れ去られる!」
「どういう事だ?」
「今朝から、パラディンが指名手配されてんだよ!広場の真ん中の掲示板には、パラディンの手配書が貼られてる!」
「・・・どういう事だ?」
「いいから!早く家に!」
国民は、シンの背中を押す。
「・・・ミラ。」
シンは、とりあえずミラの身が心配になり、家に急いだ。
「マスター!」
家の前に到着すると、血まみれのマスターが絶命寸前で倒れている。
シンは駆け寄り、抱きかかえるた。
「ハイヒール!
・・・・ヒール!ヒール!ヒール!」
「・・・わしはもうダメだ。
内蔵もズタズタに切り裂かれてる。
パラディンと言えども、治せぬよ。
それより・・・ミラを、ミラを頼む。」
「・・・マスター。」
息を引き取ったマスターの目を瞑らせると、シンは怒りに満ちた表情で立ち上がる。
「うぉーーーーー!!!!」
シンの抑えていた魔力が放出され、
大地が揺れる。
シンは、全速で城に向かう。
門番をなぎ倒し、城門を粉々に破壊して、王のいるであろう、大広間へとたどり着いた。
玉座に座る王のとなりには、兵士がミラを羽交い締めにし、もう一人の兵士がミラに剣を突きつけている。
「こ、これは・・・・これはどういう事だーー!!!」
シンの魔力が暴走し、広間の中は、ハリケーンでも上陸したかのような強風が渦巻き、ステンドグラスがパリン、パリンと音を立てて砕けていく。
王は、ミラを人質に取って、強気だ。
「パラディンよ!そちには謀反の疑いがある。潔く自害せよ!」
「謀反?そんな事は一切無い!
ミラを離せ!」
「自害せよ!」
王は聞く耳を持たない。
「自害すればミラは、ミラは自由になれるのだな!?」
「あぁ、約束しよう。」
「分かった。」
シンは、剣を自分の心臓の辺りに向け、構える。
「ダメー!!シンが死んだら私も追いかけるから!」
「ミラ、幸せになれ。」
シンは、小さく呟くと、心臓に向けて剣を突き刺そうとした。
「ゔ。か、体が・・・動かない。
動け、動け、動け、うごーけー!」
シンの体はいう事を聞かない。
「な、何をしておるのだ!
早くせんか!それとも、やはり死ぬのは怖いか?ヒャハハハ!」
王は高らかに笑う。
「ダメだ。体が。」
それでも、シンは必死に体に力を込める。
「シーン!」
ミラが大声で叫ぶ。
「ミラ?」
「私が、いなくなっても、幸せを諦めないでね。」
ミラは小さく呟くと、羽交い締めにされていた兵士の股間を蹴り、緩んだ所で、首近くに突きつけられた剣を自ら首元に突き刺した。
「ゔっ。」
ミラは口から血を流し、苦しそうにしながら、シンを見つめる。
目尻からは涙が溢れ出し、頬をつたう。
「ミラーーーー!!!!」
シンは我を失い、魔力が暴走する。
城の壁や天井が耐えきれずにボロボロと崩れ出した。
「ば、バカモノ!ヤツを!罪人をとめるのじゃー!殺せ!殺すのじゃ!」
王は兵士たちに叫ぶ。
兵士たちは、直立のまま、涙を流し、動かない。
「何をしている!早く!早くやらんか!城が!城が壊れるー!ゔっ。」
シンは、叫ぶ王の前に一瞬で移動すると、王の首を持ち、持ち上げた。
「ゔ、ゔ、はなぜー!お前、何を、しているのが、わがっている、のか?」
王は苦しみながら、シンを睨見つける。
「・・・貴様こそ、何をしたのか、分かっているのか?」
その形相は、まるで架空の鬼という生き物そのものだ。
「待て!待て!謀反の事は無かっ事にしてやる!」
王は、命乞いを始めた。
「無かっ事・・・」
「そ、そうじゃ!無かった事じゃ!」
「・・・ミラが・・・・ミラが死んだんだぞーーー!!!」
シンは、王を掘り投げると、手を開き、刃物の様に振り下ろした。
シンの腕から斬撃の様な物が放たれると、王の左腕が、ゴロンと地に堕ちる。
「あへ?ギャーー!!」
王は、血しぶきの上る左腕の付け根を見て泣き叫ぶ。
「ま、待て!命だけは!なんでもやる!
そうだ!お前が王になればいい!
全部やる!・・・・だからー!」
王の最後の叫びが広間に響き渡ると、
ゴロンと、王の首は地に転がった。
シンは俯き、ミラの前に一瞬の間に移動した。
ミラを抱きかかえると、涙を流しながら、ミラを見つめる。
「ミラ。我と一緒になどならなければ。」
シンは、そうつぶやくと、宙に浮き、破壊された広間の天井の穴から、空へと飛んだ。
王が不在となったこの国がこの後どうなったかは、シンの知る所ではない。
「それから、誰もいないこの地に、ミラの墓を建て、我はそのとなりにいつも座っているのだ。」
「グスン。グスン。ミラー!」
エレナは泣いている。
「じゃぁ、あれがミラのお墓?」
「そうだ。」
「聞かなきゃ良かった〜。」
エレナは、落ち込んだ様に俯く。
「ねぇ、そのマント。王家の紋章だよね?」
「なんでそんなの付けてるの?私がシンならズタズタに引き裂いて、燃やす。」
「我もそうしようとした。
寸前で思いとどまり、このマントは、戒めとして永遠に身につける事にしたのだ。」
「戒め?」
「二度と誰とも、どの種族とも関わらずに、ここでミラと共に生きる。
そう誓った戒めとしてだ。」
「不老不死・・・なんだよね?」
「あぁ。」
「つらくない?」
「つらいとも。ミラと話す事も、触れる事も、死ぬことさえ許されない。
永遠に生きながらえなければならない。
だから、誰かが我を亡きものとしてくれるのを期待しているのだ。」
「そう。ハイ。」
エレナは、本を差し出した。
「よ、良いのか?」
「いいよ〜。あんな話聞いて渡さないほど私は意地悪じゃないよ。」
「恩に着る。」
「その本、今日中に読んどいて!
不老不死の呪い、解けるかも!
また明日来るね〜!」
エレナは手を振ると、ゆっくり歩いて洞窟の出口に向かった。
エレナは、「殺して欲しい」というシンの発言に、不老不死が関係していると思い、書物の保管庫を片っ端から調べたのだ。ようやくシンの役に立ちそうな書物を見つけ、急いで持ってきたのだった。
「あれ?・・・視界が暗い。」
バタン。
エレナは不眠不休で3日ばかり書物を読みあさり、全速力でここへ来た物だから、限界が来た様だ。
「全く。エレナ、ありがとう。」
シンは、倒れたエレナを抱えると、いつも座っている岩の上に寝かせた。
ガシャン。
ガシャン。
「約束だからな。」
シンは、鎧と兜を脱ぎ捨てると、エレナの横に座り、自分の太もものうえにエレナの頭を置いた。
「さぁ、読ませてもらうか。
不老不死の呪いが解けるのかどうか。」




