転生したい理由と言うものの、良くある話である。
・・・レナ様。エレナ様!
「う、う〜ん。」
「エレナ様、起きて下さい。今日は大切な日ですよ!」
メイドが寝ぼけたエレナに必死に呼びかけている。
エレナは寝覚めが悪い。
「う、う〜ん。大切な日?」
「今日は婚約者のグレン様がいらっしゃるのですよ?」
「あ、あ〜。悪名高い婚約者か。」
エレナは、呟きながら己の不幸を呪う。
あぁ、何で私があんなクソみたいな奴と結婚しないといけないんだ!
確かに父親は、優れた人間だ。
だが、息子の方は・・・ブルッ。
エレナは転生前に自分を辱めようとした、政治家の息子を思い出した。
「私、今日は体調が悪くってよ。」
「だ!め!で!す!
さぁ、起きて下さい!
ドレスに着替えますよ!」
「う〜。ドレス、窮屈で嫌い。」
「全く。お母様の前と態度が違いすぎますよ!」
「だって!メリーには何でも相談できるし、頼りにしてるんだもん〜。」
エレナは、メリーに擦り寄る。
「そ、そんな。私などは・・・・だまされませんよ!エレナ様はいつもそうやって!」
「・・・・メリー・・・本当に、頼りにしてる。」
「はい、はい。私もエレナ様の事は大切に思っております。」
「あのクソ息子に何かされそうになったら助けてね。」
「そうですね。度が過ぎれば私も耐えかねてしまうかと。でもクソとか言わない様にお気おつけ下さいよ。」
「分かった〜。ありがとう。」
エレナは、渋々という空気を前面に押し出しながら、ドレスに着替えさせてもらう。
そして、数時間後、エレナは応接室の前に立った。
「おぇー!マジだりぃ・・・会いたくね〜。」
エレナは覚悟を決める。
トントントン。
ぶー!トントントンって!
エレナは一人笑いを堪える。
「入れ。」
「失礼致します。」
ガチャ。
エレナはドアを開ける。
応接室は、金銀の装飾を基調とした、豪華な作りとなっている。
床には赤い絨毯が敷き詰められ、
これまた金の装飾をあしらった、
美しいソファーと、テーブルが置かれている。
まさに美しさを追求した部屋だ。
そんな部屋の真ん中。
ソファーにもたれかかる物がみえる。
「ごきげんよう、グレン様。」
あーヤバい。笑いそう。トントントン。
豚、豚、豚。
これは、このぶったは・・・あはははっ!物体は、まさしくそれだな。
「苦しゅうない。我の隣りにこい。」
あーヤバ。やめてー!自分の隣りをトントンとしているぞあいつ!
エレナは、グレンを無視する様に、向かいのソファーに座る。
「エレナ、何故そこに座るのだ?」
「そ、その。」
エレナは照れた様に演じる。
あー!ヤバ。そのソファー重量オーバーですけどー!!
ヤバい、ヤバいー!
笑う私!
メリーに怒られる!
「何だ、照れているのか?
まぁ、そう言う所も可愛らしいくて良い。」
「も、申し訳ありません。」
あーマジキモい!
王子様みたいな外見と中身ならともかく、
マジキモっ。
大体、紳士を演じてるが、鼻の舌が伸びてんだよー!
「良い、良い。我は、そなたを大切に思っておる。多少の粗相など気にはせぬ。」
グレンは立ち上がり、エレナの方へ近づく。
うーわ、うーわ!積んだー!
隣りに来やがった!きもいー!!
あー!腕回すつもり?
無理!絶対無理!
エレナは、密着する様に隣りに座ったグレンが腕を回そうとしてきたのに合わせ、照れた表情でかがみながらスカートを抑え、距離を空けるように座り直して、グレンの腕をかわした。
「むっ。」
グレンは少し不機嫌そうだ。
「ど、どうかされましたか?」
エレナは気づかないフリを演じる。
「い、いや。」
「そ、そうでした。美味しいお菓子と紅茶が手に入りましたの。メリー。」
エレナが言うと、ドアの前に控えていたメリーは、ドアを開ける。
ガラガラ。
違うメイドが、ワゴンを押しながら、ティーセットを運び入れる。
「ありがとう、後は私が。」
メリーは、メイドに下がる様に促した。
「グレン様、この紅茶とお菓子は、せり出した様に我が領土に食い込む、魔獣の森の向こうの国の物。是非ご賞味頂きたくて。」
メリーがカップに紅茶を注ぐのを見ながら、エレナは紅茶とお菓子の説明をする。
「さっ、どうぞ。」
「珍しいな。」
ムシャムシャ。
手、手で食べてる。
フォーク置いてんだし、フォークで食べろや!
あー汚い食べ方。
あーーーーーーー!!!!!
うっざ。
「これは美味だ。素晴らしい!」
味分かるのかよ!
と言うか、その手、ソファーで拭いたりしたらマジ殺すぞ!
「でしょ!私も昨日頂いたのですが感動して、是非グレン様にもと思ったの。
お口に合って良かったですわ。」
「さすがは我のフィアンセ。」
そういいなが、グレンは手についたお菓子をペロリと舐める。
うっわ〜!!
舐めたで!
あいつ舐めたで!!
しかも、全部とれてへんしー!
あいつの手、お菓子と唾液にまみれて、
究極にきもいねんけどー!
で、どうすんの?
その後ー!
エレナが横目で見ながら、絶望に暮れていると、グレンは、嬉しそうに距離を積める。
そしてエレナに腕を回そうとする。
無理、無理、無理、無理!
ヤバい!ここはソファーの端!
しかも、手、拭けよ!
なんか茶色いよー!
「・・・・。」
私の転生ライフ終わった。
このドレスも終わった。
なんか茶色いの付いたし。
こんな、手の汚れた、メイド達に手を出して孕ませる様な男に、私は今・・・肩を抱かれています。
あぁ、神様がいるのなら、私を救って下さい。
もう一度、転生したい。
・・・・あっ。
転生魔術師!
何で忘れてたんだろ?
今日、会いに行こう。
「エレナ。」
グレンは、エレナを抱く腕と反対の手で、エレナの顎を優しく持つと、顔を上げさせる。
「はい。」
「目を瞑れ。」
「な、なぜ?」
ヤバい、ヤバい、ヤバい!
こいつキスするつもり?
救いは、私の顎に触れるのは、舐めた手と反対の手だという事くらい。
しかも、お菓子口の周りについてるってー!
メリー!もういいでしょ!
助けてよ!
エレナは、横目でメリーを見て、訴えかける。
メリー!このまま放置するなら私にも考えがある!
メリーは、横に小刻みに首をふる。
エレナは笑った。
そして、グレンの顔面をテーブルに打ち付けてやろうと腕を上げた。
「グレン様。」
メリーは渋々声を出した。
「な、なんだ?メイドごときが我に話しかけるでない!今すぐ席を外せ!」
グレンは怒りをあらわにしている。
「いえ、グレン様のためです。
グレン様は、エレナ様の婚約者ではありますが、これ以上は。
エレナ様は次期女帝になられるお方。
それなりの順序と言うものはお守り頂かないと、何かあれば私は王に報告の義務がありますので。」
「ちっ。」
グレンは舌打ちすると立ち上がった。
「エレナ、また来る。」
「お待ちしております。」
エレナは小刻みに手を振り、グレンを見送った。
「エーレーナーさーまー!
明らかに、グレン様のお顔面をおテーブルにお沈めになるつもりでしたわよね?」
メリーは怒っている。
「メリー!ありがとう!」
エレナは、メリーに抱きついた。
「ちょ、ちょっと!エレナ様!」
「いいじゃーん!」
「わ、私の服が汚れます。」
「な、何それ!私は肩抱かれてたのよ!ほらー!」
エレナは服の汚れた部分をメリーに擦り寄せる。
「全く。偉かった。」
メリーはエレナが小さかった頃の様に、頭を優しく撫でた。
「何とかならないかな?私、本当にグレンとは嫌。」
「王様に私から、あの男の素行の悪さなどを伝えておきます。
正直な所、エレナ様が不憫でなりません。」
「でしょー!」
エレナは、疲れを感じ、ソファーに座る。
「メリーも向かいに座って。」
「わ、私はメイドですので。」
「ちょっと聞きたい事があるの。」
「何なりと。私はここで聞かせて頂きます。」
メリーは立ったまま、エレナを見つめる。
「相変わらずお硬いね。
・・・・転生魔術師、知ってる?」
「エレナ様が幼少期にお会いになったという?」
「そう。ずっといい子を演じる為に記憶に蓋をしてたんだけど、さっき、ふと思い出したの。」
「そうですね〜。
確か、不憫に思ったものを転生させる事しを生業としていて〜、後は、全属性魔術が使えるとか、不老不死だとか、名前かどうか分かりませんが、パラディンと呼ばれているそうな。
私もそれくらいしか・・・・あっ!この国の地下にある書物の保管庫になら、何か書き残された文献が見つかるかもしれませんね。」
「なるほど。メリー!ありがとう!」
エレナは、ニコニコと立ち上がる。
「エレナ様、まさか?」
「う、うん。ちょっと会いに行く。」
「なりません!かどわかされたりするかもしれませんよ?エレナ様は、幼少期と違い、今は魅力的なのですから。」
「・・・・あんなのに純血を奪われるくらいなら、命の恩人のパラディンに捧げた方がマシよ!」
エレナは、空中を浮きながら、高速で移動し、城を出た。
「汝。」
「どう思った?」
「汝は今、我の鎧を汚しているのだと。」
パラディンは、擦り寄る様に座るエレナのドレスの汚れの隣り辺りの、鎧の汚れを気にしている。
「最初にそれ?
あーぁ。私、結構切実なんだけどな。
・・・結婚だけじゃない。
毎日、毎日、窮屈で仕方ない。
パラディン、転生は無理でも、私を解き放ってくれない?」
少し頬を赤く染め、エレナはパラディンを見つめる。
「他を当たれ。」
「・・・・この・・・・ポンコツ鎧がー!」
カランカランカランカランカランカランカランカランカランカランカランカランカラン。
「もう、いい!バカ!」
エレナは怒り狂って、走り去っていった。
・・・これで良い。
確かに不憫ではあるが、良くある話だ。
エレナを転生させるなら、ほぼ全ての令嬢を転生させねばならぬ。
かわいそうではあるが。
・・・・これで良い。
エレナと話していると楽しい。
だから。
これで良いのだ。




